2018/03/16 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城 庭園」にルクレースさんが現れました。
ルクレース > 随分と暖かくなって、少しずつ春の息吹を感じ始める季節となった。
それでも、夜はまだ少し寒い。
厚手のショールを肩にかけながら、庭園の小道を一人歩く。
雲一つない空には、真っ黒な布に宝石を散りばめるかのように星星が輝いている。
新月間近の月は、猫の瞳よりも細くなっていた。
ゆったりとした足取りで、時折空を見上げながら庭園の中を歩けば、蕾を綻ばせ始めた花の香りが鼻腔を擽る。

「………。」

庭園の中央に位置する場所に、ひときわ大きな樹木があった。
その樹木の前まで歩いていくと、足をとめて空にのびのびと広がっている枝の先をルークは見上げた。
落葉樹のその樹木は、冬のあいだは眠りについて春の一瞬の間に花開く。
枝の先には、まだ硬い、けれど花開くために膨らみ始めている蕾が暗い視界の中でも見て取れた。
そんな蕾と同じように、膨らみきった腹部に手を添えてそっと無意識に撫でていく。
目の前の樹木に花が咲いたときに、会えるような予感が何故か強くあって、蕾が膨らむたびに、もうすぐだと確信していく。

ルクレース > ただ『モノ』として、そこに在るだけの存在として、時間が経過するのと、心を持って『人』として感じる時間というのは、どちらも経過する時間は同じはずなのに、感じる時間は全く異なる。
長いようで、めまぐるしく変化していった一年を振り返ると、あっという間であったようにも感じて、少し不思議な感じがする。
一日が24時間で、一年が365日という太陽の巡りによって決められた時間という概念は、モノであったときと変化はないはずなのに。
横に広がるような枝の先の蕾に手を伸ばしながら、そんな風に考える。
過去を懐かしんで、明日を想うなんて国を維持するための駒であったときは考えられなかった。
ただ、主の命令を遂行して、壊れたら代わりが補充されるだけ存在。

(感傷というのだろうか…。)

今更ながらに、駒であったときの事を思い起こすのは感傷という感覚。
移り変わる季節の瞬間が、きっとそんな気分にさせるのだろう。

ルクレース > 『あまり体を冷やしてはいけないよ』

蕾を見つめながら、暫く思考の中に沈んでいるとふと優しい声が聞こえてきた。
春の眷属である、白隼のドーリスの声だ。
母のように優しい声音は、どこか安心感をルークに与えてくれる。
こんなふうに自分はなれるだろうかと、そう思いつつ、彼女へと返事をする。

「はい、そうですね…。」

返事をすると、ルークは踵を返して私室へと戻っていった。

ご案内:「王都マグメール 王城 庭園」からルクレースさんが去りました。