2017/12/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/邸宅街付近」にリュシーさんが現れました。
リュシー > (実家へ戻って以来―――というか、連れ戻されて以来、疲れることばかりが増えた。
今宵もまた、もとの姿であった頃さえ、名前も知らなかったどこぞの貴族に引き合わされるべく、
音楽堂で一緒に歌劇鑑賞とやらを強いられたあとである。

終始仏頂面で精神的苦痛でしかない時間を堪え、終わればすぐに、
馬車へ押し込められて実家へと―――――
運ばれるはずだったが、途中でとうとう頭のどこかがぷつりと切れた。

さいわい、もう実家までは女の足で歩いてもさほどの距離ではない。
少し風に当たりながら、歩いて帰る、と主張して、なかば強引に馬車を降りた。
ドレスのうえからマントを羽織っても、夜更けの風は冷たく肌を刺すけれど、
―――いっそ、その寒さが心地よいほどだ、なんて。
点在する街路灯のひとつ、足許でふと立ち止まると、知らず小さな溜め息が零れ)

………疲れちゃう、なぁ、これ。

(再度の出奔を試みるには、どうにも体調がととのわない。
身体が今の状態に慣れるまでは、と、仕方なく大人しくしているけれど、
そろそろ、いろいろな意味で限界、のような気がしていた。)

ご案内:「王都マグメール 富裕地区/邸宅街付近」にギャミーさんが現れました。
ギャミー > 少女が歩む先、四つ辻の中心で小柄な銀髪が立っている。
月明かりの下に佇むそれは、男か女かもあやふやだ。

目が合えば、小さく手を振る。
興味深げな視線。

「家出かなぁ」

正体定かならぬ者が、眠たげな微笑みで、そう声をかける。

リュシー > (いつまで立ち止まっていても仕方ない、と俯いていた視線をあげると、
前方に先刻まではなかった人影が見えた。
月明かりを浴びて煌めく銀色が際立つけれど、ずいぶんと小柄な。
たぶん、身の丈は己と大差ない、と思われる。

手を振られたので、反射的にひらひらと、己も振り返してしまってから。
はて、見知った顔だったろうか、と、首を傾げる頭のゆるさ。)

――― は?

(いえで。
己のことだろうか。たぶんそうだ。
瞬きを三度する間にそこまで考えて、ほんの少し眉根を寄せ)

違います、今から、お家へ帰るところですぅ。
そう言うそっちは、そんなところで何してるわけ?

(恐らく、見た目、年のころもそう変わらないのでは、と思えば、
返す言葉は自然、敬語やら丁寧語やらを排したものになる。
一歩、二歩、此方からも歩み寄って、今や互いの間の距離はごくわずかだ。)

ギャミー > 「あれ――逆だったか。
 でも、それは随分妙な話だよね。
 こんな夜更けに、お供もつけずにたった一人で、お嬢様」

富裕地区だからといって油断して闇夜を出歩けるほどここは長閑な国ではない。
いくら年少であろうとも、それは互いに知っているはずだ。

「知っている? 十字路には悪魔が住んでいるんだって。
 私が実はそれで、生贄を探してたんだよ。
 例えば君みたいな不用心そうな子を……」

近づいてきた少女の手を、自然な動作で取り、胸の前まで持ち上げてしまう。

「……てーのはどう?」

紫の瞳を輝かせて、軽薄に、悪戯っ子のように笑う。

リュシー > (なるほど、確かに不用心かもしれない。
ただしそれは、己が見た目通りの少女であった場合の話で―――
己からすれば相手のほうこそ、ずいぶんと不用心とも見えた。)

……まず、お嬢さま、ってガラじゃないし。

――――って、……あく、ま?

(かくん、と暢気に先刻とは逆方向に首を傾げていたら、
いつの間にか手を捉えられていた。
悪魔、つまり魔に属するイキモノということか、それはつまり、
―――もたもたと思考を巡らせながら、改めて相手の顔を見つめ直した時、
なぜだか、先刻までは見えていなかったものが、相手の頭の両側にうっすらと。
アメジストの瞳を煌めかせて笑う、その顔をじっと凝視しながら)

……どう、って。
生贄って、死んじゃうやつ?
だったら、いやに決まってるよ、そんなの。

―――――ねぇ。
その、頭に、にょき、って、生えてるの…って、

(なに?と、尋ねる語尾を、無意識に飲みこんでしまった。
背筋がほんの少しだけざわつく感覚、―――動物の一部を生やした存在も、
この王都では珍しくもないのだけれど。)

ギャミー > 「あ、見えちゃったか、角。
 触ってみる? 本物ですよ」

なんということもない調子で、途切れた少女の言葉に応答する。
銀髪をかき分けて絵物語にあるような曲がりくねった悪魔の角だ。

「まあ、生贄と言ってもいろいろあるよ。
 こう、丸ごともらうやつから、一晩だけ借りるみたいな、そういうのとか。
 支払い方法がたくさんあったほうが、お客様も喜ばれる」

けむにまくようなことを言って、ワルツでも踊るように、
取った手をくるりと一回転させそのまま引いて、行き先も告げず歩きだす。
……さほど強い力ではないが。

「お嬢様じゃなかったら君はなんだい? まさかお坊ちゃまだとでも?」

ひらひらと燕尾服の裾が楽しげに揺れる。

リュシー > (遠い昔、絵物語で見たことがあるような気がする。
物語の中の悪魔と同様、山羊の角に似た立派な角が、相手の頭から―――
それではもしかすると、本当に、そう、なのだろうか。
―――とくん、と一度、つめたく鼓動が跳ねた。)

そういうのって…気安く触ったり、しないほうが良いんじゃないの。
……て、いうか、いや、ひと晩って…あのね、ぼくはね、

(お客様になるなんて、一度も言った覚えはない。
というか、生贄をお客様と呼ぶのは、ちょっと実情にそぐわないのでは。

―――そこまで考えて、はたと気づく。
また、ぼんやり考えているうちに、くるん、と身体が一回転していた。
ドレスの裾がふわりと広がる、そのまま手を引かれてたたらを踏みながら、
慌てて声を張りあげ)

いや、ちょっ、ちょっと待って?
あのね、ぼくはね、―――――…

(おぼっちゃま。
―――ぴくん、と肩が震え、きっと手を取る相手の指先にも、
小さな反応が伝わったはず。
俯き加減に一歩、相手の後について歩き出しつつ)

例えばの話だけど。
おぼっちゃまだったら、生贄には相応しくない、とかいうことはある?

ギャミー > 「私は気にしないがね。まあ多少は丁寧に触ってほしいかもしれない。
 まあそれは身体のどこの部分だってそうなんですけど」

慌てたような声と、身を震わせる様子に、歩調を緩め、半身で振り返る。

「……うん? 別に、かわいけりゃどっちだっていいけど。
 ひょっとして本当にお坊ちゃまだったりするのかい?
 それはそれで、なかなか好ましいと言えるなぁ!」

歌うような声。足を止めても、握った手を離そうとはしない。
顔を間近に寄せ、しげしげと眺める。遠慮のない視線が全身を探るように動いた。

リュシー > ……気に、しないの?

(不用意に悪魔の角とやらに触ったら、怒りの雷、ドカーン、とか、
そういうのがあるのでは、と思っていたのだが、どうやら違うらしい。
なんとなく拍子抜けしたものだから、きっと表情もぽかんと、
控えめに言って間抜け面になっているだろう。

己の投げかけた言葉に反応したのか、くるりと振り返った相手が、
こちらへ顔を寄せてくるならば、己は逆に顎を引き気味に。
じっくりと観察されて、居心地悪そうに視線を泳がせながら)

……いろいろ、複雑なんです、その辺りは。
ていうか、だから本当に、…ぼく、まだひとっことも、
きみのお客様になりたい、なんていってないからね?

(悪魔相手にそんなものが認められるものかは知らないが、
一応、拒否権は主張しておきたいところ。
ならばそもそも手を振り解くほうが先なのだろうけれど、
手は繋いだまま、というのが、なんとも緊張感に欠ける。)

ギャミー > 「まあほら、ちんちんとかおっぱいとか触られて
 怒る人と怒らない人があるじゃん? そういう感じかな」

からからと笑う。いきなりの卑俗なたとえ。

「デリケートな話だったかい? それとも気を遣ってくれているのかい?
 複雑などと言われるといろいろ問いただしたくなるねえ。
 まあ、私だってそれなりに複雑なんですけど。」

街路を緩やかに歩む。
気さくな振る舞いは、ミステリアスな風貌と今一つ噛み合わない。

「じゃあ、帰るまでの時間だけでも私にくれよ。
 悪魔と夜の散歩だ、しゃれてるだろ?」

帰るまで、などと言いつつ、先の尖った靴の向かう先はでたらめだ。
手を引く銀髪に任せるなら、ずっと同じ場所をさまよっているような錯覚に陥るかもしれない。

リュシー > ――――― あー、……うん。

(年端も行かない少女―――のように見えなくもない相手の口から飛び出すものとしては、
なんとも卑俗なたとえではあったけれども。
一瞬遠い目をして黙りこんだものの、一拍おいてから、己もあっさり頷いた。
ちなみに己は、怒らないけれど感じちゃいます、なんて、さすがに言えやしないけれど。)

悪魔さんが、どれだけ複雑か知らないけどさ、
人間だって、それなりに複雑なんだよ、そりゃあ。
………訊いても良いけど、答えたくないことは答えないよ?

(ほんの少し、不貞腐れたようにも聞こえるかもしれない。
何とはなし、ふらふらと手を引かれるままに歩いてしまいながらに)

……散歩、だけなら、まあ、良いけど。
お客さまにはならないんだからね、やっぱり帰さないよ、とか、
そういうのナシだからね?

(ちょうど、気晴らしをしたかったのは確かなのだ。
悪魔だ、というのが本当かどうかすらわからない、名前も知らない相手だが、
夜の散歩の相手としては、成る程、なかなか気が利いていると思う。

勝手知ったる邸宅街でもあるし、さして体格にも差がなさそうだ。
いざとなれば、手を振り解いて逃げれば良い、と考えているからこそ、
てくてく、てくてくと躊躇いなく。

そうこうするうち、いつしか、己の感覚はわずかずつ歪み始める。
見まわせば良く知った界隈のはずなのに、なぜか、迷い子になってしまったような。
忘れていた背筋のざわつきが、また、じわじわと蘇ってきていた。)

―――― ねぇ、
……帰すの、やっぱりやめた、とか……ない、よね?

(問いかける声は、やけにか細く、闇に溶けてしまいそうに。
繋いだ手を無意識のうちにきゅっと握り締めて、
―――果たして、相手の返答や、いかに。

その返答次第では、ほんのささやかな気晴らしのつもりだった夜歩きが、
いろいろな意味で、取り返しのつかない一夜となるのかもしれない――――。)

ご案内:「王都マグメール 富裕地区/邸宅街付近」からリュシーさんが去りました。
ギャミー > 「意味ありげなことを口にしておいて、教えない、とは殺生な。
 鬼め。悪魔め。……おっと、それは私だった」

ぐるぐる。ぐるぐる。いつしか風景は均一な闇に均される。
指先にこもった力に、肩を揺らして笑う。

「帰してあげるさ。約束を反故にはしない。
 でも、君は帰るべき場所を知らないからね。
 ……だからきっとまだ、連れて行くことができないのさ」

それは、真実を言い当てているのかもしれない。
狡猾な悪魔の詐術なのかもしれない。
夜が、闇が、引き伸ばされる。
できの悪い夢のように。

それが覚めるのは、もう少し後の話になるだろう。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区/邸宅街付近」からギャミーさんが去りました。