2015/11/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/一角」にサラさんが現れました。
サラ > .

「なんとか…撒けましたわね」

王都マグメール、富裕地区。その一角で建物の陰に隠れ、今まで進んできた道をこっそりと覗く娘が一人。
此方へ向かう道とは全く違う、真逆へと向かう足音が遠くなったことを確認して、抑えていた荒い息を吐き出すように大きく息をなでおろした。
安堵したからか少しばかり身体の力が抜け、ずるりと背にもたれた壁に沿って尻をつく。

サラ > 「…ここは一体どこですの」

顔をあげて、空を見る。建物の隙間から覗く、小さく狭い青。
不慣れで奇妙な景色に溜息をついた。
もう一度見上げ――た勢いで背後の壁に頭をぶつけすぐに伏せた。震えた両手で頭を抱える。
散々だ。あの日はただいつもと同じく森を散歩していただけなのに、沢山の人間が来ていつの間にかこんな緑のない場所へ連れてこられた。
変な服まで着せられて…何とか隙を見て逃げ出せたものの、既に森の気配なんて感じることが出来なかった。
魔法だって使えない。途中拾った布切れで身体を隠せは出来たものの、いつまでもこんな格好じゃ恥ずかしい。
娘は再度空を、今度は警戒して恐る恐るゆっくりと顔をあげ見上げる。
ここがどこの何かも、自分の住んでいた森がどの方角なのかも―――何も、分からない。
知っている事なんて人間たちが話していた「ないらん」がどーのこーのくらい。…ないらんって何だろう。
纏うボロ布の下に隠れた小さな羽を動かした。風はないが、布がパタパタと揺れる。

サラ > 「ここにずっといても…何も変わりませんわね」

ずっとこの場所に隠れていても、いずれ奴らに見つかる。どこかもう少し人間がいないところに。きっとどこかあるはず。
下を見た。地面を見た。…汚れた、裸足の自分の足を見た。
頭をを振って頬を叩き気合を入れた。ぱちんと軽い音が響く。そしてよし、と小さく掛け声。
そして勢いよく立ち上がった。艶やかな鱗を纏う、大きな尾を振る。こうしちゃいられない。

「まずは―――」

直後、愉快な音が鳴り響く。言わずもがな発信源は自身の腹。

「……おなか、どうにかしたい…」

気合を入れたばかりだというのに。
がっくりと項垂れたまま、とぼとぼと影を伝うよう足を進め始めた。

サラ > 裸足でよかったのかもしれない。
音もなく、ちらりちらりとあたりを見回して人間を避けるように進む。
どうしてこの場所はこんなにも大きな建物ばかりなのだろう。あと綺麗なお洋服着ている人ばかりなのだろう。
疑問符は進むたびに大量に増えていく。
途中なにやら美味しそうな匂いがしたものの、建物の中に入らないといけないらしく断念した。

「なんですの…この場所はリンゴの木一本もありませんの…」

国というのはこんなにも満足に食料がないのか!
私のいた森では、少し進めば何かしら成ってる木があるぞ!と1人憤慨。
…とはいえ気持ちばかり昂っても、鳴り止まぬ腹の虫のせいで一瞬で下降。

サラ > こんなところで餓死なんてまっぴら御免。どうせ死ぬなら幸せ死がいい。
ぱちんと、もう一度気合を入れ直す。

「…最悪石でもお腹に詰めたらいいんですわ」

ボロ布を纏った娘は奥へ、奥へ、暗がりへと足を進めた。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区/一角」からサラさんが去りました。