2021/06/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にデルフィナさんが現れました。
■デルフィナ > 深更の夜、月の見えない曇天の空の下。
富裕地区の外れに佇む瀟洒な邸宅の窓辺に、白い人影が揺らめいた。
窓からぼんやり眺めた裏庭で、誰かが、何かが呼んでいるのが見える。
其れは笑顔で手招きをする人影だったかも知れない、
或いはかつて見知った誰かであったかも知れない。
何れにしても、其れに『呼ばれた』と、女が認識した。
其れが全て、其れだけが理由。
そして、女は靴も履かずに素足の儘で、音も立てずに自室を抜け出す。
貴族の家には稀なことに、皆が寝静まった屋敷の中。
ゆうらりゆらりと足を運ぶ先は、裏庭に続く階下の扉。
呼ぶものが人間であるのかも、そも、本当に呼んでいたかも解らないのに、
女は嬉しげに微笑み浮かべ、己が下腹を撫でながら、
ふらり、ふらりと階段を降り、人気の無い廊下を辿る。
「貴方、迎えに来て下さったのね、……待っていたのよ、わたくし、
……此の子も、貴方がいらして下さるのを、ずっと………」
とうに変調を来した女の眼が、女の頭が、何かに、誰かに、囁くように。
謳うような滑らかさで吐いた台詞の真偽も、不明。
女が開いた扉の先、待ち受けるのはただ、暗い庭か、其れとも。
■デルフィナ > 一歩踏み出せば夜の庭、其の寸前で、背後から声が掛かった。
御嬢様、と呼ぶ声の主は、幼い頃から女を世話している乳母である。
勿論、彼女は幻でも妖でもない。
骨張った細い腕が、けれども意外にも強い力で、女の腕を掴み引き留めた。
かくして、女の足は止まる。
連れ戻されて、汚れた足を清められ、寝床に押し込められた後には。
――――――――女は夢の中で、夜の庭を彷徨うのだろう。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からデルフィナさんが去りました。