2020/05/17 のログ
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > そうして、少年の休日らしからぬ休日は過ぎていく――
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 カフェテリア」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/貴族邸の庭園」にルシュ・アシドさんが現れました。
■ルシュ・アシド > さる貴族の邸宅にて、今宵も煌びやかな宴が催されていた。
楽士の奏でる軽やかな音色に合わせ、貴婦人や令嬢たちは自慢のドレスを翻している。
色彩豊かな人波を縫って広間から抜け出し、館を囲む広大な庭園に身を隠すと、
男は濡羽色の長い髪を静かにかき上げた。
「まったく、息が詰まる……」
館の主人に誘われ、貴族たちに顔を売るつもりで参加した夜会だったが、
彼らの会話と言えば馬鹿馬鹿しい自慢と腹の探り合いばかりで、
付き合い切れず適当なことを言って中座した――という訳だ。
熱気にあてられた薄褐色の肌に、冷えた夜気が心地良い。
■ルシュ・アシド > 己の背丈よりも高い生垣で作られた、迷路のような庭園を進む。
赤、白、黄色、ピンク――色ごとに分けられたバラを追いかけるように小道を辿ると、
やがて青バラのみが集められた小さな植え込みを見つけた。
水やりの名残だろうか、花びらの上で丸い雫が小さく震えているのがわかる。
柔らかな花弁を軽く指先で撫でてみると、
透明な雫はくぼみへと滑り落ち、やがて地面へと零れて行った。
――誰かの涙のようだ。そう思うと、何の変哲もないバラがやけに愛しく思える。
「……この家で一番価値があるのは、あなた方でしょうね」
男はぽつりとそんな言葉をつぶやき、晴れた空の色をした花弁に小さく笑いかけた。
■ルシュ・アシド > 口元の寂しさから胸ポケットに手を入れたはよかったが、
美しい花々の手前、紫煙を燻らすには少々気が引けた。
足は自然と相応しい場へと向かい始める。
春の夜風が男の余韻を優しくかき消した。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/貴族邸の庭園」からルシュ・アシドさんが去りました。