2017/09/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城」にランドルフさんが現れました。
ランドルフ > 昼下がり。
未だ日差しに夏の厳しさを残しはする物の、其れでも屋外で過ごすには悪くない按配だ。
ある者は書物を手に木陰へ赴き、
ある者は遠乗りに出掛ける。
王城内とは言え、一口に庭園と呼んでしまうには余りに広大な其の敷地内で――どうやら余興が行われている。

「――……?」

美しい水を湛える湖。
其の湖畔で、数人の王族達が肩を寄せ合って笑っている。
先頭に立って湖を指差し、笑っているのは美しい金の巻き髪の姫君だ。
どうも誰ぞに、湖に落ちた何かを拾わせようとしている様で
――さて、何処の誰が災難に、と双眸を細めるのは執事風貌の背高。
東屋まで気に入りのバイオリンを届けろと命じられた其の帰り道だ。
名器が上げる悲鳴の様な旋律を聞く前に早々に辞して来たのだが――此方でも何やら厄介事らしい。

ランドルフ > 斜めに差す陽光を眩しく照り返す湖面を見遣れば、矢張り人影が見て取れた。
王族にも序列が在り、貴族にも爵位が在る。
十把一絡げに上流階級、と呼ばれても、虐げられぬとも限らないのが此の王城であり、
ましてや戯れに連れ出された市民やら従僕の可能性もある。
甘やかされた傲慢さと言うのは、時に残虐な牙を平気で他人に突き立てるものだから、
仕方無い、と一つ溜息を落としてから湖畔へと歩を向けて。

「姫様方。――…何をなさっておいでです。」

随分と気の強そうな金の巻き髪を揺らして此方を見遣る姫君は、育ちにそぐわず、ふん、と鼻先を上向かせて。
あの娘が随分と魅力的に光り輝いている様だから、私の身を飾る宝石なんて見劣ってしまうわね、
と耳飾りの片方を湖に投げたのだと。
誰も取って来いだなんて言っていない、彼女が進んでそうしていると笑って見せて。

見遣れば、彼女の後方で其の顔色を伺い伺い、其の隙間で湖面の娘を忍び見る青年貴族。
どうやら彼の気の弱そうな蒼の瞳が、自身にではなく湖面の娘に奪われた事が
金の巻き髪の姫君にとって許し難かったのだろう。

ご案内:「」にランドルフさんが現れました。
ランドルフ > 取り巻きらしき二人の――此方は貴族の令嬢達だろうか、肩を寄せ合って、
時折掌の中を覗き込んでは笑い合っている。
其の笑顔には未だあどけなさが残ると言うのに、眉尻の釣り上がる角度等は気位の高い貴婦人達に引けを取らない。

「左様で御座いましたか。――…ですが、夏も名残、水遊びも程々になさって下さいませ。」

ごく柔らかな語調で嗜めれば、其れでも姫君の鼻の頭に不愉快そうな皺が寄る。
差し出口を、と怒声が飛ぶよりも前、嗚呼、とやや態とらしく、執事は其の手を打って。

「先程ガーランド様が王城に御戻りになられました。今は独りで東屋にいらっしゃるそうですが――…宜しいのですか?」

飛び出し掛けた怒声が一度引っ込んで、再び、どうして其れを早く言わないの、
と新しい罵声が姫君の麗しい唇から飛び出す。
申し訳御座いません、と執事は深々と礼を取って見せたが、
頭を上げ切るより前、
姫君はこうしてはいられないと足音高く歩み出して。
背の君が待っているとなれば、他はもうお構いなし、
余興はお終いか――やれ、気の多い事だ。
ドレスの裾を忙しく翻して、東屋へと消えて行く。
此れであのバイオリンを聴く観衆も出来た訳だし、一石二鳥だ。

ランドルフ > 「さ、姫様方も御早く――夕暮れより前に、城へと御戻り下さい。」

取り巻きの二人の令嬢は、唐突な事態に
姫君の直ぐ後を追った青年貴族よりワンテンポ遅れて我に返る。
彼女を追わなくては、いやしかし、と二人で間誤付いている所、エスコートする様に内一人の手指を執事が取って。
促すだけの所作は直ぐに離されて、再び其の長躯を丁寧に折り曲げた。
此れで漸く彼女達が去って――残されたのは湖面のメイド姿。
退屈紛れにされた姿を見て取れば、馬鹿な事をと笑う気には流石になれずに。

「簡単に騙されるな。…さっさと仕事に戻れ。」

放って寄越すのは宝石の耳飾り――先のエスコートで、令嬢の手から掠め取った物だ。
彼女達は最初から、耳飾りを投げたり等はしていなかったのだ。
恐らく石か何かと摩り替えて、メイドをからかったのだろう。
投げられた其れを、今度こそ湖面に落とさずに、慌ててメイドが受け取ったのを見れば、執事は溜息を一つ。
其れから踵を返して――

馬鹿馬鹿しい、と口の中で独りごちては、先ずはタオルと、其れから紅茶だと――算段を立てながら、王城へと戻るのだ。

ご案内:「」からランドルフさんが去りました。