2018/09/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区医療施設」にディールさんが現れました。
ディール > 医者としてメスを揮うのは稀だ。
魔法や魔術といった便利な物が有り、それを医療に活かせるのであれば尚更の話。
なので医者とはいいつつ、実際には魔力を回し、患者の体力を増す事。
或いは体力、生命力を活性化させて傷を塞ぐといった簡潔な処置を取る事も多い。
なので入院患者と言うのは余程の事がなければこちらの医院では引き取らない事にしている。
自分1人で経営、運営をしているのもあるが。【己の趣味】の障害になる場合もある為だった。

院内は元々マッサージ等をメインとしていた事もあり、ベッドの数も少ない。
その1つのベッドに今、人型をしたナニカが横たえられていた。
人間――ではないナニカ。外見は人間だが。決定的に違うのは瞳が無い。
皮膚が枯れ果てた樹皮のように変色し、硬く、何より水気を、生気を含んでいない。

もっとも死体と言う訳でもなく、どこかしら甘く感じる香りがこの室内。入り口から入り直ぐの部屋には満たされていた。
その部屋のベッドの隣に立つ己の姿。手のひらをベッドの上、ナニカの頭上に掲げ。歪められた魔力をゆっくりと注ぎ込んでいる。
緑色の魔力かと思えば、次には水色。茜色、と。
幾つかの魔力を流し込む事でそのナニカの身体を満たしていくのは魔族として。そしてこれまで取り込んできた様々な種族の能力、魔力の一端。

非合法な、人造…否、魔造の魔族の作成が秘密裏に行なわれていた。

ディール > 素材には人の体も当然だが。幾つか低級な魔獣等も用いている。
繋ぎ合わせ、封じ込め、折り重ね。
肉は鋼の硬さに人肌の弾力。体力は魔獣の其れとは別に骨組みに疲労軽減、体力回復強化。
そういった持続的に動き回る事に特化した刻印を施してある。

緑色の魔力は血液の様に骨組に流し込まれ、刻印を回し機能を始める。
体力の回復は体内細胞の再生を促し、水色の自分の魔力が擬似的な生命力を生み出し、肉が水気を。生気を取り戻し、回復の刻印に従う様にして膨脹・再生をされていく。
内側から風船を膨らませて行くように、ベッドの上で薄い布を被せられた肢体は脹らみ、そして布から露出している頭部と顔。
それらにも生気が漲る――。

茜色の魔力が最後に魔力で。魔術で造られた心臓。炉心に流され、擬似血液の様に魔力が巡回をし始める。
皮膚の人間とは思えない様相が、多少色合いが黒ずみながらも、人のソレとほぼ変わらない形状、性質を取り戻していく――。

先日王城の魔術、固定術式について学んだ知識を踏まえ、擬似的だが生命力を生み出すその炉心を固定。
魔力の精製機能をも同時に固定させていく。
――この場を他者に見られれば、それだけで己の貴族としての地位すら危うい魔族の造成。
それでも行なう理由は幾つかあるが――ここまでは概ね順調に進んでいる。

ディール > 当然ながら院内の照明は落とされている。
それでも力を増した現状、特に灯りを必要とはしていない。
何より魔力其の物が薄く発光しているのだ。暗視の力がなくとも視界に困ることは無かった。

骨組み。肉。魔造心臓。これらが安定作動をし始めた後、王都――ではなく。遺跡に解き放つ腹積もりだった。
冒険者の類。力を持ち、見目も良い者が数多くいる冒険者。
或いは騎士や傭兵といった存在を捕らえる為に。
そして性能テストも兼ねて、だ。逐一行動の記録や映像等は此方に送られる様に――瞳の無い窪んだ穴に、水晶球を嵌め込んで行く。
鈍い輝きを帯びたそれが作動した後。簡単な命令を出した。
【遺跡に赴き別命有るまで待機】と。

ベースが人間の為に2本足で立ち上がるその擬似生命体。
筋肉は異様なまでに膨脹し――魔獣の体力と敏捷性を兼ね備えたその動きで院内の裏口より静かに王都を旅立っていくのだろう。
問題が有るとすれば――全裸であり。運が無ければ警備兵等に取り押さえられる危険性があるといった事か。

「1体造るのにこれは、大分コストが掛かるな。召喚した方が面倒が省ける。」

煙管を口に。先ほどまでナニカが横たわっていたベッドを見つめながら煙をゆっくりと吐き出していく。
コスト、とは。文字通り使ったゴルドと、自分の魔力の使用量。
それらを総合しての評価だった。手元においておくには不恰好すぎて護衛といっても信用されまい。
かといってせっかく得た知識、能力。1度は使ってみたいと言う子供染みた思いもあって作成したが――。

「天井裏に護衛として忍ばせるくらいならアリか。
 後はアレが首尾よく冒険者なり研究素材を捕らえて来るなら追々回収も出来るだろう。」

煙管に含まれる薬物。違法な物だが魔族の己とは相性がいい。
頭が冴え渡り、魔力の消費による疲労感を軽減してくれる――。一つ、二つ。
煙を吸い込んだ後で指を鳴らし、院内に灯りが戻っていく。
さて、患者が来るかは知らぬがもう少しだけ病院は開いておくとしよう。

ディール > 客が来ないならば先ほど遺跡に向わせた魔族――魔物の様子でも見ているとしよう。
眼球代わりの水晶から届けられる映像から無事に王都から抜け出した様だ。
知能という点ではまだ改善の余地はあるが体力、耐久力といったフィジカル面の方は悪くない。

壁をスクリーンに見立てた様に展開される映像では木々の間をすり抜ける様に走りぬけている姿が見えている。
途中山賊の類に遭遇している様だが――並みの人間程度では追いつけない速度を維持し続けている。
自壊しない速度を維持し続け、邪魔さえ入らないなら遺跡には1両日中には到着するか。

満足そうに煙を一つ。
――其の侭しばしの時間を椅子に深く腰を下ろし、煙の香りを。味を楽しむ様に煙管を燻らせている――。

ディール > やがて休息は僅かなまどろみを帯びてくる。
瞼が重くなり――うつら、うつら。男にしては珍しくも無防備に眠る姿を曝け出すまで時間は必要なかった。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区医療施設」からディールさんが去りました。