2018/09/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城」にジーヴァさんが現れました。
ジーヴァ > 日は沈み、王城を歩く衛兵の足音が廊下に長く響き渡る頃。
薔薇や百合が咲き乱れ、丁寧に整えられた草木が一種の迷路を形作る庭園に、
音もなく走る一つの影。

「さぁて、ここまでは順調……宮廷魔術師どもの部屋まではもうすぐか。
 その知識、たんまり貰うぜ」

庭園に灯るランプの光から隠れるように茂みから茂みに移り、
眠気をやり過ごすようにあくびを噛み殺す衛兵たちをやり過ごして彼は徐々に進んでいく。
彼は宮廷魔術師たちの持つ魔術書や禁書を求め、夜を待ってここに忍び込んだのだ。

ジーヴァ > 「その知識を広めることも高めることもしない魔術師の恥さらし共め。
 この汚れた王城には相応しいが、それじゃ本が可哀想ってもんだ」

衛兵に一度も気づかれることなく、城壁からここまで来たことに興奮を隠しきれないのか、
ニヤリと笑って悪態をつく。それは自分への励ましでもあり、目的の再確認だ。
彼が所属している魔術師ギルド『アルマゲスト』はこの世全ての知識の収集を目的とした集団であり、
彼自らも10歳の頃からその活動に参加している。
今、彼がこうして王城に潜入し、宮廷魔術師が持つ貴重な本を強奪するべく
庭園を進んでいるのもその活動の一環であり、ギルドからの依頼だ。

「歴史ばかり長いおかげできっちり本を溜め込んでるのは分かってんだ。
 結界魔術に感知魔術、魔族への対抗魔術……全部もらって有効活用してやるよ」

庭園をさらに彼は進んでいき、やがて廊下への大扉までもう少しというところまでたどり着く。
ここから先は木陰がなく、機を見て一気に走る必要があるだろう。
彼はいったん息を整えて落ち着き、庭園と廊下の向こうにいる衛兵たちが離れる機会を待った。

ジーヴァ > やがてその時は訪れる。月が雲に隠れ、衛兵たちの足音が徐々に遠くなっていく。
ひときわ辺りが暗くなったタイミングを見逃さず、彼は思い切り駆け出した。
そして大扉を音を立てぬようゆっくりと開き、素早く廊下へと滑り込む。

「ふぅ。まずは一安心ってとこかね。
 連中の部屋は確かここの真上……あの階段上がればすぐだな」

廊下に並ぶ豪奢な石像の一つに身を隠し、事前に内通者からもらった見取り図を思い出す。
先程衛兵が上がっていった階段を上がって次の十字路を右に曲がれば、そこが宮廷魔術師の部屋だ。
ドアを吹き飛ばして本棚の二列目にある三冊の本を盗み、窓から飛び出してそのまま脱出すれば終わり。
後は平民地区の路地裏にある転移紋に駆け込めば、追手の心配もない。

彼にとってはやり慣れた、いつもの仕事だった。
衛兵たちが戻らぬうちに再び駆け出し、階段を上がって角にあった大きな調度品に身を隠す。
再び聞こえてきた衛兵たちの喋り声と足音に気づいたためだ。

もちろん不意を突けば仕留めることは容易だが、むやみに殺すことは意味のない警戒を生む。
気づかれるにしても何の魔術的痕跡も残さず、どういう手口かを隠蔽できるようにしなければならない。
その手間を考えれば、ここは通り過ぎるのを待ち、月夜の闇に紛れて隠れるしかない。
息を潜めて身じろぎ一つせず、衛兵たちがゆっくりと目の前を歩いていくのを待つ。

ジーヴァ > 衛兵たちは夜の暗さと自らの眠気からか、調度品の裏に潜む彼に気づくことなく廊下の向こうへ気だるそうに歩いていく。
王城の護衛ですらこうなのだから、この国の腐敗はもうかなり進んでしまっているのだろう。
過ぎ去る衛兵たちを調度品の陰から見送った後、彼は軽く舌打ちして宮廷魔術師の部屋へと向かう。

「戦争でも起きれば、本なんて真っ先に焼かれちまう。
 大抵はその価値も分からない屑どもがそれをやるんだ」

ここまで来れば後は単純だった。ローブの中から片手斧ほどの大きさを持った
銀の錫杖を取り出し、部屋のドアに突きつける。

「風よ吹け、眼前の邪魔者を切り刻むほどに!」

魔術の詠唱に一文付け加えることで、威力や効果を調節するという手法だ。
こうすることで目の前のドアは不可視の風刃によってあっさりと切り刻まれ、崩れ落ちる。
衛兵たちは既に遠く離れており、この異変に気づくころには彼は王城から脱出しているだろう。

ドアだった残骸を踏み荒らして彼が部屋に入り込めば、そこは魔術用の道具や怪しげな魔法陣が所狭しと並んでいる。
その中で、彼よりも大きな本棚が部屋の中で異彩を放っていた。
すっかり埃を被ったガラス張りの棚扉から見えるのは立ち並ぶ目当ての本たち。

「……こりゃ分かりやすい。魔術師のくせに本も読んでねえのか。
 ちょろいもんだな」

宮廷魔術師といってもこの程度か、と棚扉に手をかけた瞬間だった。
甲高い鶏の鳴き声のような悲鳴が辺りに数秒鳴り響き、思わず彼はびくりと伸ばした手を引っ込める。

「野郎!仕掛けてやがったな、この埃も偽装か!」

いかに腐敗した国と言えど、宮廷魔術師ならばそれなりの防護を部屋には施す。
忍び込む者には罠を――当然のことだが、あまりの警戒のなさに彼は油断しきっていた。

やがて部屋の壁が徐々に人型を成して一体のゴーレムになり、彼へとゆっくり近づいてくる。
感じた魔力から無力化するにも時間がかかると考えた彼は激しく舌打ちすると、身を翻して部屋から飛び出した。

ジーヴァ > 廊下に飛び出してみれば、衛兵たちが慌ただしくこちらへと走ってくる音が聞こえる。
明らかに複数人のそれは彼には捌ききれない数だ。
仕方なく彼は廊下の突き当り、大きな窓ガラスがある方へ向かう。

「くそったれ……見てろよ、次は完璧にこなしてやるからな!」

窓ガラスに不可視の刃を吹きつけて切り飛ばし、脆くなったところを蹴り飛ばす。
そしていったん後ろに下がり、弾かれたように走り出して窓から外に自らを放り出した。

「一陣の風は嵐となりて、竜の吐息!」

その瞬間、間髪入れずに空中で魔術を唱える。
彼が最近習得したばかりの、高位魔術の一つだ。
狙った位置を中心としてゴーレムすら吹き飛ばす爆風を放ち、あらゆるものを粉砕する。
これを自分が飛び出たばかりの窓に向かって放てば、どうなるか。

王城を揺るがす爆発音と共に、彼は城壁を飛び越えて吹き飛ばされる。
その方向はちょうど平民地区に向かうように飛んでいき、運よく枯草を入れていた荷車に突っ込み、
しばらくしてジーヴァは起き上がると、爆風で傷ついた身体を引きずって闇夜の中へ消えていった……

ご案内:「王都マグメール 王城」からジーヴァさんが去りました。