2021/05/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 会員制バー」にジギィさんが現れました。
ジギィ > 昼間は夏のような陽光が差すようになった日の夜。
富裕地区の居住区、とある路地奥にあるバーの看板は、今宵は光を灯していない。
地下にある店内は当然客はおらず―――――

「……はぁ」

臨時雇いの楽師たる、エルフの女がひとり。店内の灯りを疎らに灯して、カウンターによりかかって入口の方を眺めている。

勤務日の日付を間違えたのは果たして女の方か店主のほうか。
取り敢えず来てしまったからには仕方がない。
何とか店主にゴネて
『同じく店休を知らない客が来たら相手をする』
『給料はその売り上げの歩合』
と話を付け、カウンターのこの場に居座って今に至る。

「――――…」

地下の店だから、窓から月を眺めるだなんてことも出来やしない。
じーっと見つめる扉の向こうから、靴音など聞こえることもない。
結果ぼんやりとカウンターに頬杖ついて

「……ピアノ弾いちゃおっかな……」

客あしらいが疎かになるから『求められたとき以外は触るな』と言われている。意外と真面目なエルフは恨めしそうにピアノを見るものの、吐息だけを盛大に吐いて、また扉を眺める作業に戻る。

(……匂いのしない薬草調合なら大丈夫かな……)

注意されていない事項に関してはタガが緩むらしい。
スツールに腰掛けた脚をぶらぶらさせて

(あと5回、揺らすうちに誰も来なければ
 荷物にある薬草かたづけちゃおーっと)

気持ちとしては来て欲しい気分半分、来てほしくない気分半分だ。

ジギィ > 爪先が揺れた数は適当。
兎に角それが自分のバックパックに当たったところで、紐に引っ掛けて器用に脚で吊り上げる。

「よ……と」

手に取ると、どさっとカウンターの上に。
ごそごそ取り出すのは乾燥した薬草と、乳鉢と擦り棒のセット(携帯サイズ)。

ごりごりごり……
「――…ふふん、ふん ふーん♪…」

地下の店。
よくよく考えれば誰に聞き咎められる筈もない場所で
地味なすり鉢の音に合わせるかに呑気な鼻歌を歌い始める。

本来は鼓舞のための音楽は、すり鉢の中身を粉にするに相応しいような気がして、ついつい肩を入れて

「ふ―――ん♪ ふ ふ ふぅ―――ん♪」

黒のロングドレス姿で乳連鉢をする姿は『魔女さながら』と言ったのは、後で仕入れたものを店に置きに来た店主の談である。
ごりごりごり……

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 会員制バー」からジギィさんが去りました。