2022/05/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」に竜胆さんが現れました。
竜胆 > 王都、マグメールの富裕地区の一角にある、バル。
 お洒落な内装と、貴族向けのお酒や食事、将又ゆったりと座れるテラス席の有る、御用達と呼ばれるお店。
 客層も基本的に上品―――貴族か、高位冒険者、豪商などが集まっている酒場。
 そのテラス席の片隅、一人の少女が、優雅に座る。

 真紅の髪の毛からは竜の角が伸びていて、オープンバックのドレスからは、竜の翼が。
 椅子の背もたれを避けるように腰を掛けていて、スカートの裾からは、竜の尾が地面に。
 人竜(Dragonhalf)と呼ばれる種族の娘で、娘が身に纏うドレスは、並の貴族のそれよりも、善い生地で仕立て上げられた特注品。
 大富豪の娘、と言って良いだろう所作をもつ、少女。
 その名は、竜胆・トゥルネソルと言う少女。
 本来の名は、竜胆という、東方の名前ではないのだけれども、魔導士である少女は、魔導士としての名を竜胆としている。
 少女の目の前には、暖かな珈琲があり、少女の手には、一冊の本。
 黄金の竜眼が静かに本に目を落としていて、時折、ぱらり、と書物が捲れる音がする。

 穏やかな、午後の一幕、という感じで、本を捲り。
 時折、珈琲を音もなく啜る。

 貴族や冒険者に、絡みに行くこともなく。
 唯々、静かに本を読んでいた。

竜胆 > しかして、だ。
 少女が今現在いるバルは、出会いを求めて集まる類の場所、らしい。
 貴族の子女は、見目麗しい、自分の好みに合う人物に声をかけているようである。
 冒険者も、貴族の子女などに、声をかけているようだ。
 それを横目で見ながら、上品というものは何なのかしらね、なんて、少女は鼻で笑う。

 少女の元に人が来ないのは、単に少女が、異形―――人竜だから。
 そして、それを隠そうともせずに、堂々と翼も、角も。尻尾も曝け出しているから、なのだろう。
 此処の珈琲は、店主が凝っているからなのだろう、とてもいい味の珈琲だからお気に入りの店で、時折ここに来ては、静かに本を読む。
 それだけで十分とばかりには思うが、周りが発情しているのを見て、気分がそがれるわね、と呟く。

 彼らに合わせて、ナンパでもすればいいのかしら、と考えてはみるモノの。
 今いる彼等に関して、特に声を掛けたい、とか思う相手がいない。
 知性が足り無さそうだ。

 興味を引くような相手がいればいいのに、と思いながら、給仕に頼み、糖分を。主にケーキを注文した。

竜胆 > 暫くして、ケーキがやってくる。その間、少女はバルの様子を眺めていた。
 彼らは矢張り、声を掛け合っていて、気が合った様子の男女……に限らないが、相手を見つけると、其のまま去って行ったり。
 バルの二階へと昇って行ったり、様々な動きをしているのが見える。
 いなくなったのを見て、それを追う事は面倒臭かったが、まあ、想像に難くはない。しけ込んでる、という奴なのだろう。
 
 そんな風に、観察をしていれば、ケーキが届く。
 相も変わらずに、竜胆の方に来るのは、居なさそうだ、というか、自信満々に異種族を見せつけていては、当然と言えば当然か。
 この国は人族至上に近しい思考がある、ミレー族が奴隷になって居る事を考えれば良く判る。
 魔族とも戦っているのだし。
 それを考えれば、人竜……人と竜のハーフである竜胆に、声を掛けるのは、それこそ、奇人変人と言われるのやもしれない。
 といって、竜胆自身は、姉の様に人の姿に変わるようなつもりはない。
 自分は竜であることに誇りを持っている、それを隠すなぞしたくもない、それを強要するなら潰せばいい。
 そんな思考を持つ少女だから。

 それは兎も角、少女は、届いたケーキを一口。
 そして、珈琲を一口、甘いケーキを流す、珈琲の苦みがちょうどいいわね、と呟いた。

竜胆 > 暫くケーキを堪能していた少女は、最期の一口を、ゆっくり食べ終える。
 珈琲を一口飲んで、飲み終える。パタリ、と本を閉じてから、視線を巡らせた。
 遠巻きにこちらを見ている貴族達、そして、冒険者達。
 こちらに来る様子もないし、此方から話に出る積りもない。

 少女は、代金を支払って、立ち上がる。
 ふぅ、と軽く肩を竦めてから、少女は、バルを出た。
 道行く貴族たちは矢張り、お高く留まっている様子で、路を行きかっている。
 そんな彼らを眺めながら、人込みの中に混じることなく、少女は、去って行くのだった。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」から竜胆さんが去りました。