2019/10/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 ホテル」にジナイアさんが現れました。
ジナイア > 天が漆黒に染まった、風のない静かな深夜。
王都の富裕地区、文化施設が集まった区画にある広場は、忍び寄った寒さに依ってか通り行くような粋人も見当たらず、街灯の灯りが照らすのは石畳ばかり。
時折、猫らしき影や、見廻りの衛兵がその灯りの端に影を落として、また過ぎていく。

その広場を囲む建物の一角に、周囲の文化施設と比較すると不愛想な、飾りけのない白い石造りの建物が一つ。
入口傍の看板に近づけば、漸く『ホテル』と見て取れる。
その『ホテル』の2階、フロア全体がサロンとなっている階に、今は人影がひとつだけ。
ホテルの外観と似たような、ソファとローテーブルが幾つか設えられただけの、飾り気のないサロン。
窓辺のソファに身体を沈めているのは、こちらも飾り気のない、黒髪に赤銅色の肌の女。
給仕もなく、ソファのひじ掛けに頬杖をついて物憂げにひとり、窓から外を眺め降ろしている。
目の前のローテーブルに置かれたカップには、香しい香りと、ふわり漂う湯気。

遠出をしていて、久しぶりの王都。
野宿が続いた身にはホテルのベッドなど格別のものの筈なのだが
何となく寝付けず、こうして深夜、サロンに繰り出して居る。
目の前の紅茶は、夜勤のホテルマンのサービスだ。
彼も今頃、フロントの奥で仮眠でも取っているかもしれない…

ジナイア > 頬杖を付いていない方の手を伸ばし、カップを手に取る。
外を眺めるそのまま、一口。

「――――…」

暖かいものが喉を流れ落ちて、思わずため息が漏れる。
カップをテーブルの皿に戻す。
ついでとばかり首を巡らせれば、部屋の中は目の前のローテーブルの灯り以外は殆ど落とされ、薄明るい、というよりも暗闇に灯が所々、といった塩梅。
その静かな光景が何となく贅沢に思えて、口の端に笑みが浮かぶ。

明日も早い、という訳ではないが、人と会う約束はある。
瞳を閉じて居れば、眠ることが出来なくとも、体力の回復には役立つだろう…

まだ湯気の立つカップに再び、唇を付けて、一口、二口。
空になったカップをかちゃり、と皿に戻すと、今はもうここにいない、親切な彼にごちそうさま、と独り零して。
ゆらり、立ち上がる。
最後にまた、もの寂しい広場の灯りに一瞥を投げてから
踵を返し、客室へと続く廊下へと

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 ホテル」からジナイアさんが去りました。