2019/03/31 のログ
■シラトリ > どうにも、西にも東にも浮名しか流していないメイドではあるが、元来の性質というか、歩き方、立ち振る舞いのせいか、見た目ほど目立たない。
するすると道の端を歩いて、通る人を眺める。
「………は本当に……」
「……当に良かった、これで戦争が……」
「…罠だって噂を聞……」
流れてくる人の声を、するすると拾い上げる。
断片的な話を数多く拾い上げて、それを更に組み上げる。
この地区だけではなく、平民地区でも、貧民地区でも、下手したら王城でもそれを行う彼女。
そしてまた、彼女になら、と話をする協力者も割と。
さて、どうしようか、なんて考え始めた頃にかけられる声に、すい、と振り向いて。
「今なら、麗しい貴女と一緒に食べる機会もついてくる、ということであれば戴きましょう。 こんな幸運な機会を逃すほど、盲目ではありませんから。」
微笑みながらそっとその手に貨幣を握らせる。有無を言わせぬ………腕や身のこなしが素早いともまた違う、いつの間にか握らされているかのようなぬるりとした素早さ。
■スーファン > 「……──!?」
今なら二つで、等と一つ買うよりお得な値段を告げ終わるよりも早く、速く、そして疾く、銀色の女性が何かを私に握らせる。
それが値段よりも随分と多い金額の貨幣だと気付くのに、少しばかり時を要したのは偏にその異質さに因った。
「ン、いや。待たれよ。売り物を私が食べて如何する。否、それよりも……」
何者か。と目尻の紅も歪む程の渋面を隠しもしない。
見た事も無い体捌きに、これは只者ではあるまい。そう訝しむのも当然だ
況や、その身体が妙に近いのならば。
「ともあれ……これは御釣りである。確認をするとよい」
一歩引き、手の内の金額を漸く確認し、袖内の財布から御釣りをじゃらじゃらと取り出して妙に綺麗な手に握らせよう。
そうしてから私は短く息を吐き、改めてと面前の女性を視る。上から下に、下から上にとそうする様はきっと不躾で、
注力する警備兵等あれば見咎められたやもしれないが、一先ず祭りの喧騒に紛れてかその気配はない。
■シラトリ > 「確かにそうですけれど。
でも今なら、と言われたものですから自分にとって最高のサービスを逆提案させて頂いたのです。」
では、とお釣りを戴けばするりと小さなカバンにしまい込み。
「申し遅れました。私、シラトリと申します。
この付近でメイドをしております。 怪しいものではありませんよ。
お仕事中で難しい、ということでしたら、露店が終わりましたら私のお部屋にお誘いする、というのもよいのですが。」
上から下まで眺めても、どこを切っても白い綺麗な姿。
涼し気な微笑みを浮かべて、身体はこれ以上近づかないけれど、提案はもっと近くなる。
■スーファン > 「……ン、成程。それはならば納得……いや納得……?
ともあれ此方はスーファンと云う。見ての通りのシェンヤン人だ。字はこう表す。
其方は何れの大家の従者と見るが……そのような身のこなしは、大分怪しく思われる。
何某かの術理を修めたと推察するが如何か」
シラトリと名乗る女性の姿恰好に不審なものは見れずとも、先程の体捌きが如何ともし難く引っ掛かる。
如何な技能か、と宙に「蘇芳」と描くように指を走らせながらに訝しんだ所で、誘いが緩やかに飛び込むものなら、その意外な言葉に目を瞠りもしよう。
「否、仕事中、と云う訳でも無し。私は一介の旅人、道士である故に。だが其方の部屋に邪魔をするのも気易かろうもの。
とりあえずは……立ち話もあれだから、という所に思う」
籠より紙に包まれた、まだ温かな花捲を取り出して差し出しながら、もう片方の手が祭りに際し設えられた露天席を示す。
並んだ席には様々な人達が賑やかしくしているのが一瞥するだに良く知れた。
■シラトリ > 「スーファン様、覚えさせていただきました。
まさかまさか。そうですね、そういう意味では昔は芸を見せて旅をしておりました故、その時の所作が残っているのかもしれません。
とはいえ、それで生きていけるほど世は容易ではなく、行き倒れていたところを拾って戴いた次第。
今は一介のメイドですよ。」
微笑を浮かべながら、もう一度ゆるりとお辞儀。
生まれながらのメイドと言われても疑わないくらいには板についたそれ。
「軽い気分で来ていただいてもかまいませんのに。
でも、よろしいのですか? では、一緒に一つ戴きましょう。」
そっと手を差し出して、エスコートをいたします、なんてウィンク一つ。
本気というより、少しの茶目っ気。
■スーファン > 「……ン、雑技を修めておられたか。それならば、このような祭りの場は懐かしさに惹かれてであるか?」
差し出された手をどうしようか、数拍悩んで、けれども善意からの申し出だろうと思い手を添えて席へと移る。
卓のある場は満席であったから、簡素な木製の長椅子に並んで座る形となろう。
「近頃は何かと騒がしい事が多く、雑技を生業とする者は苦しかろうと思う。
特にこの国はそういった者に不寛容……悪し振舞い、傍らに人無きが若く罷り通るような……」
行き倒れ、そして拾われたと云うシラトリの境遇に眉根を寄せて不平を述べかけ、言い終わる事無く手で口元を抑えて左右を視る。
幸い、何事も無かった。
「……ン、失礼をした。芽出度い場で不穏な事を言うべくも無し。近頃は近頃、今は今であるな。
私は所詮一介の旅人、道士である為に国同士の事情は与からぬ。けれども、佳き事は善き事である。……と、思う。
何処の国でも祭りは皆に好まれよう。私も、小さい頃は父に連れられ祭りで菓子を頬張ったものだ。
あの時は確か餅菓子をねだって……」
祭場には故郷の音楽が流れ、この国の音楽が流れ、老いも若きも仲睦まじく平和そのものに映る。
それだからか、私はつい、シラトリが話し易い雰囲気を持っていたのもあって口数が増え、次には空咳をして私情を打ち切る事となる。
「重ねて失礼。所でシラトリ。其方の主とはどのような者だ?私はこの国の大家に明るく無い。興味がある」
そして口を埋めるべく、籠から品物であった筈の花捲を取り出して頬張りもするのだ。
■シラトリ > 「いいえ、貴女に惹かれて。 ……流石に言葉が軽くなりますね?
お嬢様のお使いですが、時間は自由に使ってよいとされておりますので。」
当然そんなことは一度も言われていない。
ただ、時間を伝えても守らないのでもう言われないだけである。
三日後くらいには戻ってこいとかそんな。
「この国はそういった国ですから、気にすることはありません。
華やかな顔で話していれば、話の内容を気に留める人などおりませんよ。
特に、メイド服を着ているような相手との会話ならば。」
微笑と共にさらりと言葉を紡ぐ。どうやら、情報通の空気が漂う。
そんな彼女も、スーファンの思い出話をほほえましく耳にして、そうですね、と口元に手を当て。
「うちは零細も零細、吹けば飛ぶような家柄ですから、あまり聞いても参考にならないと思われますよ。
私の主人はいわゆる……、まだ幼いのに冷静な判断力を有した方ですね。
それでも、私たちメイドを友人のように(乱暴に)扱って戴いております。」
青二才と言いかけて咳払いを一つ。
「スーファン様は、………しっかりされているようですが、肌がお若い。
私よりも……年下でしょうか。」
■スーファン > 「……ン。んん……確かに、宛ら春風のような言葉。多用は控えるが宜しかろう。
時間が自由であるのは、良き主に恵まれたように思う」
薄紅色の花捲を頬張る頬もまた薄紅色に染まりそうになる。
冗談と判っていても、反応してしまうのは修行が足りないなと、何処か俯瞰した思考が嘆息を吐こう。
良くない主に恵まれてしまった者を思うと、シラトリの云う華やかな顔にはきっと成らないだろうが。
「ふむ……ふむ。それであるならば、気にも留められぬと、従者の其方は色々な話を持ち込まれるか?
そうであるなら、私は其方に訊ねたい事が幾つかあるのだが……九頭龍山脈。彼の地にて眠るとされる
朱金なる物を御存じか?仔細は省くが、これなる物は道士にとって重要なもので……」
何やら色々と知っていそうなシラトリ。彼女の主は家柄が細くとも聡明であり、部下に温かい好人物を想起させる。
それであるならば、と善良そうな彼女に自らの目的を話しても良いと思い、小声で言葉を連ねもするのだが。
「……ン?いや、今は肌の話は……其方の歳は知らぬが私は17だ。尤も、不老不死の御業を得れば歳など数字でしかなくなろうが」
その最中の不意の言葉には、またもや怪訝そうな顔にもなろう。
■シラトリ > 「私のようなものを傍に置いていただける主は、その一点においては今のお嬢様しかいないと断言できるでしょう。
いい主に恵まれております。」
くすくすと微笑みながら、染まる頬を穏やかに見つめて。
相手の話には、うん、うんとゆったりと頷いて。
「………名前は聞いたことがあるような。 とはいえ、私には不要の物と聞き流してしまいましたが。
では、今度その話を手に入れたらお伝えすると致しましょう。どちらにご宿泊をされているのでしょう?
……ふふ、この仕事をしていると割と気になるものなのです。
お客様がいらっしゃった時に、見ただけである程度判断ができるかどうかが、メイドにとっての大切な嗜みのようなもの。
ですから、ついつい気になってしまうのです。 見て、触って、それだけで判断できるかどうか。 難しいのですけれどもね。」
ころころと笑いながら、怪訝そうな顔を笑いでごまかす。
■スーファン > 「……ほ、本当か!?何処で……いや……そうか、そうだな。其方には不要な代物。耳に残らないのも無理は無し。
だが……そうか。教えてくれるか。それはとても、ありがたい。此処数日は『黄金の飛船亭』に宿泊している故、
其方にも判り易かろうと思う」
『黄金の飛船亭』
それは平民地区にある黄金色の船を模した看板が煌びやかに目立つ宿だ。
室内調度が船を意識したもので統一された、夜ともなればその看板がやや悪趣味に目立つ宿。
……宿泊費用は、存外良心的なのだが。
「……して、従者をしていると気になるものか。私としては、あまり気にされたくは無いのだが。
容貌が若輩とみて侮る不逞等は打ち倒し、邪智精怪の類であれば我が火術にて微塵に宣むものぞ。
勿論、其方がそういう輩ではないことは判っているが」
それはさておき。
相談事や宿泊場ついての合間事。
鈴がなるように、祭りではしゃぐ子供のように、稚気を隠さず笑うシラトリに私は不満そうな顔となろう。
化粧をもう少し鮮やかに施したほうがいいだろうか。と、賑やか如く踊るシェンヤン人の楽団を見て溜息も吐こう。
「……それで、其方は幾つなのだ?人に聞くのだから。問われて答えずとはいかんだろう?」
シラトリの楽しそうな顔。
それを椅子に肘掛け、恰も拗ねた風に一瞥して問う。
■シラトリ > 「そちらですか。」
微笑みを浮かべたまま、メイドの瞳が怪しく煌めく。
うふふ、とわずかに微笑み。楽し気な妄想がぶわりとあふれて垂れ流され、るのは必死に堪える。
「………私ですか? 覚えている限りでは20を超えた頃だと思っております。
となれば、スーファン様を甘やかす側でしょうか。
若く見られて侮られるということは、それ即ち年齢でしか判断できぬ相手ということです。
与し易いというのは、利となることでしょう。」
くすくすと微笑みながら年齢を軽く明かして。
「スーファン様はしっかり者の妹、といった雰囲気ですね。
年齢差からいって。 お姉さんと呼ばれたくなります。」
なんて、堅苦しい話に行かずに、己の欲望をかわいらしい範囲で漏らし。
■スーファン > 「……ン、否。甘やかされる道理は無いだろう。それもまた其方の云う歳で判ずる事だ。
つまり私が其方を甘やかしても良いだろう。……いや今ではないし、予定がある訳でも無いぞ。
例えばの話だ、例えばの」
何か、嫌な予感がしたような。
後ろを振り返るも怪しげなものは何も無い。
天を見上げても眩く程に春が在るだけ。
私は頭を振ってシラトリとの年齢話を和やかにし、きっと顔も多少、綻んでいたように思う。
「お姉さん。お姉さん……些か砕けすぎのような。『おねえさん、花捲は如何か?』みたいな?」
客に呼びかけるような声音。でお姉さんと呼ぶのは多分に作った声であり、所謂営業用のものである。
花捲を売るようになってから憶えた処世術のようなもの。故に得意げに鼻の一つも鳴らすのだ。
■シラトリ > 「では甘えたくなったらお部屋までお伺いすれば…? なんて。
ふふ、今度お邪魔してもよろしいでしょうか。
私、こう見えて冒険話などを伺うことも好きですから。」
なんて微笑みながら、どうしました、と首をかしげる。
割と無邪気に、ただ欲望に正直なだけの女であるから、邪気は感じられぬだろう。
そんな女に宿を教えてしまったのだけれど。
「それはきっと、誰にでもいう言葉でしょう。
スーファン様、………それとも、私から姉らしく変えるべきでしょうか。
スーファン、私のために、今宵は空けておいて?」
優しいだけの声色から、優しさはそのままに。でも、手を引くような強さを絡めた声で。
顔を少しだけ近づけて、淡い水のような瞳がじい、っと見つめてくる。
■スーファン > 「……ン。問題無い。さて、併し其方の御眼鏡に叶うような出来事はそうは無いのだが……
野山に住まう怪異の質の違い等説いても退屈……ではないのか。それならばまあ、そういった話でも?」
様子を問われるならきっと曖昧に笑って「なんでもない」と答え
部屋に訪いを告げようかと云う冗談めかした言葉には、それならば故郷の話でもと、言葉を選びもするのに
「──……それはまるで……閨にでも誘うような言葉に、聴こえるぞ」
蒼玉のような瞳が近くなると、言葉に困って瞳が逸れて泳いで、契機にするように私の身体が立ち上がる。
「……全く、不可思議な。或いは面妖な……実は狐狸の類ではあるまいな。ああ、いや言わずとも判っている、解っている。
つい気安くなってしまって宜しく無い。故に今は路銀を真面目に稼ぐとしよう。其方も、折角の芽出度き場。色々見て回るが
宜しかろうと、思う」
籠から新しい花捲を取り出してシラトリの手に乗せ、拱手して雑踏に消えよう。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 大通り」からスーファンさんが去りました。
■シラトリ > 「あら、可愛い。」
雑踏に消えた後でそうつぶやく。
妖怪の類だといわれることは彼女は経験が山のようにあり過ぎて、もはや時々自分が妖怪ではないかと思うこともしばしばだ。
人間だけど。
でも、あそこまで真面目だと気にかかることもある。
可愛らしいと思う気持ち3割、心配3割、欲情9割の心情。
どこかで尋ねねばなるまい。
「では、今日はしばらく見て回ると致しましょう、か。」
ゆるりとまた気配は薄くなって、するすると雑踏を歩くメイド。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 大通り」からシラトリさんが去りました。