2020/05/29 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にヴァレリー=D=ツインテイルさんが現れました。
■ヴァレリー=D=ツインテイル > 王都、富裕地区。
その大通りを、一人の少女が歩いていた。
時折、通りに面する商店の服や小物を眺め見て足を止め。
「う~ん……なんと言うか。
いまいちパッとしない品揃えですわねぇ」
そんなことを呟くのだ。
辺りをきょろきょろと見ながら、少女は、ため息を一度。
「まったく。どこもかしこも。
小さくまとまって、面白みのない。
これだから貴族というやつは……」
そうボヤく少女も貴族なのだが。
少女自身は、自分が他の貴族とは一線を画している、と勝手に思っている。
……そもそも。家は急に成り上がった。
『THE・成金』というような家であるし。それを少女も自覚しているのだが。
「まぁいいですわ。とりあえずは。
どの辺りのお店が人気か。それが重要なのですし」
ハフ~ン、と鼻で笑うように息を出しつつ。
少女は、富裕地区を歩いていく。
きょろきょろと。何かしらの、目的を果たそうとしているかのように。
視線を縦横無尽に動かしながら。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にケイリー・カーデスさんが現れました。
■ケイリー・カーデス > 黒い帆路をかけた荷馬車。
その最後尾へと腰を掛け、投げ出した足先をふらふらとさせながら大通りを通過するところだった。
ふと、今しがた馬車が追い抜いた少女の姿を気に留めて走る馬車の荷台の上で立ち上がり、身軽に跳躍した。
両脚の裏で通りの敷石を踏みしめてすいと立ち上がっては銀のペイントのある左手でクイと眼鏡のブリッヂを押し上げて歩き出す。
「これはこれは、三課長。
本日は休暇であられましたか」
ニィ、と口元を上げて、少女に問うてみたのだった。
■ヴァレリー=D=ツインテイル > 情報収集を兼ねた散歩をしている少女であったが。
目の前に見知った相手が現れれば、その表情をぎくり、と硬くし。
「こ、こここ、これはこれはケイリーさん。
いや、ケイリー様。ご機嫌麗しゅう、ですわ」
相手の笑みに対し、少女の笑みは引きつったものであったが。
一度咳払いをし、少女は相手に向かって、今度は自然な笑みを見せる。
「休暇ではありませんわ。
あの薬を配るために、どの店が今貴族たちの間で流行っているか。
それを調べていたんですのよ」
胸をはるようにしつつ、そう宣言する少女。
半分ウソ、半分ホント、なこの言葉だが。
一応、スジは通っている。相手がどう受け止めるかは不明だが。
■ケイリー・カーデス > 「ええ、ごきげんよう。
本日はお天気も宜しゅうございます」
通りの石畳に着地した際に巻き上げた砂埃のついた足首を払って挨拶には応え。
そうして笑みながらの言葉には頷く。
「成程。仕事熱心なのは大変立派なことです。
参考になるかはわかりませんが、一課では蚤の市で個別に流通させているところです。
とは、言っても店を出している訳ではないのですが」
己より歳若な少女の言葉をあからさまに疑う言葉は口にせず、褒めてから己の案を話す。
「標的は富裕層と、謂う訳でしょうか」
小さく首を傾げてまろく巻いた金の髪を見詰め。
■ヴァレリー=D=ツインテイル > 「えぇ、本当に。
とはいえ、あまり天気が良すぎるのも考え物ですけれど」
相手の言葉に同意しつつ、天気について言及する少女。
少女としては、あまり暑いだの、寝苦しいだの。
そういう状態は好きではなく。
「……なるほど。一課は今、そう動いているんですのね。
三課の所属員たちには、今は情報操作の準備をさせておりますわ。
いざ大きく動くことになったときに、誤情報をどう蒔けばいいか。
調べさせておりますのよ」
相手の言葉に、なるほど、と頷く少女。
課が違えば、役目も、またやることも違う。
「えぇ。といっても、貴族たちを相手にする以上。
主立って動いているのは、私だけなのですけれども」
さすがに、貴族たちに薬を配るのに、貴族以外の身分の人間では怪しまれる。
なので、今のところは、少女だけがその任務についている、という感じ。
少女は髪をくるくると弄びながら、相手のことを見ている。
■ケイリー・カーデス > 天気についての話は曖昧に頷いて流す。
それから、相手が準備していると話す言葉には共感ありそうに一声唸りながら頷いた。
「一課には、教養のある人材もそこそこには揃ってはいます。
ですが、デマゴーグやアジテートの実際的な活用に関しては、やはり”あの方”には遠く及びませんからね」
己と少女に共通した上位存在。
遠回しながらにそこへ触れて、相手の忠誠心の程度を測ろうか。
「お一人だけだとはまた、忙しくなりそうですね。
くれぐれも、『疲労がポンと消える』なんて夢のような謳い文句のお薬に、自ら溺れなさらぬように──?」
ふふ、と含み笑う息を弾ませてレンズの奥から相手を見返し。
■ヴァレリー=D=ツインテイル > 相手との他愛もない雑談。
しかして、少女の胃は微妙に熱を持ち始めていた。
「こちらはそこに関しては、正直人材不足ですからね……。
ですが……得てして、愚かな大衆たちは、同じく。
無教養な者たちの根も葉もないウワサにこそ踊るものですわ。
……といっても。そういった下の者を纏め上げられる。
そんな存在あっての話ですけれど」
相手の言葉を聞きながら、自分の部下たちについて正直な物言いをする少女。
しかして、相手の最後の言葉には、反論の余地はない、とでも言うかのような声色であった。
「ご心配なく。こう見えても、鍛えておりますので。
そちらこそ。書類仕事で胃を痛めないようにお気をつけ遊ばせ?」
相手の言葉に、少女は逆にそんなことを言うのだが……。
(あだだだだ、この人と話してると胃がイテェですわぁ……!
涼しい顔して、圧がすっげぇんですもの……!)
そう。内心少女は怯えていた。
目の前の相手。その手腕を知っているからこそ。
ある種の貴族主義という妄執に取り憑かれている少女にとって。
『経理』という存在は、恐るべき相手なのだ。
■ケイリー・カーデス > 「そこはそれ。うちは業務上、読み書き算盤の出来るもの優先で回して頂いていますから。
──ええ、そうあるべき」
謙遜でもなく、事実を単純に答えてから相手の語る大義を聞けば合格点だとばかりに頷く。
「いつか楽をするために部下に仕事を教え込む毎日ですよ。
──あら、いかがされましたか?」
相手を見詰めながらジャケットのポッケに手を入れる。真っ白のハンカチを手に取ると少女との距離を詰めてから、
「なんだか顔色がすぐれないようですが?」
そのハンカチを少女の頬へ押し当てて汗を拭おうとする。
「書類仕事の労、労って戴けて幸いです」
相手を心配する仕草の中、少し話題を蒸し返してにっこり笑いかける。
■ヴァレリー=D=ツインテイル > 「それはそうでしょうし。あまり頭の切れすぎる者がいては。
私自身、動きづらくてしかたないのですけれども。
……まぁ、そこについてはいいですわ」
相手の頷きに、少し怖いものを感じつつ。
少女は、ため息を吐き。
「いつか楽を、ですか。
……私としては、いつかではなく今すぐ楽をしたいんですけれども」
しかして、仕事の関係上それは難しいとしっている。
次の瞬間、相手に近づかれ、汗を拭われれば。
「い、いえ。大丈夫ですわ。
少し……。そう、少し。暑くて」
相手との距離の近さに、少女は思わず声を上擦らせるが。
そのまま、少女は一歩下がり、相手を見る。
その表情からは、笑みが消えていた。
「……いえ。こちらとしても。
本来ならケイリー様の仕事を増やすつもりもないのですが」
分かってはいるのだが、必要経費という物もあるのだ。
とは、言えなかった。相手の言外の圧力に、少女の足はかすかに震えるが。
少女は、しっかりと足に力を入れ、相手を見る。
■ケイリー・カーデス > 「これからまだまだ暑くなりますわ。
ご自愛なさってね?」
笑いの消えた相手の表情を見ても微笑は変えずにポッケへとハンカチを仕舞いこむ。
「──身の丈、を」
と言葉を接いだ後に馬車馬の足音が聞こえくる。
振り向けば結社の輸送便の第二便であるようだ。
御者をしている黒頭巾に手を上げて合図をすれば、馬の足並みが遅くなる。
「では、お仕事の途中失礼致しました。
こちらもまた、業務に戻りましょうね。
では、また──『銀十字に栄光あれ』」
少女にはそう挨拶すると速度を落としてやってきた馬車の後ろに回り込み、身軽に荷台へと飛び乗る。
時間にしてはほんの数分の邂逅だったろう。
■ヴァレリー=D=ツインテイル > 「え、えぇ。
お気遣い、感謝いたしますわ」
どこまでも冷静な相手に、少女は上辺だけの言葉で返答し。
なんとか呼吸を落ち着けようとするのだが。
「……ひっ……!?」
一瞬。いっそ殺気の如き気配を感じ、少女は声を上げ、後ずさりする。
……相手は、そこまで圧力をかけたつもりはないのかもしれないが。
少女の想像力は、恐怖を何倍にも引き上げてしまう。
「え、えぇ……お疲れ様でございますわ。
ぎ、『銀十字に栄光あれ』……」
目の前で馬車に乗り、去っていく相手に言葉を返し。
少女は、しばしソコに立ち尽くしていたのだが。
「……はっ、あぁぁぁぁぁぁ……!
マジあの女怖ェですわぁぁぁぁ……!
ちょ、ちょっと漏らしてしまいましたことよ……」
周囲に誰もいなくなったのを確認し、壁に寄りかかり、そう吐き出す少女。
その後、少しその場で休んだ後。
逃げるようにその場を後にした……。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からケイリー・カーデスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からヴァレリー=D=ツインテイルさんが去りました。