2019/08/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にアニエスさんが現れました。
アニエス > 「―――、好い加減に、して頂きたい!」

未だ早朝と呼ぶのが相応しい時刻、静まり返った廊下に、怒気を孕んだ鋭い声が響き渡る。
次いで、とある王族の居室の扉が勢い良く開けられ―――バタン、と、
手加減というものを綺麗に忘れ果てた者の手で、其の扉は閉ざされる。

靴音も高く廊下に出た長袍姿の己は、閉じたばかりの扉にどっと背を預け、
繊細な筆致の絵画に彩られた天井を仰ぎ見て、大きく肩を揺らし息を吐く。
憤懣遣る方無い、といった険しい表情で、ギリ、と唇を噛み締め。

「何を考えているんだ、明鈴を、一体何だと思ってるんだ…!
 あいつらが普段食い散らかしてる下賤の女どもと、扱いがまるで同じじゃないか!」

正式な婚儀も未だだというのに、閨を共に、などと。
有り得ない、考えられない、決して許してはいけない。
やはり、己がついて来て良かった、と、思いを新たにして、
扉へ後ろ手についていた両手を、ぐっと拳に握り締めた。

アニエス > 少し離れた部屋の扉が、キィ、と開かれる音に振り返れば、
下着かと疑うほどに薄い夜着を此れでもかと着崩した若い女が、
だらしなく欠伸などしながら出てくるところと目が合った。

其の瞬間こそ吃驚したように目を瞠った女は、然し直ぐに紅の剥げた唇を歪め、
にんまりと笑いかけてくる。
知らず、更に剣呑な表情になるのを自覚しつつ、最低限の礼儀として頭を下げた。
―――其れから、風切る音が聞こえそうな勢いで女から顔を背ける。

拒絶の意志を一応は汲み取ってくれたらしい女が、廊下の向こうへ立ち去る気配。
其れが充分に遠ざかるのを待って、己は詰めていた息を吐き出した。

「全く、……何処まで、腐った場所だ……!」

こんな国へ姉を嫁がせるのは、やはり反対するべきではなかったか。
いっそ己が身代わりになるべきだったのでは、とも考えて、
小さく、乾いた笑みを洩らし。

「……まさか。私が明鈴の身代わりなんて、烏滸がましいにも程がある」

己に、あの、儚くも美しい姉の代わりなど、到底務まらない。
突き返されるのが落ちであろう、と、己は本気で信じていた。

アニエス > 呼吸が整い、冷静さを取り戻して来ると、時間が気にかかり始める。
廊下に面した窓から差し込む陽光は、未だ、然程遅い時刻でないことを示しているが、

「……そろそろ、行かないと。
 明鈴が起きた時に、居ないときっと心配する」

見た目だけで無く、心根も美しい姉なのだ。
慣れぬ王都暮らしで、唯でさえ神経を磨り減らしているであろう彼女を、
己まで消耗させることがあってはならない。
背にしていた扉から身をもぎ離し、男物の靴を履いた足で、大きく一歩を踏み出す。
靴音も高く、足早に己の姉に宛がわれた部屋を目指して歩き出し―――。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からアニエスさんが去りました。