2022/05/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 トゥルネソル家」にラファルさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 トゥルネソル家」に影時さんが現れました。
ラファル > 「やーだーー!!!!」

 富裕地区に響き渡る綺麗なソプラノの声、その声が大きければ大きい程に、遠くまで響き渡る。
 富裕地区の一角にある、竜の巣、トゥルネソル商会の自宅。
 その庭で、半裸の幼女が、地面にあおむけになって、じたじたじたじたじた藻掻いている。
 家令やメイドたちは、我関せずで、洗濯や掃除、剪定などの仕事に従事していて。
 他の家人に関しては、何時もの通りに居なかったり、気にしてなかったり。
 一番おろおろしているのは、ペットの魔狼グリム君。
 きょろきょろ、と泣きわめく幼女と、その近くにいる人物を交互に見るだけで、その目は何とかしてくれと言わんばかり。
 メイド長も遠巻きに見ているモノの、お仕事の洗濯物を干す作業が終わってないので手が離せない。

 10才の子供が駄々をこねる、まあ、よくある……と云うには少し年齢が過ぎているか。
 それでも、幼女の精神性は、外見よりも幼く。
 じったんばったん、わーわーぎゃーぎゃー、ごろんごろんと、地面の草の上で、半径125センチのミステリーサークルを作る始末。
 もともと野生児で、余り人の言う事を聞かない系の幼女だが、此処迄暴れるのにも訳があった。
 その訳を知るに当たり、一番わかりやすく言うならば、すぐ目の前で立っている人物。

 ――――師匠の一言で始まったのだ。

影時 > ――やーれ、やれだ。予測はしていたが。

声は大きく、広く響く。それはいい。それは良きことである。
声は小さいよりも大きい方がいい。どもりもせず明瞭に通るのであれば、なおも良い。

……とは言っても、それをごくごく至近距離で浴びるとなると、流石に良いところを挙げて現実逃避するにも限界がある。

空を仰げば、嗚呼。恨めしいくらいに良い天気だ。

竜の巣などとご近所であだ名されることも多い、トゥルネソル家の屋敷。
その庭先に立つ上背のある男が虚空を仰ぎ、手に提げた楽器を下して嘆息する。
この屋敷を訪れるにあたり、纏う装束は普段どおりのものではない。
武具の新調や手入れと合わせて、然るべきところに預けたお陰で、代替としての着替えに身をまとう。
市井で見かけるシャツやズボンに、先日の冒険の戦利品である白いローブを袖を通さずに羽織るが、その上衣の裾が声の圧で派手にはためく。


「……お前そんなにイヤか。学校とやらに通うのが」

きっかけは、何だったか。屋敷に置かれていたリュートを借りて、試しも兼ねた歌のレッスンのつもりだった。
思ったよりも具合が良ければ、その才能を伸ばすために通学してみるのも良いか?と。
それを問うてみた矢先、直後のこのありさまだ。
己の目から見ても、敬称を付けてもいいに見事な体躯の狼犬氏もそれはそれは、思いっきり戸惑うであろう。
抱えたリュートの弦をぽろん、と。爪弾き、音を鳴らしつつ、幼女と視線を合わすようにしゃがむ。

ラファル > 「やー………。」

 今日は、音の教練。元々歌うのは好きだし、音波に通じる音は馴染みがあるものだ。
 ソプラノ、メゾソプラノ、アルト、テノール、バス。一般的に通じる音質で歌うのだって、可能だし。
 何なら、一人5重奏だってして見せる。
 最初、師匠の持ってきたリュートにわくわくして、歌い始めるまでは起源は絶好調だった。
 忍びに歌と、首をかしげるやもしれないが、潜入する際には、音楽家として入る事だってあるだろう。
 様々な技術・芸能は、必要技能なのである。

 学校に行く、と言う事自体には、否やはない。
 シロナや、フィリ、プリシアちゃんなど、トゥルネソルから通っているのも多いし、興味はある。
 拘束される時間などに関しても、影時師匠と一緒に過ごすことが多くなり、其処もクリアはしている。
 我慢できる偉い子になっているとも言えるのだけど。

「服……。」

 嫌がる理由は、まさにそれ。
 コクマー・ラジエル学園には、制服がある。
 普段半裸、家の中では全裸、好きを見ては外でも全裸。
 服を嫌がる子犬の様に、服を嫌がるラファルがいる。
 服の改造を許されている学校とは言って、制服どころか半裸でと言うのは、学生の性質上いただけないだろう。

 抱えた師匠、座り込んで目を合わせる彼に、ぐずり、と涙目のままに、ぽつりと理由を呟いて見せる。
 しょうもない理由と云えばそれまでだけれども、嫌だ、と言い切る幼女。

影時 > 教育や訓練の観点には、大きく分けて二つの方向性がある。

ひとつ、元々ある素質をよりよく伸ばすか。
ふたつ、苦手な分野を伸ばして穴埋めするか。

人の得意、不得意を山や谷のような形に例えるなら、得意の山をより高くするか。
あるいは不得意の谷を埋めて、起伏を少しでもなだらかにするかどうか、といったところであるか。

教える側としては悩ましい。
得意を伸ばすとして、伸びしろが少なければ遣り甲斐に繋がらず、かといって不得意の克服の喜びもまた得難いものだ。

さて、風や空気を御する能力があるなら、おのずと音や声にも通じる。忍術の観点においても攪乱術で幾つかの手段があるくらいだ。
借り物とはいえ、手慰み程度に楽器の扱いを覚えておいてよかった。
手拍子に合わせて歌うより、街の流行りの歌を歌わせてみるならば、やっぱり楽器がある方がしっくりくる。
己は声楽の泰斗には程遠いが、能力のどうこう、ではない。弟子の贔屓目を抜きにしても、素質はある。
それを伸ばすという題目、とっかかりとして、コクマー・ラジエル学園への通学を提示したのはよいが……。

「……服かぁ。皆と同じようなのを着ンのがイヤか?」

ああ、そういうトコか。思わず苦笑しながら、庭先の草の上にローブの裾を払って、ぐずる弟子の傍に座り込む。
そうしながら、空いた手で近くのメイドを呼びつけられれば、頼んでみようか。
件の学園の案内書やガイドなど、本や資料があれば、持ってきてくれと。
冒険者の依頼の一環で、講師代理を務めて足を運んだことはあるが、それも数度程度だ。

ラファル > 「ううん……服を着るのが、や。」

 同じとか、それ以前。身を包む何かが、もう、無理。
 ベッドがあっても、上に乗っかって休むだけ、掛け布団も敷布団も必要がない。
 そも、ラファルは超高空で空を飛ぶドラゴンであり、気温の変化にはめっぽう強い。
 寒いから洋服を着るというそれ自体が、必要ない物だ。
 前回の経験で、身を護る物―――防具に関しては、許容が出来るようになった。

 ただ、体温調節だけの為に着る服に、意味は見いだせず。
 布を纏う感覚が苦手だ、周囲の警戒などに関しても、邪魔になる。
 だから、幼女は服を嫌がる。

 制服だから、とか、それ以前の―――種族的な、根本的な理由。

 正直、通いたくない、と言うわけではないのは、間違いはないのだ。
 ううう、服を着るなら行かない、と、今度は地面にべったりと大の字で張り付いて。
 大地にしがみ付いて、抵抗の意。

メイド > 「畏まりました、確認してまいります。」

 学校の資料に関しての依頼を受けたメイドは、グリーンなドラゴンのメイドさん。
 ラファルに近しい種族の彼女は、ちゃんとメイド服を身に纏い、ホワイトプリムさえ、付けている。
 こういう所から、服に関してはラファルのわがまま、と言ってもいいだろう。
 其のまま、メイドは館の方へと歩いていく。

影時 > 「着るの自体が、か。
 ……雇い主殿やお前さんの姉殿とかはちゃんと着てンのに、どこに違いが出てるのやら」

血統の違い――なのか、それとも種族性の何らかの発露とでもいうのだろうか。
だだをこねる弟子の姉二人の顔を思い出すまでもなく、二人ともちゃんと服を着ている。間違えるまでもない。
竜が人の行いを踏襲するようになった、倣うようになったのではなく、竜は竜であるという意識の方が強いのか。
弟子を伴っての冒険については、服を着るように厳命しているとはいえ、だ。
周囲に紛れるためという観点がなければ、無用の長物という見方ができなくもない。

正直、真冬の厳寒の地でも真っ裸で放り出しても、まさに。
雪に喜ぶ犬よろしく雪原を駆け回る姿を想起してしまう。できてしまう。
強いのはいいことだが、明後日の方向に何か投げ捨ててしまっている気がしなくない。何かを。

「俺が課題として与える、忍びの務め――忍務でも着たくねェか?」

さて、そんな雑念を頭を振って振り払い、言葉を紡ぐ。
資料を持ってくるよう、頼んだメイドも竜種であろう。だが、ちゃんと様式に倣うように服を着ている。
分厚い本でなくともいい。通学要件などを記したパンフレットなど、その程度で十分だ。
服、持ってきたんだがなあと嘯きながら、近くのベンチに置いた風呂敷包みの横目に確かめ、弟子に尋ねてみよう。

ラファル > 「……さ?」

 何処に違いがあるのだろうか、それは、意識の問題になるだろう。
 三人とも、同じ両親から生まれているからこそだった。

 長女は、人間と共に暮らすために。
 次女は、竜であることは誇りに思う物の、人の中に潜む事を選択したから。。
 三女は、人と暮らそうとも人と恭順する意思が薄く、自由で居たいから。

 その辺りの差、であるのだろう。只、次女は次女で、気に入らないことがあれば平然とドラゴン節で行くのだけども。
 幼女は、任務や冒険であれば、服を着るのは厭う事がない。
 そう言う割り切りは出来ているのだ、忍耐と言う意味で。
 ただ、学校とか、私生活で言うならば、フリーな状況と言うのであれば―――。

「ぅ……。」

 師匠の質問に対しては、口籠る。
 着たいか着たくないか、であれば、着たくはないのだ。
 ただ、それが必須であり、着る理由も、理解はできる。
 服装の効果の代替案としての技術がないので、着る事は容認できた。
 流石に肌の色を変色させてとかできないし、風の魔法などを使えば、感知されてしまう可能性も大きい。
 服でお手軽に隠れる、と言う理由に納得があり、だから、着る事を我慢できる。

 そうこうしているうちに。
 フィリやシロナ、プリシアが入るときに見ただろう。
 学校のパンフレットを竜のメイドは持ってきて、師匠にどうぞ、と手渡してくれた。

影時 > 「……個人差、否、個竜差とでも云うのか。別段悪いことじゃァないが」

個人差という言葉は便利だ。それでもろもろ十把一絡げにできてしまう。
同じ胎と種より生まれたはずの三姉妹も、己が知りえる限り能力は不思議と同等ではない。
選択と考え方の違いも、もしかするとその辺りに起因してる――のかもしれない。
その辺りをとやかく突き詰めないのは、雇われ者としての割り切りだ。

知るべきことのみを知っていればいい。詮索が過ぎるのは好奇心に殺される猫のようになってしまう。
さて、問題だ。どのようにして服を着させるである。
普段着(?)のままでは、流石に人間社会・王国社会の縮図と云えるだろう学園に放り込む気にはならない。

「おう、持ってきてくれたか。遣わせてしまってすまんね」

さて、どうしたものか。思案していれば竜のメイドが学園のパンフレットを持ってきてくれた。
忝いと会釈とともに受け取り、口ごもる風情の弟子に胡坐をかいた膝上を叩いてみせよう。
そうしながら、パンフレットを改めてめくってみよう。非常勤講師の代役を遣った際、仕入れた知識は最低限過ぎた。

「服装の規定が厳密過ぎると厄介だが、かといって崩し過ぎるのも……なんだよなあ。
 ラファルよ。例えばだが、締め付けすぎたり布が多すぎる服ってのは、嫌いか?」

制服は貧乏人には負担になる可能性はあるが、誰も彼もが高い服に凝り過ぎて競争するなどといった、七面倒を避けるには有用だ。
規定が細かすぎるならば、通学の選択肢はやめた方がいい。
いわば抜け道、落としどころを探るために要綱を確認するというのは妙な気分だが、兎も角ページを捲りつつまずは問う。

ラファル > 「悪い事じゃないが……?」

 トゥルネソルの三姉妹は、どれも違い過ぎるほどに違う。
 全く戦闘力なく、ただ、頭が良く、人に寄り添っている、竜に近しい人が長女。
 竜としての力が強く、竜としてのプライドも高い、人に近しい竜としての次女。
 性質も能力も、全てドラゴンで、ドラゴン成分が100%で、竜が人に変じることができる、三女。

 色々と、違い過ぎて、姉がこうだから、が出来ないのが、三姉妹なのだった。

 彼は、ラファルの教師として、雇われているのだし、もし必要ならば、聞けば答える事も出来る。
 別に、雇い主の長女は、彼を害することを考える人物でもないというか、物理的にも無理だろう。

 師匠の礼の言葉には、カーテシーを行う、必要な物を持って行くのは、メイドたちにも、伝わっているのだ。
 そして、其のまま、仕事に戻っていく。
 胡坐をかいた師匠、太腿を叩く姿を見れば、ちょこちょこ、とその胡坐の中にちょこんと座る。
 そこから、師匠の顔を見上げるのだった。

「布に包まれると、周囲の状況が、判りづらく鳴るから、や。」

 締め付けや、布の面積の大さよりも、肌で感じている周囲の状況が、判りづらくなる。
 周囲の警戒が鈍る事がやだと伝える。
 締め付けに関しては、胸のベルトはしっかり締め付けてる。
 布面積に関しては、忍びの服を着る事から、其処も、問題はない。

 普段肌を晒すのは、空気を感じて、周囲を認識している、と言うのもあるらしい。

影時 > 「誰も彼もが同じじゃァ、人も竜もつまらんだろう。酒も食べ物とかのようにな」

三姉妹で能力が均一、同等ではないというのは、不思議というのか。それとも天の配剤という奴なのか。
色々な土地を旅していれば、その土地で信仰されている神や精霊の話を耳にする。
その中で、それぞれ司る分野と献納が異なる神霊の姉妹兄弟があるが、トゥルネソルの三姉妹はまるでそれらにも似ている。

違いがあるから、良い。
能力がどうこうではなく、それぞれが同じではないことを己は善しとする。
チカラや才能がああだこうだというのは、徹底的に突き詰めるような戦争以外で考える気にはならない。

仕事に戻ってゆくメイドの姿を片手を挙げて見送り、リュートを脇に置く。
そのあとで、膝上にちょこんと乗る重みに視界を下す。
顔立ちやら何やらを考えなければ、傍目からすると親子のよう。
己が顔を見上げる姿の頭と、髪を左手で撫でてやりながら、一緒に見えるようにパンフレットを弟子の膝上に置いて。

「ふぅむ。……んじゃァ、ローブみてぇに被り物が付くのはナシだな。
 着るならあんまり面倒がない奴が良いか?」

動きを妨げられる、不快感を感じるような締め付けや飾りを含めた布の多さより、肌感覚が鈍るのが好ましくない。
弟子の言葉からそう察する。嗚呼、つまり肌で風を感じるから、その妨げとなる要素はまず駄目と。
応答からそう読みつつ、思考を巡らせる。

ページを捲っていれば、入学金やら入学条件の箇所に行き着く。
並ぶ額は読み流して、進めていれば服飾指定の箇所へと至る。そこには……。

「……――せーふくとやらは、任意で良いのか」

……と。ぽつりと零した言葉に該当する個所が目に触れる。

ラファル > 「ほむほむ……。」

 同じではつまらないとの事らしい、成程、とその辺りは学ぶことにした。
 技術などに関しては、学ばせて、同じようにできるようにしていく物なのに。
 性質などは、同じではいけないのが、考え方なのだろう、と幼女は師匠の言葉を聞いていて。
 不思議だよなぁ、と。
 竜はどうなのだろう、基本は同じにも思える、そして、より強い方がいい、そうなる。
 人は、同じではないのが良いのか、と。

「えへ。」

 師匠の懐に、腰を下ろして、師匠が頭を撫でる。
 金髪の髪の毛が、わしゃり、わしゃり、と撫でられて、嬉しそうに頭を擦りつける。
 新聞を開くように、パンフレットを開く師匠の懐で、すりすり、と背中を擦りつける。
 父親に甘える娘の様に。

 自分の視界に入る、パンフレット、色々細かな文字のあるそれを眺めた。

「ん、今の服装くらいがいい。」

 面倒がない服装と言う師匠、一番自分に心地の良い服装を伝える。
 これが一番、幼女にとって面倒が少ないのだ、と。

「せーふく、任意?」

 師匠の言葉に、幼女も視線を降ろしてみた。
 パンフレットの一文を眺めた。

 着なくてもいいの?と期待の視線で見上げて、問いかけるのだった。

影時 > 「まァ、このあたりは俺の個人的な好悪の話だ。
 ……数字で語るような、考えるようなコトになっちまうと話が別になっちまう。

 例えば戦争。また例えば、商売の話がそうだ。」

そこは気を付けた方がいいな、と。学びを得る反応の弟子に言葉を足そう。
酒で考えると、分かりやすい。酒は同じ素材、同じ熟成期間を経ても、見た目は同じに見えて違いがある。
ほんの数字の誤差めいたわずかな違いもあれば、時節が悪かったのか。大きな違いになることもある。
不味い酒は本当にどうしようもないが、呑める酒はそんな些細なものを飲み比べめいた形で愉しめるものだ。

ただ、戦争や商売、経済活動の面で考えると、均一である・同じであることが重視される。
数字が多い方が勝つ、重要視されるように、強さという観点が強くなる。難しいものだ。

「ン」

天気が良くてよかった。
雨天や曇りの際は部屋を一つ借りて遣るつもりだったが、声の通りを改めて確かめるには外の方がいい。
声楽の訓練には、海岸で波の音に負けないくらいで声を出させる――という良く分からない訓練法があるらしいが、さておき。
膝上に腰を下ろした弟子に頭を撫ぜて遣れば、嬉しそうに身体を擦り付けてくれる姿は実の親から見ると、複雑な顔になりそうだ。
ともあれ、一緒に文字を追って観る、読むにはこの姿勢の方がやりやすい。

「今くらいがイイというが、ちょっとなぁ。

 任意と云っても、例えばまずボロい恰好は論外だろう。
 服っていうのはな。親などが金を払って通わせてやるだけの財力がある、最低限は満たせているという証明でもある。

 妥協点としてもう一枚くらい……あー。試して、みるか?」

今の姿が一番面倒がないとは言っても、流石に通学させるには不安がある。
任意=半裸同然でも大丈夫ということの免罪符には、お題目にはし難い。
個性を出すためのカスタマイズは可能とも読み取れるが、身分を考慮せず在学できるクラスでも、それなりの格好は必要か。
そうと考えれば、弟子を左腕で抱っこするように抱え、リュートをいったんその場に置きながら立ち上がろう。

その足で、近場のベンチに歩みを進める。ベンチの上に置いた風呂敷包みに用がある。

ラファル > 「うーん……?
 一寸、ナニ言ってるかわからない。

 戦争、商売……。」

 戦争に関しては、多くの平均よりも、一人の英雄が、戦場を席捲するような場面が多くあると思う。
 確かに、英雄が居ないと言うのであれば、同じ平均の数が多いか、平均の質が良くある方がと。

 商売に関しては、良く判らないことが多いけれど、ただ……そう、品物が同じようなものが多いと良い。
 同じものを品質として売るがいいとか何とか云っていたような気がする。
 お酒で言う師匠に、ううん?と考えた。
 そう言う考え方があるという言葉を、記憶をすることにする。

 青空の下で歌うのは得に好きだ。
 空を飛んでいる時などは、鼻歌を歌いながら空を飛んでいることも多い。
 響くような、唄声を響かせることは、大好きなのだ。
 海岸で、並の音に負けない音を響かせる程度は、本当に簡単にできるモノだ。
 肺活量などはブレスを吐き出すのだって、それと同じだし。

「……む。」

 服装に関して、人に関しての興味も薄く、それは其れとして、姉達も、両親も何も言わなかった。
 それで良いと思っていたのだけれども。
 師匠の視点から見ると、この格好は、家族に迷惑をかけると言う事を理解する。
 服装と言うのは、財力の証明にもなる、と言うのである。

 でも、服を着ないといけないのか、と考えると。

「むー。」

 しょんもりしながら、担ぎ上げられた。
 担ぎあげられても抵抗するような様子もなく、力なくだらーんと垂れた様子で持ち上がる。
 ベンチに続く歩調。
 光の無い目で、運ばれていく。

影時 > 「そりゃあ、ラファルよ。
 まだお前さんがオトナじゃないから分からんこともあるだろう。

 ……そうさな。物の見方は沢山ある、と覚えとくといい。

 食い物の味みてェに、何事にも違いがある方が俺は見ていて楽しい」


一騎当千の英雄が居るのなら、凡百でも万の兵士を当てればいい――とは、下手な兵学の考え方か。
強さを数字に換算して算盤を弾き、盤上の駒を動かすだけなら確かにそれは間違いない。
だが、実地においては英雄という個の極致が、万軍を打破するという不条理が起こりうる。その要因は数字だけでは測りかねない。
故に物の価値感、見方を一つに限定し、考えようとするのは良くないと戒める。
翻って云うならば、偏った見方とは盤上の対敵に読み取られれば、逆に己が動きを察せられてしまう。

今は自分も弟子も、幸か不幸かそのような手合いに遭遇したことはない。
だが、万一に。そういった事例に遭った時にも応じられるよう、価値観は多様であることを知っておくのはきっと望ましい。

「――配慮も何も無ぇコドモの言いそうだが、こほん。
 やーいお前んち貧乏だからそんなカッコしかさせてやんねーんだー、……とか、言われるのはイヤだろ?」

さて、実際にこの手のことをいうかどうかはさておき、貴族の子弟やらが見下して言いそうな言葉の大意を想像しよう。
きっとこんな具合の囃し言葉にするに違いない。
咳払いののち、己が喉元を揉んで発声する言葉のトーンは、男の風貌に似合わない少年チックな声色。
もっと小さい頃、実の父母のもとでまっとうに育っていれば、こんな台詞でも吐いてみせたのだろうか。
「自分で云ってみて、嫌になる」と思わず肩を落としつつ、しょんもりと力なく借りてきた猫のように垂れる弟子を担いで向かう先は、

「……――学校に通わせる用途で、とはちょっと思ってなかったが。お前に遣りたいものがあってな、ラファル」

ベンチだ。ベンチの端に弟子を下し、座らせれば風呂敷包みの結び目をほどく。
風呂敷を広げると出てくるのは、鮮やかな青色の布地と畳んだ黒い帯、そして黒色の一そろいの草履だ。
先にその布地を慎重に引き出して、ぱさっと広げてみよう。
そうすると、一着の着物となる。だが、足元まで届くような長い丈ではない。尻を隠すくらいまでのミニ丈の一着だ。

ラファル > 「あれだよね、選択肢。」

 これは、先程の師匠の視方からくるものと言えるだろう。
 様々な特性があれば、特色があれば、違いがあれば、その時に必要な物を選択できるようになる、と。
 大量の兵士を英雄に宛てればいいのだろうけれど、その兵士を維持するには、食料が必要で……など。
 一人の英雄と、凡百の兵士、食料を考えれば、とか。
 様々を選択して、行動する、それが、良しと言う考えだと、理解した。
 その為に、様々を学ぶ必要性に関しても、理解はしている。

 ちゃんと、師匠の意図を理解して、学んだ、と言う事と言って良いだろう。

「そういう時は、にっこり笑って、目の前で、制服をパーンすればいいんだよね?
 若しくは。」

 脱ぐのではなく、金行くだけで弾き飛ばせばいいのでは、と。
 他に考えるならば、目の前で、翼を広げるなり、机を握り潰すなり。
 子供が、そんな手に出るなら、それを潰せる事を示せばいい、と言うべきなのだろう。
 ただし、ただし。
 其れで何とか成程、貴族の世界は、人外魔境ではないのだろう。

 たらーん、と垂れラファル。持って行かれて、見せられる。

 師匠が唐傘模様の風呂敷から取り出したのは。

「わぁ。」

 青の色の和服、師匠とお揃いだけれども、女児用のそれだ。
 草履に、帯。
 忍者の服を着る時にも来ている質感、和服と呼ばれるものだと言う事は知っている。
 子供用の着物だと言う事も理解している。
 蒼なのは、恐らく、学校指定の制服と色を合わせた結果、なのだろう。

「うむむ……み。」

 じぃ、と唸りながら、着物を眺める。
 垂れたまま。

影時 > 「そう、選択肢という奴だ。
 手段は多ければ多いほどいい。見方――分析の観点もまた然りよ。

 だが。モノの見方という奴は、こればっかりは俺が教えるのが全てというワケにもいかん。
 学びがなければ惑わされる。特に人間の社会と道理を縮図でも知りたいなら、学校に通うというのはアリだろうよ」

将棋、兵棋の類のように簡略化した形ですべて動かせるなら、苦労はないのだが。
実際のところ、盤上で駒として表現される人や馬は餌を食む。食事をする。疲れ果てれば休息を欲する。
そうした運営を数字として管理することは大事だが、細かなケアをするにしても、個々人に向き合った見方も求められる。
だから、物の見方や価値観という視点を得る必要は大いにある。
忍びとしての観点を己は教えて遣れるが、この地ならではの学びや知識だけは、そうもいかない。

学びを得る。啓蒙を開く。
自分で咀嚼し、取捨選択できる基準を獲得する。教育機関とはそうであるべきだ。

「そうそう、遣ってもいいだろう。
 特にお前さんと家の場合、ぶん殴られてもおかしくねェ位の事案だぞ?」

喧嘩するなら、コロシアイにならない位なら派手になってもいいのではないか。
家柄だけではない資産家、商人の家に属するものであるかなど、知らぬばかりでは済まされないのがこの世の中だ。
それが子供同士の実力行使の応酬で済めば、子供の喧嘩で収まるくらいであれば、やめておけ、という気はない。

「この前、お前さんの姉に事後報告に行ったときに扱ってる店を聞いてな。
 急ぎの仕事だが、頼んでみた。

 先ずはいいから、ほれ。着させてやるから試してみろ。今の格好から重ねて着られるように考えたんだぞ」

扱いとしては子供用。だが、見た目と耐久性を可能な限り並立できるよう、手持ちの財貨の範囲で注文を通した。
垂れたまま、じーっと物を見つめる弟子の背中を軽くたたき、立つように促そう。

着方は非常にごくごく単純。今の格好のままミニ丈の着物を重ね、腰で帯を締めるだけだ。
履物となる履は、現在新調中の防具類を解体し、再利用する際の端材となっていた部位を再利用したもの。
脚甲にしていたとはいえ、魔獣の皮革だ。履いて思いっきり駆け回っても、すぐにダメになるという恐れは少ないはず。

ラファル > 「うん、それは判るよ!

 学校……。」

 師匠は間違いを言う様な事はないし、師匠の言う通りの必要性も判る積りだ。
 学校に行くこと、と言う事に関しては、先程に言ったとおりに否ではない、興味はあるのだ。
 一番の理由と言うのであれば、先程も散々ぱら云ったとおりに、服が問題だ。
 服も自由であり、気にしなくても良いというのであれば―――だけども。
 ありかないか、と言うのであれば、有りなのだろう。

 師匠も、学校での学びが必要だと、思うのだから。
 師匠が教えられない事でも、学校の先生ならば、専門として教えてくれるのだろうし。
 もしかしたら、薬学など、師匠が知らない事も教えて貰う事が出来るのかも知れない、と。

「うん!」

 喧嘩を買ってもいいのだ、と言うのは、幼女としてはとても、とても嬉しい事だ。
 やられたなら、やり返して良いという太鼓判と言うのは。
 確かに、商家に、トゥルネソルに金がないという罵倒に関しては返してもいいだろう。
 正直、金で爵位を買う事も、やろうと思えばできる程度には、金があるし。
 考えてみれば、リスの縁者には、爵位など、権力など。
 色々とある存在ばかり。それを活用する積りは、リスにはないのだけども。
 まあ、子供の喧嘩で終わらせる程度で良いなら、十分に。

 にっぱぁぁぁ、あと本日最高の、綺麗な、満面の笑み。

「うにゅぅ。」

 言われて、幼女は立つ。
 着物を着させてくれると言うならば、それに従うように手を伸ばす。
 ただ、胸を隠すベルトと、ズボンはストン、と落とした。
 下着がどう、とか言う積りではなくて。
 和服に胸ベルトは流石に浮くだろう、ズボンを履いたままでは。
 草履は多分大丈夫だろうが、踏み抜かないか、が不安。

影時 > 「冒険者を招聘しての授業で、特別講師を招く――なんてこともあるから、様子見には困らんだろう。
 ま、行ける機会があるうちに行っておけ、だ。

 大人になると色々と知りえることも多いが、新たな何かを得ようとすると難しくなるモンだ」

逆に言えば、服以外に気になる要素、引っかかる要素がないのであれば、出資者の許しがあれば行っておくのが望ましい。
少なくとも己はそう思う。これで己の家庭教師の仕事が少なくなる、というわけでもない。
授業や講義で得た内容を共有し、反芻するのも学びのやり方である。
その意味でも家庭教師や私塾のような職の需要は貴族や、教育に資金を投じられる資産家で多いだろう。
忍術の修行として伝え、伝授している薬学、本草学では網羅していない事物や魔術的なものは、学園のほうがきっと多い。

行けるうちに行っておけ、と勧めるのも理由はある。
忍者としては長じた、長じ過ぎた己が世が平和になった後、飼い殺しされるかの如く、生きる以外に選択ができなかった。
生活の糧を得るための土いじりならば、まだいい。
忍びである――という生き方以外に身を移す、切り替える手がなかったがゆえに。

「特に相手から手を出すことがあれば、なおさらだ。
 喧嘩を売ってもイイ相手を見極められねェ奴が――悪い」

コロシアイにならない程度なら、存分にやっても構わない。
特に身分など何だのとこだわる癖に、情報収集をしない者であれば、教訓は痛みとして知るべきであり。
そして、知っているうえで突っかかってくるモノであれば、にっこりと笑って殴り合うといい。
そのうえで立っていられるなら、良い友達にでもなることであろう。
さっきから垂れたり、力なく伸びてばかりの弟子が、満面の笑みを浮かべる様に、己もにィ、と口の端を吊り上げてみせて。

「最初に着てみるなら、脱いでみてもまァ、ありか。
 胸の帯と重ならない位置で締めるつもりで考えてたンだが、……この辺りは次にもう一着とか作るときは店に連れてく方が間違いないか」

胸元が気になるなら、晒しの類を巻いて補正なり調整するのも良いだろう。
ベルトとズボンを落として晒される肌身を隠すように、着物を重ねて袖を通させ、慣れた手つきで帯を締めてゆく。
肌を極端に隠したり、圧迫するような要素は少ないはず。
着付けが終われば、己はしゃがんで草履を手に取る。恭しい仕草で草履の鼻緒に足指を通させよう。
己が教えている忍術の動き、体術が身に沁み込んでいれば、違和感は少ないかもしれない。
足の踏み出し方の時点で異なる。足先からの踏み出しではなく、すり足が主体だからだ。

ラファル > 「あーい。
 じゃあ、いく。」

 学校に行くことに関しての否やはない、一番の嫌がる理由としては、服がと言う事で。
 学ぶことに関しては、貪欲でもあるのだ。
 師匠も、学ぶことに関してGOサインが出ているので行くことに関して、うきうきしている。

 色々と、勉強をして、それを伝えて、新たな知識を受け取るのも、有るのだろう、と。
 見知らぬ所に行くと言う事は、とてもワクワクドキドキする物だった。
 幼女は、今も子供であることは、変わりないのだ。

「うひひ、それなら……売られた喧嘩は、高ーく、買ってあげるから、ね。」

 ラファルに喧嘩を売るのは、少ないだろう。
 すでに学園には、トゥルネソルの家族が通っている、だからこそ、知らない、と言うのはない筈。
 其れで喧嘩を売ってくるならば、再起不能にしても良いだろう。
 幼女は、にんまりと、笑って、見せた。
 こきり、こきり、腕を鳴らす。

「え?
 之って、誘惑作戦の一環じゃないの?」

 一寸ぶかぶかな幼女の気もの。
 桜色のサクランボがちらり、ちらりと見える。
 近づいて抱き着いて、ちらリズムすれば、若い男の子供はとってもいい感じに誘惑できるだろう。
 くのいち、女、其の武器を全力で使う積りもあって。

 占め直したり、とか、丈を治したりは問題ない。
 草履をはいて、するり、と動くと問題はない。
 右に、左に、するすると、素早く動き、幼女は動きに問題がないことを確認する。

「だいじょぶ。」

 こくん、と頷いて、蒼い着物、ちらリズム万全。
 胸も、可愛いお尻も一寸動けばプリンと見える。
 ゆーわくしてくるねーと、冗談を言える程度には、楽しんでる

影時 > 「善し善し。ならば、あとで一緒に報告しに行くか」

忍びとしての免許を与えた以上、家庭教師の仕事を続けること自体は己は吝かではない。
一族という枠、群れから外れた者とはいえ、技を教えた身としての責任がある。
だが、この先も己が全てを教えて遣れるとは限らない。
弟子が長じれば師もまた同じように学ぶものは多いけれども、知らないことを何をもって教えて遣れるのか。

それは同年代の同じような身分の子などと同じように、相応の教育機関に任せる方が過ちは少ないはず。
さて、話がまとまれば後は服のお披露目ともども、屋敷の主に報告しに行こう。
ついでに弟子が預かっている筈である、先日発見した武具の扱いも一緒に話をすれば事足りるか。

「好き好んで売りに行くような無知、あるいは気概がある奴がどれほど居るか、だよなァそりゃ」

想定される喧嘩の売り手は無知、あるいは無謀。そして熟慮の末の上か。
トゥルネソル商会は金貸しもしていると聞くが、金銭がらみの怨恨を想定する場合、学院に授業料を納められるか否かがかかる。
パンフレットの記載を思い出す限り、授業料が免除されるのは“何らかの理由”が絡む場合だ。
そういった何らかの理由の持ち主が浅慮を侵すというのは、あまり考えにくい。
故に子供の喧嘩に終始するであろう、と。そう思う。そう祈りたい。

「ゆーわくじゃねぇんだなァ。
 下に着こんでても困らんように考えたんだがな……。胸の帯をつけてないときは、あんまり肌蹴ンなよ?」

そうきたか、と。ゆーわく・こわく的な扱いを考え出す姿に虚空を振り仰ぎ、全くといった風情で肩を揺らして笑う。
この手の格好を見慣れていない年頃の男子には、ちょっとばかり目の毒かもしれないか。
自分の想定から少しだけ外れた点を除き、動きやすさなどの点の諸々は問題ないらしい様子にほっとする。
やはり、存分に動いても問題がないかどうかだ。そのために履物もわざわざ特注したのだ。

ラファル > 「あいっ!」

 後で一緒に報告しに行くことに、幼女はこくんと頷いた。
 学校に行くにしろ、保護者の許可が必要なのだ、今回に関しては、師匠ではなく。
 資金面での保護者だ、詰まるところ、両親の代理としての保護者であるリスの許可。
 許可をもらい、お金を支払ってもらう必要があるのだ。

 多分人間の子供、同年代の子供とのコネづくりや、彼等から漏れる家の事情なども情報収集ができる。
 うん、色々と出来る事があるんだね、学び舎と言う物を見直した。
 そんな気がする。

「さー?」

 下心満載で近寄ってくるかもしれない、こう、小さな子を力で押さえつけて、とか。
 それらを考えれば、無くはないのかも、と。
 ただ、幼女としては、わくわく、としてしまう。
 トゥルネソルは、自然と、この国に溶け込んでいる、そう言って良いのだろう。
 喧嘩の時は、激しく、派手に。

「んー?ちがうの?
 こう、男の子たちをみりょーして、ボクの手下にしてみたり、とか?
 何時もの服か、こっちか、二者一択にしまーす。」

 はい、この和服を着ている時は、普段のを着る事は無さそう。
 少しでも、肌に触れる布の数を減らしたいと思っているので、仕方あるまい。
 喜んで着ると言うならば、来ても肌の感覚が変わらずに、周囲の風を感じられるような服、だろう。
 
 あいたたたた、と、そんな雰囲気を見せる様子の師匠に対して。
 えへんぷい、と、胸を逸らす幼女だった

影時 > 「ついでにこの前見つけた奴の扱いと、注文した奴の話もしておくぞ」

実の御父母ではなく、その代理人に話を通すというのはちょっと不思議な気分だが、是非もない。
その辺りは向こうの家の問題だ。もとより、本店がある場所とこの王都は離れている。
通学について話がついたということと、合わせて先日注文した装備類のことも一緒に話もしておこう。
今回誂えた衣装は既存の小太刀を帯に差しても、違和感がないようにした選択でもある。
注文した装備類の追加を考えると、一緒に出資者も交えて説明は必要だろうと。

「……あー。俺の懸念もへったくれもない考えなしだって、在りうるか」

貴族社会の身分差とやらを押し出した強要や、変な趣味に走った教職員がいない、とも言わない。言い切れない。
「したごころ」とは割とどこにでも転がっているものだ。
そういった持ち主を網羅して、マークして情報化するというのも確かに忍者もよくやる諜報の一環である。
若い頃に侵した過ちは、巡り巡って遅効性の毒の如く遣ってくる――という布石も、面白いか。

「その手のお色気、って云うのかね。そういうのを売りにした遊び女などが居ない訳じゃないんだがなあ。
 一応、街で聞くところの学院とはそーゆー場所じゃあない、そうだぞ。

 ギルドでもたまにあるが、詰まらない講義で寝ちまうのはしょうがねぇ。
 ……が、有意義な奴なら根堀り葉掘り聞きまくってやれ」

重ね着ではなく、既存の服との選択制で落ち着いたらしい。
これ以上の物を望むとなると、それこそより高価な魔法の産物まで考慮しないといけない事案なのだろうか。
やれやれ、と。胸を反らして見せる仕草に笑い、立ち上がってはローブの裾を払う。
仕事の再開は諸々の装備が手元に戻ってきてからだが、このローブも己好みに仕立て直しておくのもアリかもしれない。
そう思いつつ、「そろそろ報告にでも行くか?」と尋ねて。

ラファル > 「あーい?」

 この前見つけた奴の扱い、と言う言葉に首を傾いだ。
 記憶から零れ堕ちていたような気もする、暫しの間の思考の後に、ようやくと言った所で思い出す。
 何と言って、前回の冒険で手に入れた物―――いくつかのインゴット。
 あと、白銀のでっかいウォーハンマー。
 あれは、自分で持っていたことを思い出した、魔力を注いで、竜の属性を付与して居たり。
 プレゼントするための準備をしていたところから、自分のモノにしてたのを、思い出したのだ。

「そだね、だって、師匠の様に思慮深い人ばかりじゃないし?」

 そう、権力を持って様々な事をしてくる輩も居るだろう。
 そう言う噂が無いわけでもない、あの学校に関しても。
 なのでその辺りを、警戒して、情報収集していけばいいのだろう。
 人竜だから、寿命がとても長いので、子々孫々まで、弄れるだろう。

「うん、でも、シロちゃん、そう言う部活作ってるよ?

 ま、色々と勉強してくるよー!」

 そう言う場所ではない、と師匠が言うのだけども、と論破の足がかりが姪に居た。
 姉の娘が、淫乱な事をするための部活を作ってるのだ。
 まあ、今の所、活動が余りで来てない模様だが。

 軽く笑って、寝る事はないと、そんな風にうなづいた。
 お勉強自体には、興味はとても多いのだった。

 服に関しては、重ね着などはあまり好きではないし、そもそも服を着る事も嫌だ。
 なので、これ以上は、着ないですー。なんて。んべー、と師匠に舌を出す。
 これでも、とても、譲歩の結果、なのだと。

 報告に行くかと言う質問に頷いて、いくー。と。
 師匠の手を取って、仲良く家の中に、歩いていくのだった―――。

影時 > 「忘れてたー……ワケじゃあないか。なら良いが」

先日の冒険で手に入れたものはインゴット類のほか、手に入れたものが複数ある。
今羽織っているローブもそうだが、一番大きなものは弟子が持っている筈のウォーハンマーだ。
元々己が所有権を主張するものではないが、結局のところどうするのか、確認をしておく必要がある。
使うつもりがないなら、だれかに譲るつもりでいいのか等々。
其れと合わせて、インゴットで作るもののあれこれだ。自分が作るものは決めたが、確認はしておきたい。

「そこまで思慮深いつもりはなかったンだがなあ。
 ……自分で考えている以上に老いてるのか、あれやこれやと細かくなったンかね俺は」

もう少し慎重でも何でもない、無鉄砲なつもりでいたが、存外にそうでもないのか。
厳密に確認すべき仕事以外では適当(のはず)だが、他者の評価や感想というのは自認と異なることはままある。
顔に見合わず、実年齢相応となっているかもしれないことを、喜ぶべきなのかどうなのか。
無思慮でいられるのも若いうちの特権とはいえ、特に痛みを伴う教訓はずっと長く続く。
殊に、竜種が証人となる事案はそれこそ、末代まで後を引くレベルになるかもしれない。考えると嗤えないか。

「……マジか。そうなると、なんとも言い難いが、ああまずは勉強だ。勉強」

はい論破、と言われそうな切り返しのネタにがくりと肩を落とす。
だが、やはりあくまで学びを得るために通学を進めるという点は譲らないし、強調はしておきたい。
寝るときはちゃんと寝て、聞くべきことを聞き、書き留めることを忘れなければ、おのずと学びは積み上がることだろう。

服については、選択制とはいえちゃんと“らしい”ものを着ることを選んでくれたのだ。
譲歩の結果でも、これ以上の進歩を今すぐ望むのは無理が過ぎる。

舌を出して応える姿に、分かったわかったと表面上は仕方なさそうに首肯しつつ、内心で拳を握り。
放り出された服類をひとまず風呂敷にまとめれば、手を取って屋敷の中に赴こう。その途中で放り出したままの楽器の回収も忘れずに――。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 トゥルネソル家」から影時さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 トゥルネソル家」からラファルさんが去りました。