2019/03/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 路地」にぼたんさんが現れました。
ぼたん > とっぷり日が暮れた花冷えの夜。富裕地区のとある屋敷の裏口が開いて、暗い路地にその場所だけ煌々とした灯りを落とした。

「ごめんよ、長居しちまって…ありがとね」

そう、少し鼻にかかった女の声がして、室内から灰色のマント姿の女が路地へと現れた。扉の向こうを振り返って室内に手を振ると…ぱたん、と密かな音を立てて、扉がそっと閉じられた……路地はまた、しんと暗がりに落ち着いた。

女は扉を背にして、路へと降りる小さな階段を下りる。そうして天を見て、黒い闇に静かに浮かぶ細い月に目尻の下がった目を細め―――最後の段をずるっと踏み外す。

ぼたん > 「!!…………ッたた…」

どしん!…と地面が震えることこそなかったが、路地に思いっきり尻もちをつく。
閑静な住宅街、何とか悲鳴は押し殺したものの、涙目になるのは堪えられず、ぺたんと座り込んでへっぴり腰で尻をさする。

「やだね……痣になっちまうんじゃないかしら……」

肩越しに尻を見下ろして、はあーとため息を付く。その息は微かに白く煙となって、闇の中天に昇って行った。

ぼたん > 富裕地区へ、たまにある出張調理の依頼。漸く終わって帰る頃には、言わば仕事仲間ともいえる使用人の誰がしかと少し仲良くなって話し込んでしまうこともしばしば。
今日はその、『しばしば』の日だったわけで………

(こりゃァ今日も、お店は休みだね……)

尻をさすりながら空を見て、ぼんやりと考える。最近はすっかり、昼の仕出しやら出張調理で疲れ果てて、夜の店は休み気味だ。

「週に一度だけ、とか決めようかねえ……」

どちらを、とは言わずにさすりながら独り言ちる。漸く痛みが治まったようで手をそろっと放してみて、一つ頷く。

ぼたん > よっこらしょ、と呟きながら腰を上げる。ぺたんと座り込んだ跡をぽんぽんとはたいて、うーんとひとつ、身体に伸びをくれた。

(取り敢えず、帰って寝よ…)

ふあっと欠伸をすれば、ヒトの其れよりも尖った犬歯が覗く。
涙目を擦ってから暗闇を見る瞳の奥は、緑色の光が躍った。

(えと……帰り道…)

どうしてこうなるのか。何度か来た屋敷の筈なのに、この路に見覚えがない……
きょろきょろと左右を見渡して、すぐに諦めたようにやけくそ気味の足を踏み出す。

女がねぐらに戻ったのは、暁烏が鳴くころだったとか……

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 路地」からぼたんさんが去りました。