2021/06/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 会員制バー」にジギィさんが現れました。
ジギィ > 「ごめぇん、もう飲めないー…」

薄暗い地下のバー。
幾つかあるテーブル席は額を寄せるようにして会話する客で埋まっていて、今はそのひそひそ声さえも落ち着いた調子のピアノ演奏に紛れている。

その店の中、そこだけぼうと明るいカウンターにつっぷしている女がひとり。紅茶色の髪から長い耳をはみ出させて、そのくせ毛をじぶんでぐしゃぐしゃとかき混ぜている。
そこから呑気に発せられた声はちょっと人目を一瞬引いたようけれども、直ぐにそれぞれの会話に戻って行く。

「あー…ごめん……んん…歌…」

突っ伏しているのは、先ほどまでピアノの傍で歌を披露していた女だ。
一幕歌い終わって、粋な客からの一杯を一口飲んだだけでこの体たらく。

「ごめんて……昼間……外居たから……」

謝罪の言葉は、カウンターの向こうから冷ややかに視線を向けて来るマスターへのもの。
新緑溢れる森を散々散策して薬草採取に努めて、からの夜のアルバイト。
歌を披露する機会はなかなかない事とて女自身も張り切っていたのだが、日暮れぎりぎりまで飛び回っていた身体はやはり、くたくただったらしい。
一口飲んでピアノの旋律に耳を傾けて、次の歌は何にしようか…と考えていた思考はいつの間にか霞んで
気付けばバーカウンターのテーブルに頬ずりしている始末。

(やば……アルバイト……)

次呼んでもらえないかもー、という焦りはあるものの、身体は素直に言うことを聞いてくれない。

ジギィ > 「…よっ…――とおっ」

しばらくぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜていたが、気合一発。
がばっと身を起こすとぱちーんと両手で頬をはたく。
それからジト目で見下ろしていたマスターにびしっとピースサインを送って、決然とスツールを降りる。
ちょっとよろめいたのはカウンターに掴まってノーカンだ。

そうして再び舞台に立ったエルフ女が伴奏に促したのは、陽気なジャズ曲。
無論、歌い手本人の眠気を吹っ飛ばす目的が8割方で、マスターはまたカウンターの後ろで渋い顔。
その渋い顔を見ないようにしながら、歌い手は殊更陽気に手を鳴らし足を鳴らし観客にスウィングを促して―――

その夜はいつものそのバーらしからぬ陽気な雰囲気が扉の外まで零れ、大盛り上がりにはなったものの
歌い手は店の雰囲気を大事にするマスターから、こってり油を搾られることになったとか。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 会員制バー」からジギィさんが去りました。