2015/11/21 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/レストラン」にリンさんが現れました。
■リン > 豪奢な内装のレストランに、美しいバイオリンの音色が響いていた。
奏でているのは、人の胸の高さほどに設置された台の上に立つ
礼服を着た小人の少年だった。
手に持つバイオリン『アクルス』もまた彼同様にちっぽけなのだが、
不思議な事にその音は店内にくまなく響き渡る。
ここは彼の主人のなじみの店で、
たまにこうして貸し出されてひとり演奏をすることがあった。
■リン > それにしてもこんなところに無防備にいたら、
魔が差した客がひょいと自分のことを持って行ったりしないだろうか、
などと気が気ではないが、備品を持ち去るようなモラルの低い客は
ここにはいないということなのだろう。
そう信じて、平静とした顔で演奏を続ける。
ケースや籠に入れてもらうことを考えたが、提案はしなかった。
……それでは虫籠に入れられた虫そのものだから。
■リン > 一曲演奏を終え、休憩していると、女性客が近づいてきた。
なんだろう、と思いつつにこやかに彼女を見上げると。
べちゃ。
と、顔面に何かが落ちてきた。
肉の一欠片――リンにとっては抱えるほどもある――のようだった。
曰く、ずっと演奏をしているから、空腹なのではないか、ということだった。
食べかけではないらしい。
「お気持ちはありがたいのですが……」
頂くわけにはいきません、と、可能な限り丁寧に辞去する。
彼女の指に、肉は返っていった。
リンの頭や服に不快にべとついた脂を残して。
……わざとやったのだろう。
■リン > 立ち去る女性に、文句を言うわけにもいかず、ただ見送る。
惨めなものに対する嘲弄と哀れみの視線を感じた。
飾ることが卑しいものに対しての最大の屈辱という。
きっとこうしていっぱしに礼服など着せられているのもそういう理由なのだろう。
強すぎる肉と脂の臭いに、自覚していなかった空腹の感覚が襲う。
へたりこんで泣きそうになってしまう。が、堪える。
■リン > 今回残念なのは、主人が自分の演奏を聴きにきていないことだった。
主人に長く魔性の音色を聴かせ続けていれば、やがては
彼の心を自分のものとして掌握できるはずなのだ。
そうすればもう少しいろいろとやりようはあるだろう。
静かな表情で演奏を続ける。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/レストラン」からリンさんが去りました。