2020/09/28 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/王立図書館」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  ――回復魔法が急に使えなくなって数日。当初は暢気に構えていたのだが、ここにきてそうもいかなくなり、かなり焦り気味に術力を取り戻す方法を探して右往左往。
 そしてやって来たのは知識の宝庫。王立図書館。利用者は主に貴族や王族、その関係者が多いもので、なかなか平民の身としては入り辛い場所ではあった。故に入館の許可を予め得。服装もラフな物は避けて多少小奇麗なものを着込んで万全を期した。
 ここでならばきっと何かしらの解決策が得られる、少なくとも手掛かりぐらいは収穫できるだろう――そう思って、入館時は少々緊張気味に。司書から利用に際しての説明、注意を受けてようやく書架の森へ彷徨い始めた。
 
「んー…こっち、が自然科学? そっちが魔法史論、魔導技術概念……に……あ、あそこ…かな? 回復魔法理論………」

 壁一面に張り付くように並ぶ沢山の書籍の一角。魔法関連の中でも回復魔法の分類を見つけて立ち止まり。
 早速背表紙のタイトルから、必要な書籍を探し始め。これは、というのを見つけたはいいが――

「た、高い……届かない……」

 自分の背丈よりも書棚はよっぽど高い。ちょうど壁の上から下まで使って造りつけてあるのだから、目当ての本がちょうど手に届く場所にあることは五分五分だ。

 大体自分の頭二個分くらいは遠い場所に収まっている蔵書を見上げ。
 とりま。

「とうっ」

 垂直跳び――つまりジャンプです。ちょっと跳べば指先が目当ての本に引っ掛かる距離なもので、それでギリイケるかも、と思った女はちょっとアホなんかも知れない。

ティアフェル >  ――静かな図書館の一角で、ジャンプして本を取ろうとする、野生のヒーラー。早く人間らしい方法に気づくべきだ。
 さもなくば――、

「や、と、どい、――きゃあっ?!」

 何度目かのジャンプアタックで指先が『回復魔法理論全集』という分厚い一冊にかかったまでは良かったが。そのまま――

 バサバサバサバサバサ!!

 目当ての本一緒に数冊書架から一斉に落下して、なんなら一番分厚い一冊が顔面に、ばんっと直撃した。

「ふぶっ……」

 見事なクリーンヒット。痛い、これは痛い。回復魔法の本に打撃を受けるという皮肉な事態。引き起こしたのは誰有ろう本人だ。

「っ……ぃったあぁ~……」

 顔面に受けた分厚い本の重い打撃に顔を抑えて、周囲にはばらばらと数冊散乱させながら蹲って呻いていた。気の毒3間抜け7の内訳。辛口評なら気の毒1~2だろう。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区/王立図書館」にティエラさんが現れました。
ティエラ > 珍しく冒険者として貴族の依頼を受けて、仕事をこなしその帰り掛けに、紹介状を手に入れた。その紹介状は、国中の蔵書が集まると言われるこの場所、王立図書館と呼ばれる場所に入ることの出来る紹介状。
魔女という事は隠していても、カードマジックなどを、マジックアイテムを使って居れば魔法使い系の職業と思われるのだろう。間違いではないし、全てではない。
それは兎も角、女としてもこの場所には興味があった、ジプシーとして、魔女として。自分の知らぬ魔法の知識に興味を抱かぬマジックキャスターはいない。
貴族の話が本当であれば、魔導書も又此処に貯蔵されているとの事だ。
なれば、と女は普段の踊り子然とした服装ではなく、マジックキャスターとして、ジプシーの魔術師として、ローブを身に纏い、やって来た。
図書館に入り、受付に紹介状を渡し、名前を名乗り、登録する。そして、使用許可のカードを貰う。
これで、今後この場所に来ることができるようになった、喜びを胸に隠さず魔導書などがありそうな場所を聞いて、そちらの方に歩めば先客が。

年若い女の子で、その視線は目の前の書架を見上げている。視線を追ってみれば、魔導書が沢山ある。
色々あるのね、と思いながらも、近づいた矢先、その女の子は、何を考えたか跳躍。

―――そして。

「あ。」

本を手にし、そのまま落ちていく。
その衝撃で近くの本も落ちていく、ばさばさ、ばさばさ、と。
はぁ、と軽くため息をついて、女は女の子へと近づいていく。

「貴女、大丈夫かしら?」

先ずはとりあえず、顔面に本をぶつけてうめいている少女に問いかけて。
褐色の手を差し出す、その手は、蒼い色のマニキュアに彩られた掌だった。

ティアフェル >  鼻っ柱を真っ赤にして、泪目で床にへたり込むようにして唸るひと時。

「ぅくぅ~……」

 イケると思った、イケルと思ってしまった。横着した、としか見えないが。自分のジャンプ力を過信した女。
 革張りの重厚な書を自業自得で顔面に食らって、今は回復魔法も使えない現状。痛みにひたすら呻く。せめて鼻血だけは出ませんように、と祈る情けない時間。じんじんと顔の中心を主に走る痛みが治まるのを待って耐えていたのだが。
 その時、

「っへ……?」

 顔を抑えていたものだから、近づいていたその女性には気づいておらず館内ということもあって余り警戒もしてなかったものだから、不意にかけられた声に一瞬面食らったように驚き。一音発して。

「あ……、」

 顔を抑えていた手を放し、差し出された手とどこかエキゾチックな雰囲気の魔術師と見える女性を認識し。

「だ、大丈夫……。いやあ、見られてた? 恥ずかしいな……」

 もうとっくに赤くなっている顔を気恥ずかしさでさらに少し赤みを増させて差し出されていた手を取り取り敢えず立ち上がると裾を払い。本の散らばる周囲を見回し。

「あ~ぁ……やっちゃった……わたしより本が大丈夫かな。破損でもしてたら打ち首だわ」

ティエラ > 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている少女、それはそうだろう、痛みを我慢しているうちに、フェイスヴェールをしている妖しい風体の女が近くに来ているのだから。
体術を基礎トレーニングで行っているがゆえに、素足に近い履物の為に、足音はあまりしない。踊り子として踊るときはヒールを佩いたりするはするのだけれども。
流石にこういう場所で音の高く成るようなヒールは履けなかった、とはいえ、アンクレットやブレスレットは、少し動けばシャラン、と小さく鳴ってしまうだろう。
仕事が終わり、そのまま来てしまった弊害であった。なるべく音をたてないように気を付けて動いていたら、そんな風に、彼女の元迄足音立てずについてしまったという所。
自分の手をつかみ、彼女は立ち上がる、その様子を眺めて、未だ、紅い顔に、そっとローブの中から一枚のカードを取り出す。

「使いなさいな、治療魔法込めてあるカードよ。後に残ったら、かわいい顔が台無しになるわ。」

何事もなかったかのように、カードを押し付け、女は足元にある書物を持ち上げて、視線を落とす。表紙などが問題ない事を確認して。
彼女の言葉に、すい、と葡萄色の瞳で流し見る。

「打ち首だなんて、そんな生易しい事になるわけないでしょう?本来、門外不出となる、魔導士が書き出した魔導書なのよ?
首だけ切って終わらせるには、もったいないわ。
私だったら、同等の価値以上の魔導書を持ってくるか、一字一句間違いなく復元を申し渡すわ。」

魔導師から見れば、魔女から見れば、垂涎ものだ。ただでさえ、魔導の研究には金がかかり、それを手助けする本などはない。
そもそも、本自体が高価なものなのだ自分で作り、書いたとしても、それなりの金額になる。
彼女は徒弟なのだろうか、ちらり、と眺めて、丁寧に本を書架に戻す。

「それに、国が管理している―――その意味を、ちゃんと理解なさいな。」

お願いだから、本を粗末に扱わないで。女の眼は、そう語る。

ティアフェル >  色んな文化や信仰も混在しているので、顔を隠す風体自体はそんな怪しむものではなかったが。気配や際立ったもの物音がしなかったことには不意打ち的に少し驚いた。
 そしてそれよりも今はその魔術師然とした様相が気にかかった。

 その上ふと取り出されたカード。治療魔法、との言葉にぴくん!と反応して。

「あなたっ、治癒術使えるのっ?」

 今は回復魔法を失っている身のヒーラー。それを取り戻すべくここに来た故、何かヒントになりそうなことは少しでも欲しい。同業者…には見えづらかったが、それでも魔法、それも回復に関する魔法を操れるのだとしたら話をしたいとお礼を云うのも一瞬失念して食い気味に。押し付けられるように手にあるカードを握って、やっと親切にお礼を云わなければ、と慌てて。

「あ、ありがとうっ、美人さんに褒められると浮足だつわねっ」

 なんか妙な返礼だったが。本心でしかない。そして続いて打ち首で済まないという返事に「おぉ…」とヒき気味にぎこちなく肯いて。

「ご、ごめんなさい。その通りです……わたしが全面的に悪うございました……お願いだから一連のできごとをチクらないでください……!」

 彼女の理屈はもっとも過ぎてここで土下座したい勢いすらあった。謝る相手は違うのだが。
 司書がまだ気づいてない内に、早めに確認してそれから丁寧に棚へ戻さねば、とあたふたし始めた。

ティエラ > カードを差し出して、先に治療なさい、と言った積りなのだけれども彼女の反応は違った、と言うよりも予想とは全然違う方向に勢い良かった。
食いつくような勢い、食い付くところ違うのでは、と思いながら彼女の言葉に頷いて見せる。

「―――?ええ。まあ、冒険者をする以上、治癒術は必須とも言えるから。」

食い気味な、寧ろ赤く成ったままの顔面を此方に向ける彼女は、何処か必死で、視線を堕とせば、彼女の手の中にある書物を見て得心が行く。
魔術を、回復の魔術を習おうとしているのだろうか、と言う思考になった。
そういう時に回復の魔術に関するものがあれば、ああ、そうなるのか、と言う思考、判らなくもない。
自分も同じような対応になると思われる、自分が詰まっている時、教えが欲しい時、其れと同系統の何かが来るのなら。

「あ、いいえ。気にしないで。貴女も十分かわいいわ。」

前後するお礼、ペースをちょっと乱されて、女は目を瞬きながらも、彼女への返答を。美人と言われて悪い気は、しないし。
その後、自分の言葉に改めて理解が走ったのだろう彼女、凄くひいているのが判る。
少し脅しが過ぎたかもしれないが、実際、無いとは言い切れない、この本一つとっても、彼女を奴隷にしても足りないくらいのお値段するのだ。

「私が、司書でなくてよかったわね。でも。魔女にお願いするという事、代償は高いわ――――?」

魔女。それは、女魔法使いとしての物ではなくて。種族としての魔女。
人間よりもはるかに魔法の際があり、長寿の種族、時には悪魔と同等とされ、狩られる存在でもある。
そんな、悪魔と同じ存在に、お願いするのかしら?と葡萄の眼を細めて問いかけて。

それから女はふふ、と笑いを零して見せながら、言葉にして見せる。

「―――冗談よ。」

と。

ティアフェル >  痛みは一時的に吹っ飛んでしまった。まだ何も癒えてはいないけれど。顔も赤いままだが。
 彼女の返答に冒険者でもあることが分かりくわ、と眼が見開かれる。何か獲物でも見つけたような顔になった。逃げるなら今の内でしかない。でも、ロックオンしたのでそう簡単に逃がす気はない。

「使えるのねッ? じゃあ、じゃあ……お願いがあるの……っ」

 ちょっとお姉さんお時間いいでしょうか、とナンパのノリでずいっと迫った。逃げるようなら手くらい握ってしまう勢いだ。やばい女に声をかけたものである。
 スランプ時の相談を持ち掛ける気満々。迷惑過ぎる。

「ありがとうございますっ。親に感謝してこの顔をひっ下げて生きていくわッ。あとわたし、あなたの顔好きだわっ」

 自分とはタイプが違い過ぎて逆に羨ましい現象。褐色の肌が色っぽい。色気は近くにいたら少しは移ったりしないだろうか、と妙な下心さえ抱き。
 そして、散らばった本は、貴重な物ではあるが場末で売るようなちゃちな造りでもなく少々落としたくらいでは皮の装丁もノーダメージに見えたし、羊皮紙の頑丈さは語るべくもない。
 ギリギリセーフ。でも散乱させたことがバレたら大目玉にはなる。

「うくっ……そうなりますよねー……? で、でも、ちょっと待って。待つよろしい、こ。これは魔女の能力は一切要らないお願いよ? うん、魔女としてじゃなくって人としてのアレよ? うん、あの………
 ――ってえ、冗談キッツイ……ッ」

 大声を出したら人が来る。ので辛うじて声は抑え気味だが、大声出そうになって口を抑えつつ、脅すような声に、ふるふるビビり上がっていた女は、溜めを作ってから冗談だとの発言を受けて、はあぁぁぁ~と大きく息を吐き出して肩に入っていた力を抜いてへろへろ脱力気味に書架の本が収まっていない仕切り部分に手を着いた。

ティエラ > 凄い気迫を感じる、と言うか、目が怖い。獲物を見つけた肉食動物の眼だ、顔を赤くしたままそれでも自分を見つめるその瞳。
更に見開かれている、冒険者だという事を明かさなかった方が良いかもしれなかったわね、と女は片隅で考えるがそれはもう後の祭り。

「話は、聞くだけは聞くけれど。」

気軽なノリで近づいてくる彼女、ただ、先程の儘で、目が怖い、見開かれている、血走っているようにも見える。自分もたいがいヤバいはずだが、彼女も十分ヤバい模様。
まあ、声を掛けてしまった、その時点でというもの。
私もたいがい運がないわね、と長く溜息をはぁぁと吐き出すしかできなかった。

「こーら。簡単にそんなことは言わないの。」

親に感謝して生きることは良い事だと思う、顔好きだと言うのは、言われて嬉しい物である。が。
時と場合にもよると、行っていい、彼女の今現状の押せ押せ雰囲気では、言われても雰囲気が台無しすぎる。
とりあえず、本をそのままにしておくのは、魔術を齧る物としては放置できるものではないので、彼女と一緒に本のダメージを確認しながら元に戻していく。
本来であれば、修復の魔術などを使って置くのがいいが、其れこそ、そんなことをしたら何かがあったことがばれるだろう。
此処は一つ、何かあった時は―――。

「能力を使うとか使わないとか、そういうレベルではないの、『お願い』するという事自体がトリガーなのよ。
悪魔とかも良く使う手だから、魔導を目指すなら気を漬けなさいな。」

悪魔は良く、人を不幸にすると言われる。召喚をする人もだ。それは、ちゃんと悪魔の生態を理解していないから。
うかつにお願いなんて言えば、それを出汁にするのは良くある話だ。冗談に力を抜いて息を整えている間に。
女は書架に本を戻していく、身長でいえばこちらの方が高いので、ジャンプしなくてもいいし。

ティアフェル > 「ありがとう! なんていい人なのかしら。わたしはティアフェル。一応ヒーラーなの」

 一応半了承の声を受けて、ぱあ。と顔が明るむ。話を聞いてもらえるだけでも御の字だ。
 解決してください、なんてそこまでのお願いはする気もない。うぅ、良かった……と魔法が使えず若干追い詰められていた精神状態だった女は軽く泪ぐんだ。もしかしたら痛みが戻ってきたせいかも知れないが。

「? どうして? わたし思ったことを云っただけよ?」

 何もあなたが好きだと告白した訳ではない。その美しい容姿に憬れますと意思表示しただけだ。何か問題でも?ときょとんとしたように小首を傾げて。
 そして、散らばった本は、元の場所に戻そうにも届かないので、破損や中身の確認などを行い、申し訳ないながら手渡して書棚に戻していただこう。

「うあー……わたしとはジャンル違いね、そこら辺は。それは黒魔術の形式だものね」

 どちらかと云えば特化した回復魔法は白魔術に大別される。自分は神官など聖職者ともまた違うが、少なくとも術の源流は黒魔術にはない。心得ておく、と忠告には神妙に肯いて。
 そして、必要な者以外本をすっかりもとに戻す手伝いをしてもらうと。

「どうもありがとう、助かったわ。――それで、少し時間あったりする?」

ティエラ > 「良い人……なのかしらね?ただ、貴女の困っていること、に対して興味が沸いただけ、なのだけど。
私は、ティエラよ、冒険者としては―――そうね、紋章術師よ。」

結果的には彼女の悩みを聞くのだから、彼女的にはいい人に分類されるのだろうか、彼女の悩みが解決するかどうかはまた別の話でもある。
とは言え、彼女的には今救いの主が私なのだと、思うので、とりあえず下手なことは言わないでおこう。
顔を赤くしたままの様子、一寸涙を零してるので。とりあえずカードを翳そう、初球の回復魔法が発動し痛みと腫れと、ダメージを取り除いてくれる。
カードは役目を終えたらそのまま塵となっていく。

「思ったことをいう事だけが美徳ではないわ?――女は、秘密を持って、美しさに磨きをかけるものよ?」

しぃ、とフェイスヴェールの上から人差し指を持ち上げて、ウインクを一つ。
きょとんとする相手に、正直は良い事だけれどね?と繋げておくことは忘れないでおこう。
そして、少しの間本の片づけに二人で協力して行って、運よく司書さんは来なかった模様、助かったといえる。

「まあ、ね。そもそも―――と。講義するなら、対価を取らないといけなくなるから。
ただ、黒魔術も、白魔術も、根本にたどると、同じなのよ、と。」

神官や聖職者の奇跡とは、また違うが、白魔術と黒魔術は似ているのだ。
その辺りは、屹度、魔術の分類によって変わってくるだろうけれど、それを紐解くと大変になるし、自分もそこまで教えられるほどではない。

「ふふ、ナンパ?
目的は、此処で本を読む事だから、時間はあるわ。」

軽い冗談を交えながら、話しをしてもいい場所、談話室へと向かう事を提案しよう。
図書館は基本学びの場所なので私語は厳禁だが、貴族とか書物を読みながら会話をする人もいる。
そういった人の為の部屋は、こういう図書館にはあるのだから。
彼女も、それを提案するつもりで、時間を問うたのだろう。

ティアフェル > 「それでもいいわ、今のわたしにとってはその理由でも〝話を聞いてくれるいい人〟よ。
 紋章術……? 変わってるわね……エンチャンター……みたいな…?」

 あまり馴染みのないジョブだ。ふーん…と緩く首肯しながらも考え込むようにふいふいと横にアホ毛が揺らめいた。
 そんなことをしていたら、カードを使って本が直撃したダメージを取り去ってくれる。ピクリ、と思わず肩を揺らす。

「んっ…」

 普段、自力で癒す為に他者の手で回復を受けるのはかなり久し振りで一瞬力んでしまったが、まるで何事もなかったかのように赤みが引くと、確かめるように触れて。
「ありがとう……ティエラさんにはお礼を云うことばかりね」
 
 少し微苦笑気味に頭を下げ、そして彼女なりに美貌論にやはり苦笑はそのまま保つこととなり。

「それじゃあ、わたしは磨きをかけられなさそうね。神秘のヴェールなんてもとから持ち合わせがないわ……」

 片目をつぶる所作が堂に入っている。そんな彼女のような密やかな謎を秘めた美しさにはやはり縁がないようだと肩を竦めた。
 手伝ってもらったお蔭で司書も利用者も気づかない内に収集し咎められることもなく済んで。セーフ…と胸を撫で下ろし。

「まあ、そこら辺はいいわ。わたしも素人でもないし――それに魔法理論への造詣は使う人それぞれの正しさがあるからね」

 彼女の理論はひとつの正義であることは間違いない。けれど、魔術の定義はそれこそ術者によって千差万別の理解がある。何が正しいか、それはそれぞれが分かっていればよいことである。小さく笑ってそうね、と意見には肯いた。

「本当、ナンパみたいだねえ。
 ――良かった。ありがとう。あ、もちろん先に読みたい本とか選んでおきたい本とかあるだろうし、ティエラさんの都合に合わせるわ。わたし、閉館まででも待つ所存です」

 談話室を提案されて有難く肯くが、それも彼女の都合で前後させてもいいと当然の配慮。
 わたし後でも先でも大丈夫です、と生真面目な顔で告げて。
 もしも先でいいと云ってくれるなら、そこから談話室の方へ落ち着こう。

ティエラ > 「よく言われるわ、ええ。エンチャントを主流にしてるの。
簡単に言えば、魔法の術式を、モノや道具、人に書き込んで発動させる―――使い捨てではないマジックアイテムを作ったりできるわ?」

彼女にはこういう説明が判りやすいだろう。よくある、魔法での一時的なエンチャントではなく、恒久的なエンチャントに、よく使われる技法だと。
首肯するも、理解しきれてない様子に、どうせレアですよ?と軽く言いながら、揺らめくアホ毛に視線を向ける。
揺れてるわねぇ、と言うそんな素直な感想を。

「ごめんなさいね、そのまま放置してるの、なんかちょっと気分が良くなかったの。」

彼女に渡したそれとは違う、自分の物で回復をしてしまったが、ほっておくのは自分の精神的に良くはないから。
一寸力んでいる彼女に、軽く謝罪を一つ、驚かせてしまったわね、と。

「何かの縁と言う物でしょうね。」

お礼に対して、気にしないで良いわ、と。別にいちいち気にしていても、気苦労ばかり増えるものだから。
よしよし、と頭をなでて見せる。自分より少し小さいから、ついつい妹のように構ってしまうのだろう。

「あら?身近な所に秘密は有る物よ?だって、貴女は服を着ているわ。その服の中身は―――秘密にするでしょう?
そんなところで良いのよ?別に、たいそうなものでなくていい、貴女の考え方ひとつなだけ。
磨きをかけることを諦めちゃ、ダメよ?貴女は可愛いし、綺麗になれるんだから。」

常識で云えば、人前で服は着るものだ。そして、服を着ているとなると、服の中は自然と秘密になる。
脱げと言われて脱ぐのは変態でしょう、そんな簡単な秘密で良いのよ。
唯々、自分の魅力に自信を持てばいいじゃない、と。

「……あら?徒弟という訳ではなかったのね、それは失礼しました。ええ、ええ。魔術は己が裡に有る理を貴ぶべきね。」

彼女は、誰かの弟子だとばっかり思って居た、葡萄の瞳を大きく丸くして。勘違いを一つ謝罪して。
彼女の言い分に同意の首肯。理論、理屈、様々だから。

「ん。私は、今先程紹介状で登録して来ただけなの。別に何があるかもわからないし。
何時でも来て読めるようになっているから―――そうね。
じゃあ、それを一緒に読む、と言うのはどうかしら。」

彼女の手元に残っている本。
彼女が悩みの種としているもの、回復魔法に関する書物、題名は彼女の手で隠れているが。
二人で別の視点から見れば、同じ本でも別の発見があるだろう。

ティアフェル > 「なるほど、それなら分かるわ。なんとなーくだけど。デバッファーの方なら多少知ってるから」

 ふむふむ、と首肯して、状態異常を起こしたり、それを回復させたりと、付加術系にも様々なタイプがある。恒久的に魔法の効果を持続させることができるというならば、結構な実力者なのだろうと理解して。レアだと軽く笑う様子に、それはそんな芸当できる人がほぼほぼいないから、希少価値の方ですよね…と何となく真顔になった。アホ毛は降参するように寝た。

「いやいやいや、ごめんなさいな事じゃないないっ。そういう気遣いできる人は優しいと思うわ、わたしはっ」

 もらった珍しいカードをさらっと使うのも惜しくて持ったままにしてしまったが、これは結果使わなかったので、お返ししないと…とぷるぷるしながら差し返そうと。本当は懐に入れてしまいたいのを抑え。「お世話さまでした」と。

「袖すり合うも他生の縁――なんて、祖母が云ってたわ」

 そうなんだとしたらこの縁も何回目かのものなのかも知れない、と空想的なことを零して小さく笑ったが、頭を撫でる手に、何だかくすぐったくなって、喉声で笑った。お姉さんみたい、と自分が姉の立場なので新鮮な気持ちで。

「ティエラお姉さまとお呼びしたくなる瞬間……っ。わたし、あなたの云い方が好きみたいだわ。こう、非常に素直に励まされる感じで。
 とりま、磨くことは諦めずに生きてくっ、ここで誓う」

 宣誓めいて片手を挙げて云いだした。秘密もそんな当然に存在するものだという意見には深く納得した。その通りですお姉さまという心酔気味の顔にすらなった。

「ああ、うん、そうなの。独り立ちはしてる。今は……なんだかそうとも云えないけど……」

 徒弟に思えたとしてもそれは当然だし、術力のない今はそれと現実変わらないかも知れない。少々憂いた顔で呟く様に口にして。

「そうなんだ、じゃあお言葉に甘えて――
 これは回復魔法全集、らしいの。タイトルしか分かんないけど……なんだか何でも書いてありそうな雰囲気と重さだったもんで。
 ――それじゃあ、行きましょ。えーっと……確かカウンターの近くだったような……」

 談話室はここへ来るまでに通りかかった記憶があった。へえ、こんな部屋もあるんだと感心したからだ。
 手にした書はまだ中身を改めていないので内容に関しては触れられないが、これでいいなら、と分厚いそれを手に、来た道を戻るようにして談話室へ向かおう。
 目当ての部屋の扉を開けるとちょうど、出て行く利用者とすれ違いになり。室内はがらんとしていて備え付けの椅子とテーブルが並ぶばかり。人気は今のところなく。手近な席を陣取ろうか。

ティエラ > 「デバフね……私の紋章術だと苦手なのよね。戦闘時だって、逃げる相手を追いかけて捕まえなければ、だもの。
カードに書いて投げつけても精々初球から中級がいい所だし。」

相手に掛けるには相手の抵抗力を突破しなければならない、それをするには、大型の魔方陣を作ればどうとでもなるが―――それは正直言って現実的ではない。
カードに書き込んで使う魔法は、カードの容量的に初球魔法から、中級程度。威力も固定されてしまうので、戦闘向きでないと言えば、無いのだ。
希少価値と言われても、さあ?どうでしょうね。と笑って見せる。
この国なら、鼻歌交じりで恒久エンチャントするような人が、沢山いると思うし。

「……ふふ、もう、元気ね。有難う、ティアちゃん。とりあえず、そのカードは持っておきなさいな。使えないんでしょう?今は。」

彼女は今、回復の魔法が使えない。しかし、必要になるときもあるはずだ、なら、役に立てさいな、と。
懐のローブの中から、10枚ほど取り出して、そっと、彼女の突き出すカードの上に置いてしまおう。そして、両手を握って彼女に押し戻す。

「そ、縁ができたなら、悪い縁にならないようにね。ああ、カードの方は気にしないで?欲しくなったら、次は売ってあげるから。」

道具だから、誰にでも使える。一定快復する、ポーションを持つよりも嵩張らないので、便利よ?なんて。
お姉さんですから、とふふ、とフェイスヴェールの下で、笑って見せる。

「よしよし、いい子ね。ティアちゃん、素直な子は、お姉様大好きよ。頑張って綺麗になって、可愛くなってね。
綺麗であること、可愛いままで居る事、それは、貴女の力になる事だから。」

綺麗だったり可愛かったら、八百屋さんとか、オマケしてくれるわ?なんて、凄く俗。そもそも、ティエラ自身俗なのだから仕方ない。

「元々、魔法は使えていたのよね?何時から、どのようにして使えなくなったのかしら?その辺りも、聞かせてもらえると嬉しいかな。
急に使えなくなったのなら、何かしらの要因があると思うし。」

簡単に言えば、呪われてしまった、とか。怪我をしてしまった、とか、精神的に思い悩むことがある、とか。
本を頼る前に、色々聞いてみた方が良い気がする。談話室に向かいながら問いかけてみよう。

そして、談話室について腰を下ろす彼女の隣へと、本を読むためには身を寄せる必要がある。
あと、流石にヴェールとフェイスヴェールは取ろう、近いと多分擽る。
蒼い口紅に彩られた女の顔が彼女は見えるだろう。

「ああ、お仕事直後だから、少しだけ香水きつくしちゃってるわ、我慢できないようだったら、言ってね?」

汗臭い踊り子はあまり人気が出ないから、甘い花の香水を漬けている。誘惑成分は有る物だけど、同じ女性だし、大丈夫な、はず。
正直、その辺り試したことがない。女性へのお誘いは、口説いて行うので、匂いとかで誘惑は好きじゃないから使わなかったのが仇になった。
もし、ダメだった時は、残念だけど、魔法でにおいを消すしかないわね、と考える。