2018/05/02 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/教会」にフェイレンさんが現れました。
■フェイレン > 豪奢な街並みが黄昏色に染まる頃。
幼少の際、両親と何度か通った小さな教会へ足を運んでみると、思い出の場所は面影を残しつつも様変わりしてしまっていた。
石造りの壁はあちこちに穴が空き、大きな亀裂がいくつも入っている上、
屋根は半分ほど崩れ、祭壇から転がり落ちた天使の像は長椅子の群れに頭から倒れ込んでいる。
何より無惨なのはステンドグラスだ。狙いすましたようにすべての窓が叩き割られ、
様々な色のガラスがあたりに飛び散っていた。
数か月前に起きた奴隷主体の暴動により、見せしめとして破壊されたとは聞いていたが、
こうして己の目で確かめると何故だか心がざわついて、礼拝堂の真ん中で立ち止まったまま男は軽く拳を握った。
■フェイレン > 床に散らばる残骸を踏まぬよう礼拝堂を通り抜け、裏庭へ続く戸をくぐる。
扉の先にはまばらに伸びた芝生が広がり、そのうちレンガに囲まれた一画には、
小さな花々が寄り添うように植えてあった。
――見覚えのある花だ。そう思い、屈んで顔を近づける。
丸い花弁五つでひとつの花冠を作るその花は、満開の状態であっても青年の爪よりずっと小さかった。
すべて品種は同じらしく、花の中央が黄色いことは共通しているが、
花弁の色は白、青、青紫と、バリエーションに富んでいる。
植物を愛でる趣味はないが、この花の名には覚えがあった。確か――。
「勿忘草……」
そう呼ぶ母の美しい声が思い出され、儚い花弁を指でそっとなぞる。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/教会」に紅月/コウゲツさんが現れました。
■紅月/コウゲツ > ーーーかつ、かつ、きらり。
偶然この街に辿り着いて、早数日…
貧民街と平民街はザックリと見て回った故、今日はここだと富裕層のエリアを散策していたのだが…案の定、道に迷い。
夜になったら屋根を跳んで帰ればいいかと、懲りずにお散歩を続けていたのだが。
「…随分と、酷い有り様だねぇ」
たまたま気になって足を踏み入れた廃教会。
天井は崩落し、きっと美しかったであろうステンドグラスは粉々に…長椅子には蹴られたような靴跡や、どうしてそうなったのか天使の像は倒れ伏している。
…なんとも、惨い。
東の果て、多神教の国から来た自分にとっては天使もまた、白蛇なんかと同じ神に仕える神仕…これは、あまりにいただけない。
「…よ…ック、流石にこのデカさは…っと……」
折角の怪力持ち、生かさない手はなかろう。
とりあえず祭壇に鉄扇と封魔の腕輪を幾つか置かせてもらい、天使の像を在るべき場所へと戻す。
…どん、と、大きな音が鳴った。
「うんうん、教会っつったらこうでなきゃあ…ついでに、祈りでも捧げてみるかねぇ」
もう祈られる事も無くなるのだろう偶像への、それは憐れみだったのかもしれない。
床に膝をついて、指を組み、祈る。
…風が、ふわりと髪を巻き上げて。
黄昏の穏やかな光が紅の髪を照らし、きらきらと踊らせた。
■フェイレン > ふと礼拝堂の方から大きな物音が聞こえ、青年はすぐさま立ち上がった。
このような姿となった教会に誰かが訪れるとすれば、
自分のように懐しさにつられて足を踏み入れた者か、敬虔な信者か、視察に訪れた役人か。
或いは――考え得る中で一番厄介なのは、賊が根城にするためにやってくる場合だ。
音を立てぬよう慎重に扉に近づき、中を覗く。
すると、目に飛び込んできた光景はあまりに意外なものだった。
長身の人影がその身ひとつで倒れた天使像を起こし、元あった祭壇の奥へと立てかけている。
さらに信じられないことに――女だ。緋色の髪をした、異国風の。
いくら長身と言えどその細腕に似つかわしくない怪力を見て、もしや魔の類かと思ったが、
そうであればあのように洗練された所作で祈りを捧げるような真似はしないだろう。
割れた窓辺から差し込む夕陽が彼女の赤い髪を一層輝かせ、美しい光の粒子を散らしていた。
彼女の祈りが終わるのを待ってから、青年はそちらへと歩み寄る。
「……もう一度祈ってくれないか」
出会い頭に掛ける言葉にしては随分おかしなものだが、本人は至って真面目だった。
血で穢れたこの手では神に祈ることもままならない。
居合わせた相手が慈しみ深い心を持つなら、その優しさに乗じようと思った。
「……俺の分まで。――頼む」