2015/11/13 のログ
■アルマゲスト > 緩やかに薄めた眼差しが、囚えた魔導書。
程なく、その頁がひとりでに開いていく。はらりと、古い紙の匂いが零れて、紙の開く音が響く。
それだけではない。ふわりと、まるで蝶のように頁が剥がれ、浮かび上がっていく。
一枚、二枚、三枚―――すぐに数えきれない程に散って、広がっていく。
人気のない書庫から溢れる音、それに魔導書に満ちた魔力の気配が漂い、混ざり始めて
「――確か、昔、古本屋の本棚で出会ったかな。」
その音に交じるのは、まるで懐かしむような色合いの声音。
或いは、“懐かしむ”という色を真似たような色合いの声。
その間も、魔導書の頁は舞って、広がっていく。
程なく、最後の一頁まで剥がれ落ちれば、さながらそれは男を中心とした紙の渦。
「では、いただこうか――。」
次いで響いた言葉。そっと奏でられたそれ。
同時に、渦を巻いていた紙が一枚ずつ消えていく。
否、正確には、目にも止まらぬ速度で男が抱えた赤黒い魔導書に吸い込まれていく。
一枚、二枚、三枚――吸い込まれて、消え、消えては吸い込まれていくそれ。
それを、緩やかに眺める紫色の瞳は、やはり何かを面白がるような色合いを浮かべた侭で。
■アルマゲスト > そして、どれほどの時間が過ぎただろう。
測るものが彼しかいなければ、意味の無い時間の後。
無数とも思えるほどに舞っていた魔導書の頁の、最後の一枚が消えた。
まるで、最初から存在しなかったかのように、消えてしまったそれ。
「……ご馳走様、とでも言うべきかな。」
そう、そっと唇が言葉を奏でる。
魔導書の吸収。それによってどのような変化が生まれたものか。
あるいは何も変わらないのか。それは、彼だけが認識すれば良いこと。
ただ、変わらない色合いの表情の侭、そっと瞼を伏せる。
そうすれば次いだ刹那、まるで当然のようにその姿は消えていた。
再び書庫に戻る静寂。さながら最初から何も起こらなかったように。
ただ、書庫から誰も見向きもしない魔導書が一冊消えていた。
それに誰かが気付くのはきっと、もっとずっと先のことだろうけれども。
ご案内:「王都マグメール 王城 「書庫」」からアルマゲストさんが去りました。