2023/05/21 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にロゼさんが現れました。
ロゼ > (何度引き剥がしてもしつこい従者達を何とか入り口の馬車前に引き剥がし、此処暫く邸宅に箱詰めだった鬱屈を憂さ晴らすために訪れたのは、富裕地区――貴族用達のオープンカフェテリア。行き交う者達の殆どが品よく質の良い誂えを身に纏い、取り巻きや給仕を侍らせている。立ち居振る舞いも洗練されて鮮やか。設えられた豪奢な調度品によく似あう、高貴然とした店内の片隅に女は居た。比較的乏しい布地、肌を露わにするのを一片も厭わず、美しい浜辺の景観を望める絶景のオープンスペース卓上の一角で、大仰に突っ伏している。卓上で酔い潰れた酔漢宜しく、無作法と罵られても仕方がないくらい、ぐでんと卓上に崩れている。冷たい机面に頬肉を押し付け、むすりとした疲労困憊の顰め面で宙を見ていた。すぐ傍には飲みかけのアイスティーはグラスに汗を掻かせている。 ―――テーブルの下などには、つい先程まで爪先を治めていた煌びやかなパンプスが、素足に蹴とばされて転がっていた。) ―――――――ッ ぁ゛~…。(とても、貴族の令嬢が上げる声ではない。声と言うか、うめきだ。)
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にムーチョさんが現れました。
ムーチョ > ふらりと立ち寄ったオープンカフェテリア。
貴族ではあるが自身で守る術を持つゆえに従者も護衛も連れずに一人でいれば僅かに目立ちもするが、
時折店の端でキャンバスを広げている姿を覚えている者も多く向けられた視線は直に戻っていく。

逆に男の視線は普段自分が座る席に向ける途中にいる令状の姿からはかけ離れた自由に振る舞う女性がちょうどうめき声をあげていた。
肌の露出も多く、太陽の明かりで輝く女性。そばにあるアイスティーのグラスも汗をかき、それがさらに男の視線を誘う。
そんな光や存在に誘われるままに、つか、つかと歩み寄り、背後から声をかける。

「こんにちは、なにやらお疲れの様ですが、気晴らしにご一緒させて頂いても?」

と、穏やかな声色、低い声が囁かれた。

ロゼ > (ふと、背後から声がした。横合いに折り曲げた首を酷く気だるげに持ち上げて、――だが顎先を卓上に載せるだけでそれ以上は持ち上がらない。俯いていた姿勢から首だけ縦にしただけだから、絶景の広がる景色と汗かきグラスが見えるだけで声の主は見つけられず。)

「 …こんなの相手にしたって、なァんにも面白いことないわよ。」

(枝垂れる金糸の幾つかが頬か額かにへばりついているのを整えもせずに、未だ見えぬ彼の折角の申し出を皮肉るよう笑った。彼の推察通り女は疲れていた。何故みんなこの窮屈な世界で容良く愛想を振りまいていられるのだろう。青い瞳を半眼に瞼を重くさせ、すんと鼻を鳴らし。)

ムーチョ > 声をかければ気だるげに持ち上げられる小さな頭。
しかしながら、首を縦にするだけで、それ以上に持ちあがらない頭。
さらりとしな垂れる禁止のいくつかが頬や額にはりついたまま。
そんな様子すら男は楽しんでいる。
すんとややも不貞腐れるようにも鼻を鳴らす女性に向けられた言葉に小さく笑い。

「ふふ。気取った席で気ままに振る舞う女性はその時点でとても面白いですよ。」

貴族の社会にはいるが、その社会の片隅でその柵を気にせずに自由に振る舞う男。
魔力を操り、涼やかな風を女性に流しその肌を撫でていく。

「しゃべる扇はいりませんか?」

等とどこか楽し気に囁きかけながら女性の視界に入る様に斜め前に立ち微笑みを向ける。

ロゼ > (漸くとその姿を視界に収めたのは、横合いを過ぎ斜め前にまで歩を進めてくれた所でだ。馬の尾の様にくゆる一結びの金髪をちらと見上げ、詩人のように言を手繰る男の姿を青の眼でなぞる。―――確か、以前も此処でキャンバスを広げていた男ではなかったか。短な思慮もそこまでで打ち切って、”気まま”と嗤う彼へつられて笑った。)

「 ―――ッふふ、へんなおとこ。」

(気怠げな面貌をくしゃと縮ませて破顔し、卓上と顎の間に折り重ねた両腕を枕に敷いて少し視界を高くした。ふわりと風が流れてくる。肌に心地良い涼風で、少しばかり汗ばんだ額が潤った。しゃべる扇とは言い得て妙だ。女の興が少しずつ彼へと移ろってゆく。)

「 もう少し近くで扇いでくださらない。」

(とは、傍らの席を許したくてだ。やや気取った語調を繕ってから、片側の空椅子をすすめてみよう。)

ムーチョ > ようやく相手の視界に入った男。
ゆるく開かれた胸元に、白いYシャツに黒いパンツ。
背中でまとめたポニーテールは歩くだけで小さく揺れる。

変な男と笑う相手の横顔を男も楽しむ様に眺めていると、両腕を顎の下で組み、僅かに顔を上げた相手を撫でる涼やかな風。
僅かに汗ばむ額や頬を撫で、金糸をふわりと揺らしていく。

「ふふ。 これで遠くから扇いでと言われなくてよかった。これぐらいで如何です? もう少し冷たい方がよろしいですか?」

等と言葉を返し、隣の空椅子を軽く引き、その座席にゆっくりと腰を下ろす。
手を上げウェイターの気を引けばスパークリングワインと摘まめる簡単なフルーツを注文。
やや草臥れた様子の相手を男は静かに見つめ視線を滑らせていく。

ロゼ > (金色のこうべがテーブルの淵に並ぶ。女の方は幾分低い位置で転がっているだけだが――兎角。手慣れた様子で注文を終える男の顔を横合いに眺め、輪郭を辿って碧色の眦に落ち着いた。涼やかに皮膚を撫ぜていく風がただ純粋に心地良い。)

「 これくらいでちょうど良い。 すー、っごく気持ちいい。」

(やがてうっそりと瞼を下ろし、長いまつ毛を涼風に震わせて深く息をついた。夏のあわいにはこの男の存在は丁度良かろう――だなんて特段面白味の無い感慨も、口にせねばただ満悦げに涼を楽しんでいるだけ。やがてウェイターが彼の頼んだ品を運んでくるだろう、卓上に淑やかに盛られたフルーツの幾つかが、風にあおられて甘ったるく匂い立っている。)

ムーチョ > 男は寛ぐ女を無理に起こすような無粋な真似もせず、転がっている相手をそのままに注文を終え、
相手の表情を眺めながら魔術を編んでいく。

「それはなにより。 気だるげな表情も魅力的ですが、穏やかな笑みもとても素敵ですよ。」

等と言葉を向けながら、グラス二つと、透明ながらも厚い瓶のなかで小さな泡が生まれるスパークリングワインと盛られたフルーツ。
コルクが緩めば、ぽんっと小気味のいい音をたて耳を楽しませる。
ワイングラスの中に注げば黄色み掛かったワインが満たされていく。
水の注がれる音、解き放たれた炭酸がグラスの底からシュワシュワと上に向かい揺らめきながら立ち上り、
フルーツの甘い匂いの中に混ざるアルコールの匂いと酸味。
自分と相手の分を注ぎ終えてから、炭酸を封じ込める様にボトルのコルクを戻し、傍に置くと、
グラスの持ち手に手を添え軽く男が揺らせばグラスからは白く冷えた靄が下へとヴェールの様に垂れ下る。
視覚だけでも涼が取れるそれを相手の前に軽く滑らせて。

「さ、こちらでもどうぞ。 レディ。」

等と涼やかな男の目元、ウィンクも一つつけてみるが気取ったというよりも茶目っ気の方が強く。

ロゼ > (平生の笑みならまだしも、怠惰にだらけるこの体たらくへ賛辞を捧げる男などいやしない。だからだ、おべっかとも取れるような歯の浮く台詞を、真っ向から受け取ってみることにした。――つ、と伸ばした爪先で軽く彼の脛を小突いてみよう。)

「 それはそれは。至極光栄だわ。 」

(――しかしながら、何とも妙に手管の整った男だ。唇から紡ぎ出される言の葉も、ワイングラスやコルク、泡立つ炭酸を扱う指先も、まるで踊るよう、謳うように繰られてゆく。甘い果実の馥郁に酒精のほのかなにおいが混ざる。酒好きな女の鼻腔がささやかに痺れていく。―――くん、と鼻を鳴らして、鼻先に差し伸べられたワイングラスが琥珀色に煌くのを見つめた。其処でやっとうつぶせていた上半身を卓上から引き剥がし、グラスの括れを細指に摘まんで尖った唇の先をつける。)

「 ―――言っておくけど、あなたの奢りよ。」

(つん、として見せたのは冗談で、―――飲みっぷりよく、ぐびりと一気に喉を潤した。酒豪を極めた女の肚にはまだ浅い。)

ムーチョ > あらゆるものに美しさを見出し言葉や絵、像としてあらわす男。
どのように受け止められても気にはしないおおらかさを持つ。
爪先で脛を小突かれても小さく笑い。
そんな仕草もどこかつれない子猫のようで楽しく、自然と唇の端が持ち上がり笑み作る。
そうしながらも男の細く長い指がグラスを手繰り、魔術を手繰りグラスを冷やしてから其れを相手に差し向ければ、
漸く起き上がる上半身。
そして、顎の下で組んでいた腕が伸びグラスの括れに添えられる指先。わざと尖らされた唇。
つれない言葉に小さく笑い。
一人で飲み始めるのを咎める事をしないのは相手の振る舞いすら楽しんでいるから。
今はその自由で緩やかな会話を楽しんでいる。

「美しい女性と美しい景色。 御代には少々安いものですね。」

フルーツの皿を指先で軽く弾けば陶器の澄んだ音が響き、フルーツの表面が白く覆われていく。
殻になった相手のグラスに再びスパークリングワインを注ぎ同じように冷たくしてから、
先程作った凍った葡萄を指先で摘み自身の口に含めばしゃりと、音を立てるそれに満足げに頷き、
毒見を終えてから苺を一つ摘まむと相手の口元へと差し出す。
其れを指で取るか、それとも、体を傾け唇で取るか、はたまた外して相手の好きなものを指先で取るのか。

「さ、こちらもどうぞ。」

等と男は穏やかな笑みのまま相手を柔らかく見つめている。

ロゼ > (魔導の術とは如何様にして成り立ち、摩訶不思議を編み出しているのだろうか。男にとってなんて事の無いささやかな仕草一つでさえ、春のぬる風を涼やかにさせ、酒精を冷やし、果実に霜を下ろさせる。人の身の自分には扱えないから、傍らで繰り出されるそれが多少物珍しい。閉ざしていた瞼を翻し、はたはたと瞬いた。)

「 貴方が諳んじると、お世辞もまるで歌みたいね。」

(可笑しそうに眉尻を下げて笑った。だって本当にそう聞こえてしまうのだ。耳を小気味良く弾く凍てた果実を食む音に釣られ、ほんの少し口寂しくなる。―――タイミング良く、細長い指先が赤い苺を摘まんで近づいてくるではないか。一つまみの果実と男とを交互に見やってから、 ―――― れ、 と赤い舌を覗かせて唇を開いた。 食べさせろと云わんばかり。)

ムーチョ > 男の操る魔術。
見る者が見れば目を見張るようなそれも、今はただ相手の目や体を楽しませるもの。
聴覚や視覚、触覚、それぞれに涼を訴えていく。
そして向けられた言葉と相手の世事に男も楽しげに笑い。

「おや、仕草も姿も絵画のような貴女に褒められるのもくすぐったいものですね。」

等と楽しげに笑いながらしゃり、しゃりと葡萄を噛む男。
その音に惹かれた相手。
口寂しくなったタイミングでイチゴを摘みはこんで見せれば食べさせろと言わんばかりに開く唇。
覗いた舌の上にその苺を乗せれば、舌の上で転がりその熱を奪っていく。
苺から離れた細い指、凍らせた苺をつまんでいた冷えた指先で相手の形の良い顎を撫で口を閉じる様に促し。
触れた指先に感じる相手の肌の熱。

「まだ少し熱いようですね。」

そう囁くと、うっすらと汗ばむ柔らかな頬や額を低い体温の男の掌が拭い、肌に張り付いていた金糸を整え風にそよがせてからゆっくりと離れていく。

ロゼ > (楽し気に笑う男と共に繰り返す涼やかな戯れも、この後に【差し迫る所要】を想えば穏やかな憩いの一時となるに違いない。口腔に咀嚼した苺を嚥下し、酒の代わりを煽って勤しんだ一期の逢瀬を―――後に彼女はどう語るだろうか。)
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からロゼさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からムーチョさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にエヴィータさんが現れました。
エヴィータ >  
「は、ぁ…… ったく、あ、の、クソ、上司……っ、」

もう何度目かも知れない悪態を、熱い吐息とともに零して。
踏み出したヒール履きの足がふらつき、バランスを崩したからだを、
咄嗟に手近な塀へ取り縋ることで支えた。

富裕地区と呼ばれる界隈、瀟洒な邸宅の建ち並ぶ通りは、宵闇に蒼く沈んでいる。
人通りがないのは良いのか悪いのか、とにかく人目につかないことは、今のところ有難かった。
何しろ服装はと言えば、未だ、布面積の足りないドレス姿を、借り物のマントでなんとか覆った格好だ。
出来れば着替えたかったし、もっと言えば、今日は休みたかった。
けれども上司からすぐに報告を、と命じられれば、応じない訳にもいかず、
―――――今日は本来休日なのだ、などとうそぶく上司から、私邸の方へ出向けと指示されていれば。
どれだけ腹が立とうと、足許が覚束なくてイライラしていようと、行くしかないのだ。

加えて、今日はひどく具合が悪い。
マントの上からぐっと押さえた下腹は、未だ、蹂躙の余韻に疼いている。
顔だって赤いだろうし、息遣いも明らかにおかしい。
―――――ここが貧民地区あたりなら、きっと、とうに無事ではいられなかっただろう。
もっともこのあたりだって、安全だとは言い切れない訳だが―――――。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にコルボさんが現れました。
コルボ > 「あー、思ったより駄目だったな」

 財力、外交、武力。そういった総合力の範疇を越えて野心を持つ貴族が没落しては、
 やれどこぞの貴族の三男坊辺りが台頭する、やれ多くの貴族に金を握らせた商人が爵位を得るなどして新しい”家”が立ち並ぶ中、
 表向きは国の威信、腐敗を糾弾する若手にお目通りを願い、様子を伺ってきたが、
 フタを開ければ主張を盾に叩けば叩くほど埃が出てきてむせそうになる度合いで。

 ……最初の周囲の人間は信頼できる人間、もしくは口が堅いか硬くなってしまった人間で固めるくらいの輩が、以前よりも減ってきた気がする。

「さあて、あの家はどう報告するか……、んお?」

 ウエストコートを脱いで襟元を緩めてからため息一つ、そこで人の気配に気づく?

「おや? これはエヴィータ様じゃないですか。
 随分と苦しそうですが”お腹の具合”でも悪いので?」

 情報屋。男にとっては取引先の一つ。そして諜報員としての顔を知るもの。
 潜入の為に変じてから戻れなくなったことを気にも留めない、というより楽しんでいるのも承知の上で。

 ……いずれ、お相手願いたいと思っている一人ではあったが。

「この辺りは治安が良いとはいえ、日も暮れると油断できませんよ?
 ……よければどこかに向かうのであれば御同行しますが」

 そう言いながらコートを羽織り直し、近づいて寄り添い、その手がドレスの布越しに、肉へと触れる。

 男は信頼関係を大事にする。報酬も高い分、情報の確度も高い。
 そして人を売らず、裏切らない。
 ただ女癖が悪い。彼に泣かされて、しかしそれを公言しない女性も貴族の中では両手では足りないほどに。

 そんな男がきちんと同行すると言いながら、女として見据えていて。

エヴィータ >  
華奢な踵の靴を履いて、ふらふら、よちよち。
一歩ごとに下腹がずきずきと疼くから、もう、本当に踵を返して、
仕事など後回しに、自宅へ戻ってしまおうかと思い始めた頃。

憶えのある男の声が、己の名を呼んだ。
肩越しにのろのろと振り返っ―――――た、ときには、もう。
ひたと寄り添った男の腕が、細く縊れた腰を絡め取っていた。
反射的に、びくん、と身を跳ねさせてしまいながら、
紅く火照った頬を歪め、せいいっぱい、剣呑な眼差しを向けて。

「き、やすく、触んな、スケベ野郎……っ。
 おま、えと、一緒の、方が、危ないっ、つの、…――――手、離せ」

流れるように身を寄せて、するりと腰を抱いてくるような男を、
誰が信じられるものか、特に、護衛役としては。
しかし、必死に掻き合わせたマントの奥で、下腹の奥に熱がわだかまり始めているのも、事実。
ぎこちなく身を捩らせ、距離を取ろうとする間にも、唇から零れる吐息は熱く、どこか悩ましげに。

コルボ > 「そうは言われても、一人で”女性”をこんなところを歩かせては? という感じで?
 ……あー、家に向かう、のではなく、出かける途中、と……。
 上司から断れない”お願い”をされた感じですか?

 ……でしたら、お相手していただければ、今日のところは取り持つこともできますがね」

 諜報員、それも貴族の三男坊。家の恥と呼ばれて良いように使われてる”女性”を救えるのだという。
 その対価は明らかにあからさまではあるが、……どうやら表情や振舞いから女癖の悪い男は変化に気づいているようで。

「これでもエヴィータ様のこと、嫡男殿達御兄弟より見込みがある方だと思ってるんですよ……?」

 まるでコートの中に呑み込むように、囁きながら、ゆっくりと覆い隠して、艶めいた吐息を吐き出す唇を指で撫で始めて。

「そう言った方の色々な不都合を取り除いて差し上げたいと思うのが、支持する者の本心、というものでして……。」

 本心。耳元で囁く。男は裏切らない。嘘を吐かない。信頼を第一とする。
 女を口説くにも篭絡してから。

 だから、きっと、守るのだろう。今日も上司からなんとか抜け出す方法も用意して。

 その対価として、両の手が熱に帯びた体を要求してきて、コートの中にその肢体を外界から隔絶していく。

エヴィータ >  
「―――――… しら、じらしいこ、と……言っ、て、
 おい、……… おま、え、―――――――― んっ、ぅ……、」

己がもとは男であることも、当然知っているはずの相手だ。
女性扱いなどしてもらっても、なんともうすら寒い。
その上、あまりにも正直で、あけすけな『交換条件』の提示に至っては、
もう、怒るよりも呆れてしまうほど、だけれど。

男の懐の中へ、広げたコートの中へと、閉じ込めるように抱かれる。
言い返したくて口を開くのに、震える唇を男の指先がなぞり、擽り、
ただそれだけでたまらなくなって、己は目を細めて小さく喘ぐ。

拘束された訳ではない、逃げるのも、きっと難しくない。
けれど、それでも、―――――喉が、浅ましく鳴ってしまった。

「――――… あ、る、ける、限り…… 今夜、じゅうに、来い、って、言われた、んだ、
 だから、……… あ、るける、限り、は。 行か、……行かな、きゃ…… ぁ、」

ふらついてはいるけれど、未だ、歩ける。
だから、今夜、上司に言い訳を通すならば―――――歩けなかった、という、
既成事実が必要なのだ。
『それ』がどういう意味なのか、頭の回転の速いこの男なら、きっと理解するだろう。
むしろ、わからないなんて言わせない、というように、濡れた瞳が男を振り仰いで、睨みつけていた。

コルボ > 「しらじらしいことを腹芸などと称し、その実選択肢のない状況に陥る。
 良くある話でしょう?

 ……というより、現状楽しんでるところもあるでしょうに」

 本当に戻るつもりがあるなら、男に戻る方法も捜索しているだろう。
 一応以前から自分も調べて、捜索に必要な網の”点”に監視も光らせていたが
 そういう同行はなかった。だから自分も調査を打ち切った。

 今誘いをかけているのもその結果を含めてのこと。

「だから今日は丁重に”レディ”をおもてなししますよ。
 ……それに今日は上司にも”急な用事”が出来て寝室に向かうでしょうしね」

 上司の好みの女も心得ている。確か数人目をつけてるが予約をそでにする娼婦が数人いた。
 そちらの都合を開けてやることも出来る。

 男よりの思考を持ちながら女に崩れてきている目の前の”雌”を愉しむには相応の対価で。

「歩けなくなるなら、ヒールはもう履かなくていいですよね?」

 コートの中でドレスの肩口に手をかけて、引き下ろし、豊かな胸を鷲掴みにしていただきをせわしなく爪でカリカリと引っ掻いて煽り立てて。

「ほぉら、いたいけなレディはわるぅい吸血鬼に噛まれて言いなりになるしかない……。」

 首筋に甘く歯を立てて、太ももを膝で割り開き、雌の片手を自分のズボンのジッパーへと導いて。
 既成事実が出来るのだ。ならば、せめて馬鹿らしい理由と言い訳で上司を嘲笑えばいいと”同業”は言葉のあやで誘いをかけて。

 ショーツを引き下ろし、即座に”毒牙”にかけてやるぞと。

エヴィータ >  
「、――――――――…って、戻れないん、だから。
 どぉしたって、戻る方法がわかんない、なら…… そんなの。
 流れに、任せるしかない、だろ…… せいぜい、楽しんで、さ」

どんな禁術を用いられたのだか、己はそもそも騙されたのだか、
何もわからないのだ、ならば無駄に思い悩むなんてのは、己の性には合わない。
とはいえ、己は所詮、まがいものの『オンナ』だ。
なのにその『オンナ』を今宵一夜、腕に抱いておくために、上司に女まで手配すると聞けば、
もう、笑うしかなくて―――――同時に胸の奥が、からだの芯がひどく疼いて。

カツン―――――カツン。

軽やかな音を立てて、華奢なヒールをあらぬ方へと蹴転がす。
男に暴かれるためのものとしか思えないドレスの生地は、しゅるりと呆気なく引き降ろされ、
ぷるりと弾んでまろび出た乳房へ、痛いほどに男の手指が食い込む。
縊り出されて、つん、と上向いた薄桃色の先端を弄り回されれば、不意に腰が砕けそうになった。
なかば無意識に、後ろ手に男のからだへと縋りつき、

「吸、血鬼、じゃ…… しかた、ない、よな、ぁ……。
 こっち、は、ただの、人間、だし…… か、弱い、女、なん、だし?
 か、まれて、吸われ、て……… ハメ、倒されちゃ、て、たら、
 朝ま、で、……逃げ、らんない、よな、ぁ…… ぁ、んっ♡」

薄っぺらいショーツ越しの股座に、男の腿が分け入り、触れる。
無毛の花園はきっともう、じわりと湿り気を孕んでいる筈だ。
誘われて、促されて、片手が男の股間へ伸びる。
やや性急な手つきで前を寛げ、男のもちものを誘い出そうと、白く細い指を奥へ忍ばせながら、
男の腿へ跨る格好になった腰を、ゆる、ゆる、前後に揺らして熱を伝え。

コルボ > 「せいぜい、ねえ。まあ、確かにそうか。」

 諜報員と違い、情報屋は仕入れた情報の確度によって報酬が変わる。
 分かる分からないは二の次、仕入れられればそれだけ情報の希少性が上がる。

 そんなことを、普段の気質であれば考えるのだが、目の前の貴族は魅力的過ぎて、
 ひとまず思考の片隅に置いてしまい。

「ああ、仕方ないさ……。たまたま、運よく朝に逃げ出せるだけの運と実力がアンタにはあるんだからな……?」

 笑い、縋りつけば腰を抱き、じゅるじゅると音を立てて首筋を吸い立てて理由を作る。
 まがい物のオンナでも、明らかに、確実に酔いしれて、男の手に堕ちる。
 それが、己が一目置く諜報員であればなおさら背徳感が駆り立てられる。

 ……嗚呼、この人は気づいていないのだろう。たまたま諜報員となったのだろうが、
 その心根には諜報員に必要な素養が確かに息づいているのだと。

 そんな人が、芽吹く前に己の手で、女の姿に留まって、蕩けた声を紡いで。

 誘い出された男の逸物は、貴女の手をはじくほどにいきり立って姿を現し、
 今すぐにでも”眷属にしてやるぞ”と訴えかける

「もう私の寵愛を受けるじゅびは出来てるようだな?
 壁に縋りついて尻を突き出せ、我がしもべよ。
 今日は一晩時間をかけて愛でてやろう」

 ひとまずは燻ぶった熱を晴らす為にまぐわって、その後はどこかに連れて行くのだと囁いて。
 ショーツのクロッチをずらしながら、先端を押し付けて、
 言いなりになってしまえばずぶずぶと亀頭を捻じ込ませていくだろう。

 熱が、臭いが、雄の質量と脈動が貴女を”眷属に変えて”いきながら、
 大きく腰を引いて”ご主人様”が強く腰を打ち据える。

 何度も、何度も、貴女をご主人様の為に生きる眷属に堕としていくために柔肉を抉っていく

エヴィータ >  
「……これは、これで、楽しいん、だよ?
 なんなら、おまえも、……なって、みたら、い、い」

そんな不穏なお誘いは、勿論単なる冗談だけれど。
首筋へ男が顔を埋めてくれば、俯いて、頭をわずかに傾がせて、
無防備な白い首筋へ、男が紅い刻印を散らすに任せつつ、
爪先立ちに、形の良い臀部を、男の下腹へ柔く擦りつけたりなども。

探り当てた雄の象徴は、既に熱く、硬くそそり立ち、握り込むのも容易ではない。
根元から先端へ、くぼみを探って雁首を擽り、今度は的確に、裏筋をなぞりながら這い降りて、
指先に蜜を、掌に熱い脈動を感じるうち、ますますはしたなく股座を濡らしながら、
夜更けとはいえ天下の往来で、か細くではあるが、掠れた喘ぎを洩らし始め。

「ん、ぁ、はぁ、っ……… あ、さましい、雌で、ごめん、な、さい……。
 ひ、と晩、じゅ……う、抱いて、愛して、くださ、い、ますか……?
 ―――――― ぁ、ァ、 んくぅ、ぅっ……♡」

こんな、いつ、誰に見られてもおかしくないようなところで。
けれどだからこそ、どうしようもなくからだが濡れてくるのを感じながら、
『眷属』に相応しく言葉つきも、声の甘さも変えて、すぐそばの壁に手をついた。
後ろへ突き出した腰を、男の手ががっちりと捕らえ、引き寄せて―――――
濡れそぼった花園へ、雄の穂先が埋もれ、沈み、ずぶずぶと捻じ込まれる。
弓形に背を撓らせ、仰のいた喉から擦り切れた泣き声を洩らしながら、
己はほとんど無意識に、濡れて蕩け切った肉洞をきゅうきゅうと締め上げ、
最奥を目指し突き入れられる熱杭を、根元から先端へ、揉み絞るように絡め取る。
ぽた、ぽたっ―――――コートの裾から覗く、女の白い素足の間へ、透明な雫が滴り落ちて、
女のからだがただ、雄を叩き込まれただけで、絶頂のきざはしを昇り始めたことが明らかになる。

ふわり、女の肌から立ちのぼる、発情の香り。
そうして己は、火照った頬を淡く綻ばせて。

「お、っき…… ごしゅ、じんさ、まの、すごく、きもち、い……♡
 ね、ぇ、もっと、もっと……め、ちゃくちゃに、して……♡」

この夜がいっそう長くなるかも知れない、そんな台詞を吐くのだった。