2017/02/27 のログ
オーギュスト > 「ふん……」

いい酒だ。わけの分からない神仙にやるには、惜しいくらいだ。
しかし……

「目薬ねぇ」

なるほど、魔族どもの厄介な幻術に悩まされるのは、いつでも同じ事。
それへの対抗策なら、もろ手を挙げてほしい所だ。
しかし。

「で、その効能の保証は?」

当然の事を訪ねながら、酒盃を煽る。
やはり、美味い。

ホウセン > 部屋の主の心情を知ってか知らずか、妖仙は涼しい顔で半分程に減った酒器の中の酒を口に含む。コクリと喉が鳴るが、上下があからさまになるだけの、発達した喉仏は見当たらない。

「お主のような輩は、自身の実体験がなければ信用すまい。そうじゃのぅ…効能を体感するのならば、塗るのは片方の瞼だけにするのが良かろう。それは試供品故に対価は請求せぬ。気が済むまで塗りたくるが良い。」

純粋な薬物という訳ではなく、調合後にある種の呪いが掛けられている。魔力や呪力に敏感な者であれば、何かしらの気配を感じるかもしれない。男が商人の促しに応じて片方の瞼に塗りつけたのなら、左右の目は異なる映像を捉えるだろう。薬を塗っていない方の目は、手の内で酒器を回している妖仙の姿を。薬を塗った方の目は、空になった酒器に、断りなく酒を注ぎ足そうとしている妖仙の姿を。

「左右で見えるものが違うと、頭の中の視覚を司る部位が混乱をきたし少しばかり目が回ろうが、分かり易さには代えられまい。気分が悪くなるようなら、もう片方の瞼にも塗ればよい。効能は三時間ほどじゃ。寝て起きれば元通りじゃろう。」

さも知識を与えるといった風情で台詞を吐いて誤魔化しを試みつつ、厚顔にも酒器になみなみと酒を注ぐ。

オーギュスト > 「――ふん」

オーギュストは、異形のモノ達と付き合っていて、ある特性を確信している。
彼らは極力嘘を吐かない。
矮小な人間を言葉で騙したりするのを好まない。敵対者は堂々と、力をもって圧倒してくる。

また、このような誘いを行う存在も同様だ。
言葉足らずにこちらを誘導する事はあっても、決して嘘はつかない。
故に、効能は信用しよう。

「――おわっ!?」

本当に左右の視界が違うものを映した。
気持ち悪くなり、慌てて両目に塗る。なんだこれは。

「って勝手に飲みやがって!」

仕入先すらない貴重な酒なのに、まったく。
しかし……

「――効能は本物だな。で、取引って言ったな。何が望みだ?」

ホウセン > 表面張力が現れる半歩手前まで米の酒を注ぎ、”おーっとっとっと”とすかさず上半身を前傾させる。酒器そのものを持ち上げるではなく、唇の方を寄せて香り高い液体を啜るのは、子供の姿よりも場末の酒場の酔っ払いがする方が余程似つかわしかろうに。

「呵々!そう目くじらを立てるでない。其れがお主の”仕事”に酷く有用じゃと確信できたのじゃろう。なればこそ、アレじゃ。所謂祝杯と思うて気前よく振舞うべきところではないかのぅ。」

悪びれずに言い放ち、手にとっても縁から中身が零れてしまわぬ程度まで嵩を減らした酒盃を手に取る。”乾杯”等と、軽く杯を掲げる仕草。

「望みと言うたら果てが無いが、さしあたっては金銭じゃな。お主らが如何程必要とするかは分からぬが、一般的な傷薬の五倍程度に抑えておこうかのぅ。まだこの国には出回っておらぬ代物故、これでも”勉強”しておる方じゃと自負しておる。後は、引き続きの取引じゃな。お主らの捕虜尋問を円滑にする手管に心当たりがあるのじゃ。」

高額故に、必要数を見誤って破産するでないと減らず口を叩く。短期的なものは金銭、中期的には、最初の取引を取っ掛かりにした取引の拡大。皆まで言わずとも、おおよそのところは察せるだろうか。

オーギュスト > 「買った。早急に必要になる、あるだけくれ」

傷薬の五倍なら安いものだ。
遠征予算に追加で計上しておこう――どうせ払うのは国の予算だ。せいぜい分捕ってやればいい。
第七師団の懸案、敵の幻術を防ぐ方法を全兵士にいきわたらせる事が出来れば、かなりの戦力UPを見越せる。

「それで、継続的な取引か。
 今度の遠征は大きなモノになる。それで戦果を上げれたら、お前んとこを贔屓にするよ」

その程度なら安いものだ。
酒盃に再び酒を注ぐ。軽くとがめたが、ケチケチはしない、酒は大いに飲むものだ。
自分の酒盃にも並々と注ぎ。

ホウセン > 即断具合は、おおよそ妖仙の見込んだとおりだ。人が人ならざるモノに対抗するとなれば、先ずは同じ土俵に立つことが不可欠。その第一歩として、知覚外の行動に反応できるようになるというのは、喉からダース単位の手が出るだろうと。故に、背中を押すための低価格まで添えた甲斐があるというものだ。

「売った。そうじゃな、今の在庫で言うのなら、その小瓶で二千。一週間後に追加で五百というたところかのぅ。」

一つの瓶の内容量は、両目に用いるなら十度が精々。一度の塗布で効能が三時間程度であるから、連続使用でも一日と少しは持つ計算だ。陣幕を張っての長期戦の間中、全員に行き渡らせるのは難しかろうが、一日中戦い通しという訳でもあるまい。その辺りの効果的な運用は、指揮官の能力に期待しても良かろう。

「うむ。最終的には儂個人の技量で作れるものではなく、ゆくゆくは日用品の類まで卸せれば万々歳じゃ。何だかんだで新規参入者が大口取引先に割り入るのは苦労するからのぅ。して、納入先は何処にすればよい?」

聞いた話では、既に一部の部隊は行動に移っているらしい。王都で受け取るか、他の地で受け取るか。ともすれば、攻略対象を部外者の前で明言することとなるのに、何の気負いもなく問う。酒精によって仄かに色付いた頬に手をあてながら、酒を口に含み、舌の上で転がして温めてから、コクリと喉の奥へ。

オーギュスト > 「郊外に師団の駐屯地がある、そこに運んでくれ。
 貧民街のそばだ、聞けば誰でも知ってる」

そしてごそごそと机を探る。
緊急用に手元に残しているモノがあったはずだ――あった。

「手付け金だ。残りは納入した時に払う」

どさりと金貨の袋を置く。およそ300枚。
こういう時に金は惜しまない。その為に普段、貴族どもから巻き上げているのだ。
オーギュストは満足そうに小瓶を懐にし仕舞う。

「上手くいきゃあ、いくらでも贔屓にしてやるよ。
 軍隊だから日用品も多い――」

再び酒をぐいと呷る。

ホウセン > 袂から備忘録を取り出すと、墨壷も引っ張り出さず紙の上に指を滑らせる。其れだけで黒々とした文字が浮き上がり、言いつけられた納品先を記録する。

「呵々!金払いが良い内は、儂にとっても上客じゃよ。故に、オマケをつけてやろう。お主らにとっては馴染みが薄く、また見てくれも気色悪く見ゆるかも知れぬが、存外つまみに良いのじゃぞ。」

重たい袋を、細腕に鞭を打って手繰り寄せ、袂の中に飲み込む。一度視界から消えてしまうと、その重量も体積も存在しなかったように。引き換えに、袂から取り出したのは、陶器の皿に載った鮮やかなオレンジ色をした鯔の卵の塩漬けだ。指を幾度か振ると薄く切り分けられ、最後に楊枝を添える。米の酒はそれだけでも美味いが、食中酒としてのポテンシャルを引き出さずに何とするかと。

「ま、上手くやるのもお主の責の内じゃろう。嗚呼、そうそう。もしも魔族の捕虜が出たら、一人二人儂に融通するが良い。先刻言うた、”効率的な尋問”の為の試金石にする故にのぅ。既に儂と事を構えた連中で試しておるが、試行は多ければ多いほど良かろう?」

つまみを口の中に放り込み、強い旨みと、それを上回る塩気とを堪能し、その後に酒を口に含んで、くぅーっと幸せそうな声を漏らす。

オーギュスト > 「ほう、魚卵か。懐かしいな、向こうじゃイクラなんかよく食べたな」

こちらでは魚の卵を食べるなど、ダイラスにでも行かないと無理だ。
故に、遠慮なくいただく。

「ま、確かに酒には肴がいるな――魔族の捕虜か。今回は女は回すアテがあるんで、男になるな。
 まぁ、目を盗んで一人ぐらいなら何とかなるかもしらんが」

魔族の女はアレに回すと約束してしまった。
まだ取らぬ狸の皮算用だが。

ホウセン > 知っていると言われたようで、ちょっとした安堵と、ちょっとした不満が入り混じる。お主の知らぬ美味いものがあるのだとひけらかしたい、幼稚な心情がその原動力だ。それでも、上機嫌である事に違いはない。

「鮭の卵か。アレは塩漬けと醤油漬けで派閥抗争が起きそうなものじゃが… ふむ、儂の個人的感興で言うのなら女の方が好ましいが、無理は言わぬよ。女しか存在せぬ魔族の種がおるのなら話は別じゃがのぅ。」

さもなければ、あらゆる種に効果を発するのか実験結果が取れぬと。それでも、大部分には効果がありそうな塩梅だし、”薬の専門家”に頼んだ改良品を試せれば重畳らしい。

「そうそう。引き換えにという程でもないのじゃが、もし戦死した者がおったら、その者が身に着けておった財貨を買い取らせよ。値は少しばかり色をつけるのじゃ。」

金を金で買うという珍奇な要求だが、”呪”を糧とするこの妖仙には利となる。酒盃はそろそろ空になり、酔いが回って体が火照るよう。袷を緩め、パタパタと扇ぐ。そろそろ辞去をする頃合か。

オーギュスト > 「戦士した奴の装備ねぇ――特殊な武器以外ならな」

こくりと頷きながら、再び酒盃を傾ける。
取引は成立し、オーギュストは満足気に頷いた。

ご案内:「王都マグメール 王城 オーギュストの執務室」からオーギュストさんが去りました。
ホウセン > 大体、満足のゆく話が出来た。最後に戦死した者の持ち物に関する合意が成立した所で、席を立つ。

「嗚呼、案ずるでない。儂が買い取るのは金銭だけじゃ。武器だの防具だのは、形見分けなり何なりが生じよう。其処まで強欲ではないのじゃよ。」

最後に備忘録を袂の中に戻し、登場した時と同様に、厚みのない闇に消えて――

ご案内:「王都マグメール 王城 オーギュストの執務室」からホウセンさんが去りました。