2023/02/24 のログ
■クレイ >
「……ん?」
ふと思いつく。知り合いの貴族はもう中でご一緒している。つまりこの場にはいない。
俺は帰れない。なぜ? 貴族への義理だ……誰への義理だ?
もう一度見る。よろしくやる為に自分が義理を果たすべき相手は既にこの会場にいないではないか。
「……」
端から移動する。戦場で敵に襲われない為に逃げるというのは生き残る為には必須の技能だ。
ガチの戦士から逃げ切れるスキルを持つ自分が訓練していない相手から逃げられないわけがない。
こうして気が付いたときには会場から傭兵の姿は消えていた。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からクレイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にエヴィータさんが現れました。
■エヴィータ >
「失礼致します、旦那様―――――……」
両開きの扉を静かに押し開け、まずは恭しく頭を垂れた。
たっぷり三拍ほどおいて顔を上げ、室内をひとわたり眺めやる。
金に飽かせた、趣味の悪い家具調度で彩られた部屋だ。
この屋敷の主が、執務室として使っている―――――しかし、主の姿は無く。
「ふぅ、ん………やっぱりさっきの馬車、旦那様のお出かけだったのか」
お掃除に伺いました、という言い訳のため、携えてきた布巾をひらひら振りながら、
メイドには似つかわしくない、大股歩きで室内へ入り。
後ろ手に扉を閉ざすと、真っ直ぐに正面奥、大きな窓を背にした執務机へ近づいた。
山積みにされた書類を、うんざりした表情で見降ろし、
「て、いうか、……この量、この散らかり具合……
大事なものも大事じゃないものも、これじゃ分からないじゃないかよ」
ぼやきながらも、手をつけぬわけにもゆかず。
机の片隅へ布巾を置いて、手近な山に手を伸ばす。
積み重ねられた書類を流し読みするだけでも、随分手間がかかりそうだ。
主が本当に出かけていれば、そして、帰りが遅ければ―――――それにしても、間に合うかどうか。
■エヴィータ >
―――――――― かちゃん。
不意に、部屋の何処かから微かな金属音がした。
正確には部屋の中の何処かではない、床下に当たるような、壁の向こうでもあるような。
はっと息を呑んで、もう一度周囲を見回したとき。
向かって右手の壁に沿って置かれた、悪趣味な立像がじりじりと動いているのを認めた。
隠し扉かよ、などと呟くより先に、素早く身を翻す。
メイドに化けた女が部屋を出て行くのと、隠し扉から主が姿を見せるのとは、
ほとんど同時であったという――――――。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からエヴィータさんが去りました。