2018/11/17 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にホウセンさんが現れました。
■ホウセン > 貧民地区から一歩も足を踏み出していない住人が目にしたら、何の用途の建物なのか看破するのは難しいかもしれない。
大きく、ひたすらに大きく、そして小奇麗。
所々、何かの意匠と思しき彫り物がされている石造りの建造物。
小さな妖仙は、今宵その中で時間を潰していた。
主に、観劇によって。
その建物は劇場だった。
「歌い手は…まぁ、及第点じゃな。
それよりも、音響の方に難があるが、手配が漫ろなのかもしれぬのぅ。」
自らが望んだ訳ではなく、取引のある貴族のお供として借り出された身。
出身が異国とて、そう短くない期間を王国で過ごしているお陰で、文化に対する一応の教養というものは身に付けている。
時には、子供の見目ながらに賢しいことを囀るものだから、そこに興をそそられてしまう輩に連れ回されもする。
無事に舞台は跳ねて、貴族はパトロンとして役者の楽屋に足を運んでおり、己もそろそろ出ようかという頃合。
客席を離れ、劇場の入り口近くに歩み進むも、一斉に外に出ようとする人だかりは決して小規模なものではない。
馬車の到着を待っている貴族の列なども見えるし、その脇を抜けて徒歩で街に繰り出そうかと小首を傾げる。
■ホウセン > いつかの時代の何処かの誰かが、”悪魔は芸術を解さない”という話をしていたらしいが、少なくとも妖仙は理解もしているし愛でもする。
例え、悪魔と同列に扱われても甘受せねばならぬロクデナシであってもだ。
歌劇の余韻が残っている折に、ちょこまかと人と人の隙間を縫って這い出るのも勿体無い。
そんな悠長な考えをしているようで、只でさえ狭い歩幅で進みが遅いのに、歩調ものんびりとさせたものだから、概ね最後列で人が掃けるのを待っている風。
「手持ち無沙汰なのは致し方なかろうが、此処で一服する訳にもいかんしのぅ。」
視線を足元に落とす。
雪駄の下には、フカフカとした橙の絨毯が敷かれており、如何に紫煙をくゆらせる手捌きが軽妙だろうが、劇場の人間から制止されるだろう。
せめて、咥え煙管でもできれば気が紛れるかも知れないが、そもそもがご法度の公算が大きい。
故に、何の気なしに人ごみの方へ視線を遣って、見知った顔が一つや二つ転がっていないかと、緊張感のない様子でサラリと眺める。
羽振りの良い商人やら、金を溜め込んでいる貴族やら。
大口の納品先である騎士団やら、護衛の斡旋を依頼する冒険者ギルドやら。
顔は広いが、果たしてその内のどれだけが芸術鑑賞なるものに興味を示す輩かは、妖仙を以ってしても分かりかねてしまうけれど。