2021/02/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 会員制のバー」にジギィさんが現れました。
ジギィ > 春の霧雨の降る夜。

王都の富裕地区、それも居住区となれば深夜は人気なく、時折行き交うのは馬車か衛兵だけ。
交通手段としても使われる、街を巡る小川に面した通りも同じこと。しんとした中に、川のせせらぎだけが聞こえる。

屋敷同士に挟まれた路地の奥。貴族の屋敷の一部を店舗として使っている会員制のバーは、その小川の側にだけ入口がある。
中に入ればすぐに階段を下る地下へと誘われて、薄暗い室内はどれほどの広さか伺い知れない。
明かりは今は、各テーブルの頼りないキャンドルと、歌姫の舞台を照らすライトだけ…

(――――優雅なことで)

その歌姫
―――の後ろ。
暗闇と言っても良い場所でピアノを奏でる女は思う。
肌の色とも相まって、ほぼ闇に溶け込んでいる側からすると、頼りないキャンドルに照らされる客たちの顔も解る。
―――といっても、それほど興味も無いからじっと見はしないけれど。

(―――お、っと…)

指先が鍵盤を外れそうになって意識を戻す。
知り合いに頼まれて軽い気持ちで引き受けてみたら、慣れない衣装でそんなに気を散らしてもいられない。
流石富裕地区でのお仕事ということで払いはいい。
できれば今日はそつなくこなして、次にも声が掛ればいい…

音に入り込めれば、歌姫に合わせて奏でるのはどうという事も無い。
只耳と指先とに心を溶かして、普段野を駆けている女は今無心に音を紡ぎ出している。

ジギィ > 舞台で歌う、柔らかい光に包まれた歌姫を時折横目で見る。
自分とは正反対のような白い肌に光沢のある銀のドレスを纏って、むき出しの肩から零れる糖蜜色の真っ直ぐに長い髪。
青い瞳は憂いを含んで、濡れたような紅い唇でしっとりと恋の歌を歌いあげている。

中々の歌い手だと思う。
彼女のように、微笑んで自分を差し出せば引く手あまたであろう女性には羨望の念がある。
到底自分には、素質からして無いものだけど。

夜から始まって、夜更けに及ぶ今になって舞台は終わりに近づく。
舞台から降りたあと機会があったなら、声かけてみようか…