2020/02/03 のログ
ナイン > (嗚呼矢張り、と。内心嘆息。
正直己は、魔術に関しては素人極まりなく。使える物など一つしかない、というだけでなく…
その為の力、魔力だの何だの呼ばれる代物を。長けた者達が如何に感じ取っているのか。そんな事は皆目見当も付かない。
但し、一介のメイドがパッシブに魔術を使用し続けている気配という物は。悟り得る者からすれば、怪しいに違い無い。
そこら辺を今後どう誤魔化していけば、諜報悪戯その他に役立つのかは――今後の課題にするとして。
今この瞬間は、目の前の相手に対して、どう言い訳を取り繕うか。

…実の所、そんな理由で声を掛けられたのではなく。
未だ彼の既知であると、露呈している訳ではないらしいが…其処迄悟る事は出来なかった。
人間、いざという場合。得てして最悪の可能性を考える物なのだ。)

 こほん。下々の身に斯様なお言葉、恐悦至極に存じます、が… 如何、なさいましたのでしょうか?
 私に…私は。お目通りした事など御座いませんが――

(足を止めた、他のメイド達。その中の誰かが覗き込んで…ぎょ、と。
若き貴族少年と向き合う形となった異国のメイドが。剰りに強い目線を、貴人へと向けていた為に。
…実際の所、それは。少年が気付いていると勘違いしている為に。
「判っているなら話を合わせろ」と、目で訴えていたからなのだが。)

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 彼女の思い等露知らず。或いは、もし此処に全てを知る者が居れば何とも気の抜けた様な理由で投げかけられた声。
魔力に寄る違和感。様々な勢力から放たれた刺客――という様な深刻な理由では無く、その姿に違和感を感じたから、という理由で己は足を止めたのだから。
寧ろ、その違和感を生み出した所以である貴族としての経験は、我ながら讃えても良いのかも知れない。魑魅魍魎蠢く王城では、己の本能が訴える違和感や危機感というのは案外馬鹿にならないものだ。

――だが、今回の邂逅はそういった深刻な事態を何も含まないモノ。喜劇めいた再会。
顔を上げたメイドの顔をまじまじと見つめ、妙に聞き覚えのある声に耳を傾け。
他のメイド達が驚く程の強い視線を向ける"黒髪のメイド"の姿に、一瞬ぽかんとした様な表情を晒す事になるのだろう。

そして一瞬、疑問符を此れでもかと浮かべた様な視線を彼女に向けた後、何かを訴える様なその視線にふむ、と考えを巡らせて――

「……いや、すまないな。帝国の侍従が一人でいるというのも珍しいと思ったまでの事。大した理由は無い。
……ところで。私は此れから貴賓室で暫し休息を取る予定でな。貴様に伴を命じる故、暫し私の相手をすると良い」

とてもとても面白いモノを見つけた、と言わんばかりの笑顔と共に、彼女に言葉を返す。
次いで投げかけられた言葉は、如何にも気に入ったメイドを褥に連れ込む様なもの。居並ぶメイド達が夢見る物語の儘。

傍から見れば、公主を差し置いて貴族の目に留まった異国のメイドと取れる様な場面。だが、随分と長い付き合いになった彼女には、己が此の場面を楽しみながら含み笑いを堪えている事等容易に気が付くだろうか。

――面白いネタを有難う。勿論事情は説明してくれるよな?――

と、言いたげな視線が、彼女を捕らえて離さない。

ナイン > (気付かれているという誤解と。気が付かぬ侭での誤認。
互い掛け離れている癖に、駆け引きめいた会話が成立してしまう…というのは。喜劇というより、一種の漫談じみているとでも言うか。
無論、王城という権謀詐術の魔窟。貴族にとっては言ってしまえば、常住戦陣の心構えすら求められる場所。
微かな違和感にすら疑念を抱くのも。種々の可能性を危惧して防衛を図るのも。当然と言えば当然だろう。…唯、ずれたというだけで。

上げた視線の先。驚いた、と言わんばかりの面持ちが。作り物なのか本物なのか。疑りすぎて判別をつけかねない侭…それでも。
驚いたなら驚いたで、その一点だけでも。面白い物を見られたと思っておく事にするべきか。
尤も。己が内心でのみ抱く笑みを。侍女達に対して背を向ける彼は表に、それも満面に浮かべてみせるのだが。)

 ……………。
 そぅ、ですね。何分不慣れな物でして――道を違えておりました。
 御用向きを命じていただけるのでしたら…何卒。お連れいただけましたらと…

(当然走り抜けていく、メイド達のどよめきは…取り敢えず無視しておくとしよう。
表面上だけを見れば。こまっしゃくれた異国のメイドを、他に比べて身持ち硬めの少年貴族が拾い上げるという…
それこそ恋に焦がれる少女達やら、栄達を夢見る娘達にとって、羨む以外無いであろうシチュエーションなのだが。
当人同士は目で語る。ツッコんでくれるな、と。

斯くして不慣れな新米を騙ってみせれば。彼にしずしずと付き従うような歩みで、何処ぞの部屋へと。向かう事になるのだろう。
――辿り着いた先、よしんば聞き耳を立てる不調法者が居たのなら。
真っ先に聞かされる事となるのは、少女の甘い嬌声でも、贄の痛ましい悲鳴でもなく。
呵々と大笑する、珍妙な気配となるのではなかろうか――。)

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 或いは、今回の喜劇すら穿った見方をする者も現れるかも知れない。
あのメイドが仕える公主は誰なのか。メイド本人に何か知り得ぬ能力や事情があったのか。ホーレルヴァッハ家は本格的に帝国とのパイプを求め始めたのか。いけ好かないあの金髪の小僧は、案外黒髪の女が好みだったのか。等々。
噂は駆け巡り、貴族達は策を巡らせ、思案し、それを隠して夜会へと挑む。笑顔の仮面の下に、様々な策謀を秘めたまま。

――だが、それは全て途方も無い空回り。虚構に彩られた喜劇。全てを知るのが当人達しかいないのだから、無駄に脳を活性化させる貴族達は哀れでしか無いのかもしれない。

「良い。他国から慣れぬ城に来たのだから、そういう事もあるだろう。それに、今私は気分が良い。多少の事は、目を瞑ろうじゃないか」

人目が無ければけらけらと笑ってしまったかもしれない。それを鋼の理性で堪えつつ、鷹揚な態度で彼女に頷き、そのまま彼女を従えて好奇の視線に満ちた此の場を立ち去る事になる。
一応、周囲の侍従達に詮索無用と言わんばかりの視線を向けてはみたが――まるで市井の御伽噺を見たと言わんばかりの視線を向けるメイド達の視線を一身に浴びれば、溜息交じりの苦笑いと共に肩を竦めるに留めるのだろう。

そうして彼女と共に向かうのは、贅の限りを尽くした貴賓室。王侯貴族達が欲望を満たす為に使う様な、豪奢で下世話な部屋。その部屋に向かう事そのものが、噂話に燃料を注ぐことになるのだが。

尤も、その部屋で暫しの間響くのは、少年を知る者が聞いた事も無い様な、喜色の散りばめられた笑い声、だったのかもしれない。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。
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