2021/05/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 会員制バー」にジギィさんが現れました。
ジギィ > 富裕地区の住宅街、川沿いにある通りの路地の奥。
覗き込まなければ、ともぞれば覗き込んでも見落としそうな小さな看板の下に地味な扉。
如何にも『通好み』を演出した出入口はすぐに地下階段となっていて、辿り着く先は小体のピアノバーだ。

今宵の月光を照り返しながら、さらさらと音を立てる川音を背後に階段を下りて行けば、控えめなジャズピアノの音と共に、ウェイターに迎えられることだろう。

「あー…そうね、うん。
 ……様子見がいいん―――いいと思いますよ」

室内は薄暗く、ぼうと浮かび上がるのはバーカウンターだけ。後は各テーブルの頼りない蝋燭だけがゆらめいている、その部屋の更に奥。
ひそひそ話をする客が多い中、なんとなくアッケラカンとした女の声がやや室内で目立つ。

「―――ええ、これはそういうカードですから」

本人が慌てて気付いて声を落として、対面している初老の男に語る。
暫しのやり取りの後、相手から満足の頷きが返って来て、対面する女エルフは人知れずほっと肩の力を抜く。
彼が去る時にテーブルに残した紙幣、意味深な笑みで闇の中へ見送ってからそっと手を伸ばして、傍らに置いてあるカードの山の下へそっとしまう。

いつもはピアノ伴奏やらで稼がせてもらっているが、今日は店主の気まぐれな『出し物』として占い師をやっている。
ぽつぽつとテーブルへやって来る客に意味深に笑いかけ、タロットカードを意味深にかき混ぜて、意味深に取り上げた内容を語って――――今日は何回目だろうか。

(嘘ついてるわけじゃないけど…)

薄闇で更に部屋の奥。
見付かりづらいだろうと踏んであけすけに溜息をひとつ。
正直相手の悩みも深く聞かないで取り上げるカードは、何となく当たる。
…何となくの部分が本人にも説明できないので、何となくすこし、うしろめたい。

暫く占いの客は途切れそうで、女は退屈げにタロットカードを切り始める。
―――取り敢えず、次の客にまた意味深に笑うくらいの気概を整えなくては。

ジギィ > 薄闇の中客を眺める。
老若男女、やや若めが多しというところか。
男女の組み合わせも同性同士の組み合わせも、ひそひそ話が好きそうな人たちであることだけは間違いがなさそうだ。

カードを切る手を止めずつらつらと視線は廻る。
今宵ピアノを弾くのはうら若い女性。

(―――後で一曲、歌うための曲を弾いてもらおうかな…)

人前で歌いたい、というわけではなく
伴奏付きで歌うのはとても気持ちの良いものなので、何だったら彼女にチップをはずんでも良い。
思いながら指先は、カードをゆっくりと切る。
ぱたん、ぱたん、ぱたん―――