2017/08/16 のログ
ご案内:「富裕地区 商店の軒先」にチェシャ=ベルベットさんが現れました。
■チェシャ=ベルベット > 突如降り出した雨を避けるため、綺麗な日除けのある商店の軒先に飛び込んできた一匹の黒猫。
体についた雨粒をぶるぶるとふるって払い、毛づくろいをして一休みする。
と、黒猫の口元がにゃごにゃごと動いた。
「まいったなぁ、突然の雨かよ……さっさと戻りたいのに」
はぁと人間らしいため息もついて、ますます仕草が人間臭い。
■チェシャ=ベルベット > 四足を揃えて空を仰ぎ見る。
天気はまだまだぐずつきそうだ。
雨の中を濡れて走って帰るというのもありだとは思うが猫は極力水を避けたい。
結局ここで今しばらく足止めされなければならないというわけだ。
雨上がりを待つというのは中々退屈で、
傘を持って街を行き交う人々眺めながらごろごろとその場で腹を出して転がってみたりする。
ご案内:「富裕地区 商店の軒先」にリンさんが現れました。
■リン > 最近仕事はうまくいかないし、出先で唐突に雨に降られるし、取ってある宿は遠いしであまり巡りが良くない。
羽織やシャツをしたたか濡れさせて、手近に見つけた雨の凌げそうな場所――商店の軒先へと駆け込む。
その靴が蹴飛ばした水たまりが跳ねてそこに転がっている
黒猫にかかったかもしれないが、多分それには気づかなかった。
■チェシャ=ベルベット > ぴしゃんと、泥水がリンの足によって跳ね猫の顔に直撃する。
これにはチェシャも驚いて飛び上がりうにゃあご!と全身の毛を逆立てて怒り狂う。
ついでに相手が誰であれこの仕打をした報いを受けさせようと
足首に飛びついて噛みつき、爪を立てて引っ掻こうとした。
■リン > 「うぎゃー!」
足首に爪を立てられて世にも情けない悲鳴を上げてその場に尻もちをついてしまう。
よく見たら見覚えのある黒猫だった。そういえば黒猫は凶兆であるらしい。
今日はほんとうに厄日なのかもしれない。
「ご、ごめんなさいごめんなさい、痛い痛いわたくしが悪うございました!」
へたりこんだまま脚を揺すって猫を振りほどこうとする。
■チェシャ=ベルベット > その場に尻もちをついた相手の情けない姿に少しだけ満足すると
ぶんぶんと振られる足からひらりと離れその場で一回転して座り込む。
「なんだ、ちび虫か。なんてことしてくれたんだ。
僕の美貌が台無しになったじゃないか、責任取れ」
そう言うと相手の有無を言わさず、リンの上着に顔をすり寄せ
泥付きの水をその服で拭ってしまう。
ああ、せいせいしたといわんばかりにすっきりすると
念入りに顔を洗って毛づくろいを始める。
■リン > 「美貌も何も猫じゃんか今。
……責任ってこの上着でいいっすかパイセン?」
泥に汚れた上着を指で引っ張ってうへーという表情になるも、
自分が悪いので強くは言えない。
もともと濡れてしまっていたわけだし……
「猫が顔を洗うと雨が降るとは言うけどもう降ってるね。
はぁ、いっそ子猫になる呪いとかだったらまだいいのになー……」
毛づくろいを始める黒猫の背中にそっと手を伸ばして撫でようと試みる。
■チェシャ=ベルベット > 「この美猫の美しさがわからないとか美的センスに欠けるな。
尻尾の先から髭の先まで完成されたフォルムを泥水で汚されたんだぞ。
足引っかかれて上着汚されただけで済ませてもらえるなんて
ありがたいと思わないか?」
悪びれもせずふんと鼻を鳴らして丹念に自分の毛を舌でなでつける。
と、リンが自分の背に手を伸ばしてきたのでまた引っ掻いてやろうかと思ったが
余計な体力を使うだけだと思い渋々撫でさせてやる。
ああ、なんて自分は寛大な猫なのだろう!
「なんだお前、子猫になりたいのか?
散々縮んでいるくせにまだ小さい生き物になりたいのか?
変なやつだな、まぁ猫になりたいって言うならしてあげてもいいけど」
■リン > 「きみ、ヒトの姿よりも猫の姿のほうが自信ありそうだな……」
呆れ顔になってしまう。
ついつい伸ばした手が引っかかれなかったことに微妙に感謝しながら毛並みに添ってゆっくりと撫でる。
リンには猫の美しさにはあいにくと無頓着だったが、猫を撫でる楽しさぐらいは知っていた。
「いや、進んでなりたいわけじゃないけど!
小人よりも猫の姿のほうがいろいろ使い途はありそうだなーって思っただけです。
というか、してあげてもいいってどういう意味です!?」
本当に猫にされてしまうのかもっと別の何かなのか判別できずに怪訝な表情を作る。
■チェシャ=ベルベット > 「僕はどちらの姿も自信満々だぞ。
ただどちらかというと猫のほうが全体的に優美なデザインをしているから
まぁ猫の姿のほうがちょっとばかり秀でているな」
ふふんとふんぞり返って威張る滑稽な姿。
「チェシャ様は偉大な魔法使いの弟子だからな。
相手を猫に変えてしまう魔法ぐらいわけないのさ。
ただし同意を得ないことには成功しないけど……。
本当の本当に、猫に興味が無いっていい切れるか?」
ちょいちょいと前足で誘うように相手に尋ねかける。
もしも興味があると答えたら最後、喜んで猫になる魔法をかけられてしまうだろう。
■リン > 「そーなんだ……。」
自分自慢にはどうでもよさそうに頬を掻いた。
「……他人を変身させるってすごい魔法だな。本当なら。
小さくなった時鼠の皮をかぶって鼠のフリをすることはあるけど、
本当に動物になってしまったらどうなるのかは、興味ないわけじゃあ、ない、かも……」
消極的に興味を肯定して、猫から視線をそらす。
■チェシャ=ベルベット > 「鼠なんかダメダメ。あいつらチョロチョロするばかりで
てんで何の役にも立たないんだから」
猫的にそこは譲れないらしい。
小人のリンが鼠の皮を被って真似していたらと考えると
猫としての本能に逆らえずきっと飛びかかって捕まえてしまうだろう。
それもそれで面白いとは思うがリンにとってはいい迷惑だろう。
「言ったな? よぉしそれじゃあお望み通り可愛い子猫にしてやろうじゃないか。
そぉれ!」
掛け声とともに二本足で立ち上がると、猫の前足から銀の糸がシュルシュルと伸びてリンに絡みつく。
それはやがて繭のようにリンの体を覆い尽くし、徐々に縮んでチェシャと同じ大きさになった。
しばらく繭の中で光が爆ぜる。と、シュルシュルと再び糸が猫の前足に巻き戻り
そこには魔法にかけられ猫の姿になったリンが居るはずで――。
■リン > 「どーせ平時からチョロチョロするぐらいしか能のない役立たずですよっと。
……って、い、言ってない! 望んでない!」
こいつ本気だ、と悟ったときには時すでに遅し。
糸に絡め取られて身動きが取れなくなり、意識がぼんやりと夢心地に滲む。
そうして次に視界が開けた時にはずいぶんと目線が低くなり――
果たして、子猫の姿へと変じたリンがいた。
毛並みはチェシャのそれよりは幾分か明るい藍色だ。
(う、うわ――! やりやがったな!
手足短い! むりやり四足に這いつくばらせられてる感覚が気持ち悪い!)
などと尻尾の毛を逆立てての不平が猫の喉で言えるのかどうかはわからないが、
ニュアンスぐらいは目の前の猫の先輩に伝わったかもしれない。
■チェシャ=ベルベット > にゃごにゃごと不平不満をいう藍色の子猫の姿を見下ろすと
満足そうに前足を腕組みする。
まさかこんなにすっかり魔法がうまくいくとは思ってもいなかったようだ。
「あははは!どうだ!
随分可愛い姿になったじゃないか。
やっぱり僕は魔法の天才だなぁ、こんなにうまく行くなんて」
ぐるぐるとリンの周りを回ってためつすがめつその出来具合を確かめる。
「手足の短さも四足歩行もそのうち慣れるよ。
あ、変身させる魔法はかけられるけど、元に戻す魔法はないからな。
まぁ3時間ぐらいで元に戻るから猫生活を堪能すればいいよ。
僕の心遣いにお礼を言ってくれてもいいんだぞ?」
何故か大分偉そうに猫なりたての相手にお礼を要求する。
■リン > 可愛い姿、と言われても喜べるはずもなく、
随分と楽しそうなチェシャの様子に藍色の子猫はジト目を作った。
「あと当然だけど服もないのも落ち着かない頼り無いなぁ……
慣れるの? 慣れたくもないけど……
……って三時間もこのままなの!? こ、この三流魔法使い!
お礼なんか言わないっつーの!」
ヴーッと唸って怒りにまかせてチェシャに体当たりを仕掛けた。
■チェシャ=ベルベット > 突進してくる子猫をひょいと躱す。猫としての年季は自分のほうが上だ。
猫になりたての後輩なんぞの体当たりごときかわせないチェシャではない。
「誰が三流魔法使いだ! 5分と保たない変身魔術なんか
何の役にも立たないじゃないか!
三時間も猫の素晴らしい生活を味わえるなんてお前は恵まれているんだぞ!」
押し付けがましいことこの上ないセリフをのたまって
トドメとばかりに後ろ足で水たまりを蹴って水を跳ね散らかす。
と、なんやかんやしているうちに雨の勢いも弱まってきた。
今ならそれほど濡れずにすみかへ帰れるだろうと判断すると
「それじゃあ、せいぜい猫生活楽しんでくれよな! あばよ!」
そう言って店の軒先から一目散に町中へ走り出してしまう。
チェシャの姿は雑踏に紛れてあっという間に見えなくなってしまった。
ご案内:「富裕地区 商店の軒先」からチェシャ=ベルベットさんが去りました。
■リン > 「こ、ここまでしておいて放置プレイとか……ないわ……
覚えてろよクソ猫……」
ぐっしょりと濡れてこの世の終わりのような表情になる子猫。
ああ、ここまでされる謂れがあろうか。
一匹取り残されて、みぃみぃと悲しげに鳴きながらあたりを徘徊する
藍色の子猫が何事もなく人間の姿に戻れたかはわからない……。
ご案内:「富裕地区 商店の軒先」からリンさんが去りました。