2022/05/13 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 トゥルネソル家」にリスさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 トゥルネソル家」に影時さんが現れました。
■リス > 富裕地区の一角にある、トゥルネソル商会の家、トゥルネソル家。
通称竜の巣、と呼ばれるその場所は、今日も元気にドラゴンが飛びだって、戻って来ていた。
屋根に留まり、人の姿に変化し、階段を下りていく、そんな光景がちょくちょくみられるその場所。
その屋敷の内部は、とても温かみの有る物であり、人が住まうに快適な環境をしっかり整えられている。
そんな、商会の応接室に、家の主がソファーで寛いでいる。
今日は、来客があると聞いている、先日何処からか戻ってきた妹から、聞いたのだ。
だから、今日はちょっと趣向を凝らしてみた。
流石に、髪型までは判らなかったので、遠くは東方の島国の服装、結婚している女性でも着れるという服。
留袖という服装を取り寄せて、太陽の花である向日葵とドラゴンの紋を入れてみた。
別に、貴族ではないので、紋などは必要ないのだが―――商会の礼装としての試しでもある。
ただ、紋の数は一つ、準礼装という物だ、今日の客は、何方かと云えば、自分が雇った相手。
礼儀は持ったとしても、正装はやりすぎだとおもうし、お互い平民なのだから、気楽でも居たい。
と言う事で、調べに調べて、黒は正式な正装だ、とか、学んだ結果。
色留袖という物、紋は一つ、という一寸だけ、意識してますよ、と言うものに落ち着いてみた。
ちゃんと、東方の紅と言う物も取り寄せて、薄く口元を彩ってみる。
化粧の方も、色々と独自なのね、と、貝殻に入っているそれを思い返した。
「……スース―するわ。」
下着などを付けないで直接着るという物、何となく、何となく。落ち着かない。
スカートとは違う感覚、着物と言う物の肌触りは良いのだけれども、普段着ているそれではないので特に。
とりあえず、今回は、お茶、煎餅、と、東方のものをそろえた上で、待つことにした。
時計を見れば、もうすぐ来客の時間か。
居住まいを正しつつ、客と同時に、暖かなお茶を持ってくるように、メイド長にお願いする。
有能なメイド長は、お任せあれ、とぱたぱたと走っていく。
妹と同じような年齢なのに、どうしてここまで違うのかしらね、とか、リスは後ろ姿見送って思う。
■家令長『ヴァール』 > ノックの音がする。
『お嬢様、お客様がいらっしゃいました。
お通し致しますね。』
入り口で、竜殺しの武器の封印を終えたのだろう、有能な執事が来客が到着したことを伝える。
リスの許可の声と同時に、扉は開かれた。
■影時 > ――飛び立つ竜を見れば、腰に帯びた刀が震える。
これもまたいつものことだった。竜殺しの業を帯びた刀に宿る何かによる所業か。
ともあれ、こちらから刃を抜かなければ出発した、あるいは着陸する竜が困るようなことはないだろう。
考えなしに抜くと、戦争でも人殺しでもなく、運搬業に従事する竜種の者たちを怯えさせかねない。
そんな物騒なものを預かり、得物としている東方の異邦人が風呂敷包みの荷物を抱え、富裕地区の一角を訪れる。
周囲の住人には「竜の巣」なぞと揶揄を超えて、畏怖交じりに囁かれかねない場所に平然とした風情で足を踏み入れるのは、慣れたものだ。
取引のある商人でもない。ただの雇われ人であり、仕事の関係上ちょくちょく足を運ぶ機会も多いからだ。
そして、玄関口であらかじめ打ち合わせたように腰の物を預かる、というのも此れもまた日常の風景であった。
帯剣・帯刀したものを預かるということ自体は特に不思議ではないけれども、この場においては別の大きな意味がある。
面会を求める相手は、特にこの手の凶事には無力であるからだ。不要なトラブルを避けるためにも、重要なことだ。
「いつも悪ィなあ」
と、執事に苦笑交じりに返す。声の主もまた、異邦の装いの男だ。
華美でもなく地味な色合いであるが、当地風にアレンジした個所は除くと、構成と衣装はこの王国では多く見かけることは少ないもの。
裾長の羽織や袴を揺らし、絨毯敷きの床は足音は響きづらくとも、気配も薄く歩む姿はやはり竜の巣であっても惑いはなく。
そうして、案内された場所もまた見慣れた感のある一室だ。
「案内忝い。――よう、雇い主殿。時間をとってもらって、申し訳ない」
執事に一礼ののち、開かれる扉の向こうに足を踏み入れる。
見える女主人の装いと色は、見れば思わず複雑なもろもろをかみしめたような顔つきで、口の端を吊り上げる。
財があるということは、やはり偉大か。
遠く離れたとはいえ、故国の貴人などが纏うような仕立ての装束に結構なお手前で、と評してみようか。
応接室に置かれた卓に風呂敷包みを下せば、重い音がする。実際、重量物だ。金属の塊と紙束の集まりというのは。
■リス > 入ってくるのは―――異装の男性、東方の侍と言う風貌をした方である。
気軽い様子ではいってくる姿は、この国、この場所で言うなら、とても目立つ事だろう。
しかし、彼が出入りするのは、周囲の住人さえも知れ渡るくらいには頻繁である。
そもそも、妹、ラファルの家庭教師なのだ、彼の技術や知識が、妹に特に響いたのだろう。
とても懐いている様子で、今も報告があるから待ってなさいと言った所、珍しく家に何時かない妹が部屋でそわそわしている始末。
そんな彼に、手を焼く妹を此処迄躾けてくれているのだから、感謝に堪えない。
だから、彼の所の正装を、学んで、身に着ける積りにもなるのだ。
「いらっしゃいませ、影時先生。何時もラファルがお世話になっております。」
背負っている風呂敷と呼ばれる、東方の布、確かあれで荷物を包んで持ち歩くバッグの役割だったか。
何か、こう……吸い取られるような雰囲気を感じるが、彼の事だ、何かしらの理由があるのだろう。
前回も、ラファルと一緒に出掛けて、その戦利品を持ってきたのを思い出した。
その類なのかしら、と、ちょっと興味が沸いてみるが、引き締めるように視線を男性の顔に。
「それに、妹をお預けしてますし、その先生が必要と言う事であれば、空けない理由は在りませんわ?
お店は、任せられるようにもなっていますし、案外これでも、時間はありますから。」
軽い謝意を聴きながら、自分の服装を見る彼。
何処か、おかしな所はないだろうか、内心ドキドキしていたものの、特に問題はない様子。
結構なお点前、お茶の作法だっただろうか、不勉強に、んー?と少しばかりの思考。
でも多分、彼がそう言うのだから、お褒めの言葉……なのだろう、か?
「すみません、その言葉は、未だ学びきれてなく、て。」
流石に、語学までは手が伸び切ってない、彼との日常会話程度なら、と言うのだけど。
ごめんなさい、と静かに頭を下げ。
その後に、風呂敷から零れる五トンと言う音に、目を丸くする。
「品物も、気にはなりますが―――ご報告の為の、と言う事ですわね?」
一応、と白銀―――の色をしているが、白銀ではない、もっと違う魔法の金属だと、竜の目は、商人の鑑定眼は見ぬく。
魔法を吸収し、溜める性質の金属で、驚くほどに、今、流通しているモノよりも、とても高性能だ。
なるほど、と小さくつぶやきつつも、まずは、話を、と男性に話を促して。
忘れる前に、暖かなお茶をメイド長に持ってきてもらい、彼の前へ置いてもらう。
■影時 > あのような男が出入りしている、というのはある種想定事項だった。
故に屋敷に入る際、刀を入手したのを機に、金を出して装いを整え直したのだ。
冒険者然と薄汚れた衣装ではなく、様式はどうであれ整った身なりというのは、世間体の面においても重要な事項である。
商人だから、という偏った視点や偏見ではなく、雇い主の住まいを訪れるにあたって作法は重視してしかるべきだ。
そうでなくては冒険者として他の雇い主や依頼人を訪れた際、胡乱に観られるというのは、実に良い事項ではないから。
「先生と呼ばれるのもなかなか落ち着かンが、こちらこそ世話になっている。
用事があれば念を送れば済むというのもあるとはいえ、こういうことは直に面通ししないとな」
確かにそう呼ばれる、家庭教師ということをやってはいる身分だが、あらためて先生と呼ばれるのは落ち着かないところはある。
冒険で発見した荷物で一番大きなものについては、運搬の関係上弟子に預けることにした。
きっと、弟子の部屋にぽんと放り出されているのではないだろうか。
白銀色の大きなウォーハンマーというのは、持って運ぶにはいろいろと目立つ。持参したのは同時に発見し、確認もかねていったん預かった別のものである。
「いや、気にしなくて良い。
言葉の綾というか、こういう言い方もある、という具合でな。よくお似合いで、といったつもりだ。
――いかにも。
報告と、詫びのために。
先ずは預かりしている妹君を同伴しての実習兼探索の折り、怪我を負わせてしまった件……誠に申し訳ない」
よく勉強している。だが、語彙や用法についてまごつきが生じる点については、仕方がない。
物の譬えが悪かったと苦笑を滲ませ、許可を得た後にソファに腰を下ろそう。
風呂敷包みの結び目付近から漏れる中身の色は、硝子にも水晶にも似た質感の白銀色。
製錬前、無加工の原石の状態から比べると、無作為、無秩序めいた魔力を吸い取る作用はないが、魔力を放てば吸われる反応はあるだろう。
改めての開陳前に、一番の要件を先に切り出す。結果的に大事には至らなかったとはいえ、怪我を負わせてしまったのは事実。
置かれる茶器から立ち上る湯気の向こう、座す女主人に向かって頭を下げる。
■リス > 「ふふ……、でも、家庭教師、でも教師なのですから。
それとも、影時様、とかの方が良かったでしょうか?何分その辺りは、私詳しくなくて。
できる限りは、影時先生のやりやすいように、とは思っております。
ええ、ええ。
大きなご報告の時は、そうして頂けるので、助かっております。」
リスとしては、適切な呼び方が欲しいとも思う、師匠、と言うのはラファルが使うべき呼称だ。
矢張り、家庭教師だし、先生と言う言葉が一番だと思う、そもそも、この会話は、彼の母国の国の言葉。
理由としては、此処迄遠くで一般的ではない言葉だから、傍聴されても理解できる人がどれだけいるモノか。
そう言った意味もあり、わざと、彼の国の言葉で会話をしているのだ。
だからこそ、意味が通じなくて首を傾いでしまう時が、多々ある。
ウォーハンマーに関しては、先んじて家に置いてある。
ラファルはあれで、魔法が使えるので、魔法で隠して持って帰ってきた。
それを大事に抱えているので、未だ現物は見させてもらってはいないのだ、なので、その金属は、今が初、と言う物。
「うふ、褒められると、面はゆいですわ。
変な所は在りませんよね?一応失礼には当たらないように、気を使いましたが。
こういうのは、矢張り知識深い人に聞くのが一番、でしょうし。
―――ラファルの?」
腰を下ろしながら、彼の報告を聞いて、首を傾ぐ。あれ?と言う所だ。
たしか、あの日はそれなりにヘロヘロになっていたが、元気だった、何と言うか、全力で遊び疲れた、と言う印象。
何時ものように、お風呂に入って、泳いで、何時ものようにご飯を食べて。
確かに、深い疲れを残しているようには思えたが。
「その怪我は、偶発的なもの、と言う事で?」
最初に、問うべき大事な事を問い返すことにする。
怪我をさせたと言う事自体は、問題はないと考えて居る、何故なら、冒険者と言う物はそう言った物だ。
無傷で毎回と言うのはあり得ない。
其れにドラゴンなのだ、生命力などは強いし、ちょっとやそっとでは問題はない。
だから、大事なのは、起こるべくして起きたのか、それとも、不可避な物だったのか、と言うのが最初だ。
リスは、そう判断して、静かに問いかける。
■影時 > 「どちらでも差し支えない、と云や差し支えない、か。先生で問題ない。
何分誰かを預かって物を教える際、金銭を貰う――という経験がなかったモンでね。
自分が住む、帰属する集落、一党の者にあれやこれやと教えることに、金銭の支払いを求めはしないだろう?
思念での用件のやり取りは急ぎには便利だが、ものを見せながらとなると、余計になあ」
郷に入っては郷に従え、という言葉がある。〇〇だから似合わない、というのは個人の単なる所管だ。
此方の当地の言葉・表現が正しい、適切なのであれば、その表現を用いることについては何ら問題はない。
あとは単なる個人の感覚、感想の問題だ。
学問を説いて教えるのではなく、伝授する相手を選ぶ上に限られた術理を教授すると、金銭や寝食の保証がされる。
ある種不思議な感覚だ。
機密を漏らしている、と故郷のものには言われそうだが、元々人買いが売りに来た孤児にも教えるのだ。
教えて、モノにならなければ結局捨て駒同然に扱う。尊ぶにはあまりにも血生臭い。
「細かな個所を気にしすぎると、着れなくなンのはこの国の衣装でも同じだろう?
結局のところ、違和感なく似合っていれば全く問題ない。ああ、妙に浮いている箇所はないともさ。
――所以としては偶発だ。とはいえ、結果は結果だ。
冒険や戦いに怪我はつきものであったとしても、まずは報告はさせてもらわねば、な」
筋や道理が通らない、と。些事であったとしても、この手のことをおろそかにはしていてはいけない。
このあたりは竜と人のものの考え方の違い、なのかもしれないが。
向こうの装いや反応を改めて眺めていれば、若しかするとという感覚はある。杞憂や重要事項ではないのかもしれない、と。
探索した場が特殊だった故と、事前にもう少し注意深く探索して進めば避けられたリスクであったとは思うが。
■リス > 「はい。では、そのように。
確かに、家庭内の教授などは、特にそう言った物は、有りませんわね。
ですね、モノを見せるのは主観になりますし……。
念話の場合は、見る人にもある程度の知識が必要になりましょう。」
彼の感覚を言語化するのは難しく、彼の視た物を視覚化するのはもっと難しい。
自分の知る彼女であれば、鼻歌交じりで行えるだろうが、魔法に関しても、才能で行うリス。
正直にそう言った物は得意ではなくて、難しいと肩を竦めるしかないのだ。
そして、そんな思考をしている間、彼が妙な表情をしているが―――そこには口を挟まない。
彼は言うべきことは言うし、必要ないものは、何も口にしないから、だ。
「ええ、ええ。確かに。
服装に関する規定やルール、貴族であれば特に、難しい物、で御座います。
私としては、先生に感謝をこの格好で表せれば、と、思いましたので。
大丈夫であれば、善かったですわ」
服装に関しては、今は雑談でしかない、なので、軽く問題ないことが確認できればそれで良し。
後は、もっと別の所に気を払う必要がある。
ラファルの怪我、に関して、だ。
「成程、偶発的な物。
畏まりました、その謝意を受け取りました、其の上で許します。
無論、大事なかったこともありますが、怪我なんて、何処にいてもするものでしょう。
意図的に、と言うのであれば、兎も角偶発なんてどうしようもないことに腹を立てても仕方ありませんわ。
それに―――ラファルの成長にも、繋がっておりますし。
あの子、首輪が欲しい、って。ああ。首を守る防具でしたかしら。」
報告に関して、正式な物を受け取る。
怪我に関しては、ドラゴンなのだ、野生に生きる一族、確かに人と混じわり、人竜である己たち。
人間のようにやわではないし、怪我なんて生きていればするものだ。
其れよりも、裸族のラファルが、最低限の服以外に、身を守るものを、何かを身に着けると言う事を覚えた。
その方が大事、だと思う。
何時までも、妹が半裸で外を歩いているのは、周囲の反応の面から見ても―――なのだし。
■影時 > 「そう、そもそも教えている技ってのは、内々で教えるだけに終始していたものだ。
このあたりでも何たら式など、剣の流派みたいなみたいなものはあるだろう?
教えているものも似たような部類とはいえ……、こういう機会というのは、あんまり考えたことはなかったからなあ」
剣術や槍術は反復練習を時間をかけて繰り返すことで、すぐに芽が出なくとも体得できる余地は多い。
だが、己が扱う忍術のような幾つかの技や術の複合となると、習得の難易度が一気に跳ね上がる。
平たく言えば素質が要る。その素養が、今言葉を交わす相手の妹にあったからこそ伝授し、忍者を名乗る許しを与えた。
これと同じことを他の誰かにやろう、と。金銭を得ようとするのは、悩ましい。
口で言うだけで伝わるものばかりではないから、だ。
「見たものをそのまま素通しさせる、……って云うのかねえ。
描いた絵を見せて伝える、ともいうのか何というのか。どうもその辺りが難しい。
まあ、書を紐解かなければ、把握できない事項も多かった」
風呂敷包みを解けば、出てくるのは7個の白銀色の金属塊<インゴット>と数冊の古びた書物だ。
全部合わせるとそれなりに重さがあったが、休養がてた辞書を借りて書物と向き合っていれば、いくつか知れたこともある。
最終的にインゴットを加工に依頼するとはいえ、伝えたい用件は事前把握がなければ伝えづらい。
「それだけ着こなせてるなら、あれだ。
異国趣味の貴族や他の商人との応対にも差し支えないだろうさ。
蒸し暑い夏場になれば、余分に衣を減らして薄着になるより――楽なのかねえ」
腰の帯の締め付けがという反応があるようだが、貴族のドレスを着こむ際、腰を細く見せるためのコルセットよりはずっと楽な気がする。
あそこまで腰を補足して型に嵌めたがる感覚はよそ者だからか。余計に理解がしがたい。そのくせ飲み食いし出すのは猶更だ。
「改めて忝い。この先、伸ばすには何らかの実習の機会はどうしても欠かせないと思っている。
似たような探索事項の際、俺も含めて一層注意を払うよう心掛けさせて頂く。
……――って、首輪? 首輪かー……」
今回は大事に至らなかった。だが、次もそうであるとは限らない。
注意を払うだけで回避できるのであれば、一層の状況把握や確認に心掛けることを言葉にして頷く。
ともあれ、続く言葉については、茶を飲んでいれば吹き出しそうで危なかった。
思わず眼を瞬かせ、噛みしめるように反芻しては湯呑に手を伸ばす。嗚呼、お茶が旨い。
首を守るための防具となれば、たとえば喉輪やゴルケットの類のような部位が思い浮かぶが、この場合は竜種独特の急所を守れるものが欲しいのか。
卓上で開陳したインゴットをちらりと見下ろす。なるほど、頑丈そうなものができそうだ。
■リス > 「ええ、と。確かにそう言う物は、有りますわね。剣術の道場など。
基本、先生は冒険者として活動されておりますし、それをメインにするというのは余り無いのかと。」
たしかに、彼は特殊な人間で、冒険者だ。
だからこそ、普通の道場の様に居を構える事が出来ないのだろう。
そんな彼が、ラファルが引っ張ってきたとはいえ、教えてくれるのは僥倖だ。
彼女は、彼以外の師事を求めてないのだ、学校にも行かないぐらいに。
正直、妹には、学校は行って欲しいと思うのだ、娘たちの様に。
そこまで考えて、思考を切り替えた、逸れましたわ、と。
「ええ、それに、ちゃんと正しく送れても、受け取る側がちゃんと受け取れないと、と言う物です。
例えば、私が金貨のイメージを野良犬に贈ったとして、野良犬が金貨を知らなければそれを受け取れないでしょう。
理解も出来ないと思いますし、そう言うのをクリアする必要もありましょう。
書……。拝見しても?」
先程の風呂敷から出てくる眩い色のインゴット。これだけでも相当な価値になる。
魔術師などは、特に求めるものだろうし、戦士としてもきっと欲しがる。
魔力を吸うという性質、詰まるところ、相手の魔法を無力化することができる。
あの人へのプレゼントにもいいわ、と此処にいない人を想像してみたりするが、書物に視線を。
そっと、白い掌を向けて、まずは彼に確認を。
触れても大丈夫かどうか、と言うのもある、本と言うのは、存外繊細なのだ。
触れて崩れてしまうというのも、古い本にはよくあるから。
インゴットと同じくあるのならば、製法などでもあるから、これはむしろ自分よりも、鍛冶師の方がいいと思う。
この国には、有能な鍛冶師は居るだろう、そうでなくても、契約しているドワーフのマイスターに願おう、と。
「安堵いたしましたわ。
夏には、浴衣と言う物があるそうですね?とても薄くて風通しのいい服。
そう言うのにしますわ。
あ、あと。」
此方なら、熱くないと思いますし、なんて、笑って見せる。
自分が手に入れた被服店、東洋の島国出身の本格的な所、紹介状を一つ。
彼も故郷の服が楽だろう、なので、場所と、トゥルネソルの名をしたためた封筒。
割引してもらえるはずだと。
和服の品評のお礼ですわ。なんてウインク一つ。
「はい、其れであるならば、私からは何も言う事はありません。
改めて、ラファルを今後とも、よろしくお願いしますわ。
詳細に関しては、本人にお聞き為されれば、とは思いますけれど―――言える事としては。
私共には、どうしても、と言う場所があるのです。」
竜と言う存在に明るい彼であるなら、それだけでも理解はできるだろう。
逆鱗と呼ばれる部位、竜の弱点というのは、やはり、人竜であるリス達にもある。
その娘たちには無さそうなのは、恐らく竜としての純度の問題か。
その場所を突かれると、仮令、今、彼が所持している手打ちの苦無でさえ、死に至らしめることができる。
だから、ラファルから、其処を明かす程度には、信頼を持たれている、と言う証左。
吹き出しそうになるところを見て、コロコロと笑いを零し。
落ち着いた男性の落ち着かない様子に、可愛らしい、と評して見せる。
そっと、自分も緑茶を一口。
慣れない風味を、静かに堪能する。
■影時 > 「だろうな。騎士の出で、冒険者として在野で活動している奴らも少なくないから、よく見かける。
正直、妹君に教える以外には――物を教えるのは主にはしたくない事項だ」
誰かにものを教えるというのは、時間を費やすことだ。
それだけで食っていけるのであればまだいいが、一から素地もない人間に教えるというのは、一層に時間を使う。
場所の確保もそうだが、精神修養めいたものも求められる。
真に極める、会得したといえるのは、さらにある種の先天的な才能の有無さえ問われるとも云える。
殺人の才能なんて、畑で取れるようなレベルで転がっていてはたまらない。
そうした精神性は抜きにして、今の弟子が諸々が抜きんでた、かつ、生活の保障があるからこその今の日常だ。
「なるほどなァ、確かに一理ある。
もちろん。見ていってくれ。保存の状態は思ったより良かった。
読み解けないものじゃあないが、妙な語句や言い回しが混じっている。
拾い読みとはいえ、おおよそは読めると思う。……この素材の加工を依頼するに足るだろう」
書の始末については、インゴットの加工と一緒にこの家に贈与、あるいは預けるつもりだ。
重要なのは、金属と呼べるかどうかわからない何かの性質、そして製錬後の加工という点である。
魔族の国の某所の地底で発見した書物群は、魔骸鋼石――なる呼称を与えられた特殊な鉱物、材質に関してのものだ。
由来と考察も含め、事細かに書かれたものは材質の特徴をわきまえて加工するには、十分だろう。
本には別途、栞のような形で但し書きや訳書きを添えていれば、読むには至難ではないはず。
「この先暑くなる時分なら、いい具合になるだろうなあ。
……あー、下履きとか履いても問題ないからな? その辺りの崩し加減なぞとやかく考えるもんでもない」
浴衣という言葉もどこか懐かしい。特に海辺などのような、湿気が多くなる土地柄であれば具合もいいだろう。
この地に伝わっていそうな着こなしの本にありがちな事項を思い出しつつ、口の端を捩じり上げて言葉を遣れば、差し出されるものがある。
その封筒と中身を確かめ、有難いと頷いては懐に納める。
今着ているものや忍び装束は手縫いが混じるが、外行きのものは専門の職工に任せられるのであれば、間違いはない。
「こちらこそ、だ。確かに承った。
……――その辺りはなんとなし程度には察している。場所は兎も角、防具をねだるってのは進歩か」
良き縁、だろう。その縁で幾度もなく竜種を、人の姿に変じたものたちをよく見ていれば、おのずと察せるものもある。
急所の問題が。普段使いではない鋼鉄の苦無であったとしても、氣を込めて突けるなら危ない場所がある、と。
形態はともあれ、エスカレートすると一枚もまとわない裸でもいそうな弟子が、防具を望むようになったのはいい教訓ではあったか。
そう噛みしめつつ茶を飲み下し、茶請けの煎餅に手を伸ばす。
あとはもうちょっと、女の子らしい服でも好んで着るようになれば、一層進化なのだろうか。
■リス > 「そう言う意味でも、稀有な先生に教えを乞う事が出来て、ラファルは、トゥルネソルは感謝いたしますわ。」
その感謝の代金として、支払っている金額は少なくはない、しかし、それでも、十分なのだろうか、と思う時もある。
資金以外の方面での支払いでも、行って、感謝とさせてもらおう。
技術や精神面、様々な面での、成長が、彼によって、有るのだから。
「それでは、失礼いたしますわ。」
大丈夫と言う許可を頂き、少女は所を開く。
読めてしまうというのは、良しか悪しか。
その鉱石の名前、そして、性能、加工の方法などは屹度秘匿の部分なのだろう。
それをざっと読んで、閉じて、はふ、吐息を吐き出す。
「そうですわね、家のお抱えの職人であれば。問題なく。
……何をご希望で?」
加工に足るという話によって、少女は理解する。
加工も、目的なのだ。彼も武器防具は少しでも良い物がいい。
この金属は、明らかに、鉄や、下手なミスリルなどよりもいい物となろう。
なので、どのような武器防具が良いのかと問いかける、そのインゴットは、素材でもあり、報酬でもあるだろう。
この、書があれば、ドワーフの職人の事だ、喜んで引き受ける。
恐らく、新しい金属と言う事であれば、試作にもなるはずだ、代金も必要なかろう。
技術料、素材料を鑑みて、ドワーフたちがお金を払うレベル、とも。
なので、サクッと欲しい物を問うてみる。
「後、写しを作らせてもらいますわね?
この素材に興味を持つ、この国のまだ見ぬマイスターを探してみたくも思いますし。
その許可を頂けるなら、今回の装備に関して、代金は頂きませんし。
逆に、お支払いいたしましょう。」
素材と、技術に関しては、之だけ伝えれば、問題は無かろう。
商売とは、対価の交換、今回の品物は、それだけの価値があるから。
「浴衣に関しましては畏まりました。
下履き―――。」
元々、下履きに関しては悩んでいた。
自分の肉体の特殊性から、下履き自体は、特殊な物を使っているのだ。
佩いて良いと言われても、流石に東方の下履きでは―――ふんどしになるのだろう、如何しましょう、と思う。
「できれば、内密に、と。命に係わる秘密なので。
ええ、もしかしたら、先生の言う事ならば、防具だけじゃなくて、服も。
今度、プレゼントしてみますか?」
もしかしたら、と言う願いを込める。
全裸で歩くのもいとわないというか、喜ぶ妹。
何とか着てもらっている、と言う感じで、頭が痛い所でも。
なので、そっちの進化も促して貰えればなぁ、と言う願いを込めて、プレゼントを進言してみた。
■影時 > 「こちらこそ、だ。
……金はいくらあっても困らないとはいえ、大金は手元に常に置いておきたくないモンでね。
寝食の保証と、装備や道具の都合がつけやすい点で大いに助かってる」
世の中は金とはいえ、その金銭の価値を保証する主体がなくなる、あるいは他国に赴く場合価値が変動する危険がある。
今のところはまだ見たことはないけれども、
思考遊戯や言葉遊びの一環として、貴重で価値あるはずの黄金が、土地が変わるとゴミ屑程度にしかならない――と誰が言えるか。
何より、金銭はそのまま蓄えようとすると重くなり過ぎて困る。
故に今の報酬と便宜で事足りている。それ以上を望む、必要となる場合は――きっと商談の時間だ。
「おそらく、工房――で務める者たちに周知する、熟知させ、共有させるためのものでもあったんだろう。
種も違えば語彙も違うとはいえ、そのような本をわざわざ回りくどくするのは、効率が悪い。
……原石、鉱物の類がもともと何だったのかも、まだ掴めていない段階だったのかもしれんか」
読めずに朽ちるよりは、大いによかった。
魔力による保護があったかもしれないが、並みの生き物を寄せ付けがたい環境だったからというのも、保存状態の良さの理由か。
魔の骸なる鋼たる石が果たしてどこから来たのか、魔力を吸い上げて荒ぶるのか、謎を考察する段階で終わったのか。
考察レベルの但し書きしか読み解けなかったが、加工精錬法だけは十分に知れた。それでいい。
「……短刀を一本と、手甲の一そろい。
短刀は鎧通しを作るとしっくりきそうだ。
あと、試しとして似たような場所由来の鎧と、ついでに可能であれば苦無の打ち直しを頼んでみたい。
手甲については鎧の仕様と合わせれば、忍びが使うに良いものができるだろう」
名手は道具を選ばない――とは云うが、生死を占う場所と局面で良し悪しというのは、命取りになりかねない。
弟子に預けている小太刀は性能は申し分ないとはいえ、今のところ完全に刀に認められているとは言い難い。
この見つけた素材で得物を使えば、単なる鋼鉄で作るよりもっとしっくり来るものができるだろう。
そのうえで、手甲を新調するならば鎧も同時に強化、再加工すると意匠も恐らく整うか。
場所は違うとはいえ、同じ魔族の国という領域で発見した鎧だ。大幅に加工しているとはいえ、大いに馴染む可能性はあると見込む。
苦無については、何かと蛮用が過ぎたため、念のため相応の職工に診て貰いたいという点もあるが。
「もちろん、問題ない。断る理由がない。
代金についてだが、この見つけた塊――こっちの言葉じゃ、インゴットと云うと通りがよいか。
こちらも幾つか、そちらに譲りたいとも思っている。
同じ素材か、それ以上の質でてきていると見える槌の所有権ともども、な」
何かと注文をつけてる以上、断る余地がない。問題は弟子と共同で発見した品の分配だ。
折半する方が一番美しいとは思うが、見つけたインゴットは全部で7個もある。折半しようにも奇麗に分けられない。
総取りするつもりはないにしても、弟子が望んでいるものを作るにしても、1個は間違いなく必要だろう。
「……あー。褌じゃなくとも、こっちの土地の下着でも全く困らンだろう。
頼まれなくとも流布するつもりは全くないから、安心してくれ。
服、か。そうだな……――今度渡してみる、か。何かそちらさんの望みのものがあれば、聞いときたい」
褌は作りも着方も、この国から見れば奇異だろう。自分から見たこの国の服飾もそうだった。
だから、組み合わせても何ら問題ないだろうとも思う。己の足元だって、草履や下駄ではなくブーツの類である。
聞こえる言葉にこもるのは、実感交じりの願いだ。
その言葉にこもる気配を思えば、先方の希望の有無も聞いておきたいと考える。
この先を考えると、学校に通わせるのもある意味、選択の一つである。師からの課題・試練というのも手か。
■リス > 「手元に置いて、堕とすのは一番怖いでしょうから。そう言うマジックアイテムを、手にするのが一番でしょうか。
ふふ、その程度、此方としてはお安い御用、でしょうし。
ドワーフの方にとっても、自分の普段扱わぬものなれば、訓練にもなりましょうし。」
彼の懸念、彼であれば、盗まれるのは無いだろうが、金は純粋に重いし嵩張る。
例えばその重量が無くなるような財布とか、別の場所と繋げて、何時でも其処から取り出せるような、財布があればいいかもと考える。
国によって、価値が変わるのは、善くある話。国によって、同じ金貨でも別の金属の含有量などもあるから。
純粋な金だけで金貨を作る国は余り無い。
だから、両替商と言うのが出てくる。彼の懸念もわかる。
そして、これからは商談―――になるはずなのだけども。
「此方の工房の面子としても、これは十分にと言えますわね。
確かに、新しく持ってこれないのは兎も角、見たことのない素材の精錬などは、屹度したがるはずですから。」
未知の物に対する興味と言うのは、だれしも多い物だ。
確りと残っている書物、問題なく読みまわせるが、それだけでは、と言うのもある。
未知の技術を取り入れて、一層の発展を考えれば。
若しくは、金属を知っていけば、この金属を、独自に作れるようになるかもしれない。
門外漢なリスは、そう、捕らえることにした。
「承りましたわ。
それであれば、問題はなく。
恐らく、苦無も、この金属製でのものを拵えると思います。」
訓練にもなるから、まずは簡単な物からとなれば、苦無は大きさ的にもナイフだし、ある程度型があれば、量産もしやすい。
なので、研ぎ直しも兎も角、この金属で幾つか作るだろうと、先に伝えて置く。
「畏まりました……と、槌?
それは後でラファルに確認しておかないと、ですわね。
あの子がしっかり持っているので。
と言うよりも―――あの子の所有物、になりますわね。」
冒険者の見つけたものは冒険者のものだ、流石に家族と言えども其れを売るから寄こせと言うのは出来ない。
つまるところ、師匠が手放した場合、ラファルのものになり、ラファルが要らないという時に、初めてリス達に。
後で確認しておきますわ、と、笑った。
「でも、くっきりしてしまい……こほん。
この話はここまでにさせて頂きたく。
服装に関しては、此方からは特に。
今は、ちゃんと身に着けてくれる、常時着てくれる、其方を重視したく。」
リスのは、ちょっと、と言う所もあり、此方の下着では。
その辺りはデリケートなので、一寸控えておくことにした。
一応乙女だし、自分から降った話題だけど、話していて、気が付いて紅くなる程度には恥ずかしい。
ラファルに着せる服は。
お任せすることに、まずは、肌を隠すことを、良しとしてほしい。」
何を、は後にしておこう、と。
■影時 > 「実用に足るまじないの産物や、宝石の類に替えておく方がほっとする。
鉄や鋼位までなら、場所が整えば打てるとはいえ、そうでない奴はどうしても誰かに頼まないと儘ならん」
盗まれない――とまでは言い切れないにしても、間違いなく言えることがある。金は重いのだ。
なんでも入る袋や財布であるとか、その手のマジックアイテムが有ればいいとはいえ、仮にそれを盗まれ、損失したとなると、目も当てられない。
故によくよく考えて、手元に置く・置かないの判断を付ける必要がある。
「同じものが見つかるか、産出できる鉱脈が見つかるかどうかは兎も角、作り手が奮起できるなら何よりだ。
苦無はついでの頼みだから、遣ってくれるなら手直しや研ぎ直しで問題ない。
……魔力や氣を吸い上げる特質は鎧通しの短刀の側に託せれば、と思う。
レイピアという細い剣があるだろう?
使い方として、利き手でそれを持ち、逆の手で守りのために短剣を持つ型があるそうだ。
魔力や氣を込めて頑丈になれる――というなら、作成を依頼したい短刀は、その使い方も見込んでいる」
気になるのは、“魔の骸なる”原石がどれほど埋没、あるいは散逸しているかどうかだ。
王国の山師がどれだけ有能かつ、知識を蓄えているかによる。だが、そうでなくとも今後の金属精錬、冶金技術に寄与する可能性は皆無ではない。
製錬後のインゴットという現物と、別途加工前の原石と製錬過程のサンプルが入った瓶類も粗方持ってきたのは正解だった。
そうしたことごとくも、譲り渡すについては、全く問題ない。
愛用している苦無は精度を上げ直した打ち直しを行い、逆の手で使うだろう短刀を新たに拵えたい。
自作とはいえ、鋼鉄製の武器を使う場合に二刀流に不安が生じた。それが直接の理由である。
「……ああ、なるほど。そうなると、インゴット類は俺の持ち物って配分なのかね、ラファル……。
俺の方でインゴットを四個。予測だが、短刀に一個、鎧の打ち直しと手甲の新作に三個あれば足りるだろう。
なので、残り三個だ。それをそちらに譲りたい。よろしいだろうか?」
槌にしがみついて、「僕の!」とか言い張っている顔と姿が何となく思い浮かぶ。
もとより使えるにしても、常時携えるにはかさばるものは所有権が弟子のもとにあることに何ら問題はない。
思い浮かぶ仕草と声に、いかにも言いそうだとばかりに笑って、風呂敷包みから三個、インゴットを取り出して卓上に置く。
「わかったわかった。
ンじゃあ、下着類はここまで――として、そうだなあ。考えてみよう。
次の講義のネタも考えながら、それとなしに聞いて考えを巡らせてみたいと思う」
王都におけるこの商会の女主人、その性に関するあれこれを思えば、これ以上は語るのも問題だろう。
羽織で包まれた両肩を大げさに揺らし、笑って頷きつつ、続く言葉に考える。
何も言っても師命であれば着てくれそうだが、それが意味がある、日常となりうるものでなければならないだろう。
次はフィールドワークではなく、試しも兼ねたちょっとした訓練の予定だ。伺い聞くには足るか。
■リス > 「財布、バックパック、の類であれば、ご用意はできますわ。
少し高くはなりますが、拠点の一か所と繋げて、取り出せる類の、と言う事も出来ますので。
あぁ、コマンドワード一つで、手元に、と言う事も出来ますから。
代金は、ええ、白銀のインゴット一つで、今言った程度の品物ならば、無料で提供できますわ。」
彼の懸念に対しての、一つの回答。
ラファルが使っているバックパック、あれは、見た目以上の物が入る上に、重量は見た目程度となる代物。
ご用命なら、直ぐにそれは用意できますが?と首を傾いで見せる。
必要であれば、彼の方から言ってくるだろう、だから、可能である、と伝え置こう。
できる出来ないを知ってもらうだけでも、十分だ。
そして、素材を選べば、堕としたり無くしたりする可能性を低くも出来る。
さらに言えば、よくあるもので、呼べば手元に来る、と言うのも、出来ますよ、と。
この辺りまでは、想定されてなかっただろう、と少女は楽し気に目を細める。
「誰だって、新しい物を、となれば、奮起します、モノづくりをするなら、特に。
畏まりましたわ。
では……ええ、ええ。頂いた仕様であれば、問題なくできるかと。
手直しや研ぎ直しは、問題ないですわ。」
レイピア、細剣……、刀と言う彼の国の武器を、刺突専用にしたような剣だったか。
言われてみればイメージしやすく、なら、と伝えるのも、簡単に出来ようモノだ。
サンプルを頂いて、其れなら、これは、工房では無い方面での解析をお願いしましょう、と頷く。
「んー……?その辺りは、先生とラファルでお願いしますわ。
はい、其れであれば、承ります。
では、代金や諸々の物は、差し引きさせて頂きますね。
あ、あと。
これを、国の研究所に預けますわ、詳細が判りましたら、お伝えいたします。」
槌を持って帰ったらしいラファル。
しかし、彼女は使えるかどうかで言えば使えるが―――好まない筈だ。
基本爪や牙、若しくはナイフや短刀、自分の体術と、その延長を好んでいたはず。
槌なんて、重量武器を好むならば、シロナか。若しくは―――似合いそうな子が一人。
と言っても、今はここに居ない妹に、と思い、後で聞いてみることにした。
それから、三個のインゴットを、手元に引き寄せる。
触れてみれば、確かに魔力が吸われ、それが溜まっているのが、判る。
「―――もう。
それでは、教育の方は、よろしくお願いいたしますね?」
ぷく、と頬を膨らませるのは、年相応の子供にも思えるだろう。
リスと言う少女ではある、彼から見れば、まだまだ青二才なのである。
それは其れとして、と、妹の教育に関してお願いし、お茶を一口。
それから、軽く手を叩けば。
膨らんだ革袋をトレイに乗せて、家令長が持ってきた。
「差し引いた対価、ですわ?」
なんの、とは言わない。
それだけの価値の有る物なのだから。
ちゃんと中身は宝石である。
■影時 > 「……確か、ラファルがその手の奴を持ってたな。
であれば、確かにそうか。
然るべき代価があれば用立てるコトだって、不可能ではないか」
弟子が所有しているものが世界で唯一、なんていうことはあるまい。
“然るべき代価”があれば、入手できるものだ。其れが恐らくは一般人や駆け出しの冒険者の稼ぎでは足りないものだろう。
だが、力量のある冒険者が本腰を入れて相応の仕事に臨めば、不可能ではあるまい。
あとは、そう。それほどの品を必要とするだけの理由と所以が、己にそろうかどうか。
今はこだわりとして、便利すぎるものは使わない。だが、手段を択んでいられない時が来た場合のために、覚えておこう。
「まぁな。俺もできることが増えたときには、奮起した。柄にもなく心が躍ったもんだ。
細かなあれこれについては、改めて店の方で頼むと思う。その時は、宜しく頼む」
細剣の類は使い手にもよるが、使い手が希少な部類ではないだろう。
アクセサリーには嵩張ると思うが、豪奢に飾られた類のものを、貴族の子弟が佩いているのを見かける機会は多い。
寸法などはここではない、店に改めて出向いた際に頼めば問題はないだろう。
今は持ってきていない鎧や材料取りのため、今使っている手甲類を持ってくる必要がある。
風呂敷包みの中で、割れないよう個別にちょうどいいサイズの木箱にまとめたサンプル類の瓶も差し出す。
蓋を開ければ、緩衝材として綿に包まれた瓶類が出てくる。
物によってはインゴットよりも強く、魔力を吸おうと脈動する気配を感じるものがあることだろう。
「承知した。そこは改めて、話しておく。
次第によっては相応の代金を用立てるつもりだったが、助かる。
どれだけのことがわかるかどうかは分からんが、少なくとも手元に置き続けるには嵩張るのは間違いなかったんでな」
槌の類は使おうと思えば使えなくもないにしても、普段やっていることとは真逆となる。
面白いのは、槌の側もどうやら使い手を選ぶような素振りめいた反応があったことだ。
氣を通すと吸い上げる感覚とともに、重さを感じずに振り回せるという確信めいたものを得たのだ。
だが、如何せん戦い慣れたスタイルというのは、一朝一夕に替えられるものではない。
サンプルと書物類、そして分配分のインゴットが相手にわたったのを確かめれば、風呂敷を包み直す。
「ははは、確かに承った。
……思った以上に頂けた感じで、驚いたぞ」
頬を膨らませる仕草を見ると、種を考えなければ名前の音が似る小さな動物のよう。
頷きとともに己も茶を一服し、煎餅を齧っていれば、家令長が何かを持ってくる。
受け取る革袋の中身を改めれば、小さく目を見開く。
袋の中で揺れる宝石類の価値は今の相場で考えれば、幾らほどになるか。文字通りの皮算用でも予想以上の額だった。
■リス > 「ええ、一応、商品の宣伝の為に持たせてありますわ?
はい、頑丈なのをお望みなら、其れこそ竜鱗製でも、作って見せますから。」
ラファルが持っているのは、皮に強化の魔法を使っている製品だけれども。
そもそもの素材が強靭であるもので作る事も可能だ、其処から強化すればさらに、となるのでもある。
ただ、そうなると、資金がとんでもないことになるだろうけれど、まあ、先程の宝石があれば十分おつりがくる。
必要あればどうぞ、と言う程度に、少女は微笑んで見せた。
「そう言う事、でしょう。
工房にいる人は、その気が特に強くなりますから。
あぁ、あと……一度以上、工房に足を運んでいただく必要ありますわ、採寸など、バランス取りなども。
では、お待ちしておりますわ、もし手が空きませんでしたら、ラファル辺りでも、伝えていただければ。」
レイピアは、基本貴族子女の護身用の武器として多くある。
弱いわけではなく、確りと使えば十分に脅威な武器で、人を殺すにも殺しやすい。
何より、軽めだから、女子でも扱えるのだ一般的な大きさなどで良いならば、此方も直ぐに用意はできる。
ただ、人に寄っては剣のバランスなども重視するから、採寸などした方がいいだろう。
良い素材の物を腐らせたくないし、今度工房へと、足を向けてもらう必要も出てこよう事は、伝え置く。
説明しながら、木箱に入っている小瓶。
先程のインゴット以上に吸い取ろうとする力の強い其れを眺め、アクセサリー用にとか。
研究部門に、回さないとな、と。
そんな風に考えつつ瓶を箱に締まっていく。
「はい、調べて、判るまでに時間がかかるやもしれませんが、どうぞお待ちを。」
そう言ってから、革袋に驚いている様子に、小さく笑って見せた。
「未知の素材、その精錬方法の書物に掛かれた技術。
品物以上に様々な恩恵がありましょう?
品物の価値によって、は、追加を支払うためにお呼び立てしなければならないくらいですから。」
未知だからこそ、判らない。
これ以下の価値だったとすれば、リスの目が節穴だったというだけだ。
ただ、知識も技術も、正直に言えば、子のままであれば失伝してしまったやもしれないものだ。
それを考えれば、安い位なのだとおもう。
お納めくださいましな、と、言ったのちに。
後は、細かい今後の詰めを行いながら、今日の訪問は、終わるのだろう―――。
■影時 > 「成程成程。……これはちゃんと取っておかせてもらう。
何でもかんでも便利にし過ぎるのは好みじゃあないが、手段というのは金以上に多いに越したことは無ェ事項だ」
流石に竜鱗でとはいかなくとも、今のところ忍び装束と愛用している雑嚢と同じかそれ以上のものが望ましい。
今の雑嚢は、苦無や短刀を収める鞘を括り付けるための仕掛けも裏面側に備え付けた特注品だ。
沢山詰め込み過ぎてしまえるものは、取り出すときが大変そうな印象もあるけれども、選択肢というのは多い方がよい。
「下手の何とやらでもあるが、自分が使うものは最低限自分で拵えておきたいからなあ。だから、感覚はよくわかるつもりだ。
勿論、この後でも直ぐそうさせてもらう。
諸々抱えて出向くとするか」
この後は十分に時間がある。店の営業時間も横目で置時計も文字盤を眺めれば、営業時間内であろう。
己が足と速度なら、荷物を一通り抱えて持っていくだけには困らない。
刀以外は手持ちの武器や防具を一揃い預けに行くのだ。
一昼夜で片付かないことは必定であれば、善は急げというとおり、早め早めの行動が肝心と云える。
出来上がりまでの時間帯を今の時点で策定できない以上、勘を鈍らせないために受ける仕事はよく吟味しようと心に決めて。
「まァ、な。錬金術……だったか?この土地で見知った術と重なってる工程もあるように思えた。
応用が利くものであれば、今後の何かなどに寄与できることだろう。
現状の用途より、今後の使い道が見えている額であれば、俺としては十分に事足りる」
この土地に足を踏み入れ、初めて見知った事柄は多い。錬金術の類もその一つだ。
知った工程と重なる要素があれば、それを手掛かりに知りうる事項もきっと専門家にとっては多いのではないだろうか。
宝石の小袋を袖の下に納め、せっかくだからと供された煎餅や残りのお茶を味わいつつ、今後の細かな詰め等を行う。
十分に話し終え等すれば、この場を辞して――。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 トゥルネソル家」から影時さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 トゥルネソル家」からリスさんが去りました。