2015/10/13 のログ
ご案内:「富裕地区/路地裏」にティネさんが現れました。
ティネ > それらほどには汚くはないものの、
当然ながら平民地区や貧民地区同様に富裕地区にも路地裏はある。

「おー、あるある」

そこを風の流れに漂うようにしてふらふらと飛ぶ小妖精。
路地の壁に備え付けられるようにして置いてある
大きな木の箱の上に、小鳥のようにちょこんと降り立ち……
うんしょと声を上げて両手で蓋をずらす。
すると――姿を表すのは夥しいゴミ。
そう……これはゴミ箱である。

可憐な外見には似つかわしくないルーター行為であった。

ティネ > 財産を持つことが限りなく不可能なティネは、
日々窃盗を繰り返すことで暮らしている。
この間、修道士の少年にそれを咎められたものの
盗まずして生きていくことは難しい。ではどうするか。

そこで、ゴミ箱――すでに人の手放したものを漁る分には
問題ないのではないか? という考えに至ったわけだ。

ティネが開いたのは飲食店のゴミが捨てられているゴミ箱である。
飽食の富裕層のゴミ箱であるから、贅沢にもまだ
食べられるものが大量に捨てられている。
漁るにはもってこいなのだが……

「くさっ」

臭いのである。
さまざまな食物のニオイが混ざり合っているのだから、
さすがにそれは顔をしかめるものともなる……。

「うーむ……」

ゴミ箱の縁で、ゴミの海をまんじりと眺めている……

ティネ > しかしそれも数分のこと。
まさか怖気づいて去るわけにもいかない。
生ごみの中、食べかけのパンの上にひょいと降り立つ。

「モノを小さくする魔法でも使えればいーのにな」

食べ物のゴミというのは大きいのはいいのだが
食べにくいし持ち帰りづらい。
もちろんそんな便利な魔法は使えない。今のティネには。

(いやらしいことで盛り上がってるさいちゅうなら……)

……情交中の全能感はおそろしい。
けどあまりあのような状態に進んでなりたい……とは思えない。
いやらしいことは嫌いではないが、自身の感情というのは
なかなか簡単にはできていないらしい。

生暖かい肉の欠片などを手を汚しながら取り、
持参した粗末な麻布に包んでいく。
このあいだの失敗もあるしあまり大量には持って帰らない。

ご案内:「富裕地区/路地裏」にシドさんが現れました。
シド > 貴族同士の会食の帰りだった。他愛もない情報を交わした以外、取り立てて成果もなし。顔は笑っているがその声は幾分低く相手の会話に頷くのみだ。
利用したレストランの外に出るときにはもう別れを算段して会話を切り上げる。交友した同族の背なを見送る後は小さく舌打ちをして帰路についていく。
そんなあまりにもつまらない日常だったから……ついぞ、瀟洒なる建造物の隙間へと誘われる。路地へと繋がる闇……風に乗るは漁る音。
その程度なら足など入れぬ……ただ微かに声らしきものが聞こえたのだ。葡萄色の瞳が路地裏に強く穿たれる。

「誰かいるのか」

鬱蒼と饐えた闇にと踏み込んだのは、鋭敏に感覚を尖らせた青年の探査の網に引っ掛かったから。微かな気配に耳朶の銀細工を小さく鳴らし。
一歩、また一歩、警戒しながら動く。やがては妖精が腰かけるゴミ箱の傍にと佇み視線だけを揺れ動かして。

「おーい。誰かいるのかー。襲われてるなら声をあげろー。悪いことしてるなら今すぐやめなさーい。」

腰の高さほどあるゴミ箱にその気配があるかと知らず、きょろきょろ周囲を見渡しながら声を出している。

ティネ > 誰何の声が路地裏に響く。
誰もいない路地というのは仕事がラクな反面、
こうして新たに現れた人物に気取られやすくなってしまう。
他人の気配の影に隠れることができないからだ。

「ひょえ」

別に悪いことをしているわけでもないが
知らないヒトに見つかって理不尽にひどい目に合わない確率は半々といったところだ。
とっさにゴミの山のなかに身を隠した。

……のはいいのだが、全身を隠しきれておらず
下半身が露出してしまっている。まさに頭隠して、であった。
生ゴミにのぞく白い人形のような小さな足や臀部はあまりに違和感があるし、
そもそも今隠れた動きが目に入ってしまったかもしれない。

シド > 何も帰ってこない。聞こえてきた声も、気配も途切れるのに張り詰めていた気を緩め、忙しなく動かした瞳を瞼の奥に隠した。

「……気のせいだったか。にしても臭いな。服に移らなきゃいいんだが。」

残飯の腐敗臭が鼻梁に微かに皺を浮かべる。己が白い衣服に汚れや臭いがついてないかと肩に鼻を添え、腕裾を撫で行くうちに視線が下に……。

「あ…?」

酸化し茶けた残骸、見るだけで気分が悪くなる其れに、不自然なものが映る。人形の足……とも思えるそれに考える前に手を伸ばしていた。
逃げないならばその脹脛を指でそっと掴んで逆さまに持ち上げて葡萄色の傍に寄せようとしていく。

ティネ > 完璧に隠れたと思ったが、それはふくらはぎをつままれたことで
過ちであると悟る。しかし時すでに遅し。

「う、うわー、はなせー! 食べられないぞー!」
キンキンと甘ったるい声。
逆さまに引っ張りあげられ、鼠ほどの背丈の少女が登場する。
白かったであろう着衣は残飯で汚れてしまっている。
涙目にじたばたと手足を動かして抵抗してみるが、手から逃れるにはあまりにか弱い。
中身が見えないように服のスカートにあたる部分は手で抑えつつ。

シド > 「ほぅ……これは珍しい。フェアリーか。ガキの頃に婆ちゃんの寝物語で聞いたが……実在するなんてな。」

まみえるは精巧な人形細工に等しき造形。此方に眸を寄せて批難の声をあげるは傀儡になせぬ感情のなせる業。
少々衣服が汚れていれどもその細い手足は確かに夢物語にみた幻想の存在と重なる。
――暫し顎に手を添えて嬉々と見つけた後にそっと元の場所に下ろしてやり。

「食べないよ。食べるには臭いがキツすぎる。」

衣服が地につかぬよう、慎重に腰を下ろしていく。その微笑む顔を塵に腰掛ける妖精へ。
未だ興味移ろわぬ葡萄色の暈には鏡のように妖精の姿を映らせる。

「それで。なんでこんな臭いところにいるんだ?」

ティネ > 「いやー、本当にいるんだよ、びっくりだよねえ」

他人事のようにそう応じる。
そっと下ろされて、小さい存在への不条理な害意を携える存在ではないと悟り、ふう、と安堵に息をつく。
ゴミ箱の縁へとぺたんと座った。

「あ、やっぱ臭い? だよねー……あー、乙女としての尊厳……」
トホホーという表情。さきほどとは別の理由で涙が出そうになる。
さっきゴミに潜った時もかなり戻しそうになったがこらえた。

「いやー、ごはんを探しててね。
 富裕層の連中、普通に食べられそうなのまで捨てちゃうんだよ?
 不届きなやつだよねー。
 だからこのボク、ティネ様が有効活用してあげようって思ってさー」

まるで寝物語に聞かせられないような台詞であった。
確かにゴミに目をやれば野菜くずや魚の骨にまじり、
料理がまるごと一皿捨てられたかのようなものまである。

喜々として語る途中で、妖精はハッとした表情を見せた。

「……ひょっとして貴族様でいらっしゃる?」

身なりもいい。少なくとも上流階級に連なる存在である可能性が高いことはわかる。
不興を買ったかなー、と、半笑いで表情を伺う。

シド > 「その乙女の尊厳を汚してまで何を探してたんだ。妖精の宝物でも人間に盗まれてしまったのか?」

警戒解ければ随分と饒舌になる……柔らかく眦垂らして聞き役に徹して思うはそんなこと。微笑み携え未知なる存在との邂逅を楽しんでいた。
が、その表情は妖精が腰掛ける残飯と等しく、少しずつ、少しずつ、腐食するかに微笑みが崩れ落ちてゆく。
少年のように輝く眼差しは長い睫毛に隠されて、視線は横に逸らされる。表現しがたい感情に髪を掻きながら微かな侮蔑と憐憫が声に滲み始めた。

「つまり、野良犬のように人間のお零れに預かっていた、と。
 妖精が残飯荒らすなよ。森で蜜でも啜ればいいだろう。夢が壊れる……乙女としての尊厳の前に妖精の尊厳を持てよ。」

得意気に語る小さな頬を指先で軽く押しながら寝物語を汚す存在を訴えた。

「ああ、そうだよ。貴族様。貴族様がこんなところに来る時点で、お前のことをとやかく言えないか。」

不興など微塵もないはにかむ笑みで指を引いた。

ティネ > 頬を指で押されれば、大げさとも思える動きで反対側に身を揺らす。

「花の蜜じゃあお腹は膨れないからなぁ。
 ……ボクは動物性のアレがないと生きていけない妖精らしくって。
 お兄さんのゲンソーに棲むみたいな、純粋な存在じゃあないんだよ」

力なく、軽い笑いを見せる。
彼の言うように過ごせるのではないか、と考えたこともあった。
けれどティネは純粋なる妖精ではないために、
ヒトの暮らしからは遠く離れることはできないのだ。

「へぇ、そうなんだ。
 ……言われてみれば、なんでお連れもなしにこんなところに来たの?
 一人にでもなりたかった? それとも、妖精でも探してた?」

特に咎めもないことがわかり、首を傾げて軽口を叩く。
やっていることは完全にスラム街の孤児なのだが、
貧富のシステムからは外れた存在であるために、
貴族にはさほどの悪感情、またはその逆も抱いていなかった。

シド > 「妖精は妖精でも肉食系の妖精か。そりゃ森で生きるより街で生きたほうがいいな。
 しかし、綺麗な服を汚してまで飯にありつかないといけないとは。
 世知辛い……誰かに飼われるとか、何か仕事をして金を得るとかして。
 せめて温かいスープとパンでも食べてほしいねぇ。」

それも無理かとかくりと首を下げてゆく。相手の素性は分からねど、夢見心地で見据えた存在の苛烈な環境に嫌悪感すら覚える。
自閉にも似た思考だったかもしれない。もう少しこの国の政治がまともならば、異種族たりとて衣食住困らない。
また己がこの国にもう少し貢献していたのならば、彼女の訴えにも真摯に取り計らえると。
双方とも叶わぬ青年は垂れた頭をもあち上げる。前傾姿勢に肩に滑る銀髪を後ろに流しながら葡萄色の輝きはじっと続く言葉に耳を傾けた。

「貴族といっても毎日豪遊できる奴ばかりじゃない。うちは「出来立て」なんだ。今日の従者は俺の家で書類整理をしている。
 好き勝手行くのにいつでも人を回せる余裕はないのさ。

 ――ここに来たのは……そうだな。つまらない日常から抜け出したかったかもしれないし。
 施しを与えにきたかもしれないな。

酷くゆっくりと妖精の前に拳を伸ばす。何度も開いては何も入ってないことを見せてから……ぱっと掌を広げるとまだ封が切られてない携帯用のパンが現れて。

ティネ > 「飼われてやってもいい相手はいないし、
 やれそうな仕事も思いつかないなあ。見世物小屋とか?
 ……それは仕事じゃないか」

この余裕のない国で、
家柄もなく、強い肉体を持たず、大した魔法も使えない存在が
人並みに生きていくことなどできるはずもないのだ。

露骨に落胆した様子の男に、眉を寄せてそう応える。
思ったよりも『いい人』である彼を前に、少しの悲しさ、後ろめたさが去来する。

盗めば修道士に咎められ、漁って汚れれば貴族の夢を壊す。
あちらを立てればこちらが立たず……
どうにも世の理というのは、ままならない。

差し出されたパンを、まだ受け取りはせず。

「それを与えたいなら……
 ボクと友達になってよ。名も知らぬ貴族さま。
 ゴミ漁りの妖精となんかじゃ、いやかい?」

上からの施しなど受けない、そういうことだった。
わざとらしく肩をすくめてみせた。

シド > 「そうかぁ。その小さい体なら出来ることは山程あるが……いや、いいか。それより食え。塵なんて食い漁ると腹に虫が住み着くぞ。」

脳裏に過ぎるもの。今は相応しく無いと振りかぶりて手品の如く出したパンをもう少し近づける。
やがてその手は緩やかに引いてゆく。顔ははんなりと笑みは崩さぬものの口端だけが釣り上がり。

「腹が座ってるなぁ。残飯漁り貴族様なんて言っておきながら、プライドはあるか。
 ――流石にごめん被る。ゴミ漁りの妖精と仲が良いなんて知れたら名声が傷つくからな。」

拒絶の言葉と伴い和えかな空気を引き裂いてしまうかに勢い良く立ち上がる。
されど去ることはせずにじっと眺め下ろし。

「ここで友情を結ぶのはごめんだ……だが、こんな腐った場所でなく。表の綺麗なレストランで共に食事をする友ならば良い。」

もう一度緩やかに手を伸ばす。今度は細い小指を、その少女の手元にと添えられて……。
柔らかに綻んで何時も笑みを絶やさぬ葡萄色の輝きが、そっと小さな眼に絡んで、揺れる。