2019/09/05 のログ
クロニア > 王城のバルコニーに表札でも貼り付けてやろうか?

そう思うほどに何か有れば此処に逃げ込むことが多くなったと自覚をしつつ、
流行今宵も腹の探りあいから白旗上げて後ろに向って前進中である。

場所は王城にある城下を一望できるバルコニー。

今日はパーティー会場から失敬してきた鮮血を想像させるような不自然な程に鮮やかな赤いワインが
並々と注がれたグラスを片手にバルコニーの手摺に寄りかかって、曇り空を一人眺めていた。

「……目ぼしいモノはなかったなぁ……。」

物なのか者なのかニュアンスでは聞き取り辛い曖昧な発音でわざとそれを濁らせ、
1人眉間に皺を寄せて不機嫌そうな表情で顔を仰け反らせて夜空に視線を向け続ける。

手持ち無沙汰な片手はポケットに突っ込み、
赤ワインが並々と注がれているグラスを持つ手は意味も無くグラスを揺らして、
ワインに夜空と空気を混ぜ込み撹拌をする。

こんな事なら一皿くらいツマミでも掻っ攫ってくるんだったと、後悔をしながらである。

今夜は特に酷かった。
欲の皮と美味いものをたらふく食ってまるまる太った豚どもが、
奴隷やメイドの品評会だと品が塩粒ほども無い眼差しで、
同伴者の女達をなめまわすように眺めてぺちゃくちゃと鳴いていた。

思わず吐きかけたが、其処は父親の顔を立てる為に笑顔だ。

そもそもメイドや奴隷は人様に自慢するのではなく、
1人でじっくりと愛でて嬲って壊して愉しむものだろう?
それがわからぬ豚と酒など飲めるものかと、
それならベランダで曇り空を肴にワインを飲んだ方が有意義ではないかと、
まあそれが現状である。

奴隷もメイドも表情が死んでいた。
あの表情は独り占めして初めて価値が出るものだと。
人様に自慢するような方向性ならもっと、こう、明るく……。

クロニア > 観賞用と愉しみようと違うわけだ。
その辺の機微がわからぬ豚が美人な妻や美麗なメイドを連れていると、
つい奪いたくなるのが本能であり、未亡人なんて居たら心の隙間に入り込んで依存させるのも楽しそうだ。

妄想だけで多少興奮してか唇が乾いてきたので曇り空を見上げ眺めるのを止め、
一先ず手持ちのワイングラスを口元に寄せて軽くワインを呷り、
喉に芳醇な貴腐葡萄の香りを落すと、一気にグラスを空にして、
鼻腔から息をふーっと抜く。

「……安物とは大違いだな。まさに金の味がするという奴だ。」

空になったグラスを凭れかかっているバルコニーの手摺に乗せて、
両腕をぐっと前に突き出すと、背筋もぴんと伸ばしてついでに大欠伸をこぼす。

まったく退屈である。
ツマミと一緒に一層のことメイドの一人でも掻っ攫ってくるべきだった。

美味しいお酒には美人と美味いつまみと決まっている。
是は片手落ち、寧ろドラゴンの瞳を欠くと言うものか、
まあともかくもう少しだけ此処でゆるゆるした後に仕方なし、パーティー会場へと戻ろうと。

クロニア > さて、良い時間だ。
もう一頑張りしますか……とまるで仕事を再開するかのような気合を入れると、
手摺においたグラスを手に持ってバルコニーを後にするのであった。

ご案内:「王都マグメール 王城 バルコニー」からクロニアさんが去りました。