2018/04/27 のログ
セイン=ディバン > 「あはははは、自分から望んで、です。
 いわゆる一目ぼれですよ」

更につっこまれた質問に、男は苦笑して答える。
そう。一目ぼれだ。惚れて、求婚して、結婚までこぎつけた。
人間として考えれば、ずいぶんな人生である。

「……?」

目の前で、頬を両手で包むようにする相手。
失礼なことを言ってしまったか、と男が軽く後悔するのと同時に、相手が落胆の表情を見せてしまう。
慌てる男であったが。

「……ははは。それは大変だ。女性のおめかしってのは……。
 手間がかかるよね、ホント。
 ……そうでも、ないんじゃないかな。愚痴を言える相手がいるって、ステキだぜ?」

次の瞬間、相手の様子が僅かにだが晴れた様に見えれば。
男は安堵の息を漏らす。どうやら、少しは気晴らしに付き合えたらしい。
と、考えていたのも束の間。一匹の蝙蝠の出現で、相手の表情が再度曇ってしまった。

「……うん? そっか……。
 まぁ、なんにせよ無理はしないでね?」

どこか様子が変だと思いつつも、侵入者である男には少女を引き止められない。
男は、相手の様子の急変の理由について考えつつも城を後にする。
頭に引っかかるものがあるが、推理力を発揮できぬまま。
また会えるだろうか、と考える男。その表情は、明るくはなかった……。

ご案内:「王都マグメール 王城」からセイン=ディバンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城/回廊」にフェイレンさんが現れました。
フェイレン > ――つけられている。
仕事を終え、王城の廊下を進む途中で青年は足を止めた。
背後から微かに伝う足音のリズム、重み。この音色の持ち主には心当たりがある。
自分と同じ主に仕える陰の者の一人だ。
大方、以前の任務で手柄を横取りされたとでも思っているのだろう。
距離を取っているというのに、ギラついた殺意が夜闇を通り抜け、
ピリピリと肌を刺してくるのがわかる。

私闘は賢明とは呼べない。
城内は広い。このまま撒いてしまうか、いっそ城を退出するまで引きつけるか――。
青年は速度を上げて歩を進め、後方へ意識を向けたまま廊下の角を折れた。

フェイレン > 角を曲がりしばらく往くと、遥か前方にも誰かの気配が感じられ、思わず息を呑んだ。
その正体に思い当たる節はなかったが、もし追跡者の同胞であれば挟み撃ちとなってしまう。

青年は慎重な足取りで通路を進み、やがて狭い横道を見つけると、すかさずそこへ身を滑らせた。
口に含んで軽く湿らせた指で、燭台の蝋燭の火を摘まむようにして消していく。
足音が近づく前に柱の陰に背中を張り付けるようにして身を潜め、厄災が過ぎるまでただ息を殺して。