2020/10/07 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にリスさんが現れました。
リス > 王都マグメール、冨福地区。そこは、貴族をはじめとするお金の有る物たちが土地を買い、住まうことの出来る場所、王城の程近くの一等地。
 周囲には警備兵もいて、治安のいい場所でもあるその区域、綺麗に舗装された石畳を歩く少女がいる。
 トゥルネソル商会の三姉妹の長女、リス・トゥルネソル。彼女は人間ではなく、竜と人の相の子である、人竜(dragonhalf)。
 見た目は人間のようであるが、この姿は魔法により、人そのものに、姿を変えている少女で、本来は翼と尻尾と竜の角が生えている。
 商人として育てられて、商人として育ち、妹や娘とは違い荒事は一切できない性格の少女、彼女はお気に入りの藤篭を下げて、歩いていた。

「うーん……。」

 夜の街路は、危険ではあるが他の区域よりは安全だ、だからこそ、少女は一人で歩いて居られた。家に近いのもあり、何かあれば逃げることも出来る筈なので。
 街灯の奥の星空を見上げながら、人気の薄いこの場所を歩き、進むのはとある場所だ。
 馬車で移動、と言うのもあるけれど、貴族ではないし、近い場所だから少し馬車で使う費用をケチってみた。
 目的地はとある貴族の館だ。
 商人である少女が貴族の館に足を運ぶという事に関して、いくつか理由がある。
 とりあえず、今のうちに考えをまとめておいて、という事もあり、少女はのんびりと、邸宅に向かい、足を運ぶ。

「……護衛の一人でも、連れておけばよかったかしら。」

 暗い夜道、安全と言われる富裕地区の街路であっても、絶対はないのだ。
 危険なことも発生するだろうし、それを考えれば、冒険者を雇って、守ってもらうのは正しい。
 友人に護衛になる奴隷を売っておいて、自分にも、というのは。
 最近は一寸危機管理緩すぎるだろうか、はふ、と桜色の唇から溜息を吐き出して見せる。
 お金が集まれば集まるほど、それを使うのをためらう―――典型的な貯め込み型ドラゴンか。

リス > 夜でも、人通りは完全には無くなってはいない、お酒を飲んでいい気分になっている貴族が居れば、その護衛として周りを固める私兵。
 街路の片隅には見回りの兵士などがいて、家族連れだろうか、楽し気な人々がいる。
 空いているお店もそれなりに在り、食事の店とかお酒を販売しているお店も、平民地区の騒々しさとは違う賑わいが見える。
 暗いから、夜道だから、危ないと思って居ても一人で出歩く理由としては、この辺りなのかもしれない、安全があるから。
 それでも、万全ではない。

「やっぱり、護衛は必要ね。」

 必要経費、という本人的な魔法の四文字を思い出しながら少女は息を吐き出す。今度もう少ししっかりと考えてみないと。
 本当は、嫁と一緒に、街に繰り出してお買い物、とかしたい。デートしたい。
 彼女は凄腕の冒険者だから、彼女といれば、危険はないはずだ、デートで楽しむことも出来る、一石二鳥。
 しかし、敏腕だからこそ、忙しく、普段から家にいないのが寂しい。
 その代わりに、と護衛を矢張り雇う事にしなければならないか、と。妹たちに護衛を頼むのは気が引ける。
 そもそも、竜胆は家から出ようとしない、ラファルは家庭教師と一緒に何時も冒険者している。
 娘は―――姉の方も冒険者をしていて、いつも家にいないし、妹の方は―――何をするべきか自分で悩んでいるので見守っていたい。

「そもそも、あの子たちは小さな子供だから、私の都合で使うのもなんか違うわ。」

 考えてみれば、自分以外の家族はみんな大体自分より強いというか身を守る術がある。
 たぶんドラゴンとしては当然の嗜みなのだろう、自分はドラゴンよりも人の意識が強いという事だろう。
 ぷう、と小さく音を鳴らして息を吐き出し少女は周囲を見回す。
 空色の竜眼は、行き交う人々を見回して、何かを探す様に。

リス > 「―――うーん。」

 軽く唸る少女、視線を巡らせても何か気になる物、と言う物も無かった。これから行こうとする場所に向けての足も、一度止めてしまう。
 少し不安が大きくなってきたのだ、この町は、この国は、安全は絶対ではないのだし。
 自衛と言うものを少しはしなければなるまい、自分の鱗は正直に言えば、剣は通さないけれど、かといって、怖い事は嫌だ。殴ったり殴られたりしたくはない。
 それに、目的地は別に、今日行かなくてもいい事でもある、約束をした訳ではないのだ。
 街路の隅に足を止め、少女は星空を見上げ、もう一度思考を繰り返してみた。

「今日は、止めておきましょう、気になってしまった、し。」

 感と言うもの在る、今、無理に行くのは良くない、何せ、借金の取り立てだ。期限は未だ先であるが、そう遠いわけでもない。
 貴族が、ちゃんとお金を稼いでいるのかの確認だったし、プライドの高い貴族とか、悪い貴族なら踏み倒しもあり得る。
 一人で行って、襲われたらたまらない。それに、自重するように言われているのだ。火種を作ることもあるまい、と。

「でも、借りたものは返してもらわないといけないし。」

 護衛をしっかり作ってから、また行くことにしましょうと決めてしまうと。
 とたんにやることが無くなる。
 さて、どうしたものかしら、と近くのBARを覗いてみることにする。
 何か食べようかな、と。

リス > 「……ここで食べるなら、家に戻った方が早いか。」

 酒場を覗いてみるも、家に帰って食べたいと思う、家族と一緒に食べる方がおいしいから。そう考えて少女は、酒場から視線を外して、戻る。
 家にはほど近い富裕地区だし、少女は、少し小走りになって、走っていくことにする。
 その足は、なんと、普通の人よりも遅かった、少女は、自分で考えている以上にどんくさいのだ。
 身体能力は、防御力とパワーに振られているので仕方ないのかもしれない。のたのた、とたとた、少女は、街路を走る。
 お家に付くまでそんなにかからないだろう、その理由は体力は多いので走っても止まることがないから、長距離ランナー。

「今日の食事は、何かしらね……?」

 お家のコックさんはそれなりに気まぐれにいろいろな物を作る。それはおいしいのでいいのだけれど。
 メニューとか、判ると嬉しいんだけどな、と思いながら。
 走る少女はゆっくり、ゆっくり、闇の中に溶け込んでいく―――

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からリスさんが去りました。