2015/10/17 のログ
ご案内:「とある王族の邸宅」にチェシャさんが現れました。
■チェシャ > この邸宅の主である王族は王位からも程遠い、壮年の男である。
血筋のみが高貴であり、その才は何にしても凡人程度。
うだつが上がらず、華やかなところもないお飾りの権力と財力と血筋がなければ何もできない肥満気味のぱっとしない男だ。
だからだろう、貴族の女を娶って妻にしてからもつい奴隷や娼婦、愛人を囲っては離れの邸宅で憂さ晴らしにと随分遊ぶのだ。
奥方との仲はとうに冷え切って、子供だっていい歳のはずなのにまだやめず。
性欲の対象は何も年若い娘に限ったことでなくて、見目麗しい少年だって構わないらしい。
おかげでチェシャの仕事はやりやすかった。少し色を含んだ目で視線を送ればすぐに買って(飼って)もらえた。
豪奢なランプのともしびが揺れる天蓋付の大きなベッドの中。
薄布のカーテンに二人の影がひしめき合っている。
横たわる男は件の王族。たるんだ肢体を投げ出して夢中になって相手のために腰を振る。
その脂肪ばかりの腹の上にまたがっているのがベルベットに似た髪を振り乱して喘ぐチェシャである。
細い体をのけぞらせ、声を殺して腰を揺らす。
■チェシャ > ぎしぎしと大きなベッドがきしみを上げる。
男が獣のような咆哮をあげてチェシャの腰をつかみ思い切り中を突き上げる。
のどをひきつらせ、悲鳴じみた声を口の端からこぼしそうになるがあえて食いしばり、押さえつける相手から反射的に逃れそうになるが我慢した。
己の中にどろどろとした熱いものを注がれる。男が達したとわかるとああ、と吐息をこぼしてぐったりと力を抜いた。
しばらく二人が余韻に浸り、ベッドの中で息を整える。
やがて下にいた男は疲労したのかあくびをして、チェシャを上から降ろす。
チェシャもまた、音もなくベッドから滑り降りると床に脱ぎ捨てていたシャツや下着を拾い上げてさっさと身に着けた。
股の間から潤滑剤だの精液だのがこぼれて気持ち悪かったので備え付けの薄紙やタオルで拭うのも忘れない。
お前はかわいいな、チェシャ。と男が満足してまどろむような声で呼びかける。
ランプの灯りにうっすらと照らされ、振り向いてチェシャは微笑を浮かべた。
褒められたのが嬉しいような、恥ずかしいようなそんなあいまいな笑み。
そうして衣服を整え終えたのち、ベッドの中の相手に振り向くと右手をひらひらとかざして見せた。
先ほどまで男に触れていた手が黒い手袋に覆われ、その上に白銀色の手甲がはめられている。
その爪先は鋭く、猫の爪のように伸びて尖っていた。
光にかざすと剣呑に輝くそれの先から、何かきらきらと光る糸のようなものがぴんと伸びていた。
■チェシャ > 男がぼんやりと頭を上げてチェシャが振る右手を見やる。
チェシャは相変わらず微笑んだまま、小首を傾げて男を見つめていた。
突然キリリとなにかがひきつれるような音がして、糸がきつく張り詰める気配が室内を覆う。
男が気づいて身を強張らせたが一瞬遅く、その太く弛んだ首や手足に何かが絡み付いて自由を封じた。
ベッドの上に引っ張り上げられ、貼り付けのように無様な姿をさらす男をチェシャは下から見上げた。
先ほどまで微笑んでいた表情は消え失せ、今は冷淡な目で男を見据える。
気道が縛り上げられて呼吸がしづらい男がうめくようにチェシャに怒鳴る。
これは一体どういうことか、と。
チェシャは答えない。ただ一つ、問いただした。
「九頭龍山脈にある金剛石の採掘場から採りだした宝石をどこに流した」
それはこの男が採掘権を握った鉱山であり、ミレー族をはじめ多くの奴隷を動員して掘り出した金剛石を他国に流していたことを示唆する問。
外貨を獲得してその金で個人的な武具や麻薬を獲得し、この国の紛争やごろつき達の諍いをあおって私腹を肥やしている証拠だった。
■チェシャ > 男は怒りと恐怖の入り混じった表情でチェシャを見下ろし知らないと喚いて首を振った。
そんなわけがないことをチェシャは知っている。
無表情に右の人差し指を一本立てると、ついと振り下ろす。
とたんに指の先につながっていた糸がきりりと締り、男の首を絞めにかかる。
魔術で編まれた鋼のような糸、チェシャが得意とする魔術の一つ。
硬度は自在に操れ、自身の意思をもって触れたものを切り刻むことも、縛り上げることもたやすい魔術鋼糸。
急速に絞められた首元に男が慌てふためいて金切り声をあげる。が、しゃべればそれだけ酸素が無くなる。
どんどんと青くなってゆく男の顔に、やりすぎたかとチェシャは一瞬糸を緩めた。
男は再び気道を確保して肺いっぱいに呼吸をした。豚のような必死の呼吸に思わずチェシャの眉根が苛立ちにゆがむ。
ついに男は根を上げた。自分の命惜しさに必死の形相でべらべらと宝石のルートを話し始める。
そのほとんどがこの国のならず者、傭兵やマフィア、あるいは魔族の手などにわたり、彼らの資金調達のために一役買っていることが明らかにされる。
仔細を寸分逃さず記憶し聞き留めると、ようやくチェシャは男を糸から解放した。
乱暴に床の上に落とすと、男はしたたかに尻を打ち付けてぎゃっと悲鳴を上げた。
■チェシャ > 「可愛がっていただきありがとうございました。
あなたの宝石は私が有用に活用いたします。」
は、とあざ笑うように恐怖に震える床の上の男を見下ろすと
チェシャは踵を返して寝室を後にしようとする。
が、ああと声を上げて男に振り向くと
「忘れてた」
そういって下げた右手をまた素早く振った。
指の先がきらきらと何かを投げかけひっぱる。
次の瞬間、男の丸出しだった性器と首がすっぱり切り落とされた。
恐怖にゆがんだ男の顔が悲鳴の形に口をゆがませるが
結局死に際でもその声は外に聞こえることも無かった。
血しぶきと死体が豪奢な絨毯の上にぶちまけられるとさすがに少し気分が悪くなる。
証拠となるものは手早く消して、チェシャはこの部屋を後にした。
音もなく暗がりの中へ飛び込むと足音も立てずに走り去る。
■チェシャ > 王族の邸宅なのだから人払いをしていたとはいえ多少の警備兵が見回りをしているのは当然だ。
影の中に身を潜め、視線をかいくぐりながら邸宅の中を逃走する。
とうとう外へ出られる城壁まで近づいたとき、複数の兵士の気配がして危うく見つかりそうになった。
さっと近くの植え込みに隠れたが、葉が揺れる音に気付いたのか兵士がランタンを掲げて植え込みへと歩み寄ってくる。
警戒した様子で木々の影を覗き込んだ相手の顔めがけて思い切り飛び出した。
わっとのけぞった兵士の顔に飛びついたのはベルベットに似た毛並みの黒い猫だ。
脅かした相手が尻もちをついたのをみて地面に足をつき、にゃあおと無垢な一声を残して走り去った。
猫一匹になにびびってんだと同僚がはやし立てるので尻もちをついた兵士は慌てて起き上がって悪態をつく。
でも確かに怪しい影を見たようなきがしたんだと一人つぶやくも、それをまともに取り合う相手もおらずそのうち兵士もそのことを意識から追い出して忘れた。
■チェシャ > 黒猫は悠々と邸宅内を走り抜け、ついに城壁の外へと到達する。
ここまでくれば安心だろう、暗い物陰に走り込み他人の視線がないことを確認するとその身をぶるぶると激しく震わせた。
一瞬のうちに四つん這いの姿で人の姿に変じたチェシャが現れる。
ふぅと一息つくと、膝を払って立ち上がり今しがた凶行を犯した部屋あたりを遠目に見つめる。
そろそろ侍女あたりが気にかけて男の死体を見つけるだろう。
ただその犯人と思しき男娼は決して見つからないだろう。
名前も姿かたちも幻術でごまかしていたし、男としても王族の立場であまり周囲に悟られたくはなかったのだろう。
かなり念入りに子飼いにしていたことを隠していたから捜査されようときっと難航するはずだ。
さて、聞き出した宝石の情報は死人にはもはや使い道がないだろう。
ありがたく主人とチェシャが利用させてもらうことにする。
いつの世も金はだいたいの自由を保障してくれるのだからあるにこしたことはない。
別に慈善事業でこうしたことをやっているのではないのだから、自分たちの懐に収めても構わないだろう。
安堵して主人のことを思い出したからだろうか、さっき男に散々なぶられた体がいやに熱くうずいた。
■チェシャ > はぁと嫌に熱っぽい吐息をこぼす。呆れ半分と主人を思い焦れる溜息。
淫らなことは嫌いだ。特に女の乱れる様は醜悪に尽きる。
そしてそれが自分の体にも存在していることにほとほと嫌になる。
セックスをする姿は弱くて醜くて愚かしい。
弱いところを見せあうのが耐え難く許せないのだ。
そしてなにより焦がれる主人に自分の弱いところを見せることが怖い。
だが、これは必要なことなのだ。生まれてこの方、チェシャにこの用途以外の使われ方はされてこなかったのだから。
ああ、きもちわるい。そうは思うものの吐くほどの何かも出てこず、軽く背を曲げただけですぐさま顔を上げた。
その表情にはいつもの冷徹さだけがのっており、そうして身をひるがえすと富裕層の家々が立ち並ぶ街並みの影に溶けて消えて行った。
ご案内:「とある王族の邸宅」からチェシャさんが去りました。