2018/06/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城」にフェイレンさんが現れました。
■フェイレン > 宵闇に没した王城の廊下で、男は未知の邂逅に見舞われていた。
誰かに狙われることは職業柄珍しくない。しかし、今宵自分を付け回しているのは小さな生き物だった。
見た目はトカゲに似ているが大きさは成猫ほど、全身にエメラルドグリーンの鱗を纏っており、爬虫類じみた顔つきに小さな羽、そして長い尾が生えている。
翼竜のようだがまた飛ぶことは出来ないらしく、短い手足を四つん這いにしながらぱたぱたと男を追いかけては足元にじゃれついてくる。
獣相手であればたいていの場合は殺気を向ければ逃げ出すのだが、恐らくそれを感じない程に赤ん坊なのだろう。
妙な生き物を蹴とばさないように歩くのは難しく、男はうんざりしながらとうとう立ち止まった。
「おい。何なんだお前は……」
彼――あるいは彼女かもしれないが――相手の金色の瞳を覗きこんで問いかけると、返事のつもりなのか愛らしい鳴き声が返される。
貴族の飼い竜か、研究室から逃げ出した魔法生物だろうか。無碍にする訳にもいかず、頭痛を覚えながら嘆息する。
ご案内:「王都マグメール 王城」に紅月/コウゲツさんが現れました。
■紅月/コウゲツ > ーーーから、ころ、から…
砦での治癒術師業務を終えたその足で、城の兵士詰所へ…マグメールに帰るついでだろうと、城への報告係の護衛を丸投げされて、怪力だからって荷物持ちまで。
そのぶん給料は毟りとってやったが、随分とまぁ気軽に使われたものだ…やれやれである。
そんな帰路、ついでに散歩中…最近久しく見なかった人物を見付けて嬉々として声をかける。
「あれっ、フェイ?フェイじゃん!
ひっさしぶりだねぇ、元気そうで…うん?」
…なんか、様子が変。
ちっこいのとにらめっこしてる。
「…どしたの、その子?
……………可愛いー」
緩みきった笑顔でフェイレンと龍(?)に近付く。
■フェイレン > 廊下の先から響く足音に気が付くと、日頃の反射で壁際に背をつけようとするが、翼竜の短い両手に足を取られて躓きかけてしまう。
そうこうしている内、暗がりから現れたのはこれまで幾度かまみえた相手だった。
名前は何と言ったか――。思い出そうと記憶に手を掛けるまでもなく、彼女の持つ美しい紅の髪がその名を示している。
敵でなかったことに小さく安堵の息を漏らし、彼女の問いかけには眉をひそめて首を振った。
「……知らん。いつの間にかついて来ていた」
ぶっきらぼうな言い草ながら、笑顔で歩み寄る彼女にはつい助けを求めるような視線を送ってしまう。
人間の子どももそうだが、犬や猫といった小さな生き物はどうも苦手だった。
■紅月/コウゲツ > …あっ、なんかすごい困ってる。
邂逅数は多くないものの、何となく彼に対して『困らせると人間らしい顔するっぽい』という印象を持っていた女は…ちびっこい竜の愛らしさもそうであるが、常にむっすりした顔の男の表情が動いているのが嬉しく、ついついニヤニヤと笑んでは。
「なぁに?助けてってかい?
んふふ、いいじゃんこんな愛らしい別嬪さんにモテちゃってー」
ねぇ?と子竜に問いかけつつ首を傾げて。
…傾げついでに、子竜の無邪気な様子に、ぷっ、くくっ、と笑いをもらす。
「ほれ、おちびさん…紅とも遊んで下さいましな?」
心労の多そうな青年をあんまり困らせても可愛そうだ。
彼の隣にしゃがみこむと、そっと片手を彼の足許へと近付けて…
■フェイレン > 困り果てた視線を向けると、彼女は少女のように悪戯っぽい笑みを浮かべてみせた。
揶揄いまじりの言葉に男はますます表情を硬くし、呆れと共に肩を落とす。
「勘弁してくれ。生き物を愛でる趣味は無い。……こういうのはお前の方が得意だろ」
庭園で再会した日、彼女の身体に寄り添うように小鳥や蝶が群がっていたのを覚えている。
女の白い手が伸ばされると子竜は男から興味を移し、彼女の胸へと抱き着いた。
心地よさそうにゴロゴロと喉を鳴らし、男の手のひらよりも小さな翼を楽し気に揺らしている。
「……助かった。しばらくそうしていてくれ」
その場で膝を折ると、恐る恐る手を伸べて生き物の身体を検めた。
ペットにしろ実験動物にしろ、この城の誰かが持ち主であるなら所有の証にタトゥくらい入っていそうなものだが、腕や尾を掴んで翻しても不思議な色合いの鱗が光彩を放つばかりだ。
そうなると今度は別の問題が浮上する。
「出所も飼い主もわからない……。面倒なことになる前に、逃がした方がいいかもしれない」
■紅月/コウゲツ > 「ふっ、あはは!
そうねー、得意ねぇ?」
何となく、ほんのりとだが以前より人間くさい表情が似合うようになっている青年。
しばらく会わぬ間に心境の変化でもあったのだろうか…何であれ、良いことだ。
この青ね…えぇい、友人には幸せになってもらいたいものだ。
着物の襟と帯に爪を引っ掛け、器用にぴたんと貼り付いた子竜…
「あぁ可愛い、拐かしたい」
なんて呟きが思わずもれる。
鱗に沿って優しく撫でてやれば、どうやら気に入ってくれたようである…フェイレンにあちこち調べられても大人しいものだ。
「ん、何、逃がすの?
…じゃあこの子、私が持って帰っていい?
今、とある貴族の邸宅で世話になってるからさ。
後ろ楯あるし…その辺の野っ原に逃がすよりは、わりと安全だと思うんだけど」
子竜を胸から引っぺがし、子竜の腹をフェイレンに向けるように抱き直しつつ。
どうよ?と首を傾げて。
■フェイレン > 謎の生き物を抱いた彼女は瞳に愛しさを宿し、腕の中のそれを優しく撫でてやる。
一般的に見て可愛い、ものなのだろうか。
自分にはよくわからないが、彼女の素直な表情を見ればそうなのだろうと納得がいく。
「引き取ってくれるのは有難いが……それはまだ生まれたてだろう。
この先どれほどの大きさになるか知れないぞ」
何より獰猛な性格になる可能性もあったが、彼女の人智を超えた正体を知るだけに、その心配は必要なさそうである。
子竜が大人しく抱き直される姿を見届けると、ふと懐かしい感覚にとらわれた。
胸の奥がじわりと熱くなって、ほんのわずか、男の黒曜の瞳が細められる。
「……そうしていると、母親と赤ん坊のようだな」
無意識のうちにそう呟いてしまったのは、遥か昔に失った家族を思い出したからだった。
優しい手に抱かれ、無償の愛を勝ち得た子竜が少し羨ましい気がする。
「念のため、ここではなくどこか街の外で拾ったということにしておいた方がいいだろう。
……俺もお前も、今夜ここでは何も見ていない。――いいな」
そう言うと遠慮がちに手を伸ばし、子竜の頭を撫でてみる。
ぎこちない触れ合いの中、ざらりとした鱗の向こうに確かに生き物の脈動を感じ、そっとその手を引っ込めた。
■紅月/コウゲツ > 「ん、まぁ、育ったら育ったで。
いい宝物庫番になってくれそうだし…何なら、ちょっとした遺跡でも作ったら楽しそうだ」
楽しげに軽く言ってのけて。
…何となくズレた発言も飛び出しているものの、とりあえず彼女にとって大きさはどうでもいいらしい。
と、何だか…表情の変化は凄く薄くはあるのだが、纏う空気が和らいだ彼。
母子と言われては、きょとん、とした目を向ける。
「ふふっ、そうさな?
城で拾ったなんて、それこそ盗人扱いされたら首が飛びそうだもの」
クスクス、と愉快げにわらって…
片手で子竜を胸に抱き、フェイレンの髪に手を伸ばす。
もし逃げられなければ頭をポンポンと、穏やかな笑みを浮かべて撫でるだろう。
「友がそう言うなら、そういうことにしようかね」