2015/10/28 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城」にシドさんが現れました。
■シド > 何百もの灯篭が闇夜を晴らして王国の栄華を誇る。眠らない王城の今宵は舞踏会。権威を誇示する華美な衣服を纏いて貴族達が交流している。
天井に飾られた豪奢なシャンデリアが、室内の照明をキラキラと投げ掛ける其処にいるのは栄光の証やもしれぬ。
または未来が見えぬこの国の破滅を来す焦熱の光芒と、国の中枢達に警笛を鳴らしてるやもしれぬ。
それでも彼らは酒を飲み、食に耽り、舞踏に勤しむ。今宵はパーティーなのだから。
しかし、その中に溶け込んでいるようで、その輪に外れている者もいた。
「……以上です。隠し財産を築いて税収を免れる者、信仰で民衆を誑かし淫蕩に耽る者、あとは各領土から徴兵を賄賂で誤魔化す者。
――ええ、彼らも莫迦じゃない。尻尾は掴めませんが、一応貴方様の耳には入れておきたいと。」
銀髪を靡かせる青年だけはきらびやかなこの空間よりも貴族達との密談を好む。
狙うは上席の失脚と、その空席への昇格。
弓月に弧を描く唇が色よく饒舌にしゃべるが、葡萄色の眸だけは笑っていない。
■シド > 「私めからも国王に、枢機卿にと報告しようと思いましたが、上奏奉るには恐れ多い。貴族の成り上がりの意見にどれだけ耳を傾けてくれるのやら。
ですから貴方様のような名のある方を通して……そんな、密告などと。この国を思えばこそ苦心しながらも公表すべきと判断しました。
ええ、私が信用できるかどうかはシルヴィア嬢よりお聞きになられているかと。」
酒を傾けながらも酔は回らない。目の前の同類をどう諭そうかと思考の回路は熱をあげているのだから。
或いは腹に一物ある彼らに飲み込まれぬよう、ぶらされてもない剣の柄に無骨な掌がきつく握られている。
「ありがとうございます。きっと国王も貴方に更なる信頼を置いてくれましょう。
――ふふ、私が犬ですか。良いでしょう。元より噛みつくことしかできぬ身。この国のために番犬にでもなりましょうか。
それでは伯爵様、例の件は前向きにご検討下さい。決して損な取引にはさせませんから。失礼します。」
交渉は成立した。名うての貴族と交流して名を売る。
上手くは言ったものの腹奥にどす黒いものが湧き上がるのに、静かに眉間に皺が寄っていく。
苛立ちとも呼べぬ感情を飲み込むよう、手にしたまま味がなかった酒精を喉元露な角度で飲み干した。
■シド > 吹き抜けの壁に幾多もつけられた灯籠が、人々に長い影を引かせていく。風もないのに揺れる赫が不気味に影を踊り狂わせる。
行く末見えぬ未来への不安をかき消すように笑う声が地から湧き上がる悪魔の哄笑の様なのは気のせいか。
この舞踏会に注がれる湯水の如き税でどれだけのことが出来るのか?眸は何も移さず灯火を明紫に照り返していく。
「毒蛇の巣……慣れねばならない。嫌悪感を消さないと。」
楽団の奏でる音がうねる焔にごとく重厚になる。誰彼が舞踏を願ったのだろうか。一同が中央に集まるのに青年も鈍い足取りで向かい。
手近な女性に会釈をしてから手に取る。
腰に添える手、重ねる眼差し、決して足を踏まぬような足取り。長い銀の髪波が煌きのように踊りを飾る。
――ここ数年前には決して所以がなかったもの。随分となれたものだと……踊る相手に投げかける笑みの裏、睫毛薄伏せて思いに耽る。
■シド > ワルツの律動は心地よい。単調なるそれに眠気すら覚えたかもしれない。不可解な感情が薄れていく最中に踊り終えた相手の一言に眸を瞠って。
「――ええ。そうですね。私達がこうして遊べるのも、まだマグメールという国がある証。この舞踏会がある限りは国は安泰。
……そんな考え方もできますね。」
曇る顔に向けられる気遣いの言葉に少し胸が楽になる。貴族への交流の考えにほんの少し明らめたものを交えるのに今宵初めて柔らかく頬が緩むと実感する。
その後は、夜更けて尚、続く贅の極みを最後まで見届ける青年の姿があったことで。
ご案内:「王都マグメール 王城」からシドさんが去りました。