2019/03/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 商店街」にツァリエルさんが現れました。
■ツァリエル > 春の昼下がり、王城を抜け出して恋人のためのプレゼントを探しに
富裕地区の商店街まで出歩いているツァリエル。
追手を撒くために少女の格好までしているのは、内心ちょっと恥ずかしいしやりすぎかもだが
おかげで王城での窮屈な居心地とは違って自由である。
さて、相手に何を買っていけばいいのか悩むものだが
春の花とお菓子がいいだろうか、忙しい相手にお茶を淹れて
少しだけでものんびりしてもらえれば幸いなのだが。
ショーウィンドウを覗き込みながら、どこの店のものがいいかあっちにフラフラこっちにフラフラ。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 商店街」にチェルトトさんが現れました。
■チェルトト > 服を買いに行くための服がない。
春向きのコートでも買ってみたらどうかと行きつけの酒場の仲間に言われ、
とりあえず十分な予算とともに、せっかくだからちょっといいものをと
やってきた富裕地区の店は、残念ながらどこも客を選ぶ店ばかりだった。
門前払いに次ぐ門前払いに文句を言う気分ですらなくなって、
チェルトトは不貞腐れながらウィンドウショッピングに興じていた。
「なーにが『お客様、そのような服装での入店はご遠慮ください』よ。
お高く留まっちゃって、あたしのことなんか客とも思ってないくせに」
とはいえ、チューブトップに下帯にパレオ、その上からボレロコートという
アンバランスな服装でもウィンドウショッピングまでは邪魔しに来ない。
仏頂面のまま手当たり次第に窓から窓へ渡り歩いていると、偶然隣に
可愛らしい女の子が並んだ。
不思議なぐらい磨きこまれたそのガラスに写った彼女の顔を見て首を小さく
傾げた後、チェルトトは腰をかがめると、体をひねってぶしつけに下から
直接彼女の顔を覗き込んで訊ねる。
「……ねぇ、あんたどこかで会ったことない?」
■ツァリエル > 向かいからやってきた、王都ではあまり見ない格好の女の子が
自分と同じようにウィンドウショッピングに興じている。
少しむくれたような表情にどこか見覚えがあるような気がして
偶然隣に並んだこともあって、ガラス越しに相手を観察する。
と、その少女がこちらを見上げるくらい覗き込んで尋ねてきたものだから
真正面からその顔を見たことで昔の記憶が揺り動かされた。
確か、昔、慰安従軍先で……―――。
「えっと……、チェルトト、さん……?」
自分が傭兵に襲われそうになっていた所に、助けに入ってくれた女の子。
と、そこでハッと気づく、自分の姿。
今は女の子の格好をしているから、相手に気づかれないのも無理がない。
慌てて恥ずかしそうに頬を抑えるものの、ごまかしようもない。
「あ、あの……昔、助けてもらった、ツァリエルです……。覚えてますか……?」
仕方なく、自分から白状してみるがさて、彼女の方は覚えているだろうか。
■チェルトト > 「ツァーリ!」
富裕地区に似つかわしくない素っ頓狂な大声に、道行く紳士淑女が眉をひそめる。
だが、そんな視線にいまさら頓着するチェルトトではなかった。
驚き、喜び、興味。そんな感情の入り混じった表情で彼――チェルトトの意識の中では――を見て体を起こすと、チェルトトは彼をためつすがめつ眺めまわす。
「何よ何よ皇帝陛下。前にあった時も可愛かったけど、あたしが知らないうちに
ずいぶん服まで可愛くなってるじゃない。なに? どうしたの? 実は本当に
皇帝陛下だったの? あんた」
少女の甘さをたっぷり含ませたようなフリルを少しうらやましげに見ながら、
チェルトトは興味津々の顔でそう訊ねた。
場にふさわしくないにぎやかな女の仕草は、街の住人からは不評のようだったが。
■ツァリエル > 彼女の元気な大声に、一瞬あっけにとられはしたものの
自分を覚えていてくれたことに喜びの感情が湧いてにっこりと微笑んだ。
自分を眺める視線に少し照れくささはあるものの、彼女との再会を喜んで
彼女の手を取る。
「こんにちは、久しぶりです!
えっと……この格好はちょっと色々事情があって……、
チェルトトさんと別れた後にいろんなことが起きて……
その、信じてもらえないかもしれないけれど……」
どこから事情を説明したらいいか悩むが、とにかく弾けるような彼女の明るい声が
道行く人々の視線を釘付けにしてしまっている。
ここで事情を打ち明けるのもなんだし、彼女の手を取ったついでに
「ちょっとこっちの喫茶店で、お話します」なんて言って
彼女と連れ立って街角のカフェに入る。
富裕地区にあるだけはあって、女の子のお客さんの多いテラス席。
そこの二人がけの席に彼女を座るよう促すと、ようやく周囲の視線から解放された。
ほっと安堵する合間、チェルトトへメニューを渡しなんでも好きなものを注文して、と言う。
「うんと……、実は今、王城に住んでいるんです。
チェルトトさんと別れた後、色々あって、実は王族の血筋だって言われちゃって……」
そこから過去の話を小声でチェルトトにだけ聞こえるように話し始めた。
王族の血筋だと言われても自分も信じられなかったことや、王城で暮らしている事、色々慣れないこともあったけれど、友達が出来たことなど。
女の子の格好をしているのは、王城から抜け出すためであって、少し恥ずかしいことなども付け加える。
■チェルトト > 服飾関係に比べるとドレスコードは厳しくないのか、それとも彼女に手を引かれているからか、
カフェの入り口は止められることなく抜けることができた。
小さく丸いテーブルを挟んで彼女と向かい合うと渡されたメニューをさっと見て、それから
目の前の彼女に視線だけを向けてチェルトトは訊ねる。
「好きなもの頼めっていうことは、おごってくれるっていうことでいいのよね?
そういう貢物をされちゃうと、あたしとしては恩恵を返さないといけないんだけど……
ま、いいわ。とりあえず今はあんたの話聞かせなさい」
高く上げた手をひらひら振ってウェイトレスを呼び、ココアのクリームフロートを
注文すると、チェルトトはメニューを置いて小さなテーブルの上に身を乗り出す。
「皇帝かと思ってたら、今度は王? あんたもいろいろ忙しいのね。
でも、よかったじゃない。日銭でむさい男に無理やり押し倒されそうだった時より
よっぽど幸せそうよ、あんた。
服は別に似合ってるし、なんか恥ずかしそうなところが逆に可愛くて生意気だわ。
……っていうかあんた、女の子の匂いしない? あたしの気のせい?」
■ツァリエル > チェルトトが遠慮せず好きなものを頼んでくれたので、自分も紅茶をウェイトレスに頼む。
こうしていると本当に女の子同士で他愛のない会話を楽しんでいるように思えるが、
実際はもうちょっと細々した込み入った事情の打ち明け話なのだ。
「うん……、皇帝っていうか、王様の血筋だって言われてびっくりしましたけど
幸せそうに見えるなら、この選択も間違ってなかったのかな……。
色々お城に上がるのは悩んだりもしたんですけど。
あ、女の子の匂いがするのはお化粧しているからかも……?
それとは違うのかな? えっと、大事な女の子ができたんです……」
城に勤めている、民間軍事組織の秘書をしている自分よりも年上の女の子。
とても尊敬できる相手で、今も相手のために何かプレゼントを買いに出ていたことを説明する。
そうこうするうちにウェイトレスが注文のクリームフロートと紅茶を運び、丸いテーブルの上に置いてくれる。
礼を言って、紅茶を一口啜り、今度はこちらからチェルトトに尋ねた。
「チェルトトさんはあれからどうされていたんですか?
あ、お茶の代金は貢物とかじゃなくて友達との交際費ですから、気にしないでください」
久しぶりに会えたことが嬉しいのか無邪気に笑う。
■チェルトト > 「なんか可愛いのは化粧もあるのかしら。
前に見かけた時は薄幸の美少年って感じだったのに」
何にせよ、あの時よりは受ける感じが明るいし、幸せそうにも見える。
チェルトトは勝手に納得してうなずいていたが、恋人の話を聞くと目を丸くした。
「へぇー……! って、軍人? 王子様なのに、お姫様とか貴族の娘とかじゃないの?
って言うか、恋愛なんてできるのね。人間の王族だとかそういうのは、好き嫌いより
政治の都合で結婚してる連中ばっかりだと思ってたわ。
まあ、ともかくよかったじゃない。話してる時のあんたの幸せ空気はムカつくけど」
冗談めかして言うのは、素直にうらやましいとは言えない性分のせいか。
そんなことを言っているうちにクリームの浮いたココアが運ばれてくると、さっそく
ひとさじ舐めて目を細めつつ、チェルトトは彼の問いに答える。
「あたしは別に変らないわ。戦って、貢がれて、恩恵を与えて、信徒を集める。
まだ何の神を目指すかはいまいち決まらないんだけど……。
あ、でも盗っ人だけは許さない神になってやろうと思ってる。盗まれるの腹立つし」
言ってからココアに口を付けると、鼻の頭に少しクリームが付いた。その顔のまま、
彼が発した友達という言葉にチェルトトは獣耳をはためかせ、少しむずがゆそうな顔をしてみせる。
「人間のくせに魔人と友達だなんて、あんたも大胆になったわね。それじゃ、
がんばって長生きしなさい。そのうち、神と友達だって自慢させてあげるから」
チェルトトはそう言って、今度は少し得意そうな表情を彼に向ける。
思わぬ再会からのお茶会の時間は、ゆったりと過ぎていった……。
■ツァリエル > 「あ、うん……、本当は公にできない関係なんだけど……
でもなんででしょう。チェルトトさんには話してもいいかなって思っちゃって……。
友達には隠し事とか、したくないからかなぁ……」
勿論、彼女とは道ならぬ恋なのだが、それでも秘密の関係であっても
大事にしたい相手が出来るのは幸せなことだろう。
チェルトトにムカつくなんて言われても、えへへと照れくさそうに笑うのみ。
チェルトトのそれからにへぇ、と感嘆する。
そう言えば最後に会った時も神様として色々頑張るって言っていたような気がする。
彼女は彼女なりになりたい自分になれているようで、安心した。
「はい、ありがとうございます。チェルトトさんも息災で居てくださいね。
神様と友達って、なんだか図々しいけど……嬉しいです」
そうしてお茶の時間はゆったり過ぎていって、
その後、彼女とウィンドウショッピングなどをして別れたのだろう―――。