2018/09/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 / 街路」にユールさんが現れました。
■ユール > (酷い雨が降っていた。
朝方からもずっと降り続いてたものの。登城していたその間に、すっかりやんでくれたようだからと。
油断して帰ろうとしたのが失敗だったらしく。
馬車を辞して散歩がてらに歩いていた途中、不意の大降りに出会して。
大慌てで駆け込んだのは。とっくに閉店済みらしい店舗の軒先。其処から、一気に雨雲が勢力を回復した夜空を見上げて。)
「 ―――― っく しゅ 」
(小さくくしゃみが漏れた。ふるり。思わず肩を抱いて身震いしてしまう。
軒先に入るまでの間だけで、割と濡れてしまった身体が。昼間上がりきらなかった気温のせいで冷えだしているらしい。
雨を浴びて淡く透けた背筋を、普段以上に丸めるようにしながら。
やみそうにない雨空を諦めて、地上へと視線を戻す。
…誰か。ご近所さんと呼べる貴族だとか。この辺りに店を構える人だとか。
馬車や、せめて傘を持っている誰か。通り掛かってくれはしないかと。)
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 / 街路」にムウィンダジさんが現れました。
■ムウィンダジ > (遠雷が落ちた。否、それは遠雷の如き轟音、破砕音。或いは、地を揺るがす雄叫び。遠くで魔導兵器の事件の応対に追われ守りが薄くなったとある詰所が謎の獣に襲撃を受け、兵を翻弄し何かを探すように散々暴れ回った挙句逃走した獣が街中へ、富裕地区へと逃げ去ったという情報が広まるのはまだ先の事。雨足が強くなり、閉店時間なのかそれともこの雨が嵐と変われば客など来ないからと、とうに戸締りをしたのかもしれないが何れにせよ人気が無い軒先にて一人曇天を見上げる相手の視界の先、空を横切る赤き影。屋根から屋根へと跳び回りし影は瞬く星でもなければ蛍光でもなく、獣の赤。一度は通り過ぎかけたその影はだがしかし、次の屋根へ移る前に一度立ち止まり、のそりと振り返り反転。雨で匂いが大分消えているが、芳しい雌の香。そして――弾ッ、と濡れた道路に巨大な人型、されど人非ざる獣が降り立つ。人間では有り得ぬ程発達した両腕は片腕だけで相手の華奢な腰よりも遥かに太く、全身を覆う赤には異なる赤が雨に湿れども彩られている。ぬう、と両腕を立てて着地姿勢から体を起こせば、力強い野獣の眼光が闇夜を切り裂き深緑の光で相手を睨み据え。)
――……うほ。ん・ほ、ほ?
(獣、猿でもなく、人でもない狩人は相手をじっと睨んだ後襲い掛かる事はなく、一度ちらりと近くの魔力で明かりを灯す背の高い外灯へ目をやればそちらへ移動。めり、と枯れた木の枝を手折るが如く容易さで金属で作られたそれを引き抜き、飴のように捩り形をぐにゃりと曲げてから相手の許へ戻り。相手を見下しながらそっと差し出す。怯えず、よく観察したらそれは即席の不出来な傘に見えなくもないか。)
■ユール > (びくん。思わず震えてしまう大音響。さながら雷を思わせて、実際、そうだとしか思えなかった。
雷光の瞬きは。…多分空から地上へと目を落としたタイミングで。見落としたのだろう、そう考える。
おそるおそる。もう一度、雨に煙る頭上を見上げてみたところで。
ぱちり。瞬いて。訝しげに眉根を寄せる。…暗い暗い空の下。確かに、何かが其処に居た。…有った、ではなくて。居た、だと。
即ち生きた何かだと確実に言えるのは。それが動いていたからであり。身体が有り、手脚が有り、頭も有る…人の形に見えたから。
ただ、この雨中で屋根の上を、軽業の如く飛び跳ねる器用な姿が。…距離を考えれば、縮尺的に、どう考えてもおかしいという事に。
気が付いたその時には。もう。炎が躍るようにすら見える、その紅い…紅い人型をした影は。此方へと跳んでいて…。)
「 っ っ …!? 」
(へたん。その場に座り込んでいた。先程のようなけたたましい音を立てて、眼前に着地したその影は。少女より幾回りも大きくて。
高いだけではない、横にも広く厚い、肉の強さのみで出来上がっているようで。
全身を彩った紅は、服でも何でもなく、影の身体その物で。
何より…どうあっても見上げるしかない、高い高い位置にある頭は。あきらかに、人のそれとは掛け離れていた。
何を言う事も出来ずに、ぱくぱく、唇が虚しく開かれては閉じて。混乱する頭が、少しでも、事態を理解しようと考えるのは…
つい近頃に有った、魔族の国との戦い。すわ人外の存在達が、夜の闇と嵐に乗じて、王都に逆襲を掛けにでも来たのかと。
でも。その獣のような存在が差し出したのは、血に塗れた凶器でも、怨嗟を纏った呪具でも、戦利品めかされた誰かでもなくて。
…棒きれのようにへし折られたのが、重い鋳物の固まりである事実にさえ、目を瞑る事が出来たなら。
雨を防ぐ、傘の形を思わせた。
ぱちり、ぱちりと。腰を抜かして座り込んだまま、何度も瞬きを繰り返して。)
「 これ。 …お貸し して いただけるんです か…? 」
■ムウィンダジ > うほ!ほ・うほ、ほほっ!
(天と呼ぶには近すぎる高さから地へ降り立ったのは暴力、強さ、雄、野性、単純な言葉だがそれ故に誤解しようの無い種族を越えたある種超然とした力の体現者。種族を越え、住まいが変わり、『敵』が居るであろう人工物の不快な匂いが満ちた街であろうとも身に宿す力、狩人としての矜持、強者の自負がある限り在り方が揺らぐ事はない。己にとっては武器に頼らねば肉を裂く事も骨を砕く事もできない人の追手を振り切るのも、鉄をへし曲げて加工するのも造作ない。身体を打つ大雨では己が体を衝き動かす熱を冷ます事等できはしない。だが、目の前にいるか弱い雌はそうではないのであろう。一目見た印象は、非力、弱者。可憐で儚い美しい花が、作り物の街に咲いていた。しかし何度か人と遭遇し、喪った故郷では己を狩人として畏敬の念で接する人間はいたが遭って未知のそれへの反応を示す事は無かったのだが此処ではそうではなく、己のような獣と此処で会うのはまず有り得ないらしい。まるで悪食の巨鬼にでも出会ったかのような、大地の賢者とでも遭ったかの如き驚愕の反応ばかりであったから、何となく察してはいた。だから弱き雌が己を見ただけで腰を抜かしてしまうのも、声を失い混乱するのも納得ができた。その為なるべく驚かせないよう静かに雨を凌ぐ物を寄越したのだが、どうやら意図は伝わったらしい。に、と歯茎を剥き出しにし、肯定の声をあげる。最近になってこの国へと敵を追って辿り着いた身であるから、相手が懸念していた人間と魔族の争いに関しては知る由はなかった。森の狩人であり、故郷を焼いたのは人であったが、種族という種族全てが悪い訳ではないと獣は知っていた。それをすれば、生態系が狂う。人も作り物に囲まれ、自然から離れて忘れているのかもしれないが自然の一部。あくまで報いを受けさせるべきは敵なのだ。ましてや狩人とは殺戮者に非ず、悪戯に力を振るい命を奪う簒奪者であっても成らず。日々の糧以外の殺生を好まぬ獣は、無垢なる弱者を庇護の対象であると認識し、相手が傘に持つには相当重量があると相手の細腕を見て気付けば根元を掴み。ぶぢん、と粘土にように引き千切り、要らぬ箇所は濡れた地面に投げ捨て相手に改めて短くなった傘もどきを差出して。一応、相手が使い方が分からない可能性も考慮し自分が入るには狭く小さいそれを頭上に掲げて雨を防ぐ道具になると用途を実践してみて。だが、それでも相手が持てぬならば、何処か濡れぬ場所へ相手を避難させるべきであろうと太い首を動かし周囲を見渡して。)
■ユール > 「 ……そぅ ですか そう なんですね はい …ありがとう ございます 」
(どうやら。交わせる言葉は存在しないようだった。少なくとも、牙を剥き出す分厚い唇が、人の言葉を発するのに、適しているようには見えなかった。
それでも。差し出された物が、傘を思わせたから。そして、実際に傘として、頭上に掲げて見せてくれるから。彼の者の意図は、いっそ言葉よりも遙かに解り易く、少女には伝わって。
おそるおそる、という仕草は変わらないものの。未だにへたり込んだままではあるものの。そっと片手を、改めて差し出された傘に伸ばしてみる。
短く千切り直された柄に触れた時。冷たい金属だけでなく、それを握った彼の者の指先にも、手は触れて。
其処に在るのは、見た目以上に堅い肉の質感と。雨など容易に弾くのだろう、密集した毛の頑丈さと。…後は、同じ生物だという、温度。
誰かの温もりという物を、良く知っていたから。彼の者も、体温というそれを宿した存在である事を。きちんと、確信する事が出来た。
何度見ても、人間とは違う。それこそ、出遭う事もないまま、延々怖い話として聞かされて育った、魔物という物に抱くイメージ。
そちらの方がずっと強い。…明らかに、怖い、とばかり感じる異形である事は変わらない。
ただ、生きている実感と、理解し合おうとしている…気がする事と。それが背中を押したように。
伝わるか分からない、お礼の言葉を口にしながら。作りたての傘を握り込んで…)
「 っきゃ ぅ …!? っご …ごめん なさ …ぃ …… 」
(それでも、当然。鋳物で出来た傘は、少女にとっては…というより、余程屈強な大の男でもなければ、重すぎる物。
がらん。濡れた石畳に傘の先端が落ち、重たい音をたてる。決して手放しはしなかったものの、腕など当然引っ張られて、持って行かれ。
危うく爪先を下敷きにされかけ、脚を引っ込めながら、小さな悲鳴。
…目を伏せて、首を振り、ますます小さく零した謝意の言葉は。少女としては珍しく…
怒られるから、怖いから、というよりは。唯々純粋に、折角の行為を、受け止め切れない事に対してだった。)
■ムウィンダジ > ほっ!?うぅぅ……ほ。――う。うほほ、ほほうほ。
(一方、獣で人語を操れない己はというとある程度ではあるが人と接していた事があったのと、この国にて書物等を解読し一定の人語を理解しているのだから奇妙なものである。無論、表情や目などで判断している部分も多いのだが。何とか意図が無事に伝わったらしく、腰が抜けたままで大丈夫なのか妖しいが華奢な手が差し出されてはその手にちゃんと握るんだと言わんばかりに大きく、分厚く、力強い手で相手の手を上から包む形で握らせて。それは子供に教えるのにも似た過保護な仕草であった。触れた指先が、手があまりにも小さく、薄く、己がほんの少し力を篭めただけで果実のように潰れそうだからと慎重に恐る恐ると握らせているのが分かるであろうか。だが、自分が想像しているより目の前の雌は弱かった。というより、雄だからといって持つのは難しい重量物なのだがそこまでは知らず、ちゃんと掴んでいたのか怪しい程己が手を離した途端ずどんっ、と千切れた鉄の切っ先を床に落としてしまえば目を丸くし鋭い声をあげ驚き、相手は無事かと地面に刺さった傘もどきを片手で軽く引き抜き傍へ置き、両腕を地面に着き上半身を傾けて伏せ、相手の足を近くで覗き観察。ほ、と分厚い胸板を上下させ大きく息を吐き、安堵する。これは駄目だ、目の前の雌はあまりに力が弱い。きっとろくな食生活もしていないに違いない。これだけ弱ければ狩りもできないであろうからだ。そう森住まいの基準で考察すれば、このまま弱者を放っておくのは強者として許されず、相手が拒まなければ鋳造された物を容易く曲げては千切る掌が相手へ伸び、既に己も濡れてはいるが直接当たるよりはましだろうと片手で胸元に抱き抱え、何処かこの雌が雨を凌ぐのにもっと適した場所を探そうと。もし第三者がいれば魔獣のような何かが人間を拉致する犯行現場に他ならぬのだが。)
■ユール > (悲しいかな、やはり言葉という物は。言葉同士でしか伝わりにくい部分が有る。少なくとも、自分の言葉がある程度伝わっているらしい事が、彼の者の反応から察せるものの。
逆に少女の方は、動作と行動以上の所から、彼の者の意図を測る事は出来無いままだった。
…これで。何かの拍子に彼の者の過去を。異種交流の機会が存在していた事を。剰え音声にはならずとも、文字としての人語は知っているのだと。
そういった事実を知る事が出来たなら。一体どんな表情をした事やら。
とはいえ残念ながら。今はそんな機会も得られないまま。おっかなびっくりのファーストコンタクトが続いていた。
差し出された傘は。やはり、少女には重すぎて。…というより、普通の人間が見たのなら。傘型をした鈍器だとしか思わないだろう。
何せ、落ちた先で傘を模したその先端は、石畳に罅を入れてしまっているのだから。
これだけの重量物を、軽々とねじ切って振り回す剛力と。同時に、一切を潰さずに包み込むような、優しげな手付きと。
矛盾した二つを両立させて、意図的に使い分ける素振りは。明確な知性と。…それ以上に、意思の存在を確信させる。
考えてみれば。魔族というのは、恐ろしい異形だと、人を取って喰らいすらすると、聞かされているものの。
仮にも国家という物を形成する程の、知性を持ち、人格を持ち、存在によっては人よりも遙かに優れているというのだから。
きっと彼の者もそうなのだと、納得する事にした。…人外イコール魔族か、昨今噂の魔導機械くらいしか思いつけないので。未だ微妙に勘違いしたままではあるものの。)
「 ほんとうに ごめん なさい。 わたし 特に 力は 無い の …で …? 」
(ひょいと、座り込んだ身体が浮き上がった。きっと、その傘よりも軽い少女の身体は。彼の者にとっては、片手で容易に扱える代物で。
驚く間もなく、堅いが温かな獣毛の中に、すっかり包み込まれていた。…抱き抱えられていると、ようやく理解出来た、その次の瞬間には。
地を蹴る轟音、そして強烈な浮遊感。雨の飛沫すら置き去りにする、速度に見合った強い風に吹き曝されて。)
「 ~~~~~~~ …!! 」
(少女にはらしからず、はっきりと上げてしまった悲鳴は。瞬く間に、豪雨に。そして闇に飲み込まれる。
確かにそれは、端から見れば。紛れもない拐かし。仮に目撃した者が居たのなら、きっと大騒ぎになる筈で。
ただ、少女が二度と戻らない、という事はないだろう。ただし、暫くの後保護されたとしても。何が有ったか、何をしたかされたかには、きっと口を噤んだままになる。
…街の。国の。多くの人達が、恐るべき魔獣が現れた、と騒ぎ立てるのだとしても。
少女だけは、彼の者の温もりを、きちんと覚えているのだから………)
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 / 街路」からユールさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 / 街路」からムウィンダジさんが去りました。