2015/11/12 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城 「書庫」」にアルマゲストさんが現れました。
アルマゲスト > まるでそこに在るのが当然のように彼はそこにいた。

夜も更けた、と称しても差し支えの無い時間。
無数の書架の並ぶ王城の書庫にも、今は人気はない。
どこからともなく、誰に告げるでもなく現れた男。
同時にふわりと、まるで蝋燭のような色合いの灯りが書庫を満たしていくだろう。
それを一瞥もせずに、石造りの床を滑るように歩く。コツコツと、軍靴の音が静かな空気を乱して響く。
巡るのは東西より集められた魔導書の類が収められている書架。
背表紙をまるで滑るように眼差しが撫でて、巡るように視線が滑っていく。

「―――なるほど、いや、成る程。中々の品揃えだ。」

錆を含んだような低い声音が淡く、夜の静寂を揺らして響いた。
何かを面白がるように仄かな笑み浮かべた唇。紡いだ言葉はやはり、何かを面白がるような色合い。
その片手には古ぼけた赤黒い魔導書。
そして、空いた手にはいつの間にか煙草が一本。漆黒の細長い紙巻煙草だ。
それを、銜えようとして―――。

「ああ、流石にここでは不味いか。」

そんな声音が、僅かな苦笑めいた笑み混じりにこぼれ落ちた。
そして、煙草に落とした視線がまた書架へと戻った時には
手に持っていた煙草はいつの間にかどこかに消えていて。

アルマゲスト > それは、まるで愛でるようなと喩えられるだろうか。
古今の魔術士、魔法使い、あるいは魔族が記しただろう無数の書。
その背表紙を撫でるように滑っていく紫の眼差し。
銘を確かめている、というよりは眺めるような速度で視線は動く。
ひとつの書架の前で、足を止めて、そこに並ぶ書を確かめて、そしてまた次へ。
次の書架を確かめては、靴音を柔らかく鳴らしてまた次へ。
まるでそう定められたように、そして、決められた動作のような同じ動き。それを一体幾度繰り返しただろう。

―――やがて、その足がひとつの書架の前で止まる。

「ああ、ここにいたか。随分と、久しぶりだな。」

言葉が、唇を割って零れ落ちた。
それはまるで、長い間、離れていた友人に出会ったかのような色合いにも似た響き。
蕩けるように滑らかな色合いの微笑を唇が浮かべて
そして、空いた手が伸びる。伸びる先には一冊の古ぼけた魔導書。
これといって価値のあるものでも、力のあるものでもない。
それに、白い手袋に包まれた細長い指先がそっと触れて、書架から抜き出す。
まるで大切なものを扱うように丁寧な仕草で手に取れば、まずはその銘を確認して。

「やはり、な。」

ひとつ、緩やかに頷く。
その仕草はまるで、自分の蔵書を確かめるようなそれ。
王城、その書庫に忍び込んだものとしてはあまりにも似つかわしくないだろう。