2020/07/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にイアさんが現れました。
■イア > 夕刻、空が橙から藍色に染まる頃に、徒歩で富裕地区を歩く少年の姿があった。
これから宵から明朝まで、とある貴族の婦人に招かれて食事を共にする予定で。
当然、食事だけではない。
男娼である少年の客なのだから。
「……いい飯食えるのは、ありがたいんだけど」
気乗りしない声音で、少年が愚痴っぽく零す。
相手の婦人は少しばかり執拗な嗜虐の気があるために、得手でない受けに回らされるのだ。
仕事と割り切ってはいても、気乗りしないものは、しない。
自然と屋敷に向かう歩調は遅くなって、しまいには曲がり角の手前で止まってしまった。
「行きたくねぇ」
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にリンさんが現れました。
■リン > 小さな提琴を背負った、つるつるとした人形用の服を来た人形……のようなねずみの大きさの人間が、
角の向こう側から小路の壁を沿って走っている。
身体が小さくなってしまう呪いに侵されている彼は、そのせいで悪趣味な貴族に飼われていたところを今まさに脱走しているところだった。
「あ~、ぼくの足の遅さが憎いよぉ~」
追手の影は見えないが必死に走っている分、注意はやや散漫になっている。
ちょうど曲がり角にいるイアの足に衝突してしまいそうだ。
もし曲がり角の先に進もうとしているなら、うっかり蹴飛ばしてしまうかもしれない。
どっちにしろその場で転がってしまうだろう。
■イア > 小路の壁沿いを走る小さな小さな人の姿と声音に、気付くほどの注意力は生憎とこちらにもなかったようで。
溜息を一つ吐いて立ち止まったまま角の壁に凭れようと一歩動いた。
結果。
駆けてきた小さな人を軽く蹴ってしまうか、進路妨害した形になって。
その感触で視線を下に向けた。
「……な、んだ、これ?」
どちらにしろ転がった人形のような手のひらサイズの人物に手を伸ばし、腰の辺りを摘んで目の高さに持ち上げようとして。
■リン > 「ぎゃー!」
小人は間抜けな声を上げて撥ねられた。地面で一度バウンドして転がる。
運のいいことに大した怪我はなかったが…立ち上がる前に少年の手が伸びて、宙へと連れ去られる。
腰を持たれて反り返った不自由な体勢になり、ぶらぶらと脚が揺れる。
「わあああ~~……
って、イアじゃんか。
運がいいな~ぼく。久しぶり~」
覗き込んでくる人物と視線が合うと、へろへろの状態ながら手を振って名を呼んでくる。
顔見知りを自称する小人は、果たしてイアの記憶にあるだろうか。
■イア > 小人の悲鳴が耳に届く。
そうして、腰を摘まんで仰向けにさせた状態の小さな少年の顔が視界に入る。
小さいその人物は、自分の名を呼んだ。
一瞬、ぽかん、と呆けたように口を開いて。
しばしの間。
「……あー……。あっ、リンだっけか? すっげ、よく覚えてたなぁ」
弱った様子の少年と目線の高さを合わせた状態で、へら、と笑う。
ふらふらと揺れる足だとか、弱々しく振られる手だとか。
眺めていれば、薄っすらとだが記憶がよみがえってきて。
「久しぶり。どうしたよ、ずいぶんイイ服着ちゃってさ」
てろてろの生地の人形の衣服をふぅ、と吐息を吹きかけて揺らして揶揄する。