2022/11/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にアストラさんが現れました。
アストラ > 月が照らす夜の時刻。日付が変わるか変わらないかの遅い時間だ。
マグメールの富裕地区は夜間の出歩きをしても比較的安全だと言われる治安の良さがあった。
平民でありかつ冒険者である身の上ではこういった場所を昼間歩くとあまりよろしくない視線を向けられるので、ゆっくりと観光するならば夜に限る。
貴族や王族らが利用する馬車が通る道は広く丁寧に舗装されているので、ヒールの高いブーツでも歩きやすい。
黒いドレスローブを纏い、帽子をかぶって、蒼みがかった長い銀髪を夜風に遊ばせる。

「平民地区に比べて、大衆系のお店は少ないのねぇ」

きっとどこも一見お断りの紹介制ばかりのお店なのだろうと思う。
そういう店の外観やショーウインドウだけでも見て歩くのは楽しいものだ。
豪奢な邸宅や劇場、音楽堂など文化的な施設の外観には歴史を感じさせる美があるので好ましい。
中には、アングラで悪趣味な施設やクラブもあるというが、どちらにしても今のアストラが訪れることはないだろうと思っている。興味はあるが。

周囲に人気はない。ところどころに衛兵が立っているだけ。
そんな富裕地区を探検する気持ちで、歩いていく。
誰ぞに怪しまれれば冒険者としての身分証を見せるだろう。
平民の冒険者がこんな場所で騒ぎを起こせば、一発で奴隷落ちするだろうから、行動は慎重に────というのを果たしてどこまで守れるか。
アストラは好奇心旺盛で楽観的なので、気になることや興味を持ったことがあればひょいひょいと顔を出してしまう癖がある。

日々なるようになる、という考えで、今夜も何かあってもなくても、それはそれとして楽しむのだろう。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にマヌエラさんが現れました。
マヌエラ > 夜の富裕地区には、この時間帯に似つかわしくない幼い姿があった。
夜間、寒さの増してきた中でも寒くないよう、もこもこした服に身を包んだ、まだ幼い少女――に、見える存在。

これが昼間の平民地区なら、微笑ましい光景なのだが、この時間帯にうろついているのはいかにも不自然だった。
しかも、真夜中の暗さに怯えるでもなくその足取りは軽い。

「人がいないと、昼とはちがうところに来たみたい!」

弾む声。笑いながら、無人に等しい町並みを楽しみ――。

「あら?」

長い金髪の合間に輝く瞳が、同好の士を見つけた。

「こんばんは、お姉さんっ! おさんぽ?」

にこにこ笑いながら、アストラに近付いていくのだった。

アストラ > 「あら?」

大きな通りを抜けて別の道へと進んでいた先にいたのは、とても小柄な少女。
こんな時間に一人で出歩いているのは不自然だと思うものの、何か事件性があるのではないかと心配にもなる。
しかし近づいてきた少女の表情に浮かぶのが笑顔であれば余計に混乱する。

「ええ、お散歩よ。可愛らしいお嬢さん、あなたはどうしたの?」

とても長い髪をした、防寒具に身を包む幼さを残す少女に、膝を屈めて目線を合わせる。
こわがらせないようにと微笑みながら、迷子とかではなさそうだけれどと少女の様子をうかがって、必要ならば家まで送り届けるつもりでいるが。

「ここは安全な場所だけれど、こんな時間に出歩くのは危ないわ。何が起きるかわからないもの。お姉さんがおうちまで送りましょうか?」

小さい子供に言い聞かせるように優しい声音で首を傾げ、提案してみる。

マヌエラ > 「まあ! かわいらしいなんて、うれしい!
おねえさんこそ、とってもきれいだわ!」

自分の頬をおさえて、照れたように笑う。
目線を合わせて気遣う優しさを見せてくれるアストラに、両手を広げて。

「わたし、おさんぽしてるの! おねえさんと、いっしょ!
 夜の町って、面白いのね。ちがうばしょみたい!」

自分の感じた楽しさを共有しようと言い募る、が。

「あぶない……のね? おもしろいのに……」

夜の危険など分かっていないように、小首を傾げるも、アストラの言葉に納得したのか一度うん、と頷いて。

「え、ほんとう!? おうちに送ってくれるの?
 おねえさん、とってもやさしいのね! おねえさん、いい人、だわ! ありがとう!」

すっかり懐いて、ぺこりと頭を下げる。

「わたし、マヌエラというの……おねえさんは?」

アストラ > 子供特有の明るさとはにかむ様子が可愛らしくてついつい頬が緩んでしまう。
お散歩をしているという少女に夜の危険性を説くも、あまりわかっていないような仕草を見れば小さく笑って首肯する。

「ええ、時間が違うだけで、いつもと違う風景になるのはとても面白いわ。小さくても立派な冒険家さんね」

納得してくれたのがわかれば、彼女が楽し気に言い募ろうとしていた楽しさを同じ気持ちであると伝えよう。
折角の楽しみに水を差すだなんてかわいそうだ。

「どういたしまして。マヌエラちゃんと言うのね?
 私はアストラよ。冒険者をしているの。怖い人が来てもおねえさんが守ってあげるから安心してね」

懐いてくれる彼女がとても可愛い。
アストラは小さい子や年下の可愛い子に弱いのだ。
立ち上がって並び立てば、一緒に行きましょうねと手を差し伸べる。

「それじゃあ、おうちまで案内してね」

マヌエラ > 「ぼうけんか……わたし、ぼうけんか、なのね!」

嬉しそうににっこりと笑う。

「おねえさんは、すてきな言葉をたくさん持っているのね!
 アストラおねえさん……ね。わたしはぼうけんかで、アストラお姉さんはぼうけんしゃ! おんなじね!」

更に差し出された手に、ますます嬉しそうに笑って、小さな掌できゅっと握り返した。

「はぁい! えーと、あっち!」

繋いだ手を、楽しくてたまらない気持ちを抑えられずに、大きく振りながら歩き出した。

「うふふ、アストラおねえさんといっしょ、うれしいな!
 アストラおねえさんと会えたから、今夜のぼうけんは、だいせいこう!」

足取り軽く、進んでいくが――冒険者であるアストラは、あるタイミングで気付いただろう。
いつの間にか、衛兵の姿すら見えなくなっていることに。
それどころか、奇妙な靄がかかり、周囲の景色がおぼろげになっていることに。
そして、足下の生前たる石畳に、奇妙に生物的な柔らかさを感じ始めることに――。

「アストラお姉さん、こっち!」

マヌエラは、アストラへの好意を隠すこともなく、手をぎゅっと握ったまま、先導を続ければ――気温すら、夜気の鋭さが失せて、どこか生暖かさを漂わせ、見上げる月も靄の向こうで二重となり始めていた。

アストラ > 小さな子が楽しそうに笑顔でいるとこちらまで幸せな気持ちになってしまう。
時間も時間だが、こっそりお忍びでお出かけをしたどこかのお嬢さんなのだろうなぁと思う。
きっと遠からず彼女の護衛がいると思うので、接触してきたらきちんと引き渡そうと決めた。

「ふふ、ありがとう。ええ、マヌエラちゃんとおんなじよ。私たちお揃いね」

嬉しそうな様子で手を握り返す少女の手を取って歩き出す。
大きく振って夜の冒険を楽しむ小さなパートナーの姿を微笑ましく見守りながら、夜の道を歩いていく。

 ────異変に気付いたのは、人の気配がどんどんとなくなって、衛兵すら見えなくなった頃か。

流石に夜間警備の兵すらいなくなるのはおかしいと思った時には、遠くの景色を朧気にする靄がかかり出していること。
ヒールが石畳を叩く音も聞こえなくなれば、これ以上先には行くべきではないという警鐘が鳴り出す。

「……マヌエラちゃん、こっちの道はだめだわ。一度引き返しましょう?」

それでも手を引く小さな子にそう呼びかけるが、足取りが止まらず手を引っ張るならば此方も止まれず、連れていかれる形になるだろうか。
ついに周囲の景色がよく見えなくなり、異様な空気感を覚えれば背中に携えた杖の柄に片手を伸ばして掴む。

迷うことのない足取りで進む少女と自分が見ている景色は違うものなのだろうか。
幻覚や幻影の類を疑いつつ、周囲を索敵しながら、少女の手を握り締める。

「マヌエラちゃん、私から離れないでね?」

この子を守らなくてはという年上の冒険者としての矜持。
その手を繋いだ子が「誘導」したかもしれない可能性については、思考から抜け落ちているようだ。
周囲への警戒はしたままだが、貴女に対しては無防備である。

マヌエラ > 異変に気付いてからの思考の巡りは早く、対応にも卒は無かった。
ただ、アストラはこの異変を潜り抜けるには優しすぎたのかも知れない。
清廉なプライドと庇護心……その美徳が、彼女を罠に嵌めた。
手を繋がれ、守られようとしているマヌエラが、にっこりと笑って見上げる。

「だいじょうぶ、合ってるよ、アストラお姉さん!」

あくまで声は無邪気に、

「ここがね、“入り口”なの。人の目とかは……あってもいいけど、ないほうがやりやすいから」

きゅ、と手を更に強く握って。

「ただいま!」

異様な空間の虚空に呼びかければ。
マヌエラの足下の影から、無数の、巨大な頭足類の怪物のそれを思わせる触手が溢れ出て。
アストラに絡みつきながら、マヌエラもろとも、影の中に引きずり込もうとするだろう。
そここそが、“入り口”なのだから――。

アストラ > 「え……? ────!!」

──ようやく、少女の異質さに気付いた時には手遅れだった。
無邪気な笑顔で見上げてくる少女の無邪気な声に、一瞬理解と判断が遅れる。
それが冒険者としては致命的な隙になってしまった。

彼女の呼びかけと同時に足元からあふれ出た無数の触手。
イカやタコなどの頭足類に似た異形の姿に金色の双眸を見開きとっさに武器を手にしたが、人の動く速さより、魔術師の詠唱速度より、足元から絡みつくそれのほうが早かった。

「っきゃあああぁぁ!!」

人気のない靄の中にアストラの悲鳴が反響する。
ブーツに、足に、四方八方から伸びて絡みついてくる触手を避けきることなど不可能で、足元の浮遊感と共に影の中へと引きずり込まれていく。
小さな少女に手を強く握られたまま、ほどなく完全に入口である影の中に落ち、彼女の「おうち」へと招待されることになるだろうか。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からアストラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からマヌエラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にアンジェラさんが現れました。
アンジェラ > 富裕地区の物静かな酒場。
ひっそりとお酒をたしなむ者や、密会・逢引に利用される場所。
今日は騒がしいところに行く気分ではなかった為、
少しだけお酒を飲んで帰ろうかな、と思いこの場所をチョイスした。

「あー…。」

で、カウンターでぼんやりとしている。
目の前にあるグラスには半量水割りが入っており、濃さも抑えてもらっている。
何かありましたか?と会話がてらバーテンに問われるが、
何もないんだよねー、と苦笑交じりの返答を返すだろう。
ま、このいっぱいが終わればあとは帰るだけ…と考えている。

実際の所少々欲求不満がたまっており、アンニュイなのはそのためである。
自覚はないが、帰ったらそれ相応な事をして眠るのだろう。
わかる種族が見れば良い精の匂いを纏っているかもしれないし、
娼婦などの職業が見ればわかってしまう、かもしれない。

そんな静かな時間を過ごしていた。

アンジェラ > コン、と空になったグラスを置く。

「お勘定。」

そう言って数枚の硬貨をカウンターに置く。
小さく嘆息しながら帰路へとつく。
そのあとは…。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からアンジェラさんが去りました。