2017/06/25 のログ
ご案内:「王都富裕地区」にホウセンさんが現れました。
■ホウセン > 今日も今日とて平常運転。
一日の間に背負い込むタスクは、依頼を受けていた時とさして変わらなそうなもので、然し疎と密が少なく均質化しているのが特徴らしい。
平民地区の店を離れ、こんな区画にまで足を伸ばしたのは納品の為。
ある子爵家の御婦人に、頼まれていた装飾品を届けに上がったのだ。
決して安価ではない品物故に、実質的な責任者自らが配達人の役目を負う事は珍しくないのだけれど、単に届け物をしただけの割には疲弊の色が見え隠れ。
「ぬぅ、どうせ結論なんぞ己が胸の内にあるか、そもそも結論を出すつもりが無いだろうに。
どうしてこう、女という生き物は無駄に喋りたがるものなのか。」
鉄製の門を潜りつつ、小さく小さくぼやく。
件のご婦人は、妖仙の姿を認めると同時に膝の上に抱え込み、”ちょっと聞いてよ”とばかりに近々の話題を怒涛のように垂れ流した。
この辺りは子爵婦人だろうと、そこいらの井戸端会議に興じる平民だろうと、根本的なところでは変わらない。
しかも、お題というのが”うちの旦那が浮気してるみたいなの”と来たものだ。
一介の出入り商人に、このご婦人は一体何を求めているのだろうと、営業用のスマイルが引き攣らなかった自信はない。
■ホウセン > 山の手というべきか、貴族の邸宅が建ち並ぶエリアから、繁華街の方へ足を向ける。
深夜に差し掛かる時間帯ではあるけれど、幸運な事にこの周辺の治安は上々で、子供が一人歩きをしても有象無象に難癖を付けられる心配も極小。
明瞭な目的地を持たぬ歩みは、歩幅が小さい事を加味してもゆっくりとしたもので、己の忍耐力の限界に挑んだ数時間を反芻する。
「傍迷惑な話よのぅ。
あの御仁、儂を飼い猫か座敷犬と誤認しておるんじゃなかろうか。
斯様なものを欲しておるのなら、何も儂を道連れにせんでも良かろうに。」
いっその事、物言わぬ置物に語り掛けさせても、結果は髪の毛一本分程も変わるまい。
不毛という表現がしっくり来る状況下で、何よりも噴飯物だったのが、告発者自身が必ずしも清廉潔白な身の上と限らないという点だ。
金と暇を持て余した有閑マダムが、多少の火遊びに手を出すのは致し方のないところかもしれない。
その財のおこぼれを欲して群がる若いツバメ達の存在も、不貞に一役買っている側面も否めない。
だが、相手を糾弾する時だけ被害者面をする厚顔さは、この妖仙の持ち合わせている面の皮の厚さとはまた別口で、そこはかとなく空恐ろしいもの。
「いやはや、無様で醜悪で滑稽で、如何にも人間らしい愚かしさじゃ。
…だからこそ、見ておって飽きぬのじゃがな。」
――己が被害半径に巻き込まれさえしなければ。
人の営みに近付き過ぎるという悪趣味は、この妖仙と切っても切り離せぬ性質のもの。
独り言をのべつ幕なしに呟き続け、不審人物扱いされるのを善しとせず、道程の大半は無言の侭。
静謐さを是とする住宅街から、賑わいを見せる歓楽街に足を踏み入れる。
ご案内:「王都富裕地区」に朱 暁燕さんが現れました。
■朱 暁燕 >
歓楽街、その奥まった路地から香る、ホウセンにとってはどこかで嗅いだであろう香り
まるでそれは自身を呼んでいるかのようにも感じるだろうか
誘われるまま、誘蛾の如く路地を進んでゆけば、
そこにはいずれ出会った狐が待っている───
■ホウセン > 平民地区や貧民地区で見かけるような、スタンド形式の飲食店は見当たらない。
道すがら飲み物なり軽食なりを調達しようという、妖仙の目論みはあてが外れた格好だ。
元よりなで肩気味の薄っぺらい肩を落として、歩調は更に鈍化する。
「然しこの話、ご当主側から”妻が浮気をしているようだ”等と相談を持ちかけられた日には、腹が捩れに捩れて皮膚が裂けてしまうやもしれぬ。」
事実として不貞行為が存在しているのだから、相談が寄せられる可能性は、必ずしも零ではない。
性差や面子といった要因で、ご婦人程は軽々しく口を開けないという事情はあるのだろうが。
願わくば、直接対決を火の粉の降りかからない安全圏から鑑賞したいものだ。
そんな取りとめのない思考を阻害する刺激が、鼻腔から伝わる。
「……彼奴か。」
この香を纏う者は、妖仙の知る限り一人しかいない。
保身に長けた狐の事、気配どころか匂いまで隠蔽できるだろうから、嗅ぎ取れたという事自体、匂いの主の意思が介在しているという事だ。
弛緩していた表情を改め、律動的な歩調で匂いを辿って路地の奥の奥へ。
■朱 暁燕 >
「久しぶりネ」
ホウセンの顔を見るなり声をかける狐はそこに何を構えるでもなく
裏路地の行き止まりに佇んでいる
足元には2人程の男が恍惚の表情で倒れている──
「漸くお望みのブツが出来上がったヨ。
過程でチョット魔族に手を出したおかげで、おいそれとこの国に近づくこともままならなかったネ」
■ホウセン > 歩み進んだ路地の先、見知った長身の狐を見出す。
「うむ、お主も壮健…か如何かは分からぬが、相変わらずのようで何よりじゃ、『毒蛾』よ。」
恐らくは実験台となったのであろう男達を一瞥し、挨拶を投げる。
旧交を温めるような間柄ではないが故に、直ぐに実務へと。
「そればかりは仕方あるまいよ。対象が対象じゃからのぅ。」
魔族にも効果を発する薬物。
妖仙が狐に発注したのは、そんな物騒な新薬の開発故に、遅参は鷹揚に水に流す構え。
「で、其処な痴れ者は被検体かのぅ。
中々に幸せそうな阿呆面を晒しておるわ。」
無用心に歩み寄り、帯から抜いた扇子の先で、惚けた男達の頬をつついてみる。
■朱 暁燕 >
「人間の実験なんて、今更しないヨ。
ちょっとしつこく声をかけてきたから寝てもらっただけネ」
肩を竦めてそう答える
足元に転がる男達はどうやらそういうことらしい
男たちは突かれても反応を示さず、ただただ薄ら寒い恍惚の笑みで宙を眺めている
「チョット人間に使うには強くなりすぎたかもしれないネ。
ソレデモ…魔王相手にも効果を実証済みヨ」