2016/12/12 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にホウセンさんが現れました。
■ホウセン > その異国の商人の御曹司を名乗る妖仙は、中々に多忙だった。奴隷市場都市で物見遊山を決め込んでいた次の日には、王都まで一飛びしての商談と政談。実際に飛行する事か、それに近しい何かを術で再現する事はできない相談でもないけれど、その後の活動に支障を来たす事が明らかであれば、大人しく縮地なり何なりで移動するものだ。かくして今宵の早い時間には王都入りをしたのだけれど、その後が長い。元々商売上の繋がりのある貴族の家に上がり込むと、肌も露な使用人を侍らせての夕食が待ち受けており、是ではどちらが接待をする側か分からぬという塩梅。
「分かり易いといえば、分かり易くて助かるがのぅ。それで、魑魅魍魎の跋扈する宮廷を生き残れるのか…」
商人の側が饗応を以って出迎えられたのは、その後への伏線。何のことはない。政争の為の活動資金を融通しろという話だった。多くの派閥が入り乱れて、謀略渦巻く王都なら、金はあるだけあった方が良いというのは分からぬ話でもないが。然し、こうも直線的な行動を取られてしまうと、融通した所で有望な投資となるかは、怪しい。長居しても、融資の無心だけが続くであろうと見切りをつけて、「父」に相談するという事で邸宅を辞した。こういう時、傀儡の主は便利なものである。
「とはいえ、この刻限では遊び先を探すのも難儀しそうじゃのぅ。」
困り顔をしても、整った顔立ちは様になる。馬車の類は、下手をすれば泊りになる――饗応の延長上で、女が宛がわれるかもしれない――からと、早々に帰してしまったが故に徒歩だ。繁華街と異なり、人影も疎らな通り。小さいシルエットがポテポテと危機感薄くのんびりとした歩調で進む。
■ホウセン > 小柄、土地勘の薄そうな異国人、羽振りの良さそうな身なり。此処が貧民街なら、恐らく区画一つを過ぎぬ内に物取りに絡まれていただろう。そうならずに済んでいるのは、このエリアの住人が治安の維持に多少なりとも力を割いているからだろうけれども、それならそれで、今度は反社会的人物を追い回す必要のない官警がのさばるのが常道だ。特に国家としての倫理観が揺らいで、恃めるものが己の力量と金となっている今現在、自制心を発揮できる方が珍しいのかも知れぬ。
「……宿はどっちだったかのぅ。」
案内人に連れられて、もしくは乗り物で幾度か通った事はあるが、真夜中に近しい時間となると、見える景色の印象がガラリと変わる。凡その東西南北まで失調している訳ではない為、時間さえ掛ければ見知った景色の場所に辿り着く事もできるだろうが、其れまで邪な存在に出くわさない保証はない。と、同時に、顔見知りに、もしくは自分が一方的に知られている相手に遭遇する可能性も、僅かながらに残っている。
「散歩じゃ、散歩。血吸いの一族じゃありゃせんが、夜の散歩も粋じゃろう。」
半ば空元気である。袂から煙管入れを出し、取り出した煙管を口に咥える。街灯の明かりでは手元が覚束ないものの、慣れた手付きで煙草を火皿に載せて、危なげなく燐寸で火をつける。火勢を強めるべく吸い上げればジリっと赤い光が手元を照らす。一拍置いて吐き出した紫煙は、ふわりと夜気の中を漂い、やがて霧散する。