2020/07/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/カフェ」にルシュ・アシドさんが現れました。
■ルシュ・アシド > 午後の日差しが和らいだ頃、微睡むような薄曇りの空を、いくつかの鳥影が駆けていく。
水色の瞳でそれを見上げていた男は、静かに正面へ向き直ると、
テーブルに置き去られたカップを手に取り、温くなった紅茶を飲み切った。
通りに面したカフェのテラス席は程よい喧噪に包まれている。
本来ならばこの店で顧客と落ち合うはずだったが、つい先だって駆け込んできた先方の従者から、
主が体調を崩したため、今日の約束は取り消して欲しい――という旨を伝えられたばかりである。
「さて、どうしましょうか……」
言伝からは、商談自体には未だ前向きであろうことが伺える。
悩ましいのは、このぽっかりと空いた時間をどう使うか、という点だった。
しばらく忙しい日が続いたことを思えば、このままこの店でのんびりと余暇を過ごしてもいいのだが――
予定は決めかねたまま、ひとまず新しい飲み物を頼もうと、男は店員に向けて穏やかに声を掛けた。
■ルシュ・アシド > 新しく運ばれた紅茶を口にすると、淡いフルーツのフレーバーが鼻腔を通り抜け、
ふっと肩の力が抜ける思いがした。
男は一度目を閉じ、ゆっくりとまぶたを持ち上げる。
柔い陽光をたたえた薄浅葱の瞳は今、静謐な決意を乗せていた。
「……潮時ですかね」
形の良い唇から、ずっと胸中にあった問いが滑り落ちる。
それは単に店を出る機を指したもののようにも、もっと大きな何かへの諦めにも聞こえた。
ここに自分の居場所はない。そういうことなのだろう。
男は立ち上がり、店員に紅茶代とチップとを手渡すと、荷物をまとめて出口へと向かう。
「ご馳走様でした。――さようなら」
小気味いい靴音を響かせながら、男は雑踏の中へと消えて行った。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/カフェ」からルシュ・アシドさんが去りました。