2019/08/19 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にアニエスさんが現れました。
アニエス > 王侯貴族たちの夜は遅く、朝はもっと遅い。
爛れた性の饗宴を楽しむのに余念が無い連中には、
日が相当高くならなければ活動を始めない者も多いらしく――――

なればこそ此の時間帯は、己にとって絶好の好機だった。

静まり返った廊下を、つとめて足音を殺しながら辿る。
先日、己の姉に不埒な手を伸ばそうとしていた王族の執務室を前に、
言い訳の為に携えてきた書類の束を抱え直し、左右へ素早く目を走らせる。
ひとつ、ふたつ、ノックの音を響かせて―――数秒。
失礼致します、と口の中で呟きながら、そっと扉を押し開けた。

薄手のカーテン越し、淡い陽光が照らす室内。
磨き抜かれた机、ゆったりした造りの椅子、贅沢な調度が並ぶ部屋に、
差し当たり、人影は見当たらず。
するりと身を滑り込ませ、後ろ手に扉を閉ざし。
先ずは執務机に向かい、其の上に積み重ねられた書類に、探索の手を伸ばそうと。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にアダンさんが現れました。
アダン > 帝国公主たちが降下が行われてからというもの、王城での爛れた宴の頻度は更に増していた。
公主たちに溺れる王侯貴族の有様はまさしくこの国の腐敗を示すかのようだ。
そんな王国の悪性の良い例とも言える男が、腐敗貴族のアダンであった。
王国の王族であれ、帝国の公主であれ、女であれば手を出そうとする下劣な男である。

アダンは、とある王族の執務室の奥に隠された小部屋にて、王族の一人である王女を散々陵辱した後であった。
ほかの腐敗した王侯貴族同様眠りについていたのだが、不意に執務室のほうから人の気配を感じ取った。
この王族の執務室に仕掛けておいた魔導機械が反応したのである。アダンの右手の指輪に魔力の光がやどり、それを示していた。

「ふむ……」

アダンはしばし考えた後に衣服をまとい、執務室奥の部屋から執務室へと向かう。
贅沢な調度品の並ぶ壁の一部が変容し、扉となったのである。
このようにして奥の部屋は隠されていた。

「おや、なにか用かね。この部屋の主なら今は不在だが」

執務室に現れたアダンは一人の男、青年に見える人物と遭遇する。
彼は執務机の書類に手を伸ばそうとしており、アダンはその背後から声をかけた。
青年の身なりからすれば公主のお付きのものといったところだろう。

アニエス > 真っ当な訓練を受けた護衛官なら、あるいは気付いたのかも知れない。
執務室と繋がる隠し部屋の存在にも、其の奥に居る誰かの気配にも。

然し己は所詮、単なる皇女に過ぎない身。
失策に気づいたのは、背後から男の声が掛かった瞬間だった。

かさり、触れた書類と指先との間で、微かに乾いた音が零れる。
抱えていた書類の束を取り落とすことは無かったが、
黒衣の肩が、背筋が、ごく小さくではあれど震えてしまった。
―――そっとひと呼吸、不自然にならぬ程度の間を空けて。
長い裾を翻して振り返り、声の主に正面から相対する。

「此れは、失礼を……どなたも、居られないと思ったものですから」

男の顔は、遠目に見覚えがある程度。
『公主様』に付き従い、酒宴のほんの始まり辺りに、ちらりと顔を見せた際の記憶のみ。
此の部屋の主では無い彼が、一体何処から姿を見せたのか。
一度、深く頭を下げてから、彼の背後をちらと窺い見て。

「此方の旦那様に、書類をお届けに上がったのです。
 ですが、居られないようでしたので……此処に、置いて行っても良いものか、と。
 ……構わないでしょうか?」

何れにせよ、人目があるならば探索は出来ない。
かくなる上は早々に対面を切り上げて、辞去を図ろうとしており。

アダン > シェンヤン帝国の人間が来室の言葉もなく足音を忍ばせ、執務室に入り書類に手を伸ばしている。
これはあからさますぎるほどの怪しいと言わざるを得ない。ほぼ間違いなく間諜の類なのではあろう。
しかし、それにしては声をかけられるまでアダンには気づかず、この部屋の仕掛にも気づいていない様子が伺えた。
アダンは目を細め、こちらに振り返った長袍の男を見る。
仕事柄、そして趣味としてもアダンはこういった手合に出会うことは多い。
ある種の鑑識眼を備えた彼からしてみれば、まるで不慣れな間諜と感じざるを得ず、ここに疑念が芽生えた。
すぐに衛兵を呼んでも良かったが、それは一旦取りやめ、青年と話を合わせていく。

「ほう、そうでしたか。しかしお気をつけを。帝国の公主のお付きの方とはいえ、未だ帝国を敵視している者がいないわけではない。
 書類はそこに置いておくといい。私はここの部屋の主とは懇意にしていてね。仕事を手伝ったりすることもあるのだ。伝えておくとしよう」

そう言いながら、長袍の男の容姿を眺めていく。
青年は明らかに退室を図ろうとしていたものの、アダンは扉の前に立ちそれとなく出口を塞ぐ。
話した内容自体は事実であり、とある公主に手を出したいとこの部屋の主が述べていたのを手助けしようとした男の一人でもある。
その返礼として、隠し部屋にてこの王族の娘を貪っていたのである。

「申し訳ないが、このような場所に立ち会ってしまった以上、少しお聞きしたいこともある。しかし……ふむ、どこかでお会いしたことはないかな。以前帝国に派遣された際に見た皇女とよく似ていらっしゃる」

青年の容姿や振る舞いを見ていると、どこか男には似合わない優雅さが感じられた。その女としての気配をアダンは見過ごさない。
しかも、その顔つきには記憶があった。
かつて帝国に使者として派遣された際に見たとある皇女とよく似ていたのだ。直接言葉を交わしたわけでもないため、相手は記憶していないかもしれないが。
その疑念を確かめるために、一つ揺さぶるような言葉をかける。

アニエス > 背を向けていたとは言え、否、向けていたからこそ、
より怪しまれても致し方の無いところではあった。
魔導機械に関する造詣も深くない己には、男がどうやって己の入室に気づき、
タイミング良く声を掛けてきたのか、其の絡繰りに気づく術は無かったが。
ともあれ、―――此の部屋の主と懇意、などと告げられれば、目の前の男はつまり、
己にとって、大まかに言って『敵方の存在』であるには違い無く。

「ええ、大変軽率な真似を致しました、……ノックにお応えが無い時点で、
 出直して来るべきでございました。
 ――――有難うございます、では、此方に」

持参してきた書類を、積み上がった書類の山の傍らに置き、再び慇懃に頭を下げる。
―――其れにしても互いの位置取りが、己には大層都合が悪い。
最悪、男の身体を押し退けでもしない限り、退室の叶わない状況。
内心の焦りを押し隠して、随身らしい控えめな微笑みを取り繕いつつ。

「―――――皇女様、と?
 ……其れは畏れ多いことですが、他人の空似、というものでございましょう。
 見ての通り、私は一介の使用人でございますから…、
 此方の皆様には、アニエス、と呼んで頂いております」

『公主明鈴様の護衛官でございます』―――と、落ち着いた声音で言葉を繋ぐ。
表情も、眼差しの色にも、明らかな動揺は見られない筈。
―――ただ、ひとつ。ウエストの辺りで組み合わせた両手の指先に、僅か、力が入っているのを除けば。

アダン > アダンは穏やかな表情で言葉をかけているが、その視線は長袍の青年に抜け目なく向けられていた。
出口も塞ぎ、揺さぶるような言葉もかけて様子を見るが、表情にも眼差しにも明らかな動揺は見られない。

「なるほど、アニエス殿か。明鈴様には一度ご挨拶して置きたい所でね。良ければお伝え願えればと思うが。
 しかしよく似ている。明鈴様も帝都にて軽く拝謁しただけだが……そう、その妹君、名は確か麗霞だったか。彼女とよく似ておられるようだ。
 おっと、こちらも名乗らねばな。私はアダン。アダン・フェリサだ。どうか明鈴様にはよろしく――」

まだアダンに長袍の男があの皇女と同一人物であるという確実な証拠を得ていたわけではない。
しかし、既に男装であるということは見抜きつつあった。そういった間諜を見破っては弄んできたような男であるためだ。
長袍の人物が体の前で組んだ手の指先に力が入っているのも見逃しはしなかった。

「だが申し訳ない。私は城下の警備隊の運営に奉職していてね。今では王城のそれも職務の一つだ。
 少しアニエス殿には疑わしい点があると言わざるをえない。少し確認させていただこうか。
 残念ながら今の王城には魔族のような者が入り込むこともあるのでな。シェンヤンの人間に紛れて潜入してくるような者もせじつ捉えたばかりなのでね」

かちり、と扉の方から音がなる。この部屋の魔導機械が起動し、部屋に鍵をかけたのである。
アダンはここの部屋の主と結託している。この部屋の設備を使うことも自由であった。
賊を捉えるための仕掛けが作動し、魔術的な物質で構成された不可視の縄が不意に地面から伸び、長袍の青年へと向かい始める。
逃げられでもしなければ、その四肢を絡め取り、大の字のように拘束してしまうだろう。

アニエス > 「アダン、フェリサ、様―――――」

何気無く其の名を復唱したけれど、同時に記憶の中で、其の名に纏わる噂の断片が引っ掛かる。
此の部屋の主と昵懇であること、其れだけでも警戒すべき相手ではあったが、
―――――胸の奥深く、秘かに、此の男を姉には近づけまい、と決意を固めていた。
悪い噂の絶えない男、本来であれば其の唇が、己の名を口にするのも耐え難かったが―――、

「畏まりました、……明鈴様には、きっと、お伝え致しましょう」

勿論、決して二人きりになどなってはならない相手として。
そんな真意は覆い隠し、貼り付けた薄笑みを崩さずにいた己の耳が、
かちり、と微かな音を捉えた。

反射的に音のした方へ視線を向けるも、閉ざされた扉に特段の異状は見られない。
一体何が、と首を傾げた、其の、僅かな隙に―――、

「な、―――――何を、す、………!」

しゅるる、る―――――何かが此方へ向かっている、音が聞こえたと思ったのだが。
振り返った先には何も無く、けれど確かに『何か』が、己の四肢に絡みつく。
ブーツの足首を、長袍から覗く手首を、縄状の『何か』が捕らえ、締め上げ、
強引に四肢を開いた無防備な体勢をとらされる。
半ば吊り上げられたにも等しい、力を籠め難い状態で、必死に身を捩って抗おうとしながら。

「フェリサ様、此れは、一体……っ、
 お離し、下さい、いきなり、こんな……流石に、無礼ではありません、か……!」

眦を吊り上げ、明らかに何かを仕掛けてきている、男の顔を睨み据えた。
低く、落ち着いたトーンを保っていた声が、感情的に上擦り始めている。

アダン > 「なるほど、たしかに無礼に違いあるまい。帝国公主の付き人、護衛官殿に対してならばそうだが――。
 怪しげな人物に対してはこれぐらいはせんとな。言っただろう、魔族の類も紛れているかもしれないのでな」

不可視の縄のようなものに拘束されて護衛艦は声を上げた。
四肢を開いた無防備な姿勢となりながら、必死で抗おうとしているようである。
当然アダンの顔を睨み、拘束を解くように告げるがアダンは涼しい顔でそれを一蹴する。

「どの道王侯貴族の慰み者、肉奴隷になる公主……その付き人がどうなろうと、どうとでもできるのだ。
 間諜の真似事をするならばもう少し練度を高めて殻にするべきだったな。素人だと丸わかりだぞ。女の気配もな――。
 さて、では正体を暴かせてもらうとするか。」

公主を肉奴隷などと蔑んだ言葉で呼び、目の前の護衛官の感情を更に逆なでするかのように告げていく。
護衛官の声は低く落ち着いたものであったのに、徐々に感情が高ぶってきたのか上ずり始めてきていた。
明らかに男のそれとは違う響きをアダンは感じていた。

縄は護衛官の抵抗にもびくともしない。なにせ魔術的な拘束であるため、術解の魔術でもなければ拘束を解くことは難しい。
不可視の縄は更に伸び、護衛官の長袍にも絡みついて、一気にそれを引き裂こうとしていく。
胸を、そして下半身を、露出させるつもりらしい。

アニエス > 魔物が紛れ込んでいるやも、などという台詞は、きっと方便に過ぎない。
此の男は初めから、此の部屋の主たる男と同類―――公主たる姉を下品な言葉で蔑む、
其の物言いが何よりの証拠ではないか。

「ふ、ざけるな、貴様、公主様、を、一体、なんだと………、
 やめろ、離、せ、離せ―――――― っ、っ……!」

抗おうとすればするほど、見えない縄は己の四肢に深く食い込み、絡みつき、
締め上げられた四肢の先は、次第に痺れ感覚を失いつつあった。
其れでも諦め悪く、必死にもがこうとする己の耳許で、
しゅる、と――――別の『縄』が空を切る気配。

次の瞬間。
決して薄手ではない長袍の前が、襟元から下へ、ざっくりと切り裂かれるのへ、
刹那、抵抗も忘れて息を詰まらせた。
信じられない、と言わんばかりに見開いた瞳、薄く開いた形で強張る唇。
男物の衣服に覆い隠した女の肢体が、白い肌が、無造作に曝け出される瞬間。
悲鳴すら上げられずに凍り付いた己の眸は、ただ、男の顔を凝視していた。
こうした場面に慣れた男の眼ならば、きっと、其の翠の奥に、
明かな怯えの色を認めることも出来た筈――――。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からアダンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からアニエスさんが去りました。
ご案内:「」にアニエスさんが現れました。