2015/10/14 のログ
■ティネ > 「へー? なんだろそれ……」
素でわからなかったらしく首を傾げ。
拒絶とともに立ち上がるその男の姿を、大した感慨もなさそうに見上げた。
「は、度胸があるというより、単にばかなんだよ。
見ての通りお脳が小さいわけだし――」
添えられた小指に、意外そうにつぶらな瞳を瞬かせてから、そっと自らの右手をあてがう。
覗きこむ葡萄色の視線を、ティネの――澄んだ紅い瞳が受け止める。
「それなら――もっと小綺麗なドレスを纏って化粧もしないと、
服飾規定で追い出されそうだけどね」
そう言って、淑女のようにたおやかに微笑んだ。
■シド > 「シドだ。よろしくな……えっと、ティネと言っていたな。」
握手代わりと小指を二三渡揺らしゆき。仰ぎ眺める赤き眼差しに片目を瞑って挨拶した。
されど表情は友好の笑みが強張る。なんだろうと、聞き返す言葉に眼の色が変わり――然して伏し目に葡萄色を隠匿していく。
「ほぅ、興味があったりするのか?だったら教えてあげよう。
密偵だ―― その小さな体なら隠れ場所も困らん。不正を働く者。悪巧みする者。そういう情報が俺には必要だ。
とても小さくて。そして人の言葉が理解できて。オツムもそこそこ確りしてる者がいるなら、是非とも雇いたいものだ。」
脳が小さいと宣うその光加減に金にも見える赤髪を優しく撫で擦る。
少々思慮が足りぬ彼女に伝わるかどうか不安なれど、今はその淑やかな笑みに心が満たされる。
「小さくても女性なんだな。ドレス、持ってるのか?腹が減ってるならば今すぐ連れて行っても良い。」
頭を撫でる指は壊れ物を扱うかにその小柄を包み込みそっと大きな肩の上にと乗せようとした。
■ティネ > 「ん、よろしくねー。
へー……! 面白いこと考えるんだねぇ、シドは。
おつむはまあ、人間の小娘程度にはあるよ。
少なくとも昨日何食べたかぐらいは覚えてるし」
素直に感心した様子できらきらと目を輝かせて、
アテになるのだかならないのだか曖昧な返事。
ティネにとって体躯の小ささを評価されたのは恐らく初めての経験だった。
悪い気分になるはずもない。
髪を撫でられて、んにゃあと気持ちよさそうに目を細める。
「んーん、あいにくとこれが一張羅。あるといいんだけどね。
おなか? すいてるー! ぜひぜひつれてってー!」
無邪気にそう言ってパンパンと服や肌の汚れを軽く払い、
手に包まれるままに肩へと運ばれた。
■シド > 「ああ面白いぞ。人の隠し事を聞くのは面白いし、それを俺に聞かせてくれるだけでお金が貰えるんだ。
興味があったらここにおいで。聞いてきたお話次第では、隠れて残飯を食べる生活から堂々と毎日美味しいご飯が食べられる生活にしてあげよう。
――ところで昨日何を食べたの?」
少々不安はあるものの、家紋が入ったピンの裏側に筆を細やかに走らせて
私邸の場所を記載していく。そして紐で結んで彼女の首に掛けてあげようと。
不格好だが大きめな首飾りに見えるやもしれない。
肩に乗せた友人と暗い路地裏から温かな街灯が立ち並ぶ通りにと出てきた。
柔らかな橙の光に包まれるレストランにと入れりゆき、優雅な旋律奏でるレストランの中へ。
皆が皆、肩越しの妖精に視線が向けられるに大きく息を吸い込んで。
「男爵のシドニウス・アルケイオスだ。今日は小さな友人と食事をする。彼女は少々汚れているが構わないな。」
服装規定も臭いにも文句がない…文句を言わせないように、レストラン中に響くほど大きな声を捲し立てる。
されど皆、何も異論を挟まずそれぞれの食事に戻る、を見届けてから給士に導かれるままに席について。
「ええっと、とりあえず寒かったからスープだ。それと確りと冷えたエールを。
――ティネ。お前さんは何を頼む?」
肩越しにと視線を向けながら、その前に彼女からすれば壁ほどにもあるメニューを寄せていった。
■ティネ > 「わー、ありがと……
昨日はね、『黒猫のあくび亭』で――
……あ、これ言わなきゃだめ? 覚えてるよ? 覚えてるからね?」
ピンをありがたく受け取り、その問に答えようとして挙動不審になる。
『黒猫のあくび亭』とは平民地区にあるよくある酒場のひとつだ。
忘れてしまったわけではなく、そこで盗み食いを働いた事実をこの男に告げるのが
何故か急に恥ずかしいことに思えてしまったのだ。
「…………」
表通りへと出、レストランへとともに入り。
暖かくまばゆい光、紳士淑女の視線――続くシドの宣言に、肩の上で身を小さくしてしまう。
俯く。顔を赤くする。
おぼつかない視線がメニューの上を泳ぐ。知らない料理ばかりだ。
当然ながらこんな場所に足を踏み入れたことなどない。
「あ、えっと、……シドと同じの、でいいよ」
先ほどの、汚濁の中にも爛漫とした様子とは打って変わって……
自らの存在を恥じるような、輝きの失せた弱々しい調子で、そう告げる。
■シド > 「黒猫のあくび亭か……懐かしい。
言わなくていいよ。お前さんお金も持ってないから、盗み食いか残飯しかないだろうし
……いや、友達に分けてもらうって手もあるか。お友達はいるのか?」
肩越しに恐縮するその頭を撫でながら語りゆく。少しでも緊張を解そうと時折、わざと胸の所を触る戯れをして。
「ティネは俺とお友達、だろう?俺は貴族だ。領土も持ってる。大抵の奴らより偉い。
その偉い人と友達のティナも偉い。だから汚れた服を着ていても怒られない。何も恥ずかしいことはない。」
愛玩動物をあやすようにその顎元を小指で擽りゆく内にスープが運ばれてくる。
追加を受け賜わる彼にと何かを告げようとするも。彼女の言葉に唇を閉ざして。
「……とりあえずここに書いてるもの全部持ってきてくれ。このテーブルに溢れるほどにな。」
やがて食指そそる香がテーブルに満たされる。色濃く焼かれた七面鳥の丸焼きに、色とりどりの山菜の珍味、妖精サイズの彼女にも手で掴める甘味まで。
食材の山がテーブルという平原に埋め尽くされていく。
■ティネ > 「んん……うん。
友達は、まあ、いることはいるけどね……少なくとも昨日は、違った」
答えづらそうにもじもじと。
『懐かしい』という台詞には、『出来立て』の貴族だったという彼の言を思い出す。
「ひゃ! ど、どこ触ってんの。
う、うん……そうだね。友達……」
控えめな抗議の声を上げるものの、拒む素振りは見せず。
あまり貴族っぽい台詞ではないなあと思いつつ、
彼の指に身を委ねるようにして息を吐きだして、緊張を緩めようとする。
心臓が早鐘を打つ。うるさい。
「わ…………!」
食材の芳しい香りが胸を満たす。
展開された料理の軍勢に、まるで夢でも見ているかのように呆然と目を見開く。
こんな光景は、ティネが今の身体になる以前ですら見ることはかなわなかった。
「し、シド……大食いなんだね?」
混乱の果てに、そんな惚けたことを口走った。
■シド > 「じゃあもうそのことは聞かないよ。黒猫のあくび亭はどうだった?相変わらず人でごった返していたかな?
そうそう。声を出せ。お喋りのお前さんが黙ってたらそのうち風船みたいに膨らんで弾けてしまいそうだ。」
戯言重ねながらナプキンで手を清めてゆく。そしてカリカリに焼けたステーキを切ってゆく。
然し口には運ばない。細かく細かく何度も切り分けてゆき。
「ああ、大食いさ。だからお前さんがさっさと食べないと全部平らげてしまうかもな?」
やがて青年の歯先ほどの大きさになった肉片をフォークで差して肩口の友人の側に持ってゆき。
「はい、どうぞ。」
はてさて思考が追いつかぬ彼女がどう反応するかと葡萄色の眸は好奇心旺盛に輝いていく。
■ティネ > 「そーだね、なんか雑な連中ばっかりで……
みんな揚げじゃがばっかり食べてて面白かったよ」
そう口を動かしていると彼が狙ったとおりか、
緊張が解け、表情は元の明るい調子に戻りつつあった。
「…………」
戸惑ったようにひととき固まり、
しかし意を決し、青年に見つめられるなか口を開いてかぶりつく。
細かく切られたその肉もティネにとってはまだ少し大きい。
「……!」
新しい驚きに目を見開く。
はじめて熱に触れ、自らが冷えきっていたことを知った、そんな表情。
暖かさが舌を伝わって、全身の火を灯していった。
「おいしい!」
ぱっと笑顔を花咲かせ、上機嫌にそう言って、
シドの肩を飛び降りてテーブルクロスに着地し、皿の間をスキップする。
「ねーねー、もっと食べたい! あれも! あれも!」
さまざまな料理を指し示して、せがむようにシドを振り返る……。
■シド > 「揚げじゃがは美味いからなぁ……当分食べてない。今度久しぶりに食いに行くか。
が、こうして質が高い食事も美味いだろう?。」
香ばしい匂いに鼻腔を擽りその唇を開けと言わんばかりもう少し引き寄せる。
やがて味わい感嘆の声を零すのに頬が自然と緩んでいく。
「気に入ったようだな……おい。いくら友人といってもテーブルでスキップするのはどうかな?
ま、今日は見逃そう。好きなモノを好きなだけ味わえばいいさ。」
態と怒って見せるように眉を吊り上げるも笑みは消しきれず、目許は和らいだ儘。
まるで子供をあやすような心地に笑みを噛み殺そうとして殺め切れなかったような、朗らかな感情のひとひらが唇へと宿り。
はいはい、と彼女が要望するものを切り分けていく。そうして青年も肉を頬張りエールで流し込んでひとときを過ごすのだ。
富裕区の路地裏と出会いし妖精と、温かな食卓でのひと時を。
「……ところで、これ全部食えるかな?」
そんな疑問を挟み込みながらも終始笑みは移ろわず――
■ティネ > 「でもテーブルの上をスキップしちゃいけないなんてマナーはないでしょ?」
なんて得意気にのたまってみせる。
……そもそも、卓上を歩く存在は考慮されてない。
とはいえさすがに行儀が悪いと思ったか、ばつが悪そうに脚を閉じる。
切り分けられ、与えられるままにそれをいちいち踊るように喜んで口にしていく。
どうやら見た目よりも食物の許容量は大きいらしく、吸い込まれるようにして料理は彼女の口へと消えていくが……
さすがに最後の方は苦しそうに膨らんだ腹を撫で、卓上のシドの手の側で身を横たえた。
すべて片付けられたかどうかは――シド次第か。
ともあれ、願わずして人間らしい幸福な食事を終え、
感謝の意を告げて、幸せな余熱を抱えながら、シドとはひとまず別れるだろう。
彼の言っていた仕事の件に関しては、まあ、ちょっとは考えてやってもいいかな――
そう小さく呟いて。
ご案内:「富裕地区/路地裏」からシドさんが去りました。
ご案内:「富裕地区/路地裏」からティネさんが去りました。