2018/04/13 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/小さな広場」にジルヴァラさんが現れました。
■ジルヴァラ > 石畳が敷き詰められただけの小さな広場の片隅で、古びた街灯と木製のベンチがひとつの番のように寄り添っている。
富裕層の暮らす区画にしては寂れた雰囲気だが、ここから少し歩けば華やかな大通りがいくらでもあるものだから、
派手好きの住民たちが皆こぞってそちらへと足を運ぶおかげで、広場に先客の姿は無かった。
どかりとベンチに腰掛けると、男の口から無意識にため息が漏れていた。
仕事上の――正確には遺跡探索における出資者からの招待とはいえ、貴族の夜会に自分のような男が出席するのは気が引ける。
このまま邸宅へ向かうべきか、何か理由をつけて帰ってしまおうか。
そう思いを巡らせながらシャツの襟元を指で探ると、肌触りの良すぎるシルクの感触がかえって薄気味悪かった。
うんざりしながら銀のボタンを二つ三つ、乱暴な手つきで外していく。
■ジルヴァラ > 襟元に余裕が生まれると、解放された喜びを示すように尖った喉仏がごろりと蠢いた。
シャツを包む高級感のあるベスト、銀糸の刺繍が贅沢に施されたジャケット。
見てくれこそ貴族風であったが、顔には刃物で切り付けられた古傷が刻まれており、
瞳は海への情熱をそのまま閉じ込めたように青く、隠し切れない野心と慣れない衣装への嫌悪によって、あたりを睨みつけるような鋭い光を放っている。
他人が見れば、富裕地区に似つかわしくない者であることは容易にわかってしまうかもしれない。
どこからか聞こえる遠い喧騒は、貴婦人たちのお喋りだろうか。
腰を下ろしたまま宵の空へ向かって深く嘆息すると、吐いた息の代わりに冷たい夜気が肺を満たして心地いい。
■ジルヴァラ > 不意に軽やかなピアノの音色が風に運ばれて耳に届いた。
どこかの屋敷で今まさに舞踏会が始まったのだろう。
滑らかな鍵盤の音に、遅れてバイオリンの歌声が重なり始める。
優雅に溶け合うメロディが鬱屈とした男の心をくすぐり、重たい腰を引き上げさせた。
「――行くか」
立ち上がり軽く衣服を整えてからそう言うと、男は向かうべき相手の邸宅へと歩を進めるのだった。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/小さな広場」からジルヴァラさんが去りました。