2017/04/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城」にルークさんが現れました。
ルーク > 主の予定によって左右されるが、従者として行う日課というものもある。
主宛に届けられた多くの書簡の整理もその一つ。
いつものように書斎にノックをして、足を踏み入れると手に持った大量の封筒を一旦テーブルへと置くと一つ一つを魔力を通して不審なものがないかを確認する。
確認の終わったものは、送付先を分けて文箱へとしまっていく。
書簡の仕分けが終われば、読み終えた書簡の整理を行い書斎での仕事は一旦終了。
風化の魔術で復元不可能にした書簡のごみを手にして書斎をあとにした。
ゴミをゴミ箱へと廃棄すると、上げた視線の先に花瓶に生けられた薔薇の花が目に入る。
先日庭園で咲き誇っていた薄紅色の花は、あっという間に花弁を散らせてしまい今は残ったガクと葉だけになってしまっている。
春のひととき、一瞬の間に咲いて見事に散りゆくさまは見るものに名残惜しさを与え、その散りざまが目に焼き付くのだろう。

「………。」

生けられている大輪の薔薇も、艶やかで薄紅色の花とはまた違った美しさを持っている。
薄紅の花と違い、王城や私室に飾られる機会の多いそれには見覚えがあった。
しかし、意識せずにいたもの。
それに意識を向ければ、あの時のような感動ほどではないものの『綺麗』だと思う。
赤い花弁に触れると長い指で輪郭をなぞるようにして茎のほうへと至り。

「………。」

ちくりと指先に鋭い痛みが走る。
手をゆっくりと引くと人差し指からぷっくりと赤い血が小さく玉になって溢れ始めていた。
どうやら花のすぐ近くの棘が抜かれていなかったらしい。

ルーク > 「………。」

『気が緩みきっているな。』

灯された明かりの影、気配もなく姿もなくただ影がそこにあるだけの空間から侮蔑を滲ませた声が聞こえた。
ゆっくりと溢れて玉を作る血を、少しの間だけ見つめていた瞳は突然聞こえた声に動揺するでもなく、血の滲んだ人差し指と親指をこすり合わせて血の痕を消す。
それほど深い傷でもなければ、血はすぐに止まって傷口も殆ど分からない。

『花になぞ気を取られ、残された棘にも気づけぬとは。もしそれに毒が仕込まれていたらどうする、主が触れたらどうする。100歩譲ってお前がその毒で死ぬだけだとして、その死体で主の目を汚させ、手間をかけさせる気か』

「………。」

相変わらず、どこから発せられているものなのかも、発している人物すら特定できないような影からの声に琥珀の瞳も彷徨うような事はない。
私室といえど、メイドなど不特定の者が出入りすればそれだけ毒物や暗殺の為の罠を仕掛ける機会が増える。
それを取り除き、処理するのも従者であり、護衛である者の務めだ。
薔薇の花の存在、そのものに意識を向けた結果に負った指先の小さな小さな傷。
それは、小さな感性が生まれた事による綻び。興味を抱いた結果。
声が語るのは、有り得たかもしれない事実。
わざわざ言わねば分からぬかと、声には侮蔑が強く滲む。

『主が変わったことで随分と浮ついているようだな。いらぬものまで獲得して、人扱いされることがそんなに嬉しいか?』

「………。」

『生まれる前から駒であるお前に、駒以上の価値などない。新しき主もただの物珍しさか同情からお前に人らしさを与えているのだろうが、そのような事では主を守れずにただ死ぬだけだ。お前が死ぬのはどうでもよいが、国の楔である主をもお前は危険に晒すことになる。』

声は淡々と告げる。駒である自身に自我も感情も必要なく、ただ主の意に沿う意思だけがあればいいと、そう生まれた時から聞かされ続けていた声は告げる。