2017/08/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 伯爵邸」にグリセルダさんが現れました。
グリセルダ > 『私は構わない、お前も自由な恋愛を楽しめば良い』

噂を聞いた夫の第一声は、其れ、だった。
次には『お前の為に誰か、見目の良い者を見繕ってやろうか』と言い、
己は居た堪れずに、自室へ逃げ込む事となって。

豪奢な家具調度、天蓋つきの寝台は充分な広さがあるものの、
其処へ夫が訪れた事は無い、己一人の為の寝室。
ベッドサイドの小卓へ置いた燭の灯火が揺れる中、一人、
痛む頭を抱えて休もうかとしていたところへ、扉がノックされた。

『奥様、御休みでしょうか』

其の声は、夫付きの執事の声。
『旦那様の計らいで』呼ばれた誰ぞが来ている、等と。
まさか、本当に『自由恋愛』の相手を呼んだのだろうか。
信じられない思いで扉を凝視し、恐怖と混乱に上擦る声で。

「わ……わたくし、今日は体調が悪いの、です。
どうか、……どうか、お帰り頂いて頂戴……っ」

信じられない、信じられない、己はあの人の妻だというのに。
憤りの為か、屈辱の為か、其れとも、哀しみの為か。
頭の芯がずきずきと、今度こそ本当に痛み始めていた。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 伯爵邸」にルヴィエラさんが現れました。
ルヴィエラ > (――体調が優れない、と言う声が部屋の中から微かに響くのを聞く
其れが本当なのか、或いは人払いをする為の言い訳なのかは判らないが
困った様な表情を浮かべて己に頭を下げる執事に、構わないと軽く片掌を掲げ
其れから、開く許しを得られなかった、其の扉へと手を掛けて
ゆっくりと、押し開いて行こう。)

―――……なら、せめて他愛の無い話だけでも如何かな?

(響かせる声音、相手は、どんな表情で此方へ視線を向けるだろうか
御機嫌よう、と再び一言、挨拶を向けて部屋の中へと踏み入れば
其の儘、彼女の伏せる寝台の横へと、椅子を引いて腰掛けよう
彼女を、正面より見据える様に。)

―――「都合良く」声を掛けられてね。 だが、無理をさせるのも忍びない。
ハーブティでも運んで貰うかな? 其のほうが、少しは落ち着くだろう。

(――執事は、或いは其の声を聴いて、扉を閉めるだろう。
ハーブティを淹れに向かったのか、或いはそうでないのか
何れにしても、彼女が追い出さぬ限りは、「無粋な客」たる己は
暫し、居座る心算だろうと、感じ取れる筈で)。

グリセルダ > もう耐えられない、と泣き喚いてしまえたなら、
きっともう少し、楽になれたのだと思う。
けれど現実の己が出来る事と言えば、寝台へ俯せに倒れ込んで、
枕のひとつを抱え込み、嗚咽にもならない啜り泣きを吸わせる程度の事。

扉が開く音、覚えの無い男の声。
優しげに聞こえるけれど、其れは詰まる所、夫が己に『男』を宛がったという事だ。
枕に顔を埋めた侭、ぎこちなく左右へ頭を振って。

「――――何、も……なにも、欲しく、ありませ、ん……。
どうか、お願い……、お帰りに、なって……。」

本当は今にも、恐ろしく貴婦人らしからぬ態度に出てしまいそうなのだ。
だから是が非でも男の来訪を拒絶したいのに、執事は此の男を置いて、
さっさと引き上げてしまった様だ。
お茶を用意しに向かう、と見せかけて、今夜はもう二度と戻って来なくとも、
今更驚きはしない、けれど。

「………都合良く、とは、どういう、事ですの。
貴族の、女を……『都合良く』摘まみ食い、なさりに来た、とでも?」

涙に掠れた声が、やけに冷やかに響いた。
枕からそっと顔を上げ、傍らに座る男を見据える眼差しは恨めしげに、
暗く、底光りする様でもあろうかと。

ルヴィエラ > (向けられる視線へ載せられる感情は、オブラートには包まれない
絶望、怒り、恨み、悲しみ、そう言った負の感情を渦巻かせた其れは
当然予想出来た物だから、今更驚きも、戸惑いもない。
ひとつ、ゆるりと首を横に振るのは、否定の意味
但し其れは、帰らない、と言う意味合いの其れではなく。)

―――……客として待たされていた序に、貴女の話をされた、と言う意味合いでだ。
御主人とは、仕事上では良い付き合いをさせて貰っているのだがね。

(仕事上では、と言う控えめな表現の裏には、其れ以上でも以下でもないという意味も込められる
果たして、執事は戻って来るのだろうか。 少なくとも己の言葉以上には
彼の主人たる男の指示が優先されるのだろうが、其の辺りは気にも留めない
ふと、女の目の前で、そっと口元に掌を翳しては、ゆるりと指先を揺らす
次の刹那、何処から取り出したのか、其の指先に何時の間にか携えていた薔薇の花を
そっと、腕を伸ばして彼女の膝元へと乗せよう。)

―――……貴女は美しい、彼の元で鳥籠に秘された儘なのは、素直に惜しまれる。
――だが、貴女に望まぬ思いをさせるのは、其れ以上に忍びない。
貴女が、もし彼の様な男に未練を残していなければ、迷わず此処から浚うのだがね。

(――顔を合わせたばかり、けれど、紡げる言葉は淀み無い
決して直接的な言葉を遣って、正しき伴侶で在る筈の伴侶を卑下しないのは
其れが必ずしも彼女を癒すとは限らないから、だろう
果たして彼女と彼との間に、或いは少なくとも彼女が彼に対して
夫婦としての愛情を向けていたのかは、己は何も知らぬけれど――知らぬから、こそ)。

グリセルダ > 「――――そ、う。
御仕事……そうですの、其れでわたくしは、
貴方と、夫との、良い酒の肴にされた、という事ですのね」

化粧を落としても尚、淡く色を成した唇が微かに歪む。
今宵の己は何を如何聞いても、心がささくれ立ってしまう様だ。
客人たる男は謂わば、八つ当たりの的にされた、といった所。
己の瞳が此の男を憎々しげに見詰めているとすれば、
其れは己が勝手に、薄情な夫の姿を彼と重ね見ている所為だ。

形の良い唇へ、すらりと伸びた指先が、白い手の甲が被さる。
ふっと音も無く現れた薔薇の花に目を瞬かせ、上体を捻る様にして僅かに起こせば、
瑞々しい其の花は己の膝へと乗せられる。
刹那、何かの術に掛けられたかの様、艶やかな薔薇を見詰めながら、

―――男の言葉に、ほんの一瞬眉根を深く寄せて。

「―――――甘い言葉を囁く殿方に、ころりと騙されてはなりません、って、
わたくし、ずっと幼い頃から躾けられておりましたのよ。
見目麗しい殿方も、理由も無く女に、花を贈ったりする殿方も。」

そっと身を捻って、枕を背凭れに半ば身を起こした仰臥の体勢になり、
片手で彼が寄越した薔薇を、そっと摘まみ上げて揺らしながら。
伏し目がちな瞳は先刻よりも、幾分柔らかく細められていたが―――

「つまり、貴方はわたくしにとって、最も警戒すべき殿方、という事ですわね。
貴方に、ころりと騙されてしまったら……わたくし、どうなってしまうのかしら?
例えば貴方と……間違いを、起こしてしまったら?」

夫はきっと、怒りも嘆きもすまい。
そう確信出来るからこそ―――笑って、しまうしか無くて。